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P4(プロゲステロン)

 P4(プロゲステロン)とは?「黄体ホルモン」の基礎知識

「ふかふかのベッド」を作るホルモン

P4(Progesterone:プロゲステロン)は、排卵後の卵巣にある「黄体」から分泌される女性ホルモンの一種で、一般的に「黄体ホルモン」と呼ばれています 。

妊活中の方にとって、P4の最も重要な役割は、エストロゲンによって厚くなった子宮内膜を、受精卵が着床しやすい「ふかふかのベッド」のような状態に変化させることです 。この変化により、受精卵は内膜にしっかりと潜り込み、根を張ることができるようになります。

妊娠の維持と基礎体温の上昇

P4の役割は着床の準備だけではありません。

基礎体温の上昇: 排卵後に体温を0.3~0.5℃上昇させ、高温期を形成・維持します 。

妊娠の維持: もし妊娠が成立した場合、P4は妊娠8週頃までは黄体から、その後は胎盤から分泌され続け、赤ちゃんが育ちやすい環境を守ります 。

免疫寛容: 母体の免疫システムが受精卵を「異物」として攻撃しないよう、免疫寛容(拒絶反応を抑える働き)を誘導し、受精卵を守る働きもあります 。

妊娠が成立しなかった場合は、P4の分泌が低下し、不要になった子宮内膜が剥がれ落ちて月経(生理)が始まります 。つまり、P4は妊娠の成立から継続までを一貫して支える、非常に重要なパートナーなのです。

P4が不妊に与える影響|着床障害と黄体機能不全のメカニズ

P4の分泌量が不十分だと、不妊の大きな原因の一つである「黄体機能不全」を引き起こします。これは不妊症患者の約10~35%に関与しているとされており、決して珍しいことではありません 。

黄体機能不全とは?

黄体機能不全とは、排卵後の黄体からのP4分泌が悪い、あるいは子宮内膜がP4にうまく反応しないために、妊娠しにくい、または妊娠しても維持できない状態を指します 。 具体的には、以下のような不妊のメカニズムが働いてしまいます。

着床障害(ベッドの準備不足)

P4が不足すると、子宮内膜の「分泌期変化」が不十分になります。例えるなら、パンケーキの生地(内膜)は流し込んだものの、火を通していない(変化していない)状態です 。この状態では、いくら良質な受精卵が来ても、子宮内膜にある「着床の窓」が開かず、着床することができません 。

初期流産(化学流産)のリスク増加

着床自体はできても、P4の分泌が早期に低下してしまうと、子宮内膜の状態を維持できなくなります。その結果、胎嚢が見える前に月経様の出血が起こってしまいます。これを「化学流産」と呼びますが、自然妊娠の15〜20%に見られる初期流産の一部には、このP4不足が関与していると考えられています 。

精子の通過障害

P4は子宮の入り口にある「頸管粘液」の性質を変化させ、精子の通過を制限する働きも持っています。ホルモンバランスが崩れると、本来精子を受け入れるべき時期に粘液の状態が悪くなり、受精の妨げになる可能性もあります 。

【時期別】P4検査の適切なタイミングと基準値(正常範囲)

P4の値は、月経サイクルのどの時期に測定するかによって大きく変動し、その意味合いも異なります。いつ検査を受けるべきか、そして検査結果の数値をどう読み解くべきかを解説します。

最も重要な検査時期:排卵後7日目(黄体期中期)

P4検査において最も重要なタイミングは、排卵後7日目前後(黄体期中期)です 。 基礎体温で言えば、高温期に入って約1週間後が目安となります。この時期はP4分泌のピークにあたり、黄体機能が正常に働いているかを評価するのに最適です 。

28日周期の場合月経開始から21日目頃
確実なタイミング超音波検査で採卵を確認してから7日後

P4の基準値と読み方

以下は、時期ごとの一般的な基準値(参考値)です。目安として参考にしてください。

卵胞期(月経中〜排卵前)

  • 基準値目安: 0.2 〜 1.5 ng/ml(あるいは 1.0 ng/ml未満)
  • 解説: この時期のP4は低くて正常です。逆に、月経中のP4が高い(1ng/ml以上)場合は、前の周期の黄体が残っている「遺残黄体」や、これからの卵胞発育に悪影響を与えるホルモン異常の可能性があります 。

排卵期

  • 基準値目安: 0.8 〜 3.0 ng/ml
  • 解説: 排卵に向けてLH(黄体形成ホルモン)サージが起こる頃から、P4は少しずつ上昇を始めます 。

黄体期(排卵後5〜7日目・高温期)

  • 基準値目安: 10 ng/ml 以上(理想値)
  • 解説: ここが妊娠成立の鍵を握る数値です。
    • 10 ng/ml 以上: 正常範囲。排卵があり、黄体機能も十分に働いていると考えられます 。
    • 5 〜 10 ng/ml 未満: 黄体機能不全の疑いがあります(境界域)。医師の判断によりホルモン補充が検討されます 。
    • 5 ng/ml 未満: 明らかな黄体機能不全と考えられ、積極的な治療(補充療法)が必要となるケースが多いです 。
    • 30 ng/ml 以上: 排卵誘発剤を使用した場合などに見られますが、高すぎる場合は卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクがあるため注意が必要です 。

妊娠成立後(妊娠初期)

  • 目標値: 20 〜 30 ng/ml 以上
  • 解説: 妊娠が成立するとP4は高値を維持します。妊娠継続のためには、妊娠初期において高い数値をキープすることが重要です 。

