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卵子凍結の妊娠率は何%?胚培養士が凍結卵子を用いた場合の妊娠率を徹底解説。年齢別妊娠率と費用対効果。

  • 公開日:2025.12.11
  • 更新日:2025.12.11
卵子凍結の妊娠率は何%?胚培養士が凍結卵子を用いた場合の妊娠率を徹底解説。年齢別妊娠率と費用対効果。|不妊治療なら生殖医療クリニック錦糸町駅前院

「今は仕事に集中したいけど、将来子どもが欲しいと考えている」

「パートナーはまだいないけど、妊娠の可能性は残しておきたい」

そんな思いを抱えながら、時間だけが過ぎていく不安を感じている方もいらっしゃるかもしれません。これまで私は、胚培養士として不妊に悩む女性だけではなく、将来の妊娠に向けた悩みを抱える多くの女性も担当してきました。

今回の記事では、胚培養士としての専門知識とデータを基に、卵子凍結の妊娠率を多面的にお伝えします。ぜひ最後までお読みいただけると幸いです。

卵子凍結による妊娠率の実際

凍結卵子を用いた場合の妊娠率とは?

卵子凍結を検討する上で最も気になるのが実際「妊娠率」ではないかと思います。ここでは、年齢別の具体的なデータについて解説していきます。

凍結卵子を融解することによって高度生殖医療を行う場合の臨床妊娠率は、採卵時の年齢によって大きく異なります。

アメリカ生殖医学会のデータによると、卵子1個あたりの年齢別の妊娠率は、

30歳未満約10~12%
30歳~34歳約8~10%
35歳~39歳約3~5%
40歳以上約3%以下

と報告されています。

一見すると低い数値に思えるかもしれませんが、これはあくまでも「卵子1個あたり」の確率です。実際の卵子凍結では複数の卵子を凍結するため、10個あたり‥‥、20個あたり‥‥、と考慮すると最終的な妊娠率はこの数字よりも高くなります。

妊娠・出産まで辿り着けるかどうかは卵子の“質”が非常に重要であり、“質”は年齢による影響を極めて強く受けるため、少しでも若い時期に卵子凍結を行うことが、卵子の“質”を維持し妊娠の可能性を上げることにつながります。

妊娠・出産に必要となる凍結卵子の個数の目安とは?

卵子凍結

妊娠・出産のために必要となる凍結卵子の個数は、やはり年齢によって異なります。分かりやすい目安として、よく「採卵時の年齢の個数分凍結しておくのが望ましい」とお話しされる先生方も多くいらっしゃいます。

例えば、25歳であれば25個±5個以上、40歳であれば40個±5個以上は凍結保存しておく必要があります。

ただし、これはあくまでも一般的に理想とされる数であり、患者様の卵巣予備能(AMH値)によっては一度の採卵で獲得できる卵子の個数にも個人差があります。また、たとえ卵子が採れても、成熟卵でなければ卵子凍結や治療に用いることはできません。

結果的に目標となる個数の卵子が得られない、目標の個数に届くまで何度も繰り返し採卵が必要になる、というケースも少なくありません。

さらに、胚培養士という視点から特に強調しておきたいのは、卵子凍結は「数」ではなく「質」も極めて重要になるということです。卵子の“質”は年齢による要因のほか、喫煙・飲酒・服薬・食事・睡眠といった生活習慣による影響も受けるため、「どんなに多くの凍結卵子を持っていても“質”の低い卵子ばかり」という状態では妊娠を目指すことは難しくなってしまいます。

自然妊娠との比較

自然妊娠の確率は、年齢を重ねるとともに急激に低下します。理由は明白で、身体が歳を取るとともに卵子も同じく歳を取るためです。

臨床では、1周期(月経周期一回)あたりの自然妊娠率は、

30歳未満約30~40%
30歳~34歳約30%
35歳~39歳約15~20%
40歳以上約5%以下

と報告されており、このデータからも妊娠の可否は年齢に強い影響を受けることが分かります。

卵子凍結の最大のメリットは、「若い時の“質”の高い卵子を凍結できる」ことであり、例えば20代で卵子を凍結することができれば、40代を超えても凍結した時の年齢の卵子で妊娠を目指すことができます。

胚培養士が解説する|急速ガラス化法による凍結技術の進化

どのように卵子を凍結するのか?

