性感染症とは?症状がなくても要注意
性感染症(STD/STI)は性行為によって感染する病気の総称であり、膣性交だけでなくオーラルセックスやアナルセックスなど粘膜や体液が接触することで感染します。女性の場合には自覚症状が出にくいという特徴があるため、知らないうちに感染が進行してしまうケースが少なくありません。
厚生労働省の報告によると性感染症の中で最も多いのは性器クラミジア感染症であり、20代女性を中心に感染者が増加しています。また近年は梅毒の報告数が急増していることから、2022年には女性の報告数が4,519件と過去最多を記録しました。
性感染症は誰でも感染する可能性がある一般的な病気ですが、早期発見・早期治療により完治する病気がほとんどである一方で放置すると不妊症や母子感染、慢性化など深刻な健康被害につながる恐れがあります。定期的な検査と適切な予防によって大切な身体を守ることができます。
特に気をつけたい主要な性感染症
クラミジア感染症
クラミジア感染症は日本で最も感染者数が多い性感染症であり、女性の場合には約80%が無症状といわれているため、感染に気づかないまま放置されることが多いのが特徴です。症状がある場合はおりものの増加や下腹部痛、不正出血や性交時の痛みなどが挙げられます。
感染が子宮頸管から卵管へと進行すると卵管炎や骨盤内炎症性疾患(PID)を引き起こして将来的に不妊症や子宮外妊娠の原因となる可能性があります。また妊婦が感染している場合には早産や流産のリスクが高まるほか、出産時に新生児への感染(結膜炎や肺炎)を起こすこともあります。
検査は膣分泌物を採取して行いますが痛みもほとんどありません。治療は抗生物質を1回服用するだけで完了することが多く、2週間後の再検査で治癒を確認しますが、パートナーも同時に検査・治療を受けることが重要です。
淋菌感染症
淋菌感染症(淋病)は1回の性行為での感染率が約30〜50%と高い性感染症であり、男性は強い排尿痛などの症状が現れやすいのに対して女性は症状が出にくいために感染に気づきにくいという特徴があります。
女性の症状としては黄褐色で悪臭のあるおりものの増加や下腹部痛、発熱などが挙げられるものの無症状のことも多くあります。しかし放置すると子宮内膜炎から卵管炎、さらには腹膜炎や肝周囲炎(Fitz-Hugh-Curtis症候群)といった重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
検査はPCR法により高精度で診断できることからクラミジアと同時に検査することが一般的です。治療は抗菌薬の点滴を1回行うことで完了するものの、薬剤耐性菌の増加が問題となっているため必ず2週間後の再検査で治癒確認を行います。またクラミジアとの重複感染も多いことから両方の治療を同時に行うことがあります。
梅毒
梅毒は梅毒トレポネーマという細菌による感染症であり、近年急激に感染者数が増加しています。2022年の女性の報告数は10年前と比較して約12倍に増加しており、特に20代女性での感染が目立ちます。
感染後3週間〜6週間で性器に痛みのない硬いしこりができ(第1期)、その後全身に赤い発疹が現れます(第2期)。これらの症状は自然に消失することがあるものの、治ったわけではありません。女性は初期症状に気づきにくいために進行してしまうケースが多いのが特徴です。
