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妊娠を心待ちにしていた方にとって、妊娠後の健康管理は新たな不安の種になることがあります。特に不妊治療を経て授かった大切な命だからこそ、「妊娠高血圧症候群」という言葉を聞いて心配になる方も多いのではないでしょうか。
30代後半から40代で妊娠された方の中には、「年齢的なリスクは大丈夫だろうか」「今まで血圧は正常だったのに…」といった不安を抱えている方もいらっしゃるでしょう。実は、妊娠前は健康だった方でも、妊娠をきっかけに妊娠高血圧症候群を発症することがあるのです。
この記事では、妊娠高血圧症候群について詳しく、そしてわかりやすく解説していきます。正しい知識を持つことで、不安を和らげ、適切な対処ができるようになりましょう。
妊娠高血圧症候群とは
定義と診断基準
妊娠高血圧症候群の診断基準は明確で、収縮期血圧(上の血圧)が140mmHg以上、または拡張期血圧(下の血圧)が90mmHg以上の場合に診断されます。
特に注意が必要なのは、収縮期血圧160mmHg以上、または拡張期血圧110mmHg以上の場合で、これは重症と判断され、厳重な管理が必要となります。日本では妊婦さんの約5~10%に発症するとされており、決して珍しい病気ではありません。
診断においては、病院での血圧測定だけでなく、家庭血圧の値も重要視されるようになってきました。これは、病院で緊張して血圧が上がる「白衣高血圧」の方も多いためです。
以前の「妊娠中毒症」との違い
2005年まで使われていた「妊娠中毒症」という名称から「妊娠高血圧症候群」へと変更された背景には、病態の理解が深まったことがあります。以前は高血圧、蛋白尿、浮腫(むくみ)の3つの症状のいずれかがあれば妊娠中毒症と診断されていました。
しかし研究が進むにつれ、むくみは妊婦さんの30~80%に見られる一般的な症状であり、必ずしも病的な意味を持たないことがわかってきました。現在は高血圧を中心とした病態として捉えられ、より的確な診断と治療が可能になっています。
この変更により、本当に治療が必要な妊婦さんを適切に見極め、過剰な心配や不必要な治療を避けることができるようになりました。
妊娠高血圧症候群の種類と分類
妊娠高血圧症
妊娠20週以降に初めて高血圧を発症するものの、蛋白尿を伴わず、その他の臓器障害も認められない場合を指します。比較的軽症のタイプですが、重症化する可能性もあるため定期的な経過観察が必要です。
多くの場合、適切な管理により母子ともに良好な経過をたどりますが、血圧の推移には注意が必要です。家庭血圧測定を行い、急激な血圧上昇がないか確認することが大切です。通常は出産後12週までには軽快します。
初産婦さんに多く見られる傾向があり、次回妊娠時の再発リスクについても考慮する必要があります。
妊娠高血圧腎症
上記の高血圧に加えて蛋白尿を伴う場合、または蛋白尿がなくても肝機能障害、腎機能障害、血小板減少、神経症状、胎児発育不全などの臓器障害を伴う場合に診断されます。
2018年のガイドライン改定により、蛋白尿がなくても臓器障害があれば妊娠高血圧腎症と診断されるようになりました。これにより、より早期に適切な治療介入ができるようになっています。
妊娠高血圧症よりも重症度が高く、母子ともに合併症のリスクが上昇するため、より慎重な管理が必要となります。
加重型妊娠高血圧腎症
もともと高血圧や腎疾患などの基礎疾患がある方が、妊娠20週以降に病状が悪化した場合に診断されます。妊娠前から蛋白尿があった方が、妊娠により蛋白尿が増加したり、新たに高血圧を発症したりする場合も含まれます。
基礎疾患がある分、通常の妊娠高血圧症候群よりもリスクが高く、妊娠前からの計画的な管理が重要です。内科と産婦人科の連携により、適切な治療方針を決定していきます。
不妊治療を受けている方の中には、基礎疾患をお持ちの方もいらっしゃるため、妊娠前からの健康管理がより一層大切になります。
高血圧合併妊娠
妊娠前から高血圧があった方、または妊娠20週未満で高血圧を発症した方の妊娠を指します。妊娠により血圧がさらに上昇するリスクがあり、慎重な管理が必要です。
降圧薬を服用していた方は、妊娠に適した薬剤への変更が必要になることがあります。妊娠前からの計画的な準備により、安全な妊娠・出産を目指すことができます。