私たち胚培養士が日々行う卵子・胚の凍結は、急速ガラス化法によって凍結保存が行われます。急速ガラス化法は、細胞を非結晶状態に凍結させて超低温下で保存する方法で、以下のような特徴があります。

凍結速度:60秒あたりおよそ-20,000℃以上という超急速な冷却速度により、水分が結晶化する時間を与えない。

凍結保護剤の添加:細胞を凍結ダメージから保護し水分が結晶になるのを抑制するほか、氷の結晶成長をコントロールする技術に応用され、より長期的な保存を可能にしている。

-196℃の液体窒素の中で保存:細胞の損傷を最小限に抑え、状態を劣化させずに凍結することが可能になります。保存環境の大きな変化が無い限り、半永久的に保存することができます。

凍結時に最も注意が必要となるのは『温度』と『時間』の管理です。操作に1分でもズレが生じると卵子や胚に負荷がかかってしまうため、細心の注意を払って操作を行います。

卵子凍結における凍結保護剤の役割

卵子や胚は、およそ9割が水分で占められています。そのため、そのままの状態で凍結しようとすると水分が結晶を形成し容積が膨張すると同時に、トゲトゲの針のような氷昌へと形を変え、細胞を破壊してしまいます。

そこで、水分を結晶化するのを防ぐために浸透圧の変化を利用して脱水を行い、凍結保護剤とともに急速にガラス化(凍結)を行います。凍結保護剤は、細胞を保護しながら卵子を氷晶形成から守る役割を果たしています。多くの施設で用いられている凍結剤として、スクロース、トレハロース、DMSO(ジメチルスルホキシド)、エチレングリコールなどがあります。

  • スクロース、トレハロース

浸透圧を高くすることで、卵子や胚の水分を脱水しやすくします。

  • DMSO

細胞膜を通過するため、卵子や胚の中に入り中の水分を外に出します。

  • エチレングリコール

細胞膜を透過する性質を持ち、受精卵の中の水分と入れ替わります。この現象を置換といいます。

卵子凍結における品質管理のポイント

卵子凍結における品質管理のポイントには大きく以下の2つが挙げられます。

衛生操作・無菌操作の徹底

一つ目は、衛生操作・無菌操作の徹底です。胚の凍結や卵子凍結を行う際には、衛生操作・無菌操作が高いレベルで必要になります。凍結保存をする際に、コンタミネーション(細菌などの混入・汚染)があると、細菌なども一緒に凍結保存してしまう可能性があるため、凍結卵子を良好な状態で保管し続けることが難しくなってしまいます。

そのため、基本的に胚培養のラボは、クリーンルームと呼ばれる高い清浄度が保たれた部屋に設計されており、すべての作業が衛生的な環境下で行われます。

チェック体制の強化

二つ目は、チェック体制の強化です。特に重要となるのは、ヒューマンエラーの防止で、培養室ではすべての作業をダブルチェックしながら行います。ただし、施設によっては、胚培養士が1人しかおらず『ワンオペ』状態の施設も存在するため、患者様ごとのバーコード認証システムやAIシステムを導入して、チェック体制を強化している施設もあります。

“質”の良い卵子を獲得するためには?

卵子の“質”とはなにを指すか?

そもそも卵子の“質”とは何かというと、簡潔に言えば『卵子の老化』を指し、卵子が妊娠・出産のポテンシャルをどれだけ持っているかどうか?を意味します。

卵子も精子も同じ生殖細胞であるものの、決定的に大きく異なる点があり、それは、精子(男性側)は死ぬまで半永久的に造られ続ける細胞であるのに対し、卵子(女性側)は新しく造られることは無く、産まれた時にその一生で使うことができる卵子の数が決まっている、ということです。

分かりやすく言うと、女性は産まれる前から卵子の素となる細胞を卵巣内に蓄えており、月経が来る度に卵子を小出しにしている、と説明されることが多いです。イメージとしては、産まれたばかりの卵巣はたくさんの実が付いたブドウのような状態で、月経はブドウの実を少しずつ取っている様子。そして、ブドウの実が無くなり茎だけの状態が閉経です。

卵子は新しく造られることは無く、その数は一方的にどんどん減っていきます。そして、産まれてからずっと身体の中に存在しているものですので、身体が年齢を重ねるとともに卵子も年齢を重ね、細胞は古くなっていきます。20歳であれば卵子も20歳。40歳であれば卵子も40歳です。また、ずっと身体の中に存在しているので、現在までに過ごしてきた生活習慣によるあらゆる影響を受けています。例えば、喫煙、飲酒、病歴、服薬、食事などによる影響です。

