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着床前診断でダウン症を防げる?着床前診断とダウン症の関係|専門医が仕組みと実際を詳しく説明

  • 公開日:2025.12.24
  • 更新日:2025.12.25
着床前診断でダウン症を防げる?着床前診断とダウン症の関係|専門医が仕組みと実際を詳しく説明|不妊治療なら生殖医療クリニック錦糸町駅前院

「赤ちゃんを授かりたい。でも、もし障害があったら…」そんな不安を抱えながら、このページにたどり着かれたのではないでしょうか。妊娠・出産に対する期待と不安が入り混じる中、着床前診断という選択肢について知りたいと思うことは、決して特別なことではありません。

この記事では、専門医の立場から、着床前診断の仕組み、染色体異常との関係、実際の流れや費用、そして倫理的な考え方まで、できるだけわかりやすくお伝えします。

着床前診断とは?まずは基本を理解しましょう

着床前診断の仕組みと種類

着床前診断(PGT: Preimplantation Genetic Testing)とは、体外受精で得られた胚(受精卵)を子宮に戻す前に、遺伝子や染色体を調べる検査です。胚が胚盤胞という段階に成長した時点で、将来胎盤になる部分の細胞を数個採取し、遺伝学的な分析を行います。

着床前診断には主に3つのタイプがあります。PGT-A(染色体異数性検査)は染色体の数の異常を調べるもの、PGT-M(単一遺伝子疾患検査)は特定の遺伝性疾患を調べるもの、PGT-SR(染色体構造異常検査)は染色体の構造的な問題を調べるものです。それぞれ目的と対象が異なり、患者さんの状況に応じて適切な検査を選択します。

どんな検査ができるの?

着床前診断では、染色体の数や構造に関する情報を得ることができます。通常、ヒトの細胞には46本の染色体(23対)がありますが、この数が多かったり少なかったりする「染色体異数性」を検出できます。また、特定の遺伝性疾患の原因となる遺伝子変異も調べることが可能です。

ただし、着床前診断ですべての病気や障害がわかるわけではありません。あくまでも染色体や特定の遺伝子に関する情報に限られます。また、検査技術には限界があり、100%正確とは言えない点も理解しておく必要があります。モザイク現象(細胞によって染色体構成が異なる状態)など、判断が難しいケースもあります。

着床前診断で染色体異常はわかるのか?

染色体異常とダウン症について

ダウン症は正式には「ダウン症候群」または「21トリソミー」と呼ばれ、21番染色体が通常2本のところ3本ある状態です。これは染色体の「数」の異常なので、着床前診断のPGT-Aで検出することができます。ダウン症は最も頻度の高い染色体異常の一つで、母体年齢が上がるにつれて発生率が高くなることが知られています。

例えば、35歳での妊娠でのダウン症の確率は約1/250、40歳では約1/100、45歳では約1/30と上昇します。多くの方が年齢と共に不安を感じられるのは、このような背景があるためです。染色体異常は誰にでも起こりうることで、予防できるものではありませんが、着床前診断によって事前に知ることは可能です。

着床前診断で防げる可能性と限界

着床前診断のPGT-Aを実施すれば、21トリソミー(ダウン症)を持つ胚を移植前に特定できます。染色体数が正常な胚のみを選んで子宮に戻すことで、理論上はダウン症の赤ちゃんが生まれる可能性を大きく減らすことができます。特に反復流産や高齢の方では、染色体正常胚を選ぶことで流産率の低下も期待できます。

しかし、いくつかの限界も理解しておく必要があります。まず、日本では着床前診断を実施できる条件が限られています(後述)。また、検査には偽陰性・偽陽性のリスクがあり、完全ではありません。さらに、胚生検自体が胚にダメージを与える可能性もゼロではありません。何より大切なのは、この検査が「ダウン症を防ぐため」というより「健康な赤ちゃんを授かる可能性を高めるため」という視点で考えるべきだということです。

