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「不妊治療を始めてから夫とケンカばかりしている」「注射も通院も私ばかり。どうしてわかってくれないの」「ふたりで望んだはずなのに、気づけば会話が治療の話だけになっている」。
今そんな思いを抱えているのかもしれません。子どもを望む気持ちは同じはずなのに、治療が進むほど心の距離が開いていくように感じる。それは本当につらく心細いことです。
まずお伝えしたいのは不妊治療中に夫婦仲がぎくしゃくするのは、あなたたちの愛情が足りないからではないということです。生殖医療の現場で多くのご夫婦と向き合ってきた立場から言えば、それはとてもよくあることできちんとした理由があります。
この記事では、生殖医療専門医の視点から不妊治療で夫婦仲が悪くなる医学的・心理的な理由、関係がこじれやすい時期、今日からできる対策、そして頼れる相談先を最新のデータとともにお伝えします。
不妊治療で夫婦仲が悪くなるのは珍しいことではありません
データで見る不妊治療の「いま」
国立社会保障・人口問題研究所の「第16回出生動向基本調査」(2021年)では、不妊を心配したことがある夫婦は39.2%、実際に検査や治療を受けたことがある夫婦は22.7%にのぼりました。およそ4〜5組に1組が、不妊の検査や治療を経験している計算です。
さらに、日本産科婦人科学会が2026年9月に公表した調査では、2024年に体外受精などの生殖補助医療(ART:卵子と精子を体の外で受精させ、受精卵を子宮に戻す治療の総称)で生まれた子どもは過去最多の8万6,473人。同年の出生数68万6,173人の約8人に1人にあたります。
2022年4月の保険適用開始で、不妊治療は「一部の人の特別な治療」ではなくなりました。それは同時に、治療と生活を両立しながら悩みを抱えるご夫婦が、それだけ多くいるということでもあります。
「子どもが欲しい」気持ちは同じでも、すれ違いは起こる
不妊治療は夫婦が同じゴールを目指す取り組みです。それなのに関係がぎくしゃくしてしまうのは「目標は同じでも体験していることがまったく違う」からです。
妻は毎月の通院、自己注射、採卵、体調やホルモンの変化を自分の体で直接経験します。一方で夫は、精液検査や採精以外に治療を実感する機会が少なく、「頑張っているのはわかるけれど、何がそんなに大変なのか実感できない」状態になりがちです。
さらに不妊治療はいつ結果が出るのか誰にもわからない「ゴールの見えない治療」です。看護学の研究でも、治療そのものの負担や薬の副作用、高額な費用が日常生活を脅かす大きなストレスとなり、夫婦関係にも影響しうることが指摘されています。夫婦仲の悪化はこうした負担から生じる「治療の副作用」のひとつだと考えてみてください。
不妊治療で夫婦仲が悪くなる7つの理由
理由1:通院・注射・採卵など、負担が女性に偏る
不妊治療の身体的な負担はどうしても女性側に大きく偏ります。たとえば体外受精では、卵巣を刺激して複数の卵子を育てるために毎日のように自己注射を行い、卵胞(卵子が入った袋)の育ち具合を確認するために短い間隔で何度も通院します。採卵は麻酔を使って行う小さな手術です。
通院日は卵胞の発育次第で直前に決まることも多く、仕事や予定の調整も女性が担いがちです。女性誌の読者アンケートでも、朝の自己注射に苦しむ横で夫が自分の身支度だけをして出勤していき、涙が止まらなかったという声が紹介されていました。
「なぜ私だけが」という気持ちは、決してわがままではありません。負担の偏りそのものが、夫婦の間に不公平感を生む大きな原因なのです。
理由2:ホルモン剤による心と体の変化
不妊治療では、排卵を促す薬、卵巣を刺激する注射薬、着床を助ける黄体ホルモン(妊娠を維持する働きをもつホルモン)など、さまざまなホルモン剤を使います。これらの薬は体内のホルモンバランスを大きく動かすため、頭痛、むくみ、お腹の張り、眠気、だるさといった体の変化に加えて、イライラ、落ち込み、涙もろさなど気分の波が出ることがあります。