妊婦が感染すると胎盤を通じて胎児に感染して(先天梅毒)、流産や死産、新生児の重篤な障害の原因となります。血液検査で診断を行ってペニシリン系抗生物質で治療しますが、最近では1回の注射で治療できる新薬も登場しています。早期であれば2〜4週間で完治する一方で、進行すると治療期間が長くなることから早期発見が重要です。
トリコモナス症
トリコモナス症はトリコモナス原虫による感染症です。性行為による感染が主であるものの、下着やタオル、便器や浴槽などを介して感染することもあるため性交経験がない方でも感染する可能性があります。
特徴的な症状として泡状で悪臭の強い黄緑色のおりものや外陰部や膣の強いかゆみ、ヒリヒリ感や排尿時の痛みなどが挙げられますが、20〜50%は初期には無症状であり時間の経過とともに症状が強くなることがあります。放置すると炎症が慢性化して不妊症の原因となる可能性もあります。
診断はおりものの顕微鏡検査によって原虫を直接確認します。治療は抗原虫薬の内服を10日間行うほか膣錠を併用することもありますが、月経後は原虫が増殖しやすいことから治療後は月経後に再検査を行うことが重要であり、パートナーも同時に治療を受ける必要があります。
B型肝炎
B型肝炎(Hepatitis B)は、B型肝炎ウイルス(HBV)が肝臓に感染して炎症を起こす病気です。世界で約3億5000万人、日本では約130~150万人の感染者がいると推定されています。感染すると急性肝炎と慢性肝炎に分類され、急性の場合は全身倦怠感、食欲不振、黄疸(体が黄色くなる)、発熱などの症状が現れます。しかし、多くの場合は無症状で経過して感染に気づかないまま「無症候性キャリア」として保有している方も少なくありません。成人後の感染では約70~80%が自然治癒しますが、約1%が劇症化してそのうち約6割が死亡するという深刻なリスクもあります。慢性化すると肝硬変や肝臓がんへ進行する可能性があるため、早期発見と適切な管理が重要です。
C型肝炎
C型肝炎はC型肝炎ウイルス(Hepatitis C Virus: HCV)の感染によって引き起こされる肝臓の病気です。このウイルスは主に血液を介して感染し肝臓の細胞に炎症を起こします。感染者の約15~45%は自然にウイルスが排除されますが、残りの60~80%は慢性肝炎へと移行します。慢性化した場合は20~30年という長い年月をかけて徐々に肝臓が線維化し肝硬変へと進行する可能性があります。さらに肝硬変患者の年間約7%が肝がんを発症するとされています。日本では慢性肝炎の約70%がC型肝炎によるもので年間約2万5千人が肝がんで亡くなっている深刻な病気です。しかし、早期発見により適切な治療を受ければ現在では95%以上の確率でウイルスを排除できるようになっています。
HIV感染症(AIDS)
HIV(ヒト免疫不全ウイルス)とAIDSは混同されやすいものの、実は異なるものです。HIVは人の免疫細胞に感染するウイルスの名称であり、Tリンパ球やマクロファージなどの免疫細胞を攻撃します。一方、AIDS(後天性免疫不全症候群)はHIV感染により免疫力が低下した結果、日和見感染症など23種類の特定疾患を発症した状態を指します。
つまりHIVに感染したからといってすぐにAIDSを発症するわけではありません。感染初期には風邪のような症状が出ることもあるものの、その後5~10年の無症候期を経たのち、治療を受けなかった場合にAIDSを発症します。現在では抗HIV療法の進歩により適切な治療を受ければAIDSの発症を防ぐことができ、健康な人とほぼ変わらない生活を送ることが可能になっています。
こんな症状があったら性感染症かも?
