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「通水検査って痛いんでしょうか…」不安そうな表情の患者様は多くいらっしゃいます。インターネット等で通水検査の痛みについて調べ、さまざまな体験談を読んで余計に不安になってしまった方も多いのではないでしょうか。
確かに通水検査には多少の痛みを伴うことがありますが、適切な準備と対処法を知っていれば、その不安はかなり軽減できます。
通水検査とは?基本的な検査の流れと目的
通水検査の目的と重要性
通水検査は、不妊治療の初期段階で行われる重要な検査の一つです。正式には「卵管通水検査」といい、卵管の通過性を確認するために行います。
卵管は卵子と精子が出会う大切な場所であり、受精卵が子宮へ移動する通り道でもあります。この卵管に詰まりや狭窄があると、自然妊娠が困難になってしまうのです。実際、不妊原因の約30%は卵管因子が関係しているとされています。
検査の具体的な流れ
検査は月経終了後から排卵前(月経周期の7~10日目頃)に行います。検査時間は準備を含めて約10分程度です。
- 内診台に上がっていただき、膣内を消毒します
- 細い管(カテーテル)を子宮口から挿入します
- 超音波で確認しながら、生理食塩水を少量ずつ注入していきます(通常20~30ml程度)
- 注入時の圧力や逆流の有無を確認します
この検査により、両側の卵管が正常に通っているか、片側のみ通っているか、あるいは両側とも詰まっているかを判断できます。
通水検査の痛みはなぜ起こる?医学的メカニズムを解説
痛みが生じる3つの主要因
通水検査で痛みを感じる理由は、医学的に明確に説明できます。主な要因は以下の3つです。
子宮の収縮による痛み
生理食塩水を注入すると、子宮が異物を排出しようとして収縮します。これは生理痛と同じメカニズムで、プロスタグランジンという物質が関与しています。子宮が収縮することで、下腹部に鈍い痛みや重だるさを感じることがあります。
卵管の拡張による痛み
普段は閉じている卵管に液体が通ることで、卵管が一時的に拡張します。特に卵管に軽度の狭窄がある場合、液体が通過する際により強い圧力がかかり、鋭い痛みを感じることがあります。
腹膜刺激による痛み
注入した生理食塩水の一部が卵管を通って腹腔内に流出します。これが腹膜を刺激することで、肩や横隔膜付近に放散痛を感じることがあります。これは正常な反応であり、卵管が通っている証拠でもあります。
痛みを増強させる要因
さらに、以下の要因が痛みを増強させる可能性があります
- 精神的な緊張や不安による筋肉の緊張
- 子宮内膜症や骨盤内炎症性疾患の既往
- 子宮の位置(強度の前屈・後屈)
- 検査前の鎮痛剤使用の有無
これらのメカニズムを理解することで、適切な痛み対策を立てることができます。
実際どれくらい痛い?痛みの程度と個人差について
痛みの程度を数値化すると
これまでの臨床経験では、患者様に痛みの程度を0~10の数値(NRS:数値評価スケール)で評価していただくと、以下のような分布になります
| 痛みなし~軽度(0-3) | 約50%の方 |
| 中等度(4-6) | 約40%の方 |
| 強度(7-10) | 約10%の方 |
つまり、約90%の方は我慢できる程度の痛みで済んでいることがわかります。「生理痛の少し強いもの」と表現される方が多く、「想像していたより楽だった」とおっしゃる方も少なくありません。
個人差が生じる理由
痛みの感じ方に個人差が生じる主な理由は以下の通りです
身体的要因
- 卵管の状態(正常、軽度狭窄、閉塞など)
- 子宮の形状や位置
- 痛みに対する感受性の違い
心理的要因
- 検査に対する不安や緊張の程度
- 過去の検査経験
- 痛みへの恐怖心の強さ
技術的要因
- 使用する器具のサイズ
- 注入速度や圧力のコントロール
2024年の研究では、検査前の十分な説明と心理的サポートを受けた群では、痛みスコアが平均2ポイント低下することが報告されています。このことからも、適切な準備と心構えの重要性がわかります。
痛みを軽減する効果的な方法
検査前の鎮痛剤服用
検査の30~60分前に、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を服用することで、痛みを大幅に軽減できます。具体的には、イブプロフェン400mg またはロキソプロフェン60mgの服用が推奨されます。これらは子宮収縮を引き起こすプロスタグランジンの産生を抑制し、痛みを予防的に軽減します。
リラクゼーション技法の活用
深呼吸法や筋弛緩法を検査中に実践することで、痛みの感じ方が変わります。特に「4-7-8呼吸法」(4秒で吸い、7秒止め、8秒で吐く)は、副交感神経を優位にし、痛みの閾値を上げる効果があります。当院では検査前に看護師が呼吸法の指導を行っています。
温熱療法の併用
検査当日、来院前に下腹部を温めておくことで、子宮や卵管周囲の血流が改善し、筋肉の緊張が和らぎます。使い捨てカイロや温熱パッドを使用し、38~40度程度で30分程度温めることをお勧めします。
最適なタイミングの選択
