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余剰胚凍結

余剰胚凍結(よじょうはいとうけつ)とはどのような技術か

体外受精・顕微授精における「余剰胚」の定義

体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)では、排卵誘発剤を使用して一度に複数の卵子を採取(採卵)することが一般的です。採取された卵子と精子を受精させ、順調に発育した受精卵のことを「胚(はい)」と呼びます。

その周期に子宮へ戻す(移植する)胚を除き、残った良好な胚のことを「余剰胚」と呼びます。「余剰」といっても「余り物」という意味ではなく、「次回のチャンスのために確保された大切な胚」という意味合いが強いものです。これらを液体窒素で凍結し、半永久的に保存する技術が余剰胚凍結です。

急速ガラス化法(Vitrification)による凍結技術の進化

かつては「緩慢凍結法」という時間をかけて凍結する方法が主流でしたが、現在では「急速ガラス化法(Vitrification法)」という技術がスタンダードになっています。これは、高濃度の凍結保護剤を使用し、胚をマイナス196℃の液体窒素に入れて一瞬で凍結させる方法です。

この技術革新により、胚の水分が氷の結晶となって細胞を傷つけるリスクが劇的に低下しました。融解後の生存率は約98〜99%とも言われており、凍結・融解のプロセスが受精卵の生命力や、生まれてくる赤ちゃんの健康に悪影響を及ぼす心配はほとんどなくなっています。

「新鮮胚移植」と「凍結胚移植」の違い

体外受精には、採卵した周期にそのまま胚を戻す「新鮮胚移植」と、一旦すべての胚を凍結し、別の周期に戻す「凍結胚移植」があります。余剰胚凍結は、新鮮胚移植を行った後に残った胚を凍結する場合と、最初から全胚凍結(すべての胚を凍結)する場合の両方に関わります。

現在では、採卵によるホルモンの影響が落ち着いた別周期に移植する「凍結胚移植」の方が、子宮内膜の状態が良く、着床率(妊娠率)が高い傾向にあるというデータが多く報告されています。そのため、余剰胚の凍結保存は治療戦略において非常に重要な役割を果たしています。

余剰胚凍結を行う3つの大きなメリット

子宮環境を整えてから移植できる(妊娠率の向上)

最大のメリットは、妊娠率の向上です。採卵を行う周期では、卵子を多く育てるために排卵誘発剤を使用します。これにより体内のホルモンバランスが通常とは異なり、子宮内膜が着床に適した状態(着床の窓)とズレてしまったり、過度に肥厚したりすることがあります。

余剰胚を凍結しておけば、採卵による卵巣やホルモンの影響がリセットされた翌周期以降に、万全の状態で移植を行うことができます。子宮内膜が最も着床しやすいタイミングに合わせて融解・移植できるため、結果として妊娠への近道となります。

OHSS(卵巣過剰刺激症候群)のリスク回避

多くの卵子が育つと、卵巣が腫れ上がり、腹水や胸水が溜まる「卵巣過剰刺激症候群(OHSS)」という副作用が起こることがあります。この状態で妊娠が成立すると、HCGホルモンの影響でOHSSが悪化し、重篤化するリスクがあります。

OHSSの兆候がある場合、その周期での移植をキャンセルし、すべての胚を凍結(全胚凍結)して卵巣を休ませることが推奨されます。余剰胚凍結は、母体の安全を守りながら、苦労して得た受精卵を無駄にしないための安全策としても機能します。

2人目以降の不妊治療や将来の備えになる

一度の採卵で複数の胚を凍結できれば、第一子の妊娠・出産後に、第二子の治療のために凍結胚を使用することができます。 年齢を重ねると卵子の質は低下していきますが、凍結された胚の年齢は「採卵した時点」で止まっています。つまり、例えば32歳で採卵・凍結した胚を、35歳や38歳で移植に使用した場合、妊娠率は32歳時点の質の高さが維持されるのです。これは「時間の貯金」とも言え、将来の家族計画において計り知れないメリットとなります。

知っておくべきデメリットとリスク

凍結・融解による胚へのダメージの可能性

前述の通り、急速ガラス化法により胚へのダメージは最小限に抑えられていますが、リスクが完全にゼロというわけではありません。ごく稀に、融解した際に胚が変性してしまったり、細胞の一部が壊れてしまったりして、移植ができなくなるケースがあります。 また、透明帯(胚の殻)が硬くなることがあるため、施設によっては着床を補助する「アシステッドハッチング(AHA)」を併用することが一般的です。技術は進歩していますが、「100%確実に元通りに戻る」という保証はない点を理解しておく必要があります。

移植周期まで時間がかかる(タイムラグ)

新鮮胚移植であれば、採卵から数日後には移植が完了し、その周期内に妊娠判定が出ます。しかし、余剰胚凍結を行い、次周期以降に凍結胚移植を行う場合、採卵から移植までに最低でも1ヶ月〜数ヶ月のタイムラグが発生します。 「一刻も早く妊娠したい」と焦る気持ちがある場合、この待ち時間が精神的なストレスに感じることもあるでしょう。しかし、急がば回れで、結果的に着床率を高めるための必要な期間であると捉えることが大切です。

