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「AMH検査の結果が返ってきたけれど、この数値って良いの?悪いの?」「同年代と比べて自分はどうなんだろう…」
検査結果の紙を前に不安と期待が入り混じる気持ちとてもよく分かります。診察室でも多くの患者さまが同じような表情で結果を見つめています。数値への不安は未来への希望の裏返し。その気持ちに寄り添いながら今日はAMH検査の基準値についてできるだけ分かりやすくお伝えしたいと思います。
AMH検査とは?基本知識をわかりやすく解説
AMH(抗ミュラー管ホルモン)の役割
AMH検査は、卵巣に残されている卵子の「在庫数」を推定する血液検査です。正式名称は「抗ミュラー管ホルモン」といい、発育途中の小さな卵胞から分泌されるホルモンです。
このホルモンの特徴は月経周期のどのタイミングで測定してもほぼ一定の値を示すことです。FSHやLHといった他のホルモン検査は月経3日目など特定の時期に測定する必要がありますが、AMHはいつでも検査できるため忙しい女性にとって受けやすい検査といえます。
ただし、ここで大切なのはAMHが示すのは卵子の「量」であって「質」ではないということです。20代でAMH値が低くても卵子の質が良ければ妊娠の可能性は十分にあります。逆に40代でAMH値が高くても年齢に伴う卵子の質の低下は避けられません。この点を理解することが検査結果を正しく解釈する第一歩となります。
なぜAMH検査が重要なのか
診療でAMH検査をお勧めする理由は「時間軸を持った妊活計画」を立てられるからです。例えば32歳でAMH値が1.0ng/mlの方と、同じ32歳で5.0ng/mlの方では妊活のアプローチが変わってきます。
AMH値が低い場合はより積極的な治療を早期に開始することを検討します。一方、AMH値が十分にある場合はまず自然妊娠を目指したり仕事との両立を考慮しながら計画を立てたりする余裕が生まれます。つまりAMH検査は「妊活の設計図」を描くための重要な情報源なのです。
最近ではブライダルチェックの一環としてAMH検査を受ける方も増えています。結婚前や妊活開始前に自分の卵巣予備能を知ることでライフプランニングに役立てることができます。特にキャリアと妊娠のタイミングで悩む女性にとって客観的なデータは大きな判断材料となるでしょう。
年齢別AMH基準値一覧|20代から40代まで
最新データに基づく年齢別基準値
2025年の最新データに基づく日本人女性の年齢別AMH基準値をご紹介します。これらの数値は複数の研究機関のデータを総合したもので実際の診療でも参考にしている基準値です。

これらはあくまで「基準値」であり個人差が非常に大きいことを強調しておきます。例えば35歳で6.0ng/mlという20代並みの数値の方もいれば28歳で1.0ng/mlという方もいらっしゃいます。大切なのは年齢とAMH値を総合的に評価し個々の状況に応じた妊活プランを立てることです。
検査機関による測定値の違い
AMH検査には複数の測定キットがあり使用するキットによって数値が異なることがあります。キットによっては約20%程度の違いを示すこともあるため、別の医療機関で再検査をした際に数値が異なることがありますがこれは必ずしも卵巣予備能が変化したわけではありません。検査結果を見る際はどの測定法を用いたか確認することも重要です。
AMH値の個人差について知っておくべきこと
なぜこれほど個人差があるのか
AMH値の個人差は遺伝的要因、生活習慣、既往歴など複数の要因が複雑に絡み合って生じます。特に遺伝的要因は大きく母親や姉妹のAMH値が低い場合、本人も低い傾向があることが報告されています。
また、卵巣の手術歴がある方、抗がん剤治療を受けた方、重度の子宮内膜症の方は、AMH値が低くなる傾向があります。喫煙も卵巣機能に悪影響を与え喫煙者は非喫煙者と比較してAMH値が10~20%低いというデータもあります。一方で多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の方はAMH値が高くなる特徴があります。
興味深いことに最近の研究ではビタミンD不足がAMH値の低下と関連することが示されています。日本人女性の多くがビタミンD不足であることを考えると、サプリメント補充によりある程度の改善が期待できるかもしれません。ただしAMH値を劇的に上昇させる方法は現時点では確立されていません。