もともとホルモンの変動に影響を受けやすい方では、月経前のような不安定さが治療周期中ずっと続くように感じることもあります。そんなときに夫の何気ない一言が刺さり、普段なら流せることで衝突してしまう。これは珍しいことではありません。
動画でみるホルモン剤

生殖医療専門医の視点:薬の影響を「性格のせい」にしない
診察室で「最近怒りっぽくなって、夫に申し訳ない」と涙ぐまれる方は少なくありません。私はいつも「それはあなたの性格が変わったのではなく、薬と治療のストレスが一時的に影響している可能性が高いですよ」とお伝えしています。
大切なのは、この事実を夫婦で共有しておくことです。「今は薬の影響で気持ちが揺れやすい時期」と二人がわかっていれば、衝突しても「お互いのせい」にせずにすみます。気分の落ち込みが強いときは我慢せず、主治医に相談してください。薬の種類や量、治療方法を調整できる場合もあります。
理由3:夫婦間の温度差・知識の差
「病院に行かなくても、自然に任せればいいんじゃない?」妻が勇気を出して受診を提案したとき、夫からこう返されて傷ついたという話はよく耳にします。こうしたすれ違いの多くは、気持ちの差というより知識の差から生まれています。
広島県が妊娠を希望する夫婦に行った調査では、「避妊せずに1年間妊娠しない状態」という不妊の定義を知っていた人は、妻が9割弱だったのに対し、夫は6割程度にとどまりました。
年齢とともに妊娠しにくくなること、治療にはステップがあることを知らなければ、妻の焦りは「考えすぎ」に見えてしまいます。温度差を埋める第一歩は、相手を責めることではなく、同じ情報を一緒に知ることです。
理由4:タイミング法が「義務」に変わるプレッシャー
タイミング法とは、超音波検査やホルモン検査で排卵日を予測し、妊娠しやすい日に夫婦生活をもつよう医師が指導する治療法です。体への負担が少なく、多くのご夫婦が最初に取り組む方法ですが、実は夫婦関係に影響しやすい治療でもあります。
「この日にしなければ1か月が無駄になる」という意識が強くなると、本来は愛情表現であるはずの夫婦生活が「任務」に変わります。妻は「今日なのに」と焦り、夫は「指定された日に応えなければ」と追い詰められる。うまくいかなかった日をきっかけに気まずさが続いてしまうご夫婦もいます。
男性の性機能にも影響が出ることがある
排卵日を意識したプレッシャーから、その日に限って勃起しない、射精できないといった状態になる男性は珍しくありません。いわゆる「排卵日ED」と呼ばれるもので、心理的な緊張が原因の一時的な機能障害です。
男性側は恥ずかしさから言い出せず、妻は「協力してくれない」と受け取ってしまい、すれ違いが深まることがあります。こうした場合は、無理にタイミング法を続ける必要はありません。泌尿器科での相談や治療薬の使用、あるいは人工授精(精子を子宮内に直接注入する治療)へのステップアップなど、選択肢があります。一人で抱えず、主治医に率直に伝えてください。
理由5:治療費と保険の回数制限による焦り
2022年4月から、人工授精などの一般不妊治療、体外受精・顕微授精などの生殖補助医療が保険適用となり窓口負担は原則3割になりました。対象となる治療は、日本生殖医学会が有効性などを評価してまとめた生殖医療ガイドラインを踏まえて決められています。ただし体外受精などには条件があり、治療開始時に女性が43歳未満であること、胚移植の回数は40歳未満なら1子ごとに通算6回まで、40歳以上43歳未満なら通算3回までと定められています。
上限を超えると治療は全額自費となり、1回あたり数十万円以上かかることもあります。「あと何回」というカウントダウンは、夫婦に強い焦りを生みます。日本産科婦人科学会の2024年データでも、多胎率(双子以上の割合)が2022年の約1.3倍に上がっており、回数制限の中で一度に2個の胚を移植するケースが増えていることが背景にあると説明されています。お金と回数の話は夫婦で冷静に話し合うことが最も難しいテーマのひとつです。
理由6:仕事との両立の難しさ
