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不妊治療は何歳から始めるべき?生殖医療専門医が解説する年齢別の最適なタイミング

  • 公開日:2025.10.16
  • 更新日:2025.11.06
不妊治療は何歳から始めるべき?生殖医療専門医が解説する年齢別の最適なタイミング|不妊治療なら生殖医療クリニック錦糸町駅前院

「もしかして、私たちには治療が必要なのかも…」 「でも、まだ早いかな?それとも、もう遅いのかな?」

診察室で多くの患者様から伺うこの言葉。

不妊治療を始めるタイミングについて悩まれる気持ち、とてもよく分かります。

生殖医療専門医として日々患者様と向き合う中で、「もっと早く相談に来ていただければ…」と思うことも、「焦らなくても大丈夫ですよ」とお伝えすることもあります。

今回は、年齢と不妊治療の関係について、最新のデータと臨床経験を基に、皆様の疑問にお答えしていきます。

不妊治療を考え始める年齢の目安

一般的な受診タイミング

日本産科婦人科学会では、避妊をせずに性交渉を持っても1年間妊娠しない場合を「不妊症」と定義しています。しかし、実際の臨床現場では、この「1年」という期間にこだわる必要はありません。

特に35歳以上の方は半年、38歳以上の方は3ヶ月程度で受診を検討することをお勧めしています。

なぜなら、年齢が上がるほど、1ヶ月1ヶ月が貴重な時間となるからです。

「まだ大丈夫かな」と思っているうちに、治療の選択肢が狭まってしまうケースが多くあるからです。

また、月経不順や強い月経痛がある方、過去に骨盤内の手術を受けたことがある方は、

年齢に関わらず早めの受診をお勧めします。

これらの症状は、子宮内膜症や多嚢胞性卵巣症候群など、妊娠に影響を与える可能性のある疾患のサインかもしれません。

年齢別の妊娠率と現実

年齢と妊娠率の関係は、避けて通れない現実です。

自然妊娠の場合、1周期あたりの妊娠率は20代で約20-25%、30代前半で約15-20%、

35歳を過ぎると急激に低下し、40歳では約5%、45歳では1%未満となります。

しかし、これはあくまで統計的な数字です。

実際の診療では、41歳で自然妊娠される方もいれば、28歳でも治療が必要な方もいらっしゃいます。

大切なのは、ご自身の状態を正確に把握し、必要に応じて適切な治療を受けることです。

20代~30代前半:早期受診のメリット

この年代の特徴と治療方針

20代から30代前半は、一般的に「妊娠しやすい年代」とされていますが、

この年代での不妊治療には独特の難しさがあります。周囲から「まだ若いから大丈夫」と言われることが多く、受診をためらう方が少なくありません。

しかし、若い年代での不妊の原因には、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、子宮内膜症、無排卵などがあり、これらは適切な治療により改善可能なケースが多く、早期発見・早期治療により、将来的な選択肢を広げることができます。

この年代の治療は、検査結果にもよりますが、タイミング法から始めることが一般的です。

基礎体温の測定、超音波検査による排卵日の予測、必要に応じて排卵誘発剤の使用などを組み合わせます。3-6周期で結果が出ない場合は、人工授精へのステップアップや体外受精などを検討します。

治療による妊娠率も高いため、焦らず着実に進めることが大切です。

検査で分かること

ホルモン検査では、卵巣予備能(AMH値)、甲状腺機能異常などがないか確認します。

特にAMH値は「卵巣年齢」とも呼ばれ、実年齢と大きく乖離する結果となる場合があります。

超音波検査では、子宮や卵巣の形態異常、子宮筋腫、卵巣嚢腫などの有無を確認します。

また、卵管造影検査により、卵管の通過性も評価できます。

若い方でも、クラミジア感染症の既往により卵管が詰まっているケースは珍しくありません。

これらの検査結果により、「若いから大丈夫」ではなく、「若いうちに原因が分かってよかった」と前向きに捉えることができますので、早期の受診は、より多くの治療選択肢と、高い成功率につながります。

35歳~39歳:治療開始の重要な分岐点

30代後半を境に変わること

30代後半は、生殖医療において一つの大きな節目となります。

この時期を境に、卵子の質の低下が加速し、流産率が上昇します。

具体的には、20代では10-15%程度の流産率が、35歳では約20%、40歳では約40%となります。

これは主に染色体異常によるもので、女性の年齢によるものです。

女性にとっては厳しい現実ですが、これを理解することで、治療方針の決定に役立ちます。

この年代の方には、「時間を味方につける」ことの重要性を強調しています。

仕事やライフプランとの兼ね合いもあるでしょうが、可能な限り早期の治療開始をお勧めします。

1年の違いが、大きな違いを生むことがあるからです。

効率的な治療の進め方

35歳以上の方には、段階的な治療よりも、より積極的なアプローチを提案することが多いです。

タイミング法を3周期程度試した後、早めに人工授精や体外受精へとステップアップを検討します。

特に37歳以上の方や、AMH値が低い方には、初回から体外受精を提案することもあります。

「いきなり体外受精は…」と戸惑われる方も多いですが、限られた時間の中で最も確率の高い方法を選択することが、結果的に身体的・精神的・経済的負担を軽減することにつながります。