定期的な血圧測定と適切な薬物療法により、多くの方が無事に出産を迎えることができています。
原因とメカニズム
胎盤形成の異常
妊娠高血圧症候群の根本的な原因は、まだ完全には解明されていませんが、胎盤形成の異常が大きく関わっていることがわかってきました。通常、妊娠すると母体の子宮動脈が拡張し、胎盤への血流が増加します。
しかし、妊娠高血圧症候群では、この血管のリモデリング(再構築)がうまくいかず、胎盤への血流が不十分になります。その結果、胎盤から様々な物質が母体の血液中に放出され、全身の血管に影響を与えると考えられています。
最新の研究では、妊娠初期の段階で既にこの異常が始まっていることが示唆されており、早期からの予防的介入の可能性が検討されています。
血管内皮障害
妊娠高血圧症候群では、血管の最も内側にある内皮細胞が障害を受けることがわかっています。この障害により、血管が収縮しやすくなり血圧が上昇します。また、血液が固まりやすくなるため、様々な合併症のリスクも高まります。
内皮障害は全身の血管で起こるため、腎臓、肝臓、脳など様々な臓器に影響が及ぶ可能性があります。これが妊娠高血圧症候群が全身疾患として捉えられる理由です。
生殖医療の分野では、この内皮機能を改善する新しい治療法の研究も進んでおり、将来的にはより効果的な予防・治療が可能になることが期待されています。
最新の研究でわかってきたこと
近年の研究により、妊娠高血圧症候群には免疫学的な要因も関与していることがわかってきました。母体の免疫系が胎児(父親由来の遺伝子を持つ)を異物として認識し、過剰に反応することが一因と考えられています。
また、酸化ストレスや炎症反応も病態形成に重要な役割を果たしていることが明らかになってきました。これらの知見により、抗酸化物質の投与など、新しい予防・治療戦略の開発が進んでいます。
遺伝的要因についても研究が進んでおり、家族歴がある方は発症リスクが高いことがわかっています。将来的には遺伝子検査により、リスクの高い方を早期に特定できるようになるかもしれません。
症状と重症度
初期症状
妊娠高血圧症候群の初期段階では、自覚症状がほとんどないことが特徴です。そのため、定期的な妊婦健診での血圧測定と尿検査が早期発見の鍵となります。
初期に見られる可能性のある症状としては、軽度の頭重感、疲れやすさ、手足のむくみなどがありますが、これらは正常な妊娠でも見られる症状のため、見逃されやすいのが現状です。
体重増加が急激な場合(1週間で1kg以上)は要注意です。これは体内に水分が貯留している可能性を示唆しており、妊娠高血圧症候群の初期症状の可能性があります。
重症化のサイン
重症化すると、以下のような明確な症状が現れることがあります。激しい頭痛、目がチカチカする(閃輝暗点)、視界がぼやける、みぞおちの痛み、吐き気・嘔吐などです。これらの症状は、子癇前症の前兆である可能性があり、緊急の対応が必要です。
特に注意すべきは、上腹部(みぞおち)の痛みです。これはHELLP症候群という重症化の症状である可能性があり、肝臓の被膜が伸展することによる痛みと考えられています。急性胃炎と間違えられることもあるため、妊娠中の上腹部痛は産婦人科への相談をおすすめします。
尿量の減少も重要なサインです。腎機能が低下している可能性があり、1日の尿量が500ml以下になった場合は速やかに医療機関を受診してください。
白衣高血圧について
病院で測ると血圧が高くなる「白衣高血圧」は、妊婦さんにも多く見られます。緊張や不安により一時的に血圧が上昇する現象で、家庭では正常値を示すことが特徴です。
しかし、白衣高血圧だからといって安心はできません。将来的に真の高血圧に移行するリスクが高いことがわかっており、定期的な家庭血圧測定による経過観察が重要です。
家庭血圧測定では、朝起床後1時間以内と就寝前の2回測定することが推奨されています。測定前は5分程度安静にし、リラックスした状態で測定することで、より正確な値を得ることができます。
母体への影響と合併症
子癇(しかん)
子癇は、妊娠20週以降に初めて起こるけいれん発作で、妊娠高血圧症候群の最も重篤な合併症の一つです。意識消失を伴う全身けいれんが特徴で、母子ともに生命の危険があります。
現在では適切な血圧管理により発生頻度は大幅に減少していますが、前兆なく突然発症することもあるため、油断は禁物です。前駆症状として、激しい頭痛、視覚障害、上腹部痛などが見られることがあります。