厚生労働省によると、不妊治療を経験した方のうち26.1%が、仕事と両立できずに離職したり、雇用形態を変えたり、治療をやめたりしています。両立が難しい理由としては、通院回数の多さ、精神面の負担の大きさ、通院と仕事の日程調整の難しさが挙げられています。
多くの場合、急な通院に合わせて働き方を調整するのは女性です。キャリアを手放すことへの葛藤や、職場に治療を打ち明けられないストレスが、家庭では「私ばかり犠牲になっている」という思いに変わり、夫への不満として表れることがあります。
厚生労働省は、職場に治療中であることを伝える際に使える「不妊治療連絡カード」や、本人向けの両立支援ガイドブックを公開しています。勤務先に休暇制度があるかどうかも含め、夫婦それぞれの職場で使える制度を一度確認してみましょう。
当院(生殖医療クリニック錦糸町駅前院)は、仕事との両立を応援するために土日祝日も診療しております。また、朝8時から夜21時までの幅ひろい診療時間で行っております。
理由7:周囲の言葉と孤立感
「子どもはまだ?」という親や親戚からの何気ない質問、友人からの妊娠報告、SNSに流れてくる子育ての投稿。治療中はこうした日常の出来事に深く傷つくことがあります。
不妊治療は今でも人に話しにくいテーマで、ごく限られた相手にしか打ち明けられず、孤立しやすいと指摘されています。頼れる相手がパートナーしかいないからこそ、夫に「わかってほしい」という期待が集中し、それが満たされないと失望も大きくなります。
特に義理の家族からの言葉は、夫婦のどちらが受け止め、どちらが対応するかでもめやすいポイントです。「自分の親には自分から伝える」など、役割をあらかじめ決めておくと衝突を減らせます。
夫の本音も知っておきたい
不妊の原因の約半数に男性が関わっている
不妊というと女性の問題と思われがちですが、WHO(世界保健機関)の調査では、原因が女性のみ41%、男性のみ24%、男女両方24%、原因不明11%とされています。つまり、不妊のおよそ半数(48%)に男性側の要因が関わっています。
男性不妊で最も多いのは、精子をつくる機能に問題がある「造精機能障害」です。原因の一つである精索静脈瘤(精巣周囲の静脈がこぶ状にふくらむ病気)は手術で改善が期待できる場合もあり、男性不妊の手術も保険適用の対象です。
検査で男性側の要因が見つかると、夫は強い自責感や恥ずかしさを抱え、妻はそれを気遣って本音を言えなくなる。そんな形で夫婦の会話が減ってしまうこともあります。不妊は「どちらのせい」でもなく、夫婦二人で向き合う課題だと捉えることが大切です。
「何をすればいいかわからない」夫の心理
治療に協力的でないように見える夫も、実は「何をすればいいのかわからない」「下手なことを言って妻を傷つけたくない」と悩んでいることが少なくありません。
妻を支えなければという思いから、自分の不安や落胆を口にしない男性もいます。陰性の結果に「次があるよ」と前向きな言葉をかけるのも、夫なりの励ましのつもりかもしれません。ただ、妻にとってはその言葉が「悲しみをわかってもらえない」と感じられることがあります。
診察室で夫婦にお話を伺うと、夫も同じように喪失感を抱えていたことがわかる場面が何度もあります。相手の態度だけで気持ちを判断せず、「本当はどう感じている?」と尋ね合うことが、すれ違いをほどくきっかけになります。
夫婦仲が悪くなりやすい3つの時期
日々の診療で感じるのは、夫婦関係がこじれやすい「時期」がある程度決まっているということです。あらかじめ知っておくだけでも心の準備ができます。
治療開始・ステップアップのとき
不妊治療は一般に、タイミング法、人工授精、体外受精・顕微授精と段階的に進みます。このステップアップの場面は夫婦の価値観の違いが表に出やすいタイミングです。
「早く体外受精に進みたい」妻と、「そこまでしなくても」とためらう夫。あるいはその逆もあります。体外受精に進むと、通院回数も費用も、体への負担も一段上がります。夫婦の合意が十分でないまま進むと、結果が出なかったときに「だから言ったのに」というしこりが残りがちです。
