目次
「胚移植って痛いのかな…」「どのくらいの痛みなんだろう…」
体外受精の最終段階である胚移植を控えて、このような不安を抱えていらっしゃいませんか?大切な命の始まりとなる治療だからこそ、痛みへの心配で眠れない夜を過ごされている方も多いことでしょう。
生殖医療専門医として、これまで数多くの患者様の胚移植に携わってきた経験から申し上げると、胚移植への不安は決して特別なものではありません。むしろ、ほとんどの方が同じような心配を抱えていらっしゃいます。
この記事では、胚移植の痛みについて医学的な視点から詳しく解説するとともに、最新の痛み軽減技術や心理的なサポート方法まで、包括的にお伝えします。正しい知識を持つことできっと不安は和らぐはずです。一緒に安心して胚移植に臨めるよう準備していきましょう。
胚移植とは?基本的な流れと所要時間
胚移植は、体外受精や顕微授精で受精した卵(胚)を、子宮内に戻す治療です。妊娠成立への最終段階となる大切な処置ですが、実は思っているよりもシンプルで短時間で終わります。
まず、内診台で準備をしていただき医師が経膣超音波で子宮の状態を確認します。その後、ガイドとなるカテーテルを子宮の入口に入れ、さらに髪の毛よりも細い特殊なカテーテル(管)に吸い上げた胚を子宮内に挿入し、最適な位置に置いていきます。
処置自体は通常5~10分程度で終了します。「えっ、もう終わったの?」と驚かれる方も多いほど、あっという間の処置です。麻酔も通常は必要ありません。処置後は安静にする必要もなく普通に歩いて帰宅できます。
胚移植の痛みの真実|実際どのくらい痛いの?

痛みの程度を数値化すると
患者様から最も多い質問が「どのくらい痛いのか」ということです。痛みの感じ方には個人差がありますが、多くの方の体験を数値化すると以下のようになります。
痛みの強さを0(無痛)から10(想像できる最大の痛み)で表すと
| 約70%の方 | 0~2 (ほとんど痛みを感じない、軽い違和感程度) |
| 約20%の方 | 3~4 (生理痛の軽いもの程度) |
| 約10%の方 | 5~6 (通常の生理痛程度) |
つまり、9割の方は「思っていたより全然痛くなかった」と感じていらっしゃいます。子宮頸がん検診や内診と同程度、あるいはそれ以下という方がほとんどです。
実際の患者様の声
実際に胚移植を経験された患者様からは、このような声をいただいています
「採卵と違って全然痛くなかった。緊張で体がガチガチだったけど、先生が優しく声をかけてくれて気づいたら終わっていました」(35歳)
「少しチクッとした感じはあったけど、一瞬で全然耐えられました。」(38歳)
なぜ胚移植で痛みを感じることがあるのか
子宮頸管の形状による影響
胚移植で痛みを感じる主な原因は、子宮頸管(子宮の入り口の細い通路)の形状にあります。子宮頸管は人によって長さや曲がり具合が異なり、特に以下のような場合に痛みを感じやすくなります
- 頸管が強く屈曲している
- 頸管が細い、または狭窄がある
- 以前の手術や処置の影響で癒着がある
ただし、これらの場合でも経験豊富な医師は適切なカテーテルを選択し、愛護的に操作することで痛みを最小限に抑えることができます。
子宮筋腫や内膜症の影響
子宮筋腫や子宮内膜症がある方は、痛みを感じることがあります。しかし、事前の超音波検査でこれらの位置を把握し、最適なルートを選択することで痛みを回避できることが多いです。
また、これらの疾患がある方でも必ずしも痛みを感じるわけではありません。多くの場合、適切な処置により問題なく胚移植を行うことができます。
心理的な緊張による影響
実は、痛みの感じ方に最も大きく影響するのが心理的な要因です。緊張や不安が強いと体に力が入り、子宮や頸管の筋肉も収縮します。これによりカテーテルの挿入が困難になり痛みを感じやすくなるのです。
「痛いのではないか」という不安が、実際の痛みを増幅させてしまうこともあります。リラックスすることが痛みを軽減する最も効果的な方法の一つなのです。
痛みを最小限にする最新の技術と工夫
最新の柔軟カテーテル
超柔軟素材:シリコンなどの柔らかい素材を使用し、子宮頸管の形に沿って自然に曲がります
極細設計:外径が1.5~2mm程度と極めて細く、挿入時の抵抗が最小限です
滑らかなコーティング:特殊なコーティングにより、スムーズな挿入が可能です
これらの技術により以前と比べて痛みの発生率は大幅に減少しています。
超音波ガイド下での施術
ほぼすべての施設で超音波ガイド下での胚移植が行われています。
- カテーテルの位置をリアルタイムで確認できる
- 最短距離で目的地に到達できる
- 無理な操作を避けられる
- 胚を最適な位置に確実に置ける
超音波画面で自分の子宮内を見ながら移植を受けることで、安心感も得られます。
事前のシミュレーション
施設によっては、胚移植前に「模擬移植」や「ゾンデ診」と呼ばれる移植のシミュレーションを行うことがあります。
- 最適なカテーテルの種類を選択