AMH値の変動について
「先月測ったAMH値と今月の値が違うのはなぜ?」という質問をよく受けます。AMH値は比較的安定したホルモンですが15~20%程度の変動をすることがあり得ます。
例えば2.0ng/mlという結果が出た場合、実際の値は1.6~2.4ng/mlの範囲にある可能性があります。また経口避妊薬(ピル)を服用中はAMH値が20~30%低下することが知られています。ピル中止後3ヶ月程度で本来の値に戻るため正確な評価を希望する場合はピル中止後3ヶ月程度経過してから検査することをお勧めします。
さらに、極度のストレスや急激な体重減少も一時的にAMH値を低下させることがあります。
AMH値が低い場合の妊活戦略
早期治療開始の重要性
AMH値が年齢平均より低い場合「卵巣予備能低下」と診断されることがあります。35歳でAMH値が1.0ng/ml未満、30歳で0.5ng/ml未満の場合は早期の不妊治療開始を検討します。
なぜ早期治療が重要かというと、AMH値は年齢とともに確実に低下し一度低下したAMH値を大幅に改善させる方法は現時点では存在しないからです。年間約0.1~0.4ng/mlのペースで低下することが多く、1.0ng/mlの方が0.1ng/ml(測定限界値)になるまで理論上2~3年しかないことになります。
実際の診療ではAMH値が低い方にはタイミング法や人工授精を1-3周期試みた後、早めに体外受精へステップアップすることを提案しています。特に0.5ng/ml未満の場合は採卵で得られる卵子数が少ないことが予想されるため複数回の採卵を前提とした治療計画を立てることもあります。時間との勝負になりますが適切な治療により多くの方が妊娠に至っています。
生活習慣の改善と補完療法
AMH値が低い方にまず取り組んでいただきたいのが生活習慣の改善です。医学的エビデンスのある改善方法をご紹介します。
まず禁煙は必須です。喫煙により卵巣機能が低下し閉経が1~4年早まることが知られています。次に適正体重の維持も重要です。BMI18.5未満のやせ、BMI25以上の肥満、どちらも卵巣機能に悪影響を与えます。地中海式食事療法のような抗酸化作用の高い食事も推奨されています。オリーブオイル、魚、野菜、ナッツ類を中心とした食事は卵子の質改善に寄与する可能性があります。
補完療法として鍼灸治療やヨガも一定の効果が報告されています。鍼灸は骨盤内血流を改善しヨガはストレス軽減効果があります。また、サプリメントではDHEA、コエンザイムQ10、ビタミンDなどが注目されています。これらの改善策はAMH値そのものを上昇させるわけではありませんが残された卵子の質を最大限に高める可能性があります。
AMH値が高い場合の注意点とPCOSとの関係
高AMH値が示すもの
AMH値が年齢平均を大きく上回る場合、一見すると「卵巣予備能が高くて良いこと」と思われがちですが実は注意が必要です。35歳で8.0ng/ml以上、30歳で10.0ng/ml以上といった高値の場合、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の可能性を考える必要があります。
PCOSは小さな卵胞が多数存在するもののどれも成熟せず排卵しにくい状態です。AMH値が高いからといって妊娠しやすいわけではなくむしろ排卵障害により不妊の原因となることがあります。診断にはAMH値だけでなく月経不順の有無、ホルモン値、超音波での卵巣所見などを総合的に評価が必要です。
高AMH値の方の中には「卵子がたくさんあるから、妊活は後回しでも大丈夫」と考える方もいらっしゃいますがこれは誤解です。AMH値が高くても年齢による卵子の質の低下は避けられません。35歳を過ぎれば染色体異常率は確実に上昇します。高AMH値は「量」の指標であって「質」を保証するものではないことを理解しておきましょう。
PCOSの場合の治療方針
PCOSと診断された場合まず生活習慣の改善から始めます。特に肥満を伴う方は5~10%の体重減少により排卵が回復することがあります。糖質制限や有酸素運動を組み合わせた減量プログラムが効果的です。
薬物療法としてはクロミフェンやレトロゾールといった排卵誘発剤を使用します。これらの薬剤により約70~80%の方で排卵が起こります。また、インスリン抵抗性を伴う場合はメトホルミンの併用も検討します。それでも妊娠に至らない場合はゴナドトロピン療法や腹腔鏡下卵巣多孔術、体外受精なども選択肢となります。