子癇発作後は、脳出血などの重篤な合併症のリスクが高まるため、集中的な管理が必要となります。多くの場合、発作後は速やかな分娩が選択されます。
HELLP症候群
HELLP症候群は、溶血(Hemolysis)、肝酵素上昇(Elevated Liver enzymes)、血小板減少(Low Platelet)の頭文字を取った病名で、妊娠高血圧症候群の重篤な合併症です。
診断が遅れると多臓器不全に陥る危険性があり、母体死亡率も高い疾患です。特徴的な症状として、突然の心窩部痛、嘔気・嘔吐がありますが、急性胃炎と誤診されることもあるため注意が必要です。
血液検査により診断されますが、進行が速いため、疑いがある場合は迅速な対応が求められます。治療の基本は速やかな分娩であり、状態により帝王切開が選択されることが多いです。
常位胎盤早期剥離
正常な位置に付着している胎盤が、分娩前に子宮壁から剥がれてしまう病態です。全妊婦の0.5~1.3%に発生し、母体死亡率5~10%、胎児死亡率30~50%という高い死亡率を示す、産科救急疾患です。
主な症状は、突然の激しい腹痛、性器出血、子宮の板状硬(触ると板のように硬い)、胎動減少などです。出血が子宮内に貯留する場合は、外出血が少なくても重症であることがあるため、症状の程度に関わらず緊急対応が必要です。
妊娠高血圧症候群があると発症リスクが高まることが知られており、急激な血圧上昇時には特に注意が必要です。
その他の合併症
妊娠高血圧症候群では、脳出血、肺水腫、急性腎不全、心不全など、様々な合併症のリスクがあります。これらは血管内皮障害と臓器血流低下により引き起こされます。
また、播種性血管内凝固症候群(DIC)という危険な状態に陥ることもあります。これは全身の細かい血管に小さな血栓ができる一方で、出血も止まりにくくなるという深刻な病態です。これらの合併症は互いに関連し合い急速に悪化することがあるため、早期発見・早期治療が極めて重要です。
長期的には、妊娠高血圧症候群の既往がある女性は、将来の心血管疾患リスクが3~4倍高いことがわかっており、出産後も継続的な健康管理が必要です。
赤ちゃんへの影響
胎児発育不全
妊娠高血圧症候群では、胎盤への血流が不足するため赤ちゃんへの栄養や酸素の供給が十分でなくなることがあります。その結果、胎児発育不全(FGR)が起こりやすくなります。
胎児発育不全とは、赤ちゃんの推定体重が在胎週数の標準より明らかに小さい状態を指します。単に小さいだけでなく、臓器の機能も未熟になりやすく、出生後も様々な問題が生じる可能性があります。
定期的な超音波検査により、赤ちゃんの成長を慎重に観察し、必要に応じて入院管理や早期の分娩を検討することになります。
胎児機能不全
胎児機能不全は、赤ちゃんが子宮内で低酸素状態に陥っている状態です。胎動の減少、胎児心拍数モニタリングでの異常所見などで発見されます。
重症の場合は、赤ちゃんの生命に関わるため、緊急帝王切開が必要になることもあります。胎動カウントを日々行うことで、早期発見につながることがあるため、妊婦さん自身による観察も重要です。
最新のモニタリング技術により、以前よりも早期に胎児機能不全を発見できるようになってきており、適切なタイミングでの介入が可能になっています。
早産のリスク
妊娠高血圧症候群では、母体や胎児の状態により、正期産(37週以降)を待たずに分娩が必要になることがあります。特に重症例では、妊娠の継続が母子の生命に危険を及ぼすため、早期の分娩を選択せざるを得ない場合があります。
早産により生まれた赤ちゃんは、呼吸器系、消化器系、神経系などが未熟なため、NICU(新生児集中治療室)での管理が必要になることがあります。一方で、現在の新生児医療の進歩により、多くの早産児が健康に成長しています。
妊娠週数と赤ちゃんの成熟度や母体の状態を総合的に判断し、最適な分娩時期を決定することが、周産期医療チームの重要な役割です。
リスク因子と予防法
ハイリスクグループ
妊娠高血圧症候群を発症しやすい方には、いくつかの特徴があります。初産婦、35歳以上の高年妊娠、多胎妊娠、肥満(BMI25以上)、糖尿病や慢性高血圧などの基礎疾患がある方、前回妊娠で妊娠高血圧症候群の既往がある方などです。
家族歴も重要なリスク因子で、母親や姉妹に妊娠高血圧症候群の既往がある場合、発症リスクが2~5倍高くなることが報告されています。これは遺伝的素因が関与している可能性を示唆しています。