繰り返しになりますが、卵子は新しく造られる細胞ではないため、一度外から大きなダメージを受けてしまうと修復することは難しいと考えられています。これが卵子の“質”の本質です。

現状の医学では、年齢に逆らうことやいわゆる不老不死が不可能であるため、卵子の“質”を上げる・改善する、ということが難しいとされる根本的な理由でもあります。

卵子の老化とミトコンドリアの関係

卵子の老化と密接に関係しているのがミトコンドリアです。ミトコンドリアは、細胞のエネルギー産生と供給を担っており、卵子は多量のミトコンドリアを持っています。これは、精子との受精から受精卵の発育、子宮との着床、胎児の発育初期までにかかる多くのエネルギーを卵子のミトコンドリアが担っているためです。

しかし、卵子内のミトコンドリアは加齢に伴い顕著に低下していくほか、喫煙・飲酒、ストレス、食生活の乱れ(栄養バランスの偏り)、病気・疾病、服薬などによっても減少し、機能が低下していきます。

高齢になるほど妊娠率が低下するのは、加齢に伴い卵子の“質”が低下することで受精や胚発育に関わるミトコンドリアの機能も低下するためです。

少しでも早いうちに卵子凍結を検討する

“質”の良い卵子を獲得するために最もシンプルな方法は、少しでも若いうちに卵子凍結を行うことです。

先述の通り卵子の“質”は年齢に比例するため、若い卵子ほど“質”は高いです。また、卵子は一方的に減っていく細胞であるため、年齢が若いほど卵巣内に残っている卵子の数も多いです。

近年では、卵巣内の卵子の残存数の目安を知るためのAMH(抗ミュラー管ホルモン)検査も頻繁に行われるようになってきましたが、AMHの値が実年齢よりも低い数値の方や、高齢になってから採卵を行った場合では、目標となる凍結卵子個数に到達するまでに何度も繰り返し採卵を行うケースもよく見られます。

当然ながら、採卵の回数が増えるほどお身体にも負担はかかりますし、費用の面でも高額になっていきます。

つまり、卵子凍結は若いうちに行うほど“質”の良い卵子が採れるだけでなく、総合的な視点から見ても、費用対効果が著しく高くなるというわけです。

卵子の“質”を下げないための習慣に意識する

「卵子の“質”を高めることは医学的に難しい」ということは重々ご理解いただけたかと思いますので、“質”を高める・改善する、というよりも『卵子の“質”を下げないための取り組み』を意識して積極的に行う必要があります。

抗酸化作用を持つ食品の摂取

ビタミンC、ビタミンE、ポリフェノール、コエンザイムQ10など抗酸化作用・アンチエイジング作用のある食品を意識的に摂取しましょう。

  • ビタミンC:キウイ、ブロッコリー、パプリカ、いちご
  • ビタミンE:アーモンド、アボカド、ほうれん草
  • ポリフェノール:ブルーベリー、緑茶、カカオ、ワイン
  • コエンザイムQ10:サバ・イワシなどの青魚、ピスタチオなどのナッツ類  など

エネルギー産生を助けるビタミンB群の摂取

ミトコンドリアのエネルギー産生を助ける栄養素として、ビタミンB群が必要になります。

  • ビタミンB1:豚肉、玄米、大豆
  • ビタミンB2:レバー、卵、納豆
  • ビタミンB6:マグロ、バナナ、さつまいも  など

健康を阻害する食品は避ける

食品の中には心臓病、糖尿病といった生活習慣病の原因となる食品も多くあり、これらは意識的に避ける・摂取する頻度を減らす必要があります。

  • 添加物が多く入っている加工食品
  • 精製された砂糖(特にジュース、エナジードリンクなどは注意が必要)
  • トランス脂肪酸(細胞膜の質を低下させることが指摘されている)  など

不足しがちな栄養素はサプリメントを活用する

食事だけで必要な栄養素をすべて摂取するのは難しいため、不足しがちな栄養素や普段の食事だけでは摂取しづらい栄養素は、サプリメントを活用して摂取するようにしましょう。