- 子宮頸管の走行を事前に把握
- 当日の手順を確認
- 患者様の不安を軽減
事前準備をしっかり行うことで、当日の処置がスムーズになり痛みのリスクも減少します。
胚移植前にできる痛み対策
薬物的な対処法
痛みへの不安が強い方には、以下のような対処法があります
鎮痛剤の予防的内服 :移植の30分~1時間前に、軽い鎮痛剤(アセトアミノフェンなど)を内服することで痛みの感受性を下げることができます。
座薬の使用 :より確実な効果を求める場合は鎮痛座薬を使用することもあります。即効性があり内服薬より痛みの感受性を下げることが可能です。
子宮頸管の軟化 :必要に応じて前日から子宮頸管を柔らかくする薬剤を使用することもあります。
これらの使用については、必ず主治医と相談して決めましょう。
リラクゼーション法
薬を使わない方法として以下のリラクゼーション法が効果的です。
深呼吸法
- 鼻から4秒かけてゆっくり息を吸う
- 口から8秒かけてゆっくり息を吐く
- これを3~5回繰り返す
イメージ療法
- 好きな場所(海辺、森林など)にいる自分をイメージし、五感で感じる練習をしておく
音楽療法
- リラックスできる音楽を聴きながら処置を受けることも可能な施設もあります
胚移植当日の流れと注意点
当日は以下のような流れで進みます。
来院・準備(30分前)
- 膀胱に適度な尿を溜めておく(超音波で見やすくなるため)
- リラックスできる服装で来院
処置室での準備(5分)
- 内診台で楽な姿勢を取る
- 深呼吸でリラックス
- 不安なことがあれば遠慮なく伝える
胚移植(5~10分)
- 超音波で確認しながら進行
- 違和感があれば遠慮なく伝える
- できるだけリラックスを心がける
帰宅
- 普通に歩いて帰宅可能
- 車の運転も問題ありません
胚移植後の症状について
正常な症状と心配な症状の見分け方
胚移植後には以下のような症状が出ることがあります。
正常な症状(心配不要)
- 軽い下腹部の違和感(2~3日程度)
- 少量の出血(処置による刺激)
- 軽い腹部の張り感
- おりものの増加
すぐに連絡すべき症状
- 強い持続的な腹痛
- 大量の出血(生理2日目以上)
- 38度以上の発熱
- 激しい吐き気や嘔吐
着床痛についての医学的見解
「着床痛」という言葉をネットでよく見かけますが、医学的には着床による痛みは証明されていません。受精卵が子宮内膜に着床する過程は、顕微鏡レベルの現象であり痛みを引き起こすような物理的刺激はないと考えられています。
胚移植後に感じる「チクチク」とした感覚は、主に以下が原因です。
- 子宮の自然な収縮
- ホルモン剤の影響
- 心理的な期待や不安
痛みがあってもなくても妊娠の可能性に違いはありません。症状で一喜一憂せずに判定日を待つことが大切です。
よくある質問(Q&A)

Q1: 胚移植は麻酔なしで大丈夫ですか?
A1: はい、通常は麻酔は必要ありません。ほとんどの方が麻酔なしで問題なく受けられます。ただし、過去に強い痛みを経験した方や、子宮の形態的な問題がある方は医師と相談の上麻酔の使用を検討することもあります。
Q2: 採卵と比べてどちらが痛いですか?
A2: 圧倒的に採卵の方が痛みを伴います。採卵は卵巣に針を刺す処置ですが、胚移植は既存の通路(頸管)を通るだけなので痛みははるかに少ないです。採卵を乗り越えた方なら胚移植の痛みは大丈夫です。
Q3: 1回目の移植で痛かった場合、2回目も痛いですか?
A3: 必ずしもそうではありません。1回目の経験を踏まえてカテーテルの種類を変更したり、鎮痛剤を使用したりすることで2回目は痛みなく行えることが多いです。また、1回目の緊張がなくなることで自然と痛みも軽減されます。
Q4: 移植後すぐに歩いても大丈夫ですか?
A4: はい、問題ありません。最新の研究では移植後の安静時間と妊娠率に相関はないことが分かっています。普通に歩いて帰宅し、日常生活を送って構いません。
Q5: 痛み止めを使うと着床に影響しませんか?
A5: 適切な鎮痛剤(アセトアミノフェンなど)の使用は、着床や妊娠率に影響しません。むしろ、痛みによるストレスを軽減することで、良い影響を与える可能性もあります。使用については主治医と相談してください。
まとめ|安心して胚移植に臨むために
胚移植は、多くの方が想像しているよりもずっと簡単で痛みの少ない処置です。最新の技術と経験豊富な医療チームのサポートにより安全かつ快適に受けることができます。
大切なのは、過度に恐れずリラックスして臨むことです。不安や疑問があれば遠慮なく医療スタッフに相談してください。私たち医療者は、あなたが安心して治療を受けられるよう全力でサポートします。
胚移植は新しい命との出会いへの大切な一歩です。痛みへの不安に囚われすぎず、希望を持って前向きに臨んでいただければと思います。あなたの願いが叶うよう心から応援しています。
もし、この記事を読んでも不安が残る場合はぜひ一度ご相談ください。