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「スクリーニング検査」とは?妊活中から妊娠後までの全体像を整理
「スクリーニング検査」という言葉は、医療現場では「病気や異常の可能性がある人を選び出すための検査」という意味で使われます。妊活・不妊治療の分野においては、時期によって目的の異なる3つのスクリーニングが存在します。これらを混同せず、整理して理解することが大切です。
妊娠「前」のスクリーニング:健やかな妊娠のための土台作り
まず、妊娠「前」に行うスクリーニングです。これは一般的に「不妊検査」や「ブライダルチェック」と呼ばれるものが該当します。 目的は大きく2つあります。
1つ目は「妊娠を妨げている原因がないか」を調べること。
2つ目は「妊娠した際に、母体や赤ちゃんに悪影響を及ぼす感染症や病気がないか」を調べることです。 ホルモン検査、超音波検査、感染症検査などがこれに含まれます。これから妊活を始めるすべての方にとって、健康な妊婦になるための土台作りとなる必須の検査です。
妊娠「直前」のスクリーニング:着床前診断(PGT-A)という選択
次に、体外受精などの高度生殖医療を行う場合に検討されるのが、妊娠「直前」、つまり受精卵がお腹に戻る前に行うスクリーニングです。これが「着床前診断(PGT-A)」です。 子宮に戻す前の受精卵(胚盤胞)の細胞を一部採取し、染色体の数を調べます。流産する可能性が高い染色体異常を持つ胚を移植前に見つけることで、流産を回避し、妊娠の成功率を高めることを目的としています。30代後半以降の方や、流産を繰り返している方にとって、精神的・身体的負担を減らすための重要な選択肢となります。
妊娠「後」のスクリーニング:出生前診断(NIPTなど)との違い
そして、多くの方が「スクリーニング」と聞いてイメージするのが、妊娠「後」に行う「出生前診断」でしょう。妊娠後に、お腹の赤ちゃんの染色体疾患や形態異常の可能性を調べる検査です。NIPT(新型出生前診断)、クアトロテスト、胎児ドックなどがこれにあたります。この記事では主に、これから妊娠を目指す方が受けるべき「妊娠前」と「妊娠直前」のスクリーニングに焦点を当てて解説していきます。
【妊娠前】まずはここから!不妊治療の「基本スクリーニング検査」
不妊治療専門クリニックで行う初回のスクリーニング検査(不妊スクリーニング・ブライダルチェック検査)では、妊娠成立に必要な機能が備わっているかを網羅的に調べます。「特に症状はないから大丈夫」と思っていても、検査で初めて隠れた原因が見つかることは珍しくありません。妊娠は、脳と卵巣から分泌されるホルモンの絶妙なバランスによって成り立っています。
ホルモン検査では、月経中の血液検査で以下の項目を測定します。
| FSH(卵胞刺激ホルモン) | 卵巣に「卵子を育てなさい」と命令するホルモンです。値が高すぎると卵巣機能が低下している可能性があります。 |
| LH(黄体形成ホルモン) | 排卵を促すホルモンです。FSHとのバランスを見ることで、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)などの排卵障害の有無を推測できます。 |
| E2(エストラジオール) | 卵胞ホルモンです。卵胞の成長とともに上昇し、子宮内膜を厚くします。 |
経腟超音波検査では、子宮や卵巣の形状を目で見て確認します。
| 子宮筋腫 子宮腺筋症 | 着床の妨げになる場所(粘膜下など)にできていないかを確認します。 |
| 卵巣嚢腫 | チョコレート嚢胞(子宮内膜症)などがないかを確認します。 |
| 子宮内膜ポリープ | 非常に小さな良性のイボですが、着床位置にあると妊娠率を下げることがあります。 |
卵子の在庫を知る「AMH検査」:ライフプランの要
30代・40代の方に、オプション料金を払ってでも受けていただきたいのが「AMH(抗ミュラー管ホルモン)検査」です。 AMHは、発育過程にある卵胞から分泌されるホルモンで、卵巣に残っている卵子の数(卵巣予備能)を反映します。よく「卵巣年齢」とも呼ばれますが、重要なのは、AMHは「残りの数」を示すものであり、「卵子の質」を示すものではないということです。