着床前診断を受けられる条件と日本の現状

日本で実施できるケース

2025年9月8日付で日本産科婦人科学会よりPGT-Aに関する細則の改定が発表され、検査の対象に【女性が高年齢の不妊症の夫婦(女性年齢が35歳以上を目安とする)】(下記 3)が追加されました。

これにより以前よりもPGT-Aを受けることができる対象が広くなりました。

ご自身がPGT-Aの対象となるかどうかなどの詳細は、医師へご相談ください。

日本産科婦人科学会

『不妊症および不育症を対象とした着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)に関する細則』

【1】検査の対象

着床前胚染色体異数性検査(preimplantation genetic testing for aneuploidy:PGT-A)(以下本法)の対象は、以下の1), 2), 3)のいずれかに該当する夫婦とする。

1)反復する体外受精胚移植の不成功の既往を有する不妊症の夫婦。

2)反復する流死産の既往を有する不育症の夫婦。

ただし、1)と2)について夫婦のいずれかに染色体構造異常(均衡型染色体転座など)が確認されている場合を除く。

3)女性が高年齢の不妊症の夫婦

現時点(2025年9月の時点)では、女性年齢は35歳以上を目安とする。

PGT-AとPGT-Mの違い

PGT-A(染色体異数性検査)は、すべての染色体の数を調べる検査です。ダウン症(21トリソミー)だけでなく、18トリソミー(エドワーズ症候群)や13トリソミー(パトー症候群)なども検出できます。一方、PGT-M(単一遺伝子疾患検査)は、特定の遺伝性疾患の原因遺伝子を調べるもので、筋ジストロフィーや血友病など、家族内で既知の遺伝性疾患がある場合に実施されます。

PGT-Mは、ご両親のどちらかが遺伝性疾患の保因者または患者である場合に選択肢となります。事前に家系内の遺伝子変異を特定しておく必要があり、準備に数ヶ月かかることもあります。どちらの検査が適切かは、患者さんの医学的背景や家族歴によって決まりますので、専門医との十分な相談が必要です。

着床前診断の実際の流れと費用

検査はどのように進むの?

着床前診断を受ける場合、まず通常の体外受精と同じプロセスを経ます。採卵手術で採取した卵子を精子と受精させ、胚を培養します。5~6日目に胚盤胞という段階まで成長した胚から、5~10個程度の細胞を採取します。この操作を胚生検と呼びます。

採取した細胞は専門の検査機関に送られ、遺伝学的分析が行われます。結果が出るまでには通常1~2週間かかります。その間、胚は凍結保存されます。検査結果で染色体正常と判定された胚があれば、別の周期に融解して子宮に移植します。全体として、採卵から移植まで最低でも1~2ヶ月はかかるプロセスです。身体的にも精神的にも負担がかかりますので、パートナーやご家族のサポートが重要です。

気になる費用について

着床前診断は保険適用外の自費診療となり、費用は施設によって異なりますが、体外受精の費用に加えて追加で30万~50万円程度かかるのが一般的です。内訳としては、胚生検の技術料、遺伝学的検査料、検査前後のカウンセリング料などが含まれます。

通常の体外受精・胚移植の費用も必要ですので、1回の治療サイクルで総額100万円前後になることも珍しくありません。複数回の採卵が必要になる場合は、さらに費用がかさみます。経済的な負担は決して小さくありませんので、実施を検討する際には費用面も含めて十分に検討し、医療機関で詳細な見積もりを取ることをお勧めします。

メリットとリスクを正しく理解する

着床前診断のメリット

最大のメリットは、染色体異常による流産のリスクを減らせる可能性があることです。特に反復流産を経験された方にとって、染色体正常な胚を選んで移植できることは大きな安心材料となります。