月経終了直後(月経周期7~8日目)は、子宮内膜が薄く、子宮口も柔らかいため、カテーテル挿入がスムーズです。また、この時期はホルモンバランスも安定しており、痛みを感じにくい傾向があります。
超音波ガイド下での実施
リアルタイムで子宮や卵管の状態を確認しながら行うため、必要最小限の圧力で検査が可能となり、痛みの軽減につながっています。
心理的サポートの充実
検査中の声かけや、手を握るなどの身体的接触によるサポートも、痛みの軽減に有効です。
検査前・検査中・検査後の過ごし方のポイント
検査前日~当日朝の過ごし方
検査前日
- 十分な睡眠(7~8時間)を確保する
- アルコールは控える(血管拡張により出血しやすくなるため)
- リラックスできる時間を作る(入浴、読書、音楽鑑賞など)
- 不安が強い場合は、パートナーや家族と話をする
検査当日朝
- 食事は普通に摂取してOK(空腹だと気分不良を起こしやすい)
- 水分を適度に摂取(脱水は痛みを感じやすくする)
- ゆったりした服装で来院(締め付けの少ない下着を着用)
- 事前に鎮痛剤を服用
検査中の対処法
検査中は以下のポイントを意識しましょう
呼吸を整える
緊張すると呼吸が浅くなり、筋肉が緊張します。ゆっくりと深い呼吸を心がけ、特に息を吐くことに意識を向けます。「痛みを息と一緒に吐き出す」イメージを持つと効果的です。
体の力を抜く
お腹に力が入ると子宮が硬くなり、痛みが増強します。意識的に肩、お腹、太ももの力を抜きましょう。看護師の声かけに従って、リラックスすることが大切です。
医師とコミュニケーションを取る
痛みが強い場合は遠慮なく伝えてください。注入速度を調整したり、一時中断したりすることで、痛みを軽減できます。
検査後の注意点とケア
検査後は以下の点に注意して過ごしましょう
直後~2時間
- 院内で10分程度安静にする
- 軽度の下腹部痛や違和感は正常(鎮痛剤の追加服用可)
- 少量の出血があることも(ナプキンを使用)
検査当日
- 激しい運動は避ける
- 入浴は控えてシャワーのみ(感染予防のため)
- 性交渉は控える
- 体を温めて安静に過ごす
翌日以降
- 通常の生活に戻ってOK
- 下腹部痛が続く場合は温める
- 発熱(38度以上)や強い腹痛がある場合は受診を
通水検査と卵管造影検査の違い
両検査の特徴比較
不妊治療において卵管の評価方法には、通水検査と卵管造影検査の2つがあります。それぞれの特徴を比較してみましょう。
通水検査の特徴
- 使用する液体:生理食塩水
- 放射線被曝:なし
- 検査時間:約10分
- 痛みの程度:軽度~中等度
- 診断精度:約70~80%
- 費用:保険適用で約3,000円
- 繰り返し実施:可能
卵管造影検査(HSG)の特徴
- 使用する液体:造影剤(油性または水性)
- 放射線被曝:あり(少量)
- 検査時間:約15分
- 痛みの程度:軽度~中等度
- 診断精度:約90~95%
- 費用:保険適用で約8,000円
- 繰り返し実施:被曝があるため制限あり
患者様からよくいただく質問と回答

Q1. 検査後すぐに妊娠しても大丈夫ですか?
A1. はい、大丈夫です。通水検査で使用する生理食塩水は体に無害で、すぐに吸収・排出されます。検査により卵管内の軽度の付着物が除去され、卵管の通過性が改善するため、検査翌日以降はタイミングをしっかりとっていただくといいでしょう。
Q2. 生理中でも検査はできますか?
A2. 生理中は検査を行いません。理由は3つあります:
- 子宮内膜が剥離している時期は正確な評価が困難
- 出血により感染のリスクが上昇
- 生理痛と検査の痛みが重なり苦痛が増す
最適なタイミングは月経終了後2~5日以内です。
Q3. 検査で卵管が詰まることはありませんか?
A3. 検査自体で卵管が詰まることはありません。むしろ、軽度の詰まりや癒着は、検査の水圧により改善することがあります。これを「治療的効果」と呼び、通水検査の大きなメリットの一つです。ただし、もともと重度の詰まりがある場合は、検査だけでは改善しないこともあります。
Q4. 痛み止めを飲んでも痛い場合はどうすればいいですか?
A4. 検査中に強い痛みを感じたら、遠慮なく医師に伝えてください。以下の対応が可能です:
- 注入速度を遅くする
- 注入を一時中断して様子を見る
- 注入量を減らす
- 必要に応じて検査を中止する
患者様の苦痛を最小限にすることが最優先です。無理に我慢する必要はありません。
Q5. 1回の検査で正確な診断ができますか?
A5. 通水検査の診断精度は約70~80%です。1回の検査で「通過性あり」と判定された場合の信頼性は高いですが、「通過性なし」と判定された場合は、一時的な卵管の攣縮(けいれん)の可能性もあります。そのため、異常が疑われる場合は、日を改めて再検査したり、卵管造影検査を追加したりすることがあります。
Q6. 検査後の出血はどのくらい続きますか?
A6. 検査後の出血は通常1~2日で止まります。月経よりも少量で、茶褐色のおりもの程度のことがほとんどです。もし3日以上鮮血が続く場合や、月経様の出血がある場合は、クリニックにご連絡ください。