また妊娠前からの生活習慣も影響します。喫煙、過度のストレス、不規則な生活、塩分の多い食事などは、リスクを高める要因となります。
不妊治療後の注意点
不妊治療により妊娠された方は、いくつかの理由で妊娠高血圧症候群のリスクが高い傾向にあります。まず、不妊治療を受ける方の多くが35歳以上の高年齢であること、体外受精による多胎妊娠の可能性、治療に伴うストレスなどが要因として挙げられます。
特に、卵子提供による妊娠では、免疫学的な不適合により妊娠高血圧症候群のリスクが高まることが知られています。また、凍結胚移植では新鮮胚移植と比較してリスクがやや高いという報告もあります。
しかし、適切な管理により多くの方が無事に出産されています。不妊治療後の妊娠では、より慎重な経過観察と早期からの予防的介入が重要となります。
日常生活での予防策
妊娠高血圧症候群の予防において、日常生活の管理は非常に重要です。まず、十分な休息と睡眠を確保することが大切です。疲労やストレスは血圧上昇の要因となるため、無理のない生活を心がけましょう。
適度な運動も予防効果があります。ウォーキングやマタニティヨガなど、妊娠中でも安全に行える運動を、主治医と相談しながら継続することをおすすめします。ただし既に高血圧がある場合は、運動制限が必要なこともあります。
体重管理も重要です。急激な体重増加は避け、妊娠前のBMIに応じた適切な体重増加を目指しましょう。定期的な体重測定により、異常な増加を早期に発見することができます。
食事管理のポイント
食事管理は妊娠高血圧症候群の予防において中心的な役割を果たします。塩分制限が最も重要で、1日の塩分摂取量は7~8g程度に抑えることが推奨されています。これは、一般的な日本人の摂取量の約半分に相当します。
良質なタンパク質の摂取も大切です。魚、鶏肉、大豆製品などから、バランスよくタンパク質を摂取しましょう。カルシウムも血圧調整に関与するため、乳製品や小魚などから十分に摂取することが推奨されます。
野菜や果物に含まれるカリウムは、ナトリウムの排出を促進し血圧を下げる効果があります。ただし、腎機能が低下している場合はカリウム制限が必要なこともあるため、主治医に相談してください。
検査と診断
妊婦健診での検査
妊婦健診では、毎回血圧測定と尿検査が行われます。血圧は安静状態で2回測定し、より正確な値を確認します。測定時は、リラックスした状態で背もたれのある椅子に座り、足を床につけた姿勢で行います。
尿検査では、試験紙を用いて蛋白尿の有無を確認します。陽性の場合は、24時間蓄尿検査により正確な蛋白量を測定することもあります。1日300mg以上の蛋白尿は異常とされ、2g以上は重症と判断されます。
血液検査も重要で、肝機能、腎機能、血小板数などを確認します。これらの値により、HELLP症候群などの合併症を早期に発見することができます。
家庭血圧測定の重要性
家庭血圧測定は、妊娠高血圧症候群の診断と管理において非常に重要です。病院での測定値と家庭での測定値に差がある場合が多く、より正確な血圧の把握が可能になります。
測定は朝と夜の2回、毎日同じ時間に行うことが推奨されています。朝は起床後1時間以内、排尿後、朝食前に、夜は就寝前に測定します。測定前は5分程度安静にし、測定中は会話を控えましょう。
家庭血圧が135/85mmHg以上の場合は要注意です。記録した値は必ず主治医に見せ、適切な指導を受けることが大切です。最近はスマートフォンと連動する血圧計もあり、管理が便利になっています。
追加検査について
妊娠高血圧症候群が疑われる場合、いくつかの追加検査が行われることがあります。胎児の状態を評価するため、超音波検査による推定体重測定、羊水量測定、胎盤機能評価などが行われます。
胎児心拍数モニタリング(NST)では、赤ちゃんの心拍パターンから健康状態を評価します。また、臍帯動脈や中大脳動脈の血流を測定することで、より詳細な胎児の状態把握が可能です。
母体の評価としては、24時間血圧測定(ABPM)により、日内変動を含めた詳細な血圧パターンを把握することもあります。眼底検査により、高血圧による血管変化の有無も確認されます。
治療と管理
軽症の場合の管理
軽症の妊娠高血圧症候群では、外来での慎重な経過観察が中心となります。週2回程度の受診により、血圧、尿蛋白、体重、浮腫の程度などをチェックします。自宅での安静を指示され、家事や仕事の負担を軽減することが推奨されます。
