PGT-A(着床前検査)とはどのような検査か

受精卵の染色体数を調べる検査
PGT-A(Preimplantation Genetic Testing for Aneuploidy)は、日本語で「着床前胚染色体異数性検査」と呼ばれます 。体外受精によって得られた受精卵(胚)が「胚盤胞」まで育った段階で、将来胎盤になる細胞を採取して検査し、染色体の数に異常がないかを調べる技術です 。
通常、ヒトの染色体は2本1対で23組、合計46本あります 。この数が多かったり少なかったりすることを「異数性」と呼びます。染色体の数に異常がある受精卵は、着床しなかったり、着床しても初期の段階で流産してしまったりする可能性が非常に高いことが分かっています 。
PGT-Aを行うことで、移植前に染色体の数が正常な胚を選別することが可能となり、結果として流産を予防し、妊娠までの時間を短縮することが期待されています 。
なぜ染色体の数を調べる必要があるのか
女性の年齢が上がるとともに、卵子の老化が進み、受精卵に染色体異常(異数性)が発生する頻度が高くなることは医学的に証明されています 。
| 35歳前後 | 染色体異常の割合が急増 |
| 40歳以上 | 受精卵の半数以上、あるいは約70%に異常が見られる |
流産の主な原因の多くは、実は受精卵側の染色体異常にあります 。染色体の数を事前に調べることは、避けられる流産を回避し、母体の身体的・精神的ダメージを防ぐために非常に重要な意味を持ちます 。
PGTの種類について
「着床前検査」には目的に応じて以下の3種類があります。本ページでは主に加齢による流産防止などを目的としたPGT-Aについて説明します。
| PGT-A(異数性検査) | 染色体の「数」の異常を調べる(最も一般的) |
| PGT-M(単一遺伝子疾患検査) | 特定の遺伝性疾患の有無を調べる |
| PGT-SR(構造異常検査) | 両親のいずれかに染色体の構造異常(転座など)がある場合に実施 |
【2025年最新】PGT-Aを受けられる対象者(適応条件)
日本においてPGT-Aは、日本産科婦人科学会(JSOG)の主導により、主に「先進医療B」として実施されています 。以前は条件が厳しく設定されていましたが、2025年9月の細則改定により、対象者が大幅に拡大されました 。
現在の主な対象者は以下の通りです。
1. 女性が35歳以上の不妊症のご夫婦(新規追加)
2025年9月より、女性が35歳以上であれば、過去の流産歴や移植回数に関わらず検査を受けることが可能になりました 。年齢による染色体異常率の上昇を考慮し、より多くの方が早期に適切な治療を選択できるよう門戸が開かれました 。
2. 反復ART不成功(体外受精で結果が出ない方)
体外受精・胚移植(ART)を実施しても、直近の胚移植で2回以上連続して臨床的妊娠(胎嚢確認)が成立していない方が対象です 。 「良好な胚を戻しても妊娠しない」場合、PGT-Aによって「そもそも受精卵に染色体異常があった」ことが判明するケースが多く、原因特定に有効です 。
3. 習慣流産・反復流産(流産を繰り返す方)
過去に2回以上の流産(臨床的流産または死産)の既往がある方が対象です 。 流産を繰り返すことは母体へのダメージが大きいため、この条件に当てはまる方はPGT-Aを推奨される傾向にあります 。
PGT-Aを受ける3つのメリット
PGT-Aを受ける最大のメリットは、「流産のリスクを減らし、元気な赤ちゃんを授かるまでの期間を短縮できる可能性がある」という点です 。不妊治療という出口の見えないトンネルを、最短ルートで抜けるための手助けとなります 。
1. 流産率の低下と回避
日本産科婦人科学会のデータによると、PGT-Aを実施しない場合の流産率が約25〜30%であるのに対し、PGT-Aで正常胚を移植した場合の流産率は約10〜15%まで低下することが確認されています 。 特に40代など年齢が高い方ほど、流産率低下の恩恵は大きくなります 。掻爬手術などの身体的負担や、精神的な悲しみを事前に回避できることは最大のメリットです 。
2. 妊娠率(着床率)の向上
PGT-Aで「正倍数性(正常)」と判定された胚を移植した場合、1回あたりの妊娠率は**約60〜70%**という高い数値を誇ります 。 通常の体外受精(約30〜40%程度)と比較して約1.5倍以上の成功率となり、妊娠への近道となります 。
3. 治療期間の短縮と負担軽減
流産となってしまった場合、手術や回復期間を含めると数ヶ月から半年近く治療がストップしてしまうことがあります 。 PGT-Aを行うことで、染色体異常胚の移植を避け、無駄な移植回数を減らすことができます 。これにより、タイムロスを防ぎ、精神的・経済的な負担もトータルで軽減される可能性があります 。