ステップアップの目安は、年齢や不妊の原因によって一人ひとり異なります。医師の説明は必ず二人で聞き、それぞれの不安や疑問をその場で解消してから決めることをおすすめします。
判定日の前後・陰性が続いたとき
胚移植から妊娠判定日までの1〜2週間は、できることがほとんどなく「待つしかない」時期です。期待と不安が入り混じり、心が最も不安定になりやすい期間といえます。
判定が陰性だったとき、女性はそのたびに小さな喪失を経験します。流産を経験した場合は、なおさら深い悲しみを抱えます。ここで起こりやすいのが、悲しみ方の違いによるすれ違いです。たくさん話を聞いてほしい人もいれば、そっとしておいてほしい人もいます。
陰性が続くと、夫婦ともに疲れ果て、治療の話題を避けるようになることもあります。判定日の夜は大事な話し合いをしない、まずはお互いをねぎらうなど二人なりのルールを決めておくとよいでしょう。
年齢や保険の回数上限が近づいたとき
40歳や43歳という年齢の区切り、そして保険で受けられる胚移植の残り回数が少なくなってきたとき。夫婦は「続けるか、やめるか」「自費で続けるか」という重い決断を迫られます。
この時期は、それまで表に出ていなかった価値観の違いが一気に表面化します。「できる限り続けたい」という思いと、「二人の生活や将来も大切にしたい」という思いは、どちらも間違いではありません。だからこそ衝突が深刻になりやすいのです。
「やめどき」の話し合いは、この時期が来る前(できれば治療の初期)にしておくことが夫婦仲を守る大きな助けになります。
夫婦仲を守るために今日からできる4つのこと
治療のゴールと「やめどき」を最初に話し合う
不妊治療を始めるとき多くのご夫婦は「いつまで続けるか」を決めないまま走り出します。しかし、ゴールのないマラソンほど心をすり減らすものはありません。
おすすめは治療の節目ごとに次の4点を話し合っておくことです。
- 何歳まで、あるいは何回まで治療を続けるか
- 治療にかけられる費用の上限はいくらか
- 仕事やキャリアとのバランスをどう取るか
- 治療を終えたあと、どんな人生を送りたいか(夫婦二人の暮らし、特別養子縁組や里親制度なども含めて)
決めた内容は残しておきましょう。一度決めたことを途中で変えてもかまいません。大切なのは、「二人で決めた」という共通の土台を持つことです。
責めない伝え方「Iメッセージ」を使う
不満が積み重なると、つい「あなたは何もしてくれない」と相手を主語にした言葉(Youメッセージ)で責めてしまいがちです。言われた側は防御的になり話し合いはケンカに変わります。
そこで試してほしいのが、自分を主語にする「Iメッセージ」です。たとえば「朝の注射のとき、一人だと心細い。そばにいてくれると私は安心する」と、自分の気持ちと具体的なお願いをセットで伝えます。夫にとっても「何をすればいいか」が明確になり、行動に移しやすくなります。
また、治療の話は「週末に30分」など時間を区切ると、生活が治療一色になるのを防げます。判定日直後など気持ちが揺れているときは、大事な話し合いを避けるのも一つの工夫です。
診察や説明はできるだけ夫婦で受ける
保険診療で体外受精などを行う場合、医師が治療計画を作成し、夫婦(パートナー)双方に説明して同意を得ることが必要です。そのため、初回は二人そろっての受診を求める医療機関も多くあります。これを夫が治療に参加するきっかけとして活用しましょう。
妻を通して聞くより、医師から直接説明を受けたほうが男性も治療を自分ごととして捉えやすくなります。薬による体調の変化や、なぜこの通院が必要なのかを理解できれば妻のつらさにも寄り添いやすくなります。
毎回の同行が難しくても、ステップアップや判定結果の説明など重要な場面だけは一緒に受ける、質問リストを二人で作る、通院スケジュールをカレンダーアプリで共有するなど、できる形で「二人の治療」にしていきましょう。
治療から離れる「ふたりの時間」をつくる
治療が長くなると、会話も休日の予定も、すべてが治療中心になっていきます。でも、あなたたちはもともと「患者」になるために結婚したわけではありません。