黄体機能不全のセルフチェックと診断

血液検査を受ける前でも、基礎体温や自覚症状から、ある程度P4の状態を推測することができます。以下の症状に当てはまる場合、黄体機能不全のリスクが考えられます。

黄体機能不全のセルフチェックリスト

  • [  ] 高温期が短い: 排卵後の高温期が10日未満で終わってしまう 。
  • [  ] 体温の上昇が鈍い: 低温期から高温期への移行に日数がかかり、差がはっきりしない 。
  • [  ] 体温が低い・安定しない: 高温期の体温上昇が0.3℃未満である、または高温期の途中でガクッと体温が下がることがある 。
  • [  ] 月経前の不正出血: 生理予定日の数日前から、茶色っぽい出血や少量の出血が続く 。
  • [  ] 原因不明不妊: 各種検査で異常がないのに、長期間妊娠しない 。

診断の流れ

確定診断には血液検査が必要です。 基本的には「黄体期中期のP4値」を測定しますが、P4は1日の中でも分泌量に変動(日内変動)があるため、1回の検査だけでなく、基礎体温表のグラフの形や、超音波検査による子宮内膜の厚さなどを総合的に見て診断されます 。 また、より詳しく調べるために「子宮内膜日付診」といって、内膜の組織を少し採取して、きちんと変化が起きているかを顕微鏡で調べる検査を行うこともあります 。

原因は何?

黄体機能不全の原因は、P4そのものの問題だけでなく、以下のような背景が関与していることがあります 。

  • 卵胞の発育不良(良い卵子が育っていないと、良い黄体も作られない)
  • 高プロラクチン血症
  • 甲状腺機能異常
  • 過度なストレスや体重の急激な変動

P4値を改善する治療法|ホルモン補充療法の薬の種類と特徴

検査の結果、P4値が低い(黄体機能不全)と診断された場合や、体外受精で胚移植を行う際には、薬を使って外からP4を補う「黄体補充療法」が行われます 。 主な方法は「内服薬」「腟坐薬」「注射」の3つです。

内服薬(飲み薬)

代表的な薬剤 デュファストン、ルトラール、ヒスロンなど
特徴最も手軽な方法で、1日2〜3回服用することで血中濃度を維持します
メリット痛みや通院の負担が少ない
デメリット肝臓で代謝されるため、人によっては吸収率に差が出たり、吐き気などの副作用が出たりすることがあります

腟坐薬(ちつざやく)

代表的な薬剤ルティナス、ウトロゲスタン、ルテウム、ワンクリノンなど
特徴腟内に直接錠剤やゲルを挿入する方法です。近年、体外受精などの高度生殖医療(ART)では主流になりつつあります
メリット子宮のすぐ近くから吸収されるため、子宮内膜への直接的な作用が強く、高濃度のホルモンを届けられます。また、全身への副作用が比較的少ないのが利点です
デメリット1日数回の挿入が必要なものがあり、おりものが増えたり、ナプキンの使用が必要になったりする不快感があります

注射(筋肉注射)

薬剤・特徴プロゲステロン製剤を筋肉注射します
メリット即効性があり、最も確実に血中濃度を上昇させることができます
デメリット連日の通院が必要になる場合があるほか、注射部位に痛みやしこりが生じることがあります

これらの治療は、排卵確認後すぐに開始する場合や、着床時期に合わせて開始する場合があります。また、hCG注射を行って自分の黄体を刺激し、P4分泌を促す方法を併用することもあります 。

自分でできるP4対策|ホルモンバランスを整える生活習慣と食事

薬による治療と並行して、P4が自然に分泌されやすい体づくりをすることも大切です。生活習慣の改善は、ホルモンバランスを整える土台となります 。

栄養バランスと食事

P4の生成をサポートする栄養素を積極的に摂りましょう。

ビタミンE「妊娠ビタミン」とも呼ばれ、ホルモン産生に関わります。アーモンドなどのナッツ類、アボカド、うなぎなどに多く含まれます 。
ビタミンB6ホルモンバランスを整える働きがあります。カツオ、マグロ、バナナなどに含まれます 。
亜鉛牡蠣や牛肉、レバーなどに含まれ、細胞分裂やホルモン分泌を助けます 。

一方で、カフェインの過剰摂取や喫煙は、血管を収縮させ卵巣への血流を悪くするだけでなく、P4の分泌を低下させる可能性があるため、控えることが推奨されます 。

適正体重の維持とストレス管理

BMIの管理:痩せすぎ(BMI 18.5未満)も肥満(BMI 25以上)も、ホルモンバランスを乱す原因になります 。適正体重を維持することが、良質な排卵とP4分泌への近道です。
ストレスケア強いストレスを感じると、脳からの指令がうまくいかず、ホルモン分泌が抑制されてしまいます 。ヨガや軽い運動、十分な睡眠(7〜8時間)を心がけ、自律神経を整えましょう 。

よくある質問|P4検査と不妊治療について

Q-A

Q1: P4値が低いと、絶対に妊娠できないのですか?

A1: いいえ、必ずしも妊娠できないわけではありません。 軽度の低下であれば自然妊娠するケースも十分にあります。しかし、P4が低い状態は「妊娠しにくい」「流産しやすい」環境であることは確かなので、早めに専門医に相談し、必要に応じて補充療法を受けることで、妊娠率を高めることができます 。

Q2: 検査費用はどれくらいかかりますか?痛みはありますか?

A2: 検査は通常の採血(血液検査)と同じなので、針を刺す時のチクリとした痛み程度です 。

Q3: 自分でP4値を上げるサプリなどはありますか?

A3: 直接P4そのものを増やすサプリメントはありませんが、前述したビタミンEや当帰芍薬散などの漢方薬が補助的に使われることはあります。しかし、明らかな黄体機能不全がある場合は、食事やサプリだけで改善するのは難しいため、クリニックによるホルモン補充療法が最も確実で近道です 。

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