PGT-Aのデメリット・リスク
PGT-Aは画期的な技術ですが、決して万能な「魔法の検査」ではありません 。メリットだけでなく、リスクも十分に理解した上で検討する必要があります。
1. 移植できる胚がなくなる可能性(正常胚ゼロ)
最も覚悟が必要なのが、「検査に出したすべての胚に異常が見つかり、移植できる胚が一つもない」という結果になる可能性です 。 特に高齢の方や採卵数が少ない方の場合、このリスクは高くなります 。「移植のチャンスさえ得られない」という事実は、患者様にとって深い絶望感につながることもあります 。
2. 受精卵(胚)へのダメージ
PGT-Aでは、胚盤胞の一部を物理的に採取(バイオプシー)します 。熟練した胚培養士が行いますが、稀にこの操作によって胚がダメージを受け、発育が停止したり、凍結・融解に耐えられなくなったりするリスクが約1〜2%存在します 。
3. 検査精度の限界と誤判定
検査の精度は約99.4%と言われていますが、100%ではありません 。
- 偽陽性・偽陰性: 実際は正常なのに異常と判定される、またはその逆の可能性があります 。
- 判定不能(No Call): 解析エラーで結果が出ず、再検査が必要になるケースもあります 。 また、採取したのは将来「胎盤」になる細胞であり、「赤ちゃん」になる細胞そのものを調べているわけではないため、結果が完全に一致しない可能性もゼロではありません 。
検査の流れと判定結果の見方
採卵から検査実施までのステップ
PGT-Aを行う場合、採卵した周期には移植ができず、一度すべての胚を凍結する「全胚凍結」となります 。
| 1.採卵・受精・培養 | 通常通り行い、5〜6日目の「胚盤胞」まで育てます 。 |
| 2.バイオプシー(細胞採取) | 胚盤胞の外側の細胞(TE細胞)を5〜10個程度採取します 。 |
| 3.凍結保存 | 検査結果が出るまで胚を凍結します 。 |
| 4.解析・結果説明 | 約2〜3週間で結果が出ます 。 |
判定結果(A・B・C・D)の意味
検査結果は一般的に以下のカテゴリーで報告されます 。
| A判定(正倍数性/Euploid) | 染色体数に異常なし。 移植の第一優先(妊娠率60-70%)。 |
| B判定(モザイク/Mosaic) | 正常な細胞と異常な細胞が混在している状態。 |
| C判定(異数性/Aneuploid) | 染色体数に異常あり。原則として移植対象外 。 |
| D判定(判定不能/No Call) | エラーなどで結果が出なかったもの 。 |
モザイク胚(B判定)について
判断に迷うのが「モザイク胚」です。近年の研究で、モザイク胚であっても胎児になる過程で自己修復機能が働き、健康な赤ちゃんとして生まれてくる可能性があることがわかってきました 。 ただし、A判定に比べて妊娠率はやや低く、流産率は高くなる傾向があります 。移植の可否は、専門医や遺伝カウンセラーと相談して慎重に決定します 。
PGT-Aにかかる費用
現在、特定の認可施設においてPGT-Aは「先進医療B」として実施可能です。先進医療の場合、PGT-A自体の費用は全額自己負担ですが、それに伴う体外受精や移植の費用には「保険適用」を併用することが可能です。
一方、認可施設は限られており多くのクリニックでは検査を希望する場合、保険適用と併用することができず採卵から移植まですべてが自費診療(10割負担)となります 。
よくある質問(FAQ)

Q1: PGT-Aをすれば必ず妊娠できますか?
A1: 残念ながら、100%ではありません。 正常胚(A判定)を移植した場合の妊娠率は約60〜70%です 。残りの30〜40%は、染色体以外の要因(子宮環境、免疫、胚のエネルギー不足など)で着床しない可能性があります 。しかし、通常の体外受精に比べれば、確率は飛躍的に高まります 。
Q2: 年齢が若ければPGT-Aは不要ですか?
A2: 一概には言えません。 35歳未満でも約30%の胚に染色体異常が見られるというデータがあります 。特に「反復して着床しない」「流産を繰り返す」という方は、年齢に関わらず検査を行うことで原因が特定でき、有効な選択肢となります 。
Q3: 凍結保存中の胚にもPGT-Aは実施できますか?
A3: 技術的には可能ですが、推奨されません。 既に凍結されている胚を融解して検査し、再度凍結することになります。この「融解→再凍結」のプロセスは胚へのダメージが大きいため、基本的には新規の採卵周期から計画的に実施することが望ましいです 。
Q4: 検査に痛みはありますか?
A4: 検査自体に痛みはありません。 培養中の受精卵に対して行う検査なので、患者様の体に痛みはありません 。ただし、検査のために必須となる「採卵」に伴う痛みやリスクは、通常の体外受精と同様に存在します 。