  • コエンザイムQ10:サプリメントの場合、還元型と記載されているコエンザイムQ10の方が、体内での利用効率が高いとされています。
  • ビタミンD:ビタミンDは、カルシウム代謝や細胞の増殖・分化に関わる重要な栄養素で、本来は日光(紫外線)を浴びることによって皮膚で生成される栄養素なのですが、日焼け止めや化粧などによって生成が阻害されてしまい、多くの女性が不足しがちな栄養素です。
  • 葉酸:着床や胎児の初期発生に非常に重要な役割を果たす栄養素です。厚生労働省の指針では、妊活中や妊娠前では640μg/日の摂取が推奨されています。
  • 鉄分:鉄は、月経がある女性では出血によって失われやすい栄養素であるため、普段から補充しておくことが必要です。
  • オメガ3脂肪酸(DHA・EPA):オメガ3脂肪酸は生殖細胞の活性に働くほか、妊娠初期の胎児の発育にも重要な役割を担います。血流を改善して、炎症性の疾患を抑制する働きも期待されています。

運動・睡眠・ストレス管理

運動習慣を身につけることは、身体全体の血流を改善し、エネルギー産生や細胞の活性化に働く効果があります。また、睡眠やストレス管理もホルモンの分泌を調整し、卵子形成の促進や月経周期を整えます。

  • 有酸素運動:週3~4回、15~30分程度のウォーキングなど
  • 筋力トレーニング:軽い負荷で全身運動のもの(激しすぎる運動は活性酸素を増やすため逆効果)
  • 質の良い睡眠:一日7時間程度の十分な睡眠をとる(就寝前はスマホやPCを控える、寝室は暗く涼しく保つ)
  • ストレス管理:深呼吸や瞑想、アロマテラピー、趣味の時間を持つようにするなど(慢性的なストレスは活性酸素を増やし、卵子の質やミトコンドリアの機能を低下させます)

2025年最新|東京都の助成金制度を最大限活用する方法

申請条件と手続きの流れ

東京都は「卵子凍結に係る費用の助成」として、将来の妊娠に備える選択肢の一つとして、「卵子凍結に係る費用」及び「凍結卵子を使用した生殖補助医療」を補助する助成を行っています。

【助成金額

  • 卵子凍結を実施した年度:上限20万円

次年度以降、保管更新時の調査に回答した際:1年ごと一律2万円(最大5年間)

合計最大30万円

【対象者の条件】

東京都に住む18歳から39歳までの女性(採卵を実施した日における年齢)で、以下のすべてを満たす方:

  • 都が開催する説明会への参加
  • 継続的な都内在住
  • 登録医療機関での治療
  • 調査への協力
  • 凍結卵子の第三者提供・海外移送をしないこと

助成金を受け取るための注意点

助成金を確実に受け取るために、以下の点に注意しましょう。

説明会への参加は必須

事前に都が開催する説明会に参加し、都内にある登録医療機関にて受診する必要があります。説明会の予約は早めに行いましょう。

スケジュールに気を付ける

39歳の誕生日までに採卵を実施する必要があります。準備期間を考慮し、38歳になったら検討を始めることをおすすめします。

継続的な調査協力

卵子凍結後も都の実施する調査に対し、継続的に(最大5年間)回答することが条件です。引っ越しなどで連絡先が変わった場合は、忘れずに更新手続きをするようにしましょう。

他の助成制度との併用不可

すでに不妊症の診断を受けており、不妊治療を目的とした採卵・卵子凍結を行う方は対象外となります。

医療機関の選び方のポイント

卵子凍結を検討するにあたって、医療機関を選ぶ際のポイントには以下の事項が挙げられます。

技術レベル

近年では、卵子凍結だけに特化したクリニックもいくつかありますが、将来的に凍結卵子を使用して高度生殖医療を行うことまでを考慮し、クリニックの治療成績(妊娠率や出産率)も確認するとよいでしょう。

費用の透明性

卵子凍結は採卵までにかかる費用だけでなく、凍結期間の更新にも毎年費用がかかります。採卵のコストが安いと謳っているクリニックでも、凍結期間の更新費用は高く設定されていることがあり、3年後、5年後にはトータルの費用が逆転することもあります。

アクセス

採卵周期には頻繁にクリニックへの通院が必要になるため、通院のしやすさも重視するべきポイントです。

サポート体制

医師の診察だけでなく、看護師や胚培養士による説明やカウンセリングを受けられる体制が整っているか。凍結期間の更新や廃棄を検討する際に相談に乗ってもらえる体制があるのかも調べておきましょう。