管理費用と更新手続きの手間

余剰胚を凍結保存するためには、専用の設備と厳重な管理体制が必要です。そのため、凍結時の費用だけでなく、保存を継続するための「年間保存料」などの維持費がかかります。 また、保存期間には期限が設けられていることが多く、1年ごとの更新手続きが必要になるケースが一般的です。更新を忘れてしまうと、同意のもと廃棄されてしまう可能性もあるため、管理上の手間とコストが発生し続ける点はデメリットと言えます。

どのような胚が凍結されるのか?グレードと基準

初期胚(分割期胚)と胚盤胞の違い

受精卵は細胞分裂を繰り返し、採卵から2〜3日目の「初期胚(分割期胚)」と、5〜6日目まで成長した「胚盤胞(はいばんほう)」の大きく2つの段階で凍結が検討されます。 一般的に、胚盤胞まで育った胚は生命力が強く、着床率も高いとされています。そのため胚盤胞まで培養し、そこで良好なものを凍結する方針をとりますが、患者様の年齢や過去の治療歴によっては、初期胚の段階で凍結することもあります。

ガードナー分類などによる胚のグレード評価

胚盤胞の質を評価する基準として世界的に使われているのが「ガードナー分類」です。「4AA」「3AB」のように表記され、数字は胚の成長段階(大きさ)、アルファベットは「赤ちゃんになる細胞」と「胎盤になる細胞」の質をそれぞれA〜Cで評価しています。 一般的にAA、AB、BA、BBなどの評価がついた良好胚が凍結の対象となります。患者様の状況や状態によってはCが含まれるグレードでも対象になる場合もございます。

凍結に耐えられない胚とは

すべての受精卵が凍結できるわけではありません。分割のスピードが著しく遅いもの、細胞の形が不均一でフラグメンテーション(細胞の断片化)が多いもの、途中で成長が止まってしまったものは、凍結・融解のストレスに耐えられない可能性が高いため、凍結の対象外(培養中止)となることがあります。 質の良くない胚を無理に凍結・移植しても、妊娠に至らないばかりか流産のリスクが高まるため、医師や培養士による厳格な選別が行われます。

余剰胚凍結にかかる費用と保険適用

保険適用内での凍結費用と個数制限

2022年4月から不妊治療の保険適用が拡大され、余剰胚凍結も条件を満たせば保険が適用されるようになりました。保険適用の場合、凍結する胚の個数によって費用が設定されています。 具体的な点数は診療報酬改定により変動しますが、基本的には「1個」「2〜5個」「6個以上」といった区分で費用が変わります。

保存維持費用(年間)と更新料の相場

また、凍結した胚の「保存維持費用」に関しては保険適用で凍結した場合、当初の期間(例えば1年など)は保険範囲内に含まれることが多いですが、それ以降の保存更新については、治療計画が継続しているかなどによって取り扱いが異なります。 凍結保存の更新料は年単位でかかります。

自費診療となるケースについて

年齢制限(治療開始時に43歳未満など)や回数制限を超えた場合、あるいはPGT-A(着床前診断)などの先進医療Bや自費診療のオプションを組み合わせた場合は、余剰胚凍結も全額自費となります。

保存期間と「余剰胚」の行方

保存期間の目安と延長手続きの重要性

凍結胚の保存期間は、原則として「1年間」と定めております。期間を延長したい場合は、期限が切れる前に更新手続きと費用の支払いを行う必要があります。 また、生殖可能年齢の限界(例えば女性が50歳になるまで、など)を保管の上限としています。住所変更などでクリニックからの通知が届かず、意図せず廃棄となってしまうトラブルも稀にあるため、更新期限の管理は患者様自身の責任において重要です。

夫婦間での話し合いが必要な倫理的側面

余剰胚は「生命の萌芽」です。そのため、その取り扱いには倫理的な重みがあります。 特に離婚や死別といった事態が生じた際、凍結胚をどうするかは大きな問題となります。原則として、凍結胚の保存・使用・廃棄には「夫婦双方の同意」が必要です。どちらか一方の意思だけで移植したり廃棄したりすることはできません。治療開始時だけでなく、更新のタイミングでも夫婦でしっかりと話し合うことが大切です。

よくある質問(FAQ)

Q1: 凍結胚を融解すると質は落ちますか?

A1: 現在の「急速ガラス化法」であれば、融解後の生存率は約98%以上と非常に高く、質の低下はほとんど見られません。凍結胚を移植した場合の妊娠率や、生まれた赤ちゃんの先天異常のリスクについても、新鮮胚移植と変わらない、あるいはホルモン環境が良い分、凍結胚の方が成績が良いという報告も多数あります。安心して選択できる技術と言えます。

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