さらに、高齢の方では妊娠率の向上も期待できます。年齢とともに染色体異常胚の割合が増えるため、正常胚を選ぶことで効率的な治療が可能になります。何度も移植を繰り返すより、確実性の高い胚を選んで移植する方が、結果的に妊娠までの時間や身体的・経済的負担を減らせるケースもあります。また、遺伝性疾患の家族歴がある場合は、その疾患を持たない赤ちゃんを授かれる可能性が高まります。

知っておくべきリスクと限界

一方で、着床前診断にはいくつかのリスクや限界があります。まず、胚生検という操作自体が胚にダメージを与え、着床率を若干下げる可能性があります。また、検査には100%の精度がないため、モザイク胚(一部の細胞だけ異常がある)や偽陰性・偽陽性の可能性があります。

さらに、検査の結果、移植できる正常胚が得られないこともあります。特に高齢の方や卵巣機能が低下している方では、採卵数自体が少なく、検査後に移植可能な胚がゼロになってしまうケースもあります。心理的な負担も大きく、「正常か異常か」という二元論で胚を判定することへの葛藤を感じる方もいらっしゃいます。これらのリスクと限界を理解した上で、ご自身にとって本当に必要な検査かどうかを考えることが大切です。

倫理的な側面について – 専門医としての考え

「命の選別」という議論

着床前診断については「命の選別につながるのではないか」という倫理的な議論が常にあります。特にダウン症など、生まれてから適切なサポートがあれば充実した人生を送れる可能性のある状態について、胚の段階で選別することへの批判は根強くあります。この問いには簡単な答えはなく、社会全体で考え続けるべき重要な問題だと私も認識しています。

障害のある方々が生きやすい社会を作ることと、個々の家族が抱える不安や選択の自由をどう両立させるか。これは医療者としても常に向き合っている課題です。着床前診断を受けるかどうかの選択は、決して「障害のある命を否定する」という単純な意味ではなく、それぞれのご家庭の事情や価値観の中での複雑な決断であることを理解する必要があります。

患者さんの選択を支える医療

医療者は、患者さんご自身が納得のいく選択ができるよう、正確な情報とサポートを提供することが重要であると考えています。着床前診断を選ぶ方も選ばない方も、その決断は尊重されるべきです。どちらを選んでも「正解」はなく、ご夫婦やご家族の価値観、人生観に基づいた選択があるだけです。

よくいただく質問にお答えします

質問と回答

Q1. 着床前診断を受ければ確実に健康な赤ちゃんが生まれますか?

A1. 残念ながら、確実とは言えません。着床前診断で調べられるのは染色体の数や特定の遺伝子に限られ、すべての病気や障害を予測できるわけではありません。また、検査の精度も100%ではなく、妊娠後の出生前診断の実施も推奨されます。

Q2. 年齢が高いのですが、着床前診断を受けるべきでしょうか?

A2. 年齢が高い方ほど染色体異常胚の割合は増えますが、着床前診断が必ず有効とは限りません。採卵できる卵子の数が少ない場合、検査後に移植できる胚がなくなるリスクもあります。ご自身の卵巣機能や過去の治療歴なども含めて、主治医と相談して決めることをお勧めします。

Q3. 検査で異常と判定された胚はどうなりますか?

A3. 異常と判定された胚は、患者さんの同意のもと破棄されるか、研究目的で提供されることがあります(希望される場合のみ)。この点についても、倫理的な葛藤を感じる方がいらっしゃることは理解しています。事前のカウンセリングで十分に話し合うことが大切です。

まとめ – あなたの選択を支えるために

着床前診断は染色体異常を調べることができる技術ですが、日本では実施条件が限られており、また倫理的な側面も含めて慎重に考える必要がある検査です。

大切なのは、正確な情報に基づいてご自身とパートナーが納得できる選択をすることです。着床前診断を受けるかどうかに正解はなく、それぞれのご家庭の価値観や状況によって答えは異なります。少しでも不安や疑問があれば、ぜひ専門医や遺伝カウンセラーに相談してください。あなたの気持ちに寄り添いながら最善の選択ができるようお手伝いします。

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