カンジダは不妊の原因になる?まずは正しい関係性を知ろう
そもそも「膣カンジダ」とは?性感染症との違い
まず誤解を解いておきたいのが、カンジダは「性行為だけでうつる病気(性感染症/STD)」ではないという点です。もちろん性行為で感染することもありますが、カンジダ菌(カンジダ・アルビカンスなど)は、健康な女性の皮膚や膣内にもともと存在している「常在菌」の一種です。
普段はおとなしい菌ですが、風邪や疲れ、ストレス、ホルモンバランスの変化などで免疫力が落ちたときに異常増殖し、炎症を起こします。これを「自己感染」と呼びます。性感染症の検査項目に含まれることが多いため混同されやすいですが、性経験がない方でも発症する非常にありふれた疾患です。 主な症状としては、カッテージチーズや酒粕のようなボロボロとした白いおりもの、強い痒み、発赤などが挙げられます。
カンジダ自体は直接的な不妊原因になりにくい理由
「カンジダにかかると妊娠できなくなる」という噂を聞くことがありますが、医学的に見て、カンジダ症が卵管を詰まらせたり、排卵を止めたりといった「器質的な不妊原因」になることはほとんどありません。
不妊の大きな原因となるクラミジアや淋菌は、放置すると骨盤内炎症を起こし、卵管閉塞や癒着を引き起こすため極めて危険です。しかし、カンジダはあくまで膣や外陰部の表層での炎症にとどまることが多く、子宮内部や卵管にまで深刻なダメージを与えるケースは稀です。したがって、「カンジダ=即不妊」と過度に恐れる必要はありません。まずは落ち着いて、適切な治療を行えば治る病気であることを理解しましょう。
ただし要注意!精子の運動や性行為への間接的な影響
直接的な原因ではないとはいえ、妊活において「放置してよい」わけではありません。カンジダ膣炎を発症していると、膣内環境が悪化しています。通常、膣内は酸性に保たれていますが、炎症が強い状態では、射精された精子が子宮内へと泳いでいくのを妨げてしまう可能性があります。
また、カンジダ特有の「強い痒み」や「ヒリヒリする痛み」は、性行為そのものを苦痛にしてしまいます。妊活においてタイミングをとることは重要ですが、性交痛があればセックスレスの原因にもなりかねません。 さらに、炎症がある状態で性行為を行うと、粘膜が傷つきやすく、他の性感染症や細菌感染のリスクも高まります。妊娠率を高めるための「万全な膣内環境」を整えるという意味で、早期治療は必須です。
なぜ不妊治療のスクリーニングで「カンジダ検査」をするのか
不妊治療中(人工授精・体外受精)のリスク管理
不妊治療専門クリニックを受診すると、初診時や治療開始前のスクリーニング検査(初期検査)で、必ずと言っていいほど「おりもの検査(膣分泌物培養検査)」が行われ、カンジダの有無もチェックされます。 「不妊の原因じゃないなら、なぜ検査するの?」と思われるかもしれません。
これは、治療のプロセスにおける感染リスクを排除するためです。例えば「人工授精(AIH)」では、カテーテルを使って精子を子宮の奥に届けます。もし膣内にカンジダが大量に増殖していると、カテーテルとともに菌を子宮内部へ押し込んでしまうリスクがあります。通常は無菌状態である子宮内に菌が入ると、子宮内膜炎などを引き起こし、着床環境を悪化させる恐れがあるため、事前に検査を行うのです。
採卵や胚移植の前に治療が必要なケース
体外受精(IVF)に進む場合、カンジダの管理はさらに重要になります。 「採卵」では、膣壁から卵巣に向けて長い針を刺します。この時、膣内に活動性の高いカンジダやその他の細菌がいると、針を介して骨盤内や腹腔内に菌を持ち込み、骨盤腹膜炎などの重篤な感染症を引き起こす可能性があります。
また、受精卵を子宮に戻す「胚移植」の際も同様です。せっかく良好な受精卵ができても、子宮へ戻すルート(膣・子宮頸管)が炎症を起こしていては、妊娠率に悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、多くのクリニックでは、採卵や移植の周期に入る前に検査を行い、陽性であれば膣錠などでしっかり治療をしてから処置を行う方針をとっています。