食事療法も重要で、塩分制限(1日7~8g)、適切なカロリー摂取(1,800~2,000kcal)、良質なタンパク質の摂取などが指導されます。水分制限は通常必要ありませんが、極端な水分摂取は避けるようにします。
降圧薬の使用については慎重に判断されます。妊娠中に安全に使用できる薬剤は限られており、メチルドパ、ラベタロール、ニフェジピンなどが選択されることが多いです。
重症の場合の治療
重症の場合は入院管理が必要となります。安静臥床により胎盤血流を改善し、24時間体制での監視下で治療が行われます。血圧、尿量、血液検査値などを頻回にチェックし、状態の変化に迅速に対応します。
降圧薬の静脈内投与により、血圧を適切にコントロールします。ただし急激な降圧は胎盤血流を低下させる可能性があるため、慎重に行われます。硫酸マグネシウムの投与により、子癇発作の予防も行われます。
胎児の状態も厳重に監視され、連続的な胎児心拍数モニタリングや頻回の超音波検査により評価されます。母体または胎児の状態が悪化した場合は、速やかな分娩が選択されます。
分娩時期の決定
分娩時期の決定は、母体と胎児の状態を総合的に判断して行われます。妊娠37週以降であれば、診断後速やかな分娩が推奨されることが多いです。37週未満の場合は、可能な限り妊娠継続を図りますが、重症度により個別に判断されます。
分娩方法については、母体の状態、胎児の状態、子宮頸管の成熟度などにより決定されます。経腟分娩が可能な場合もありますが、緊急性が高い場合や胎児機能不全がある場合は、帝王切開が選択されることが多いです。
分娩時も血圧管理は重要で、陣痛による血圧上昇に注意が必要です。硬膜外麻酔は血圧を下げる効果もあるため、積極的に使用されることがあります。
出産後の注意点
産後の血圧管理
妊娠高血圧症候群は、出産により改善することが多いですが、産後も注意が必要です。通常、産後12週までには血圧は正常化しますが、一部の方では高血圧が持続することがあります。
産後3日目頃に一時的に血圧が上昇することがあり、これは体内の水分が血管内に戻ることによるものです。この時期は特に注意深い観察が必要で、必要に応じて降圧薬の投与が行われます。
退院後も定期的な血圧測定を続け、産後1か月、3か月、6か月での健診を受けることが推奨されています。授乳中でも使用できる降圧薬もあるため、高血圧が続く場合は適切な治療を受けることが大切です。
将来の健康リスク
妊娠高血圧症候群の既往がある女性は、将来の心血管疾患リスクが高いことが明らかになっています。高血圧は3.7倍、虚血性心疾患は2.2倍、脳卒中は1.8倍のリスクがあると報告されています。
また、糖尿病や脂質異常症などの生活習慣病のリスクも高まります。これは、妊娠高血圧症候群が血管内皮機能の異常を反映している可能性があり、その素因が出産後も持続するためと考えられています。
そのため、出産後も定期的な健康診断を受け、血圧、血糖値、脂質値などをチェックすることが重要です。早期から生活習慣の改善に取り組むことで、将来の疾患リスクを低減することができます。
次回妊娠への備え
妊娠高血圧症候群の既往がある方の次回妊娠での再発率は約20%と報告されています。しかし、適切な準備と管理により、リスクを低減することが可能です。
次回妊娠を希望される場合は、妊娠前から内科的な評価を受け、血圧、腎機能、糖代謝などをチェックすることが推奨されます。肥満がある場合は、妊娠前の減量も重要です。
最新の研究では、妊娠初期からの低用量アスピリン投与により、ハイリスク群での妊娠高血圧症候群の発症を予防できる可能性が示されています。主治医と相談の上、個別のリスクに応じた予防策を検討することが大切です。
まとめ
妊娠高血圧症候群は、適切な知識と管理により、多くの場合良好な結果を得ることができる疾患です。特に不妊治療を経て妊娠された方は、より慎重な管理が必要ですが、過度に心配する必要はありません。
大切なのは、定期的な妊婦健診を欠かさず受けること、指示された検査や治療を適切に受けること、そして日常生活での予防策を実践することです。家族の協力を得ながら、ストレスを溜めすぎない生活を心がけましょう。
もし妊娠高血圧症候群と診断されても、現代の周産期医療により、多くの方が無事に出産を迎えています。主治医や助産師と十分にコミュニケーションを取り、不安なことは遠慮なく相談していただくことをお勧めします。