• TOP
  • ブログ
  • アシストハッチング後も孵化しない?原因と対策を胚培養士が徹底解説。

アシストハッチング後も孵化しない?原因と対策を胚培養士が徹底解説。

  • 公開日:2025.11.28
  • 更新日:2025.11.28
アシストハッチング後も孵化しない?原因と対策を胚培養士が徹底解説。|不妊治療なら生殖医療クリニック錦糸町駅前院

「今度こそ着床してほしい!」

アシステッドハッチングや高濃度ヒアルロン酸添加培地(胚移植専用培地)など、あらゆるオプションを付けて移植をしたのに妊娠判定で思うような結果が得られないと、大きな期待からの大きな落胆で心が押しつぶされそうになっている方も多いのではないかと思います。確かに、アシステッドハッチングも胚移植専用培地も、着床率を高める手法ではあるのですが、正しく実施されないとその効果を最大限に発揮することはできません。

特に、私のクリニックに転院されてきた患者様から多く聞かれるのが、アシステッドハッチングについて、

“「前に通っていたクリニックの先生に、着床しなかったのは、アシステッドハッチングをしたけど胚が殻からうまく孵化しなかったのかもしれないと言われた」”

というものです。

当院が行っているアシステッドハッチングは、『透明帯完全除去法』を採用しているため、少なくとも胚が孵化しないことで着床しないということは有り得ませんし、そもそも一般的に行われているアシステッドハッチングも、正しく実施されれば胚が殻からうまく孵化しないという可能性を大幅に減らすことが出来る技術です。

今回のコラムでは、アシステッドハッチングの手技・方法から、なぜ孵化しないことがあるのか、培養室での実際の経験や研究報告なども交えながら詳しく解説していきます。今回のコラムが次の治療に向けた一助になれば幸いです。

アシステッドハッチングとは?

孵化(ハッチング)の仕組み

卵子・受精卵(胚)は「透明帯」と呼ばれる卵の殻に包まれています。この透明帯は、卵子の細胞を保護する大切な役割を持っていますが、胚が子宮内膜に着床するためには、胚の細胞がこの透明帯を破り、殻の外に出てくる必要があります。この、透明帯から出てくる過程を孵化(ハッチング)と呼びます。

通常、胚盤胞まで成長した胚は、透明帯の内側から細胞を大きく拡張させながら、押し拡がっていく力で圧をかけて最終的に透明帯を破り外に出てきます。しかし、年齢的な要因や治療の過程における様々な理由でこの孵化がうまくいかないことがあります。そこで行われるのがアシステッドハッチングで、アシステッドハッチングは透明帯に人工的に穴を開けることで孵化を助ける方法です。

アシステッドハッチングの方法

一般的に、多くのクリニックで以下の方法が用いられています。

レーザーを用いる方法レーザー照射によって透明帯に穴を開けたり、部分的に薄くしたりします。
カッティングピペットを用いる方法PZDと呼ばれる透明帯をカットするピペットを使用して物理的に透明帯を切開します
酸性の溶剤を用いる方法酸性の溶液で透明帯を部分的に溶かします。
ピエゾを用いる方法Piezo-ICSIなどで使われる方法と同様、微細な振動で透明帯に穴を開けます。

透明帯から孵化しない原因とは?

技術的な問題による理由

通常、アシステッドハッチングは、レーザーを用いる方法であれば透明帯の1/3~1/4を切開する方法、PZDを用いる方法であれば1/4程度を十字に切開する方法が一般的です。レーザーの場合もPZDの場合も、胚の細胞と透明帯の隙間に切開していきますが、細胞に近すぎると細胞を傷付けてしまう可能性があります。一方で、細胞を傷付けないことばかりに注視してしまうと、正確に切開が実施されず、そもそも透明帯が開孔しなかったり、孵化のための穴の大きさが不十分だったりすることもあります。

胚の拡張する力による理由

胚が孵化するためには、胚が拡張することが必須ですが、胚が拡張するためには相当なエネルギーが必要です。加齢や酸化ストレスによって卵子・精子や胚の成長する機能が低下すると、孵化に必要なエネルギーが不足することがあります。

また、年齢とともに、卵子・胚の染色体異常が増加することも指摘されています。染色体の異常の有無は見た目では判断することができず、残念ながら、どんなにグレードが良好な胚盤胞であっても、染色体に異常を持つ胚は一定数含まれます。染色体異常がある胚は、正常な発育プログラムを実行できず、胚が正常に拡張せず、孵化にいたらずに途中で発育が停止してしまうこともあります。

培養環境による理由

新鮮胚移植の場合では同じ周期に採卵し培養した胚を移植し、凍結胚移植の場合では凍結胚を融解して回復培養を行ってから移植を行っていきます。体外で行う胚の培養は、どんなに工夫をこらしても子宮内の環境を完全に再現することはできません。培養液中の浸透圧やpH、栄養成分のバランスが、胚の孵化の能力に影響を与える可能性は否定できません。