妊娠中に発症した場合のリスク(母子感染の可能性)
不妊治療を経て無事に妊娠した後も、カンジダには注意が必要です。妊娠中はホルモンバランスの変化により、通常よりもカンジダになりやすい状態が続きます。 妊娠中のカンジダ膣炎が直接流産を引き起こすことは稀ですが、炎症が悪化して「絨毛膜羊膜炎」などの感染症を誘発すると、早産や破水のリスクが高まることが知られています。
また、分娩時に産道にカンジダがいると、赤ちゃんが通過する際に感染し「鵞口瘡(がこうそう)」や「皮膚カンジダ症」を発症する可能性があります。 不妊治療の段階から膣内フローラ(細菌叢)を整えておくことは、妊娠後の母子の健康を守るための第一歩とも言えるのです。
不妊治療スタート時に受けるべき「性感染症検査」の種類
カンジダと同時に検査されることが多い項目一覧
初診検査では、カンジダ単体ではなく、複数の性感染症や細菌感染をセットで検査するのが一般的です。これを「感染症スクリーニング」と呼びます。 主に以下の項目がチェックされます。
クラミジア・トラコマティス
淋菌(りんきん)
トリコモナス
カンジダ
細菌性膣症(B群溶連菌/GBSなど)
HIV、梅毒、B型・C型肝炎(これらは主に血液検査)
これらの検査は、これから生まれてくる赤ちゃんへの感染を防ぐため、そしてパートナーへの感染を防ぐためにも、避けては通れない重要なステップです。自覚症状がなくても陽性になるケース(無症候性キャリア)が多いため、検査結果が出るまでは不安かもしれませんが、早期発見が早期妊娠への近道です。
【重要】不妊の直接原因となる「クラミジア・淋菌」の怖さ
カンジダと違い、絶対に見逃してはならないのが「クラミジア」と「淋菌」です。これらは不妊治療において最大の敵と言えます。 特にクラミジア感染症は、日本国内の感染者数が最も多く、女性の場合、感染しても無症状のことが多くあります。
しかし、気づかないうちに菌が子宮頸管から子宮、卵管、そして腹腔内へと上行感染を起こします。その結果、卵管が癒着して詰まったり(卵管閉塞)、卵管采の周囲が癒着して卵子をキャッチできなくなったり(ピックアップ障害)します。これらは自然妊娠を難しくする決定的な要因となります。 「おりもの検査」でカンジダが陰性でも、クラミジアが陽性であれば、抗生物質による治療を夫婦同時に完了させるまでは、不妊治療を進めることはできません。
おりもの検査と血液検査の違いと痛みについて
性感染症検査には、主に「分泌物検査(おりもの検査)」と「血液検査」の2種類があります。
分泌物検査: 内診台に上がり、綿棒のようなもので膣内や子宮の入り口をこすって採取します。カンジダ、クラミジア、淋菌などはこの方法で調べます。痛みはほとんどなく、一瞬で終わります。
血液検査: 採血を行い、血液中の抗体を調べます。HIV、梅毒、肝炎ウイルス、そしてクラミジアの過去の感染歴(IgG抗体・IgA抗体)などを調べます。
特にクラミジアは、現在菌がいるかを調べる「抗原検査(おりもの)」と、過去にかかって癒着などのダメージが残っている可能性を調べる「抗体検査(血液)」の両方を行うことが、不妊治療においては推奨されています。
カンジダを繰り返してしまう…妊活中の対策と予防
なぜ妊活中や治療中はカンジダになりやすいのか?
「治療して治ったと思ったのに、また痒くなってきた…」と悩む方は少なくありません。特に不妊治療中は、以下の理由からカンジダを再発しやすい環境にあります。
| ホルモン剤の影響 | 治療で使用するエストロゲン製剤(卵胞ホルモン)などは、膣内のグリコーゲンを増やします。カンジダ菌は糖分を好むため、増殖しやすくなります。 |
| ストレスと疲労 | 「今回は妊娠できるか」というプレッシャーや通院の疲れが免疫力を下げ、常在菌のバランスを崩します。 |
| 高温期の影響 | 排卵後の高温期(黄体期)は体温が上がり、湿気がこもりやすくなるため、菌が繁殖しやすい時期です。 |
これらは治療上避けられない部分もありますが、「今はなりやすい時期なんだ」と自覚し、早めに対処することが大切です。
市販薬と処方薬の使い分け|自己判断はNG?