保管体制

個々のクリニックで、停電対策、セキュリティ、長期保管の実績があるかどうかも重要なポイントです。

当院では採卵個数によって価格を変動させることで、1周期あたりの卵子数が少ない方でも、目標の個数になるまで複数回採卵を行ってもらえるように配慮しています。

採卵によって採れると予測される個数は、患者様の年齢やお身体の状態によって大きく変わります。こうした患者様の個々のバックグラウンドに合わせた料金体系を持っている施設かどうかも、選ぶべきポイントです。

卵子凍結をより価値のあるものにするために

卵子凍結をより価値の高いものにするためには、ご自身の年齢に合わせてライフプランニングをしっかりと行うことが何よりも重要になります。

~29歳の女性

20代は、卵子の“質”がある程度高いことが担保されており、採卵数も期待できる理想的な時期です。しかし、実際のところ「まだ早いかも‥‥」と考える女性も多いようです。

メリットとしては、少ない採卵回数で必要数を確保することが期待でき、卵子の“質”も担保されるため、将来の選択肢を最大限に広げられる可能性があります。

30~34歳の女性

実際の臨床において、卵子凍結を検討し始める女性が最も多いのはこの年齢です。日本産科婦人科学会が示しているデータでは、女性の妊娠率は35歳から緩やかに低下し始め、40歳を超えると急激に低下します。そのため、可能な限り早めに行動を起こすことが大事であり、決して大袈裟では無く、この段階で卵子凍結を行うことができるかが将来の可能性を大きく左右します。「もう少し考えてから‥‥」と先延ばしにすると、年齢の壁はすぐに超えてしまいます。

35~39歳の女性

35歳以上での卵子凍結は、より戦略的なアプローチが必要であり、卵子凍結を行っても妊娠・出産にいたらないリスクを十分に理解した上で実施を検討する必要があります。卵子1個あたりの妊娠率はかなり低いため、複数(最低でも、採卵時の年齢に相当する数以上)の卵子を凍結保存しなければなりません。目標の数に届くまでに、何度も繰り返し採卵を実施される患者様もいらっしゃり、私自身が過去に受け持った患者様では10回以上採卵をされた方もいます。

卵子凍結に向けての準備

まずは、いま卵巣にどのくらいの卵子が残っているのかを知るために、AMH検査を受けることで卵巣予備能を確認しましょう。ご自身の年齢と年齢別の平均値がおおよそ合致するようであれば、なるべく少ない採卵回数で目標の個数まで辿り着けるように、卵巣の状態に合わせて卵巣刺激を選択していきます。

費用は100~200万円程度を想定しておくとよいでしょう。東京都にお住まいの方では、助成金を活用することで実質負担額を軽減することもできますので、助成金制度について事前にしっかりと調べておきましょう。卵子の“質”を向上させることは難しいため、“質”を下げないために、食事・運動・ストレス管理など、生活習慣の改善に積極的に取り組んでいきましょう。

AMHの値が低い方や高齢の方では、どうしても採卵1回あたりに得られる卵子の数が少なくなってしまいます。「いまできる限りのベストを尽くす!」という気持ちで少しずつでも凍結卵子の個数を増やしていくことが大事です。

よくある質問と胚培養士からの回答

Q1: 凍結した卵子は何年間保存できますか?

A1: 技術的には半永久的に保存可能ですが、日本では原則として『生殖可能年齢まで』と学会の指針により定められています。そのため「満45歳まで」あるいは「満50歳まで」とする施設が多いです。

Q2: 凍結する期間が長いと凍結している卵子の細胞の品質は下がりますか?

A2: -196℃の環境が維持され、大きな災害や事故などが無い限り、凍結期間の長さは卵子の細胞の品質には影響しません。基本的には、凍結した時の卵子の状態がそのまま維持されます。30歳で凍結した卵子は、10年後に使用しても30歳の品質のままです。

Q3: 採卵は痛いですか?麻酔は使えますか?

A3: 膣から超音波プローブを挿入し、超音波画像をみながら卵巣の中の卵胞に採卵針を刺して、卵胞液とともに卵子を吸引・採卵します。実際に使う針は、健康診断などで行う採血の針よりも一回り穴径の太い針を使います。卵胞が複数発育している場合は、静脈麻酔や局所麻酔を使用することがありますが、卵胞数が少ない場合は無麻酔で行うこともあります。

Q4: 採卵で想定されるリスクにはどんなものがありますか?