また、この年代では、複数個の胚(受精卵)を将来のために凍結保存する「貯卵」という選択肢もあります。

今すぐに妊娠を希望しない場合でも、質の良い卵子を確保して受精卵としておくことで、

将来の妊娠の可能性を広げることができます。

ただし、治療は保険適応外となるため、高額になりますので、しっかり情報を確認することをお勧めします。

40代:時間との向き合い方

現実的な成功率と向き合う

40代での不妊治療は、「希望」と「現実」のバランスを取ることが最も難しい年代といえます。

体外受精1回あたりの妊娠率は、40歳で約15%、42歳で約8%、44歳では約3%となります。

これは出産率ではなく妊娠率であることにも注意が必要です。

妊娠はするけれど、流産してしまうことが多くなりますので、出生率となるとさらに1回あたりの治療の確率は低くなります。

しかし、私たちが診療で大切にしているのは、単なる統計だけではありません。

個々の患者様の卵巣機能、全身状態、パートナーの状態などを総合的に評価し、その方にとって最適な治療方針を提案します。

42歳でも卵巣機能が良好な方もいれば、38歳でも厳しい状況の方もいらっしゃいますので、この年代の方には、治療前に「ゴール設定」について十分に話し合いが必要だと考えます。

何回まで治療に挑戦するのか、どこまでの治療を行うのか等、しっかりとしたイメージを持っていただくため、非常にデリケートな問題ですが、話し合いの上で治療を行なっていくことが重要だと考えています。

治療の選択肢と優先順位

40代の治療では、時間との勝負という側面が強くなります。

そのため、最も効率的な方法として、多くの場合、体外受精からスタートすることを提案します。

採卵では、できるだけ多くの受精卵を確保することが重要です。

また、状況に応じて着床前診断(PGT-A)の活用も提案させていただくことがあります。

これは胚の染色体の異数性を調べる検査で、正常な染色体数を持つ胚を選択して移植することで、高齢になると増加する流産率を下げることが期待できます。

ただし、全ての方が対象となるわけではないということと、保険適応がないため自費診療となります。

さらに、この年代では、妊娠後の管理も重要になります。

高齢妊娠は、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、前置胎盤などのリスクが高まります。

産科との連携を密にし、安全な妊娠・出産をサポートする体制を整えていくことが重要であると考えていますので、場合によっては妊娠前にプレコンセプションケアとして、産科に先に受診をすすめることもあります。

保険適用と年齢制限の実際

2022年4月から不妊治療の保険適用が始まり、経済的負担が大幅に軽減されました。

しかし、年齢制限があることを知らない方も多いようです。保険適用は、治療開始時に女性が43歳未満であることが条件となっています。

また、保険適用には回数制限もあります。40歳未満は通算6回まで、40歳以上43歳未満は通算3回までの胚移植が保険適用となります。

採卵の回数に制限はありませんが、凍結胚がある場合は、基本的にはそれを移植してからでないと次の採卵は保険適用になりません。

この制度を最大限活用するためには、計画的な治療が必要です。

例えば、39歳の方は、40歳になる前に治療を開始することで、6回の移植機会を確保できますので、年齢を見据えての治療のステップアップをおすすめすることも多くあります。

費用面での計画

保険適用により自己負担は3割となりましたが、それでも体外受精1周期で15-20万円程度の費用がかかります。

また、保険適用外の治療や検査を含めると、さらに費用は増加します。

多くの自治体では、独自の助成制度を設けています。

所得制限や年齢制限は自治体により異なりますが、保険適用と併用できる場合も多いです。

治療開始前に、お住まいの自治体の制度を確認することをお勧めします。

また、医療費控除の活用も忘れずに。不妊治療の費用は医療費控除の対象となり、年間の医療費が10万円を超えた場合、確定申告により税金の還付を受けることができます。治療の領収書は必ず保管しておきましょう。

心理的なサポートの重要性

年齢による焦りとの付き合い方

「もっと早く始めていれば…」「あと〇歳若ければ…」診察室で聞くこの言葉に、胸が痛みます。

年齢による焦りは、不妊治療における最大のストレス要因の一つです。

しかし、残念ながら過去に戻ることはできません。

大切なのは、現状をしっかり確認し、今できることに集中して治療を進めて行くことです。

焦りは判断を誤らせることがあります。

「とにかく早く」と焦るあまり、体調を崩したり、パートナーとの関係が悪化したりすることもあります。

私たちは、医学的なサポートだけでなく、心理的なサポートも重要と考え、カウンセリングの機会を設けています。

また、同じ悩みを持つ方々との交流も有効です。当院では定期的にサポートグループを開催し、経験を共有する場を提供しています。

「自分だけじゃない」と感じることで、前向きな気持ちを取り戻される方も多いです。

パートナーとの関係性

不妊治療は、カップルで取り組む治療です。

しかし、治療が長期化すると、すれ違いが生じることもあります。

特に、年齢的なプレッシャーが強い場合、女性側の焦りと男性側の温度差が問題となることがあります。

大切なのは、お互いの気持ちを率直に話し合うことです。

「子どもが欲しい」という目標は同じでも、そこに至る過程での思いは異なることがあります。

定期的に二人で話し合う時間を持ち、治療の方向性を確認することをお勧めします。

また、治療を休む勇気も時には必要です。心身ともに疲れ果てた状態では、良い結果も得られません。期間を決めて治療を休み、二人の時間を大切にすることで、新たな気持ちで治療に臨めることもあります。

まとめ:あなたに最適なタイミングとは

不妊治療を始める「最適な年齢」は、一律には決められません。

しかし、確実に言えることは、「迷っているなら、まず相談を」ということです。検査を受けることで、漠然とした不安が具体的な課題となり、対策を立てることができます。

20代でも治療が必要な方もいれば、40代で自然妊娠される方もいます。

大切なのは、ご自身の状態を正確に把握し、それに基づいて計画を立てることです。年齢は確かに重要な要因ですが、それがすべてではありません。

生殖医療専門医として、最新の医学的知識と豊富な臨床経験を基に、お一人おひとりに最適な治療を提案していきたいと思います。どうか一人で悩まず、パートナーと共に、そして私たち医療者と共に、希望を持って治療に取り組んでいきましょう。

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