治療の話をしない日をつくる、二人で好きな場所に出かける、おいしいものを食べに行く。そんな何気ない時間が夫婦であることを思い出させてくれます。心身が疲れたときは、主治医と相談のうえ、治療を1〜2周期お休みする選択肢もあります。
また、夫婦生活をタイミングのためだけのものにしないことも大切です。排卵日以外のスキンシップや、治療と関係のない触れ合いを意識的に残しておくことが関係の土台を守ります。
一人で抱え込まないで。専門家・公的窓口の活用
不妊治療に特化した臨床心理士
夫婦二人だけで解決しようとするとどうしても行き詰まることがあります。そんなときは、第三者の専門家を頼ってください。
当院(生殖医療クリニック錦糸町駅前院)には不妊治療に特化した心理士が在籍しておりますので、いつでもご相談ください。
ヨーロッパヒト生殖医学会(ESHRE)も、心理社会的ケアを不妊治療に組み込むためのガイドラインを作成しており、日本生殖心理学会が翻訳版を出しています。心のケアは「治療のおまけ」ではなく、国際的にも治療の一部と考えられているのです。通院先に相談窓口があるか、遠慮せず受付や看護師に尋ねてみてください。
性と健康の相談センターとピアサポート
通院先以外にも、公的な相談先があります。こども家庭庁によると、各都道府県などに設置された「性と健康の相談センター」で、不妊症や不育症に関する医学的・専門的な相談や、治療経験者によるピアサポート活動などの支援が行われています。
ピアサポートとは、同じような経験をした人が傾聴を中心に寄り添って支える取り組みです。国は2021年度からピアサポーターを育成する研修事業も行っています。「夫にも友人にも話せないことを、わかってくれる人に聞いてほしい」というときに心強い存在になります。
開設日時や相談方法(電話・面談・オンライン)は地域によって異なるため、お住まいの都道府県や市区町村のホームページで確認してみてください。また、こども家庭庁の広報サイトも、夫婦で正しい知識を共有するのに役立ちます。
心療内科・精神科の受診を考えたいサイン
不妊治療中の気分の落ち込みは自然な反応ですが、次のような状態が2週間以上続く場合は、こころの不調が隠れている可能性があります。
- ほとんど毎日、気分が沈んでいる
- 眠れない、または眠りすぎてしまう
- 食欲が大きく変化した
- 何をしても楽しいと感じられない
- 仕事や家事に手がつかない
こうしたサインがあれば、まずは主治医に伝えてください。
よくある質問

Q1. 不妊治療が原因で離婚する夫婦は多いのですか?
A1. 不妊治療をきっかけに離婚した体験談はネット上で目立ちますが、不妊治療と離婚の関係を示す国内の公的な統計は限られており、「治療をすると離婚しやすい」とは一概にいえません。
実際の診療では、治療中に何度もぶつかりながらも、話し合いを重ねて「以前より夫婦の絆が深まった」と話されるご夫婦にもたくさん出会います。治療の結果にかかわらず、困難を二人で乗り越えた経験は、その後の夫婦関係の財産にもなります。
大切なのは、関係がこじれ始めたサインを見逃さず、早めに話し合ったり第三者に相談したりすることです。不安をあおる体験談に振り回されすぎないでください。
Q2. 夫が治療に協力的ではありません。どう伝えればいい?
A2. まずは、なぜ協力的でないように見えるのか理由を聞いてみてください。知識が足りずに必要性がわからない、自分に原因があったらと思うと怖い、仕事が忙しく余裕がないなど、背景はさまざまです。
伝えるときは「もっと協力して」ではなく、「次の診察で先生の説明を一緒に聞いてほしい」「注射の日は早く帰ってきてほしい」と、具体的な行動をお願いするのが効果的です。男性向けに妊娠や健康の知識をまとめた、こども家庭庁のメンズプレコン検定を一緒に試してみるのもよいきっかけになります。
それでも話し合いが平行線のときは、医師や不妊カウンセラーを交えて話すとお互いが冷静になれることがあります。
Q3. 治療を休むと妊娠のチャンスを逃しませんか?