• AMH値が低い場合: 残された卵子が少ないことを意味します。自然妊娠を待っている猶予があまりない可能性があるため、早期に体外受精などの高度生殖医療へステップアップする判断材料になります。
• AMH値が高い場合: 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の可能性があります。排卵誘発剤への反応が過敏になりやすいため、治療方針の調整に役立ちます。
ご自身の「持ち時間」を知ることは、キャリアと妊活のバランスを考える上での決定的な指標となります。
意外と見落としがちな「甲状腺機能」と「ビタミンD」
基本的な婦人科項目に加えて、ぜひチェックしていただきたいのが「甲状腺機能」と「ビタミンD」です。これらは不妊や流産と密接に関わっています。
• 甲状腺機能検査(TSH, FT3, FT4): 甲状腺ホルモンは全身の代謝を司るホルモンですが、過剰でも不足でも、排卵障害や流産のリスクを高めることが知られています。特に「潜在性甲状腺機能低下症」は、自覚症状(だるさ、冷えなど)がほとんどないため見逃されやすいですが、着床や胎児の発達に悪影響を与えます。スクリーニングで見つけて内服薬で調整することで、妊娠率は改善します。
• ビタミンD検査: ビタミンDは骨を強くするだけでなく、子宮内膜の環境を整えて着床を助ける働きや、卵胞の発育に関与していることが近年の研究で分かってきました。日本人女性の約8割がビタミンD不足と言われています。不足している場合はサプリメントで容易に補うことができ、妊娠率向上や流産予防につながります。
パートナーも必須!男性側のスクリーニング(精液検査)
不妊の原因の約半数は男性側にあると言われています。女性だけが検査を受けて問題がなくても、男性側に原因があれば妊娠は成立しません。スクリーニング検査はカップルで受けることが鉄則です。
• 精液検査: 精子の数(濃度)、運動率、正常形態率などを調べます。WHOの基準値と比較し、自然妊娠が可能か、人工授精や体外受精が必要かを判断します。
• 見た目は健康でも…: 日常生活に支障がなくても、精子の状態が悪いことは珍しくありません。「俺は健康だから」という思い込みを捨て、早期に検査を受けることが、お二人の時間を無駄にしないための最善策です。
【妊娠前】赤ちゃんを守るための「感染症スクリーニング」
「妊娠してから検査すればいいや」と思っていませんか? 感染症の中には、妊娠中に感染すると赤ちゃんに重篤な障害を引き起こすものがあり、妊娠前に対策(ワクチン接種や治療)をしておく必要があります。
母子感染を防ぐために(風疹、麻疹、水痘など)
特に重要なのが「風疹(ふうしん)」です。 妊娠初期(特に20週頃まで)に妊婦さんが風疹ウイルスに感染すると、赤ちゃんが目(白内障)、耳(難聴)、心臓(心疾患)などに障害を持つ「先天性風疹症候群(CRS)」になる可能性があります。妊娠中は風疹ワクチンを接種することができません(生ワクチンのため)。そのため、必ず妊娠前に抗体価を調べ、抗体が不十分であればワクチンを接種し、接種後2ヶ月間は避妊をする必要があります。その他、麻疹(はしか)、水痘(水ぼうそう)、ムンプス(おたふく風邪)なども、妊娠中の感染で重症化したり流早産のリスクとなったりするため、抗体の有無を確認しておきましょう。
「サイレントキラー」クラミジア感染症の脅威
性感染症の一つであるクラミジアは、日本で最も感染者数が多い性感染症です。最大の問題は、女性の約80%が無症状であることです。気づかないうちに感染が進行すると、子宮頸管から子宮、卵管へと炎症が広がり、卵管炎や骨盤腹膜炎を引き起こします。その結果、卵管が癒着して詰まってしまい、卵子と精子が出会えなくなる(卵管性不妊)原因となります。また、妊娠中に感染していると、産道を通る際に赤ちゃんに感染し、結膜炎や肺炎を引き起こす可能性があります。血液検査やおりものの検査で簡単に調べられ、抗生物質で治療可能です。パートナーとのピンポン感染を防ぐため、ご夫婦での検査・治療が必要です。
子宮頸がん検診の重要性とタイミング