薬局ではカンジダ再発治療用の膣錠やクリームが販売されています。これらは「過去に医師の診断を受けたことがあり、同じ症状が出た人」を対象とした再発治療薬です。 しかし、妊活中・不妊治療中の場合は、自己判断で市販薬を使用する前に、必ず通院中のクリニックに相談することをお勧めします。
理由としては、
その症状が本当にカンジダなのか、他の感染症なのか判断が必要なため。
治療スケジュール(採卵日や移植日)に合わせて、最適な薬剤を選ぶ必要があるため。
使用する薬剤が、妊娠の可能性のある時期に適しているか確認するため。
特にタイミング法や人工授精を行っている時期は、精子への影響が少ない薬剤を選ぶ配慮も必要になります。
日常生活でできる予防法(食事・下着・ストレス管理)
カンジダは生活習慣を見直すことで予防効果が高まります。
通気性の良い下着を選ぶ: ナイロンなどの化学繊維は蒸れやすいため、綿(コットン)やシルクなどの天然素材の下着を選びましょう。おりものシートを使用する場合は、こまめに交換してください。
デリケートゾーンを洗いすぎない: 清潔にしようと石鹸で膣の中まで洗うのは逆効果です。自浄作用を持つ「良い菌(ラクトバチルスなど)」まで洗い流してしまい、カンジダが増えやすくなります。お湯で優しく流す程度にしましょう。
糖質の過剰摂取を控える: カンジダ菌は糖分を餌にします。甘いものや炭水化物の摂りすぎに注意し、免疫力を高める発酵食品(ヨーグルトなど)をバランスよく摂りましょう。
十分な睡眠: 免疫力を維持することが最大の予防です。
パートナーも検査・治療は必要?
男性がカンジダにかかった場合の症状
カンジダは女性に多い病気ですが、男性にも感染します。 男性が発症した場合(カンジダ性亀頭包皮炎)、亀頭の赤み、痒み、ただれ、白いカスが出るといった症状が現れます。しかし、男性は女性に比べて尿道が長く、構造的に乾燥しやすいため、菌が付着しても症状が出ないまま自然治癒することも多いですし、無症状のまま保菌していることもあります。
ピンポン感染を防ぐためのカップルでの取り組み
もし女性側がカンジダを発症し、治療を行っている最中に性行為を行うと、パートナーに感染させる可能性があります。逆に、パートナーが保菌している状態で性行為を行うと、女性が治療して治っても再び感染してしまう「ピンポン感染」が起こり、いつまでたっても治らないという悪循環に陥ります。
不妊治療においては、夫婦そろって感染症検査を受けることが基本です。もしどちらかに症状がある場合や、繰り返す場合は、必ずパートナーも泌尿器科等で検査・治療を受け、完治するまではコンドームを使用するか性行為を控えるなどの協力が必要です。二人三脚で取り組むことが、妊娠への近道となります。
よくある質問(FAQ)

Q1: カンジダ膣炎があると絶対に妊娠できないのですか?
A1: いいえ、カンジダ膣炎は不妊症の直接的な原因にはなりません。ただし、精子の運動能力を低下させる可能性があるため、治療してから妊活することをおすすめします。
Q2: カンジダの検査はいつ受けるべきですか?
A2: 症状がある時はすぐに受診しましょう。妊活前の検査では、月経終了後から排卵期前が理想的です。
Q3: 市販薬で治療しても大丈夫ですか?
A3: 再発の場合は市販薬も選択肢ですが、初発や妊活中は必ず医療機関を受診し、適切な診断と治療を受けてください。
Q4: パートナーも必ず治療が必要ですか?
A4: 男性は無症状のことが多いですが、再感染を防ぐため一緒に検査を受けることをおすすめします。
Q5: カンジダは性感染症ですか?
A5: 厳密には性感染症ではありません。常在菌の異常増殖が原因で、性交渉の経験がなくても発症することがあります。