A3. 年齢とともに妊娠しにくくなるのは事実ですが、心身が疲れ切ったときに1〜2周期休むことが、多くの場合、結果を大きく左右するわけではありません。むしろ心と体を立て直すことが次の治療に前向きに臨む力になります。
ただし、年齢が高い方や、卵巣に残っている卵子の数の目安となるAMH(抗ミュラー管ホルモン)の値が低い方などは休む期間を慎重に考える必要があります。凍結保存している胚があるかどうかでも判断は変わります。
休むかどうかを夫婦だけで悩まず、ご自身の状況で休んでも問題ない期間を主治医に確認してください。
参考文献・引用元
省庁・学会
- 厚生労働省「不妊治療と仕事との両立のために」:両立できず離職等をした人26.1%、不妊治療連絡カード
- こども家庭庁「不妊治療に関する取組」:保険適用の根拠(日本生殖医学会のガイドライン)、性と健康の相談センター、ピアサポーター育成研修
- こども家庭庁「母子保健・不妊症・不育症など」:プレコンセプションケア、メンズプレコン検定
- 厚生労働省 母性健康管理サイト:保険適用の年齢・回数要件
- 厚生労働省 審議会資料(不妊治療に関わる専門職種):日本不妊カウンセリング学会認定 体外受精コーディネーターの到達目標
- 厚生労働省 資料「不育症のこころのケア」:ESHRE心理社会的ケアガイドライン(日本生殖心理学会翻訳版)
- 日本産科婦人科学会 2024年ARTデータ(2026年9月3日公表):共同通信配信記事(Yahoo!ニュース)、デイリースポーツ
調査・研究
- 第一生命経済研究所(第16回出生動向基本調査の解説):不妊を心配した夫婦39.2%、検査・治療経験22.7%
- 横浜市立大学 厚生労働省研究事業報告書概要:WHOによる不妊原因の割合
- 広島県 不妊に関する夫婦調査:不妊の定義の認知度(妻9割弱、夫6割程度)
- 川崎医療福祉学会誌「不妊治療を受ける夫婦の抱える問題と支援のあり方」
松見 泰宇
資格・専門医
- 東京大学医学博士
- 日本産婦人科学会産婦人科指導医・専門医
- 日本生殖医学会生殖医療専門医
- 日本抗加齢医学会専門医
- 日本スポーツ協会認定スポーツドクター
- 難病指定医
- 日本産科婦人科遺伝診療学会生殖領域遺伝カウンセリング研修会(反復流産(PGT-A)における遺伝カウンセリング)修了
- 日本産科婦人科遺伝診療学会周産期領域遺伝カウンセリング研修会(胎児の染色体異常を中心とした出生前遺伝カウンセリング)修了
- 新生児蘇生インストラクターAコース修了
- 日本産婦人科乳腺医学会講習会修了
- 日本臨床免疫学会
- 日本産科婦人科学会
- 日本生殖医学会
- 日本生殖免疫学会
- 日本不育症学会
- 日本抗加齢医学会
- 日本再生医療学会
- 日本産婦人科乳腺医学会
- 日本スポーツ協会
- 産婦人科PRP研究会
経歴
- 東京大学医学部卒業
- 東京大学大学院医学系研究科博士課程(生殖・発達・加齢医学)修了
- 博士論文「A possible role of nitric oxide in the regulation of developmental status of rat ovarian follicles(卵胞発育・閉鎖における一酸化窒素(NO)の関与)」
- 国立がん研究センター東病院 がん治療開発部
- 日本学術振興会特別研究員
- スタンフォード大学生殖生理学教室リサーチフェロー
- 成育医療研究センター特別研究員
- 東京大学大学院医学系研究科文部教官助手
- 帝京大学溝口病院講師
- 帝京大学非常勤講師
- 焼津市立総合病院、武蔵野赤十字病院など総合病院にて勤務
- 秋葉原ARTクリニック、花みずきウィメンズクリニック吉祥寺、両角レディースクリニック、木場公園クリニックなど不妊クリニックにて勤務
- 愛育病院、きりんウィメンズクリニックなど周産期医療専門病院および産科クリニックにて勤務