子宮頸がん検診も、妊娠前に済ませておくべき重要なスクリーニングの一つです。子宮頸がんは20代・30代の若い女性に増えているがんです。もし妊娠中にがんが見つかった場合、進行度によっては妊娠の継続をあきらめなければならなかったり、がん治療と妊娠継続のバランスが非常に難しくなったりすることがあります。妊娠前の検査で「異形成(がんの手前の状態)」が見つかれば、妊娠前に円錐切除術などの治療を行うか、慎重に経過観察をしながら妊娠を目指すか、医師と相談して計画を立てることができます。少なくとも1年以内に検診を受けていない場合は、不妊検査と合わせて必ず受診しましょう。
【妊娠直前】流産を防ぐ選択肢「着床前診断(PGT-A)」というスクリーニング
ここからは、体外受精を行うステップに進んだ方が直面する「受精卵のスクリーニング」について解説します。30代後半~40代の方にとって、これは非常に重要な選択肢となります。
PGT-Aの仕組み:受精卵の段階で染色体を調べる
PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)とは、体外受精で得られた受精卵を、子宮に戻す前に調べる検査です。 受精卵を「胚盤胞」という着床直前の段階まで培養し、将来胎盤になる部分の細胞(TE)を5~10個程度採取(バイオプシー)します。この細胞のDNAを解析し、染色体の数に過不足(異数性)がないかを調べます。通常、ヒトの染色体は46本ですが、これが多かったり少なかったりする胚は、着床しなかったり、着床しても流産してしまったりする可能性が非常に高くなります。検査によって「正倍数性(正常)」と判定された胚を選んで移植することで、妊娠率を高め、流産率を下げることが期待できます。
なぜ35歳以上や反復流産の方に推奨されるのか?
受精卵の染色体異常の発生率は、女性の年齢とともに急激に上昇します。これは誰にでも起こる「卵子の老化」現象の一つです。アメリカ生殖医学会のデータによると、染色体異常を持つ胚の割合は以下のようになっています。
• 35歳未満:約30~40%
• 35~37歳:約40~50%
• 38~40歳:約50~70%
• 41~42歳:約70~80%
• 43歳以上:約80~90%以上
つまり、40歳前後の方の場合、見た目がきれいな胚盤胞ができても、その半数以上は染色体異常を持っており、移植しても赤ちゃんになれない運命にある可能性が高いのです。PGT-Aを行うことで、流産の原因となる胚の移植を避けることができ、結果として「流産による身体的・精神的ダメージ」や「治療にかかる時間」を減らすことができます。これが、高齢の方や反復流産(流産を2回以上繰り返す)の方に推奨される最大の理由です。
PGT-Aでわかること、わからないこと(限界とリスク)
PGT-Aは万能ではありません。以下の限界とリスクを理解しておく必要があります。
検査できない疾患がある: PGT-Aでわかるのは「染色体の数の異常(ダウン症などのトリソミー含む)」や「大きな構造異常」だけです。微細な遺伝子の異常や、染色体異常以外の先天性疾患(心奇形など)はわかりません。
胚へのダメージ: 細胞を採取する際に、胚にわずかながらダメージを与えるリスクがあります(近年は技術向上によりリスクは低減しています)。
モザイク胚の判定: 正常な細胞と異常な細胞が混ざった「モザイク胚」という結果が出ることがあります。この場合、移植すべきかどうかの判断が難しく、専門的な遺伝カウンセリングが必要になります。
誤判定のリスク: 胎盤になる部分の細胞を採取するため、赤ちゃんになる部分の細胞と染色体構成が異なる場合(乖離)、稀に偽陽性・偽陰性が生じる可能性があります。
日本産科婦人科学会の最新ガイドラインと対象者
日本では、日本産科婦人科学会の主導により、PGT-Aは臨床研究として実施されてきましたが、現在は「先進医療」等として実施可能な施設が増えています。学会のガイドラインでは、以下のいずれかに該当する方が対象とされています。
反復する体外受精胚移植の不成功の既往を有する方(直近の胚移植で2回以上連続して臨床的妊娠が成立していない方)