PCOSの方の体外受精では卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクが高いため慎重な管理が必要です。最近ではアンタゴニスト法や低用量刺激法などOHSSリスクを低減する方法が確立されています。経験上、適切な治療によりPCOSの方も安全に体外受精を行い高い妊娠率を達成できています。AMH値が高いことを前向きに捉え専門医と相談しながら最適な治療法を選択することが大切です。
AMH検査結果を妊活に活かす具体的な方法
治療方針決定への活用法
AMH検査結果は不妊治療のステップアップのタイミングを決める重要な指標となります。
例えば33歳でAMH値2.0ng/mlの方の場合、まず3-6ヶ月間タイミング法や人工授精を試みてその後体外受精を検討するという標準的なステップアップが可能です。一方同じ33歳でもAMH値0.5ng/mlの方には、タイミング法や人工授精は3ヶ月程度に留め早期に体外受精を視野に入れた治療計画を提案します。卵巣刺激法の選択にもAMH値は重要な情報となります。低AMH値の方には過剰な刺激を避けた低刺激法や自然周期採卵を選択することも多くなります。
また、AMH値は未受精卵子凍結を検討する際の判断材料にもなります。未婚の方やすぐに妊娠を希望しない方でAMH値が急速に低下している場合、将来の妊娠に備えて卵子凍結を提案することがあります。特に35歳以上でAMH値が1.0ng/ml未満の場合は早急な検討をお勧めしています。
パートナーとの話し合いのポイント
AMH検査結果をパートナーと共有する際は、数値だけでなくその意味と今後の選択肢を一緒に理解することが大切です。「AMH値が低い=妊娠できない」という誤解を避け正確な情報を共有しましょう。
パートナーの理解と協力なくして妊活の成功はありません。特にAMH値が低い場合「時間的制約がある」ということを夫婦で共有し、仕事の調整や治療スケジュールについて具体的に話し合う必要があります。精液検査も行い夫婦の総合的な妊孕能を評価することも重要です。
経済的な準備についてもAMH値を参考に計画を立てることができます。例えば低AMH値で複数回の採卵が予想される場合、治療費の概算を事前に把握し助成金制度の活用も含めて資金計画を立てておくことをお勧めします。治療の見通しを持つことで精神的な負担も軽減されます。
よくある質問と生殖医療専門医からのアドバイス

Q1: AMH値は改善できますか?
A1: 残念ながら一度低下したAMH値を大幅に上昇させる確実な方法は現時点では確立されていません。しかし、生活習慣の改善により残された卵子の質を高めたりすることは可能です。
DHEAサプリメントの服用により一部の方でAMH値の軽度上昇が報告されていますが効果には個人差があります。またビタミンD補充によりAMH値が10~20%改善したという研究もあります。最も大切なのは現在のAMH値を受け入れその値に応じた最適な妊活プランを立てることです。
Q2: AMH値が0.1未満でも妊娠できますか?
A2: AMHの値が低くても妊娠は可能です。AMH値が測定限界値以下でも妊娠・出産された方を多く診てきました。AMH値が極めて低い場合、確かに採卵で得られる卵子数は少なくなりますが1個でも質の良い卵子があれば妊娠は可能です。
また、AMH値が測定できないレベルでも自然妊娠された方もいらっしゃいます。重要なのは諦めずに適切な治療を続けることと卵子の質を高める努力を怠らないことです。年齢や他の不妊因子も考慮し総合的に治療方針を決定していきます。
Q3: どのタイミングでAMH検査を受けるべき?
A3: 理想的には将来妊娠を希望するすべての女性が20代後半から30代前半に一度はAMH検査を受けることをお勧めします。特に月経不順がある方、家族に早期閉経の方がいる方、晩婚で将来の妊娠を考えている方は早めの検査が重要です。
妊活を開始する際は必ずAMH検査を含む基本的な不妊検査を受けましょう。35歳以上の方は妊活開始と同時に検査を受けることで時間を無駄にせず効率的な治療計画を立てられます。また、不妊治療中の方は半年に1回程度の再検査により治療方針の見直しが必要かどうか判断できます。
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