おりものの異常
正常なおりものは透明〜白色で、無臭またはわずかに酸っぱい匂いがする程度です。性感染症に感染すると、おりものの量、色、匂い、性状に変化が現れることがあります。
黄緑色で泡状、強い悪臭がある場合はトリコモナス症、黄褐色で膿のような場合は淋菌感染症、水っぽく量が増える場合はクラミジア感染症の可能性があります。ただし、白いヨーグルト状のおりものはカンジダ症で、これは性感染症ではなく常在菌の異常増殖によるものです。
おりものの変化は体調や月経周期によっても起こりますが、いつもと明らかに違う状態が続く場合は、早めに婦人科を受診することをおすすめします。性感染症の多くは早期治療で完治するため、恥ずかしがらずにまずはご相談ください。
デリケートゾーンの違和感
デリケートゾーンのかゆみ、痛み、腫れ、できものなどの違和感は、性感染症の重要なサインです。性器ヘルペスでは水疱や潰瘍による激しい痛み、トリコモナス症では強いかゆみ、尖圭コンジローマではイボ状のできものが特徴的です。
また、排尿時の痛みや違和感、性交時の痛み、下腹部の鈍痛なども性感染症の症状として現れることがあります。これらの症状は、感染が進行して子宮頸管炎や骨盤内炎症を起こしている可能性を示唆しています。
梅毒の初期症状として現れる硬いしこりは痛みがないため見逃されやすく、リンパ節の腫れも風邪と間違えられることがあります。少しでも違和感を感じたら、症状が軽いうちに検査を受けることが、早期発見・早期治療につながります。
無症状でも感染している可能性
性感染症の最も怖い点は、多くが無症状または軽微な症状のため、感染に気づかないことです。特に女性は男性と比較して症状が出にくく、クラミジア感染症では約80%、淋菌感染症でも半数以上が無症状といわれています。
無症状でも感染は確実に進行し、子宮から卵管、さらには腹腔内へと炎症が広がります。その結果、不妊症や子宮外妊娠、慢性的な下腹部痛などの深刻な後遺症を残す可能性があります。また、気づかないうちにパートナーへ感染を広げてしまうリスクもあります。
パートナーが性感染症と診断された場合、自分に症状がなくても必ず検査を受けてください。また、新しいパートナーができた時、複数のパートナーがいる場合、避妊をしていない性行為があった場合などは、定期的な検査を受けることをおすすめします。
性感染症の検査について
検査の種類と方法
性感染症の検査は疾患により異なるものの、主に膣分泌物検査や血液検査、尿検査や咽頭検査などがあります。膣分泌物検査では膣内を綿棒でぬぐって採取してクラミジアや淋菌、トリコモナスなどを調べますが、痛みはほとんどなく1〜2分で終了します。
血液検査では梅毒やHIV、B型・C型肝炎などを調べます。梅毒やHIVは感染から検査で陽性になるまでの期間(ウィンドウ期)があるため心配な性行為から3ヶ月後の検査が推奨されますが、最近では2週間で診断できる検査法もあります。
咽頭検査はオーラルセックスによる咽頭感染を調べるものであり、うがい液を採取して検査します。性器クラミジア感染者の10〜20%、淋菌感染者の10〜30%は咽頭にも感染しているとされていることから、のどの違和感がある場合は検査をおすすめします。
検査を受けるタイミング
検査を受ける最適なタイミングは感染症の種類により異なり、クラミジアや淋菌は感染機会から24時間以降、トリコモナスは2〜3日後から検査可能です。一方で梅毒は4週間後、HIVは3ヶ月後が確実な結果を得られる時期となります。
定期検査のタイミングとしては新しいパートナーができた時やパートナーが変わった時、年に1回の健康診断時などがおすすめです。また妊娠を希望する場合には妊娠前に必ず検査を受け、感染があれば治療を完了させることが重要です。
症状がある場合はすぐに受診してください。ただし月経中は正確な検査ができないことがあるため、月経終了後3日以降の受診が望ましいです。パートナーが性感染症と診断された場合については、症状の有無に関わらず速やかに検査を受けてください。
費用と保険適用
性感染症検査の費用は症状の有無により保険適用の可否が異なります。おりものの異常やかゆみ、痛みなどの自覚症状がある場合は保険診療となって3割負担で検査を受けられますが、初診料を含めて2,000〜3,000円程度が目安です。
無症状での検査や心配だからという理由での検査は自費診療となります。検査項目により異なるものの1項目あたり3,000〜5,000円、複数項目のセット検査で10,000〜20,000円程度が一般的です。保健所では無料・匿名でHIVや梅毒の検査を受けられる場合があります。
妊婦健診ではクラミジアやB型肝炎、梅毒やHIVなどの検査が含まれており母子手帳の補助券で受けられます。性感染症は早期発見・早期治療が重要なため、気になる方は是非当院へご相談ください。