反復する流死産の既往を有する方(過去に2回以上の流産・死産の経験がある方)
夫婦のいずれかに染色体構造異常がある方(PGT-SRの対象)
※現在、年齢による対象拡大(35歳以上など)も議論・運用が進められています。ご自身が対象になるかは、通院先の医師にご確認ください。
検査にかかる費用と保険適用・助成金の活用
スクリーニング検査を受ける上で、避けて通れないのが費用の問題です。2022年4月から不妊治療の保険適用が拡大されましたが、すべての検査が保険になるわけではありません。
保険適用となる検査と自費になる検査の境界線
• 保険適用となるもの: 不妊の原因を調べるための基本的な検査で、医師が「治療に必要」と判断したものは保険適用(3割負担)となります。
◦ 基礎ホルモン検査(FSH, LH, E2など)
◦ 経腟超音波検査
◦ 精液検査(基本項目)
◦ 子宮卵管造影検査
◦ クラミジア抗原検査 など
• 自費診療となるもの: 「ブライダルチェック」としてパッケージ化された検診や、予防的な意味合いの強い検査、先進的な検査は自費となります。
◦ AMH検査
(※不妊治療の一環として行う場合は保険適用になるケースもありますが、条件があります)
◦ 風疹抗体検査
(※自治体の無料クーポンが使える場合が多いです)
◦ 感染症スクリーニングのセット(HIV、肝炎など)の一部
◦ ビタミンD検査(※施設によります)
先進医療(PGT-Aなど)の費用目安と東京都の助成金制度
PGT-A(着床前診断)は現在、「先進医療B」として認められており、保険診療の体外受精と併用することが可能です。ただし、PGT-Aの検査費用自体は全額自己負担(10割負担)となります。
• PGT-Aの費用相場: 胚1個あたり 5万〜10万円程度かかることが一般的です。胚の数が増えれば、その分費用も高額になります。
しかし、東京都などの一部の自治体では、この高額な費用をサポートする助成制度があります。
【東京都特定不妊治療費(先進医療)助成事業】 東京都では、保険診療と併用して実施された先進医療にかかる費用の一部を助成しています。
• 助成額: 先進医療にかかった費用の10分の7(上限15万円) PGT-Aもこの対象となります。例えばPGT-Aに20万円かかった場合、14万円が助成される計算になります。お住まいの自治体に同様の制度がないか、必ず確認し活用しましょう。高額な検査ですが、流産手術の費用や身体的負担、時間を天秤にかけて検討する価値は十分にあります。
スクリーニング検査を受けるタイミングとクリニックの選び方
「ブライダルチェック」として受ける場合
結婚前や、本格的な妊活を始める前に「まずは自分の体を知りたい」という場合は、「ブライダルチェック」や「プレコンセプションケア検診」を行っているクリニックを受診しましょう。 一般的な婦人科や、不妊治療クリニックの検診コースで受けることができます。月経周期に関わらず受けられる検査が多いですが、より正確なホルモン値を測るためには「月経中(2〜5日目)」の受診が推奨されることもあります。まずは電話やWEBで予約を取り、「妊娠前のチェックをしたい」と伝えてみてください。
不妊治療専門クリニックで受けるメリット
一般的な婦人科でも一部の検査は可能ですが、30代・40代で妊娠を急ぐ方や、PGT-Aなどの高度な検査・治療を視野に入れている方は、最初から当院のような「生殖医療専門医」が在籍する不妊治療専門クリニックを選ぶことお勧めします。
専門クリニックのメリット:
専門性の高い検査が可能: 精子の詳細な評価(運動率だけでなく質の評価など)や、卵巣予備能(AMH)に基づいた具体的なライフプランの提案が受けられます。
治療への移行がスムーズ: 万が一検査で異常が見つかった場合、すぐに高度な治療(体外受精など)へ移行できます。
培養技術の高さ: 良い受精卵を育てるためには、検査だけでなく「培養室(ラボ)」の技術力が不可欠です。
「まだ治療までは…」とためらわず、まずは「検査(スクリーニング)」だけを受けに行くというスタンスでも全く問題ありません。専門医は、検査結果に基づいたあなたの「現在地」を正確に教えてくれます。
何かあればお気軽に当院へご相談ください。