A4: 特に注意が必要なのは「卵巣過剰刺激症候群(OHSS)」と呼ばれる症状で、排卵誘発剤の影響で卵巣が過剰に刺激され、腫れや腹部の張り、さらには腹水や胸水が溜まる状態になることがあります。

Q5: リスクが低い採卵方法はありますか?

A5: 卵巣刺激方法を、低刺激周期や自然周期で行うとOHSSなどのリスクは顕著に低下します。一方で、獲得できる卵子の個数が少なくなるため、バランスよく中間の方法を選択するとよいでしょう。

Q6: 採卵時の合併症などになりやすい人はいますか?どんな特徴がありますか?

A6: 年齢が若く卵胞がたくさん育つ方、痩せ型の方、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の既往のある方、卵巣の反応性が高い方(お薬が効きやすい)、などはリスクが高くなる傾向があります。不安のある方は、事前に医師としっかりと相談することが大事です。

Q7: パートナーが見つかる前に卵子凍結しても意味無いですか? 

A7: これは多くの方が悩むポイントで、実際、過去にスペインで行われたヨーロッパ生殖内分泌学会でも取り上げられていたトピックでもあります。統計的なところで言うと、結婚情報誌ゼクシィが行った調査によれば結婚までの平均的な交際期間は約3年、結婚から妊娠までは約1年4~6カ月、と報告しています。

例えば、32歳の方がパートナーと出会い3年後に結婚をすると35歳です。その1年半後に妊娠を考える頃には36~37歳となるため、一般的な妊娠率でいうと不妊治療・高度生殖医療までを考慮して妊活を進めなければならない年齢になります。一方で、32歳の段階で卵子を凍結保存できれば、10年後に42歳になって「いざ凍結卵子を使う!」となっても、卵子の“質”は32歳のポテンシャルを持っているため、42歳で治療するよりも高い妊娠率が期待できます。

Q8: パートナーがいても卵子凍結をした方が良いですか?

A8: 現在パートナーがいて将来も見据えているということであれば、卵子凍結を選択するよりも受精卵(胚盤胞)の状態で凍結保存をしておく方が、遥かに高い妊娠率が期待できます。

卵子凍結の場合、
①融解して卵子が生存しているか
②精子と受精できるか
③受精した胚の細胞の分割が進むか
④胚盤胞まで到達するか
⑤子宮内への胚移植が可能な状態か
⑥移植した胚が子宮内膜に着床するか
など妊娠成立のためにいくつものハードルを乗り越えなければなりません。胚盤胞で凍結する場合、上記の①~⑤はすでにクリアした状態で胚を凍結保存することができるため、卵子凍結と比較すると妊娠率は遥かに高くなります。

まとめ:最善の選択ができるように

今回は、胚培養士の視点から卵子凍結の年齢別の妊娠率や費用対効果などについて詳しく解説をしてきました。重要なポイントは、卵子凍結はとにかく年齢が最も大きく影響すること、そして1年でも早く行うほどより有効になるということです。

解説してきた通り、卵子凍結は将来の可能性を広げる貴重な技術ではあるものの、妊娠・出産を100%保証するものではありません。あくまで妊娠・出産の可能性を高める「選択肢」のひとつであるということを認識しておく必要があります。ただし決して意味が無いわけではなく、むしろその「選択肢」を持つことこそが、仕事に打ち込む時間、自分を磨く時間、理想のパートナーを見つける時間などを確保し、人生における様々な可能性を広げる鍵となるのです。

インターネット上には「卵子の質を上げる●●」といったワードも散見されますが、どんなにあがいても歳はとり続けていきますし、身体(卵子)の老化を止めることは不可能であり、医学的にも卵子の“質”を上げることは難しいと考えられています。自分自身が望む未来を選択するためにも、卵子の“質”が高いことが担保されている若いうちに卵子凍結を行っておくということは、その選択を支える強力なツールとなるのではないでしょうか。

まずは「AMH検査を受けてみる」「健康診断で聞いてみる」「クリニックで相談してみる」など、いまできる小さな一歩が、未来を大きく変える第一歩になるかもしれません。もしも卵子凍結を迷っているという場合には、ぜひ、当院の医師・看護師・胚培養士などにお気軽にご相談ください。

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