アシステッドハッチングを行っても孵化しない胚がある

実際に過去に私自身が行った研究では、アシステッドハッチングを行っても孵化しない胚が一定数あるということを確認しています。

この研究は、生殖医療の国際学会でも発表させていただいた内容になるのですが、下記の方法によって、アシステッドハッチングを実施した胚を観察し、孵化の有無を確認しました。

レーザーを用いて透明帯を1/4程度切開する

切開した胚を培養液に戻し翌日まで培養を続ける

翌日、孵化しているか観察する

(※すべて研究利用可能な胚を使用しています)

この結果、おおよそ80%程度の胚は透明帯から完全に孵化しているか、細胞の5割以上が透明帯から孵化している(孵化中の)状態でした。しかしながら、残りの20%程度の胚は、細胞が収縮したままの状態で完全に透明帯の中に納まっているか、孵化が起こっていても透明帯から孵化している細胞の割合が5割未満の胚でした。

お腹の中の環境と培養液中の環境は異なりますが、この研究により、一般的に行われている方法では、胚は完全に孵化することができない可能性があることが示唆されました。

アシステッドハッチングの『透明帯完全除去法』とは?

これらの研究結果から、当院では透明帯を完全除去する『透明帯完全除去法』を採用しています。

先述した通り、一般的なアシステッドハッチングでは透明帯の1/3~1/4を切開しますが、当院で実施している透明帯完全除去法では、透明帯をさらに大きく1/2以上切開します。

切開後に、マイクロピペットと呼ばれる細いガラス管を用いて、ピペッティング(胚を吸い吐きする)という操作によって、切開した開孔部から中の胚盤胞の細胞を取り出します。そして、透明帯から完全に取り除かれ、細胞が剥き出しになった状態で胚移植を行います。

一般的な方法では、透明帯の一部だけを開孔し、細胞が完全には孵化していない状態で胚移植を行うため、着床するためには、子宮内に移植した後にお腹の中で『胚が孵化する』という過程を経る必要があります。

しかしながら、透明帯完全除去法ではこのステップをすでにクリアしているため、より子宮内膜に着床しやすい状態を作り出すことが出来ます。

当然ながら、一般的に行われている方法と比較すると手技の難易度は大幅に難しくなり、どこの施設でもこの方法を行うことが出来るというわけではありません。また、レーザーを有していない施設では、完全除去法はより難しくなります(※PZDでも出来ないというわけではありませんが、実際にやってみるとかなり難しいです)。

当院では、所属している胚培養士の全員が、安全に透明帯から細胞を完全に取り出すことが出来る技術を有しており、アシステッドハッチングによって胚がダメージを受けて移植が出来なくなるという症例は過去に一例もありません。

次の移植に向けて考慮すべきポイント

アシステッドハッチングの方法を変える

やはり従来の方法ですと、孵化のための開孔が不十分である可能性や、完全に孵化しない可能性があるため、透明帯完全除去法を実施するなどアシステッドハッチングの方法を変えてみるというのも一つの選択になると思います。また、胚は子宮内膜に着床する際、必ずICM側から着床するということが知られているため、開孔の位置を変えたり、開孔の大きさ・広さを変えてみたりするのも成績を改善できる可能性があります。このような要望がある場合には、胚移植を行う前に医師や胚培養士に相談するようにしましょう。

選択する胚の見直し

一般的に、移植する胚の順位は胚のグレードや成長スピードなどから決められていきますが、胚の大きさや媒精方法など、より詳細な情報を取り入れて選択していくことで、着床率を改善できる可能性があります。特に、最新のタイムラプスインキュベーターを用いた培養では、胚の発育を連続的に観察でき、発育速度や分割パターンから、形態的なグレードとは異なる成長過程から算出されるスコアを付けることが出来ます。近年では、形態的なグレードよりも、このようなスコアの方が着床の可能性をより詳細に解析することが出来ると考えられています。

SEET法(子宮内膜刺激胚移植法) 

胚培養液を行った際に残った培養液を凍結保存しておき、移植を行う前に子宮内に注入する方法です。胚を培養した培養液中には、胚から放出された成長因子が含まれており、この成長因子が子宮内膜を着床に向けた良好な状態に整えていくと考えられています。また最近では、この成長因子の類似物質を含んだ培養液(GM-CSF)を注入する方法もあります。

PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)の検討

さまざまなオプションを利用し、良好な状態の胚を複数回移植しているにも関わらず着床・妊娠が得られない場合、あるいは流産となってしまう場合には、PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)の適応となります。PGT-Aは誰でも受けることが出来る検査では無いため、希望がある場合には必ず医師に相談するようにしましょう。

移植に向けた身体づくり:胚培養士からのアドバイス

胚盤胞が良好な状態に成長し、どんなに完璧にアシステッドハッチングが実施できたとしても、やはり着床に至らない症例も多くあります。

これにはさまざまな原因がありますが、やはり着床・妊娠が成立するためには胚の状態だけが良くても意味が無く、胚を受け入れる子宮側の状態も整えていく必要があります。

生活習慣の見直しは非常に重要で、

禁煙・禁酒(副流煙も考慮しパートナーも一緒に取り組む必要があります)

バランスの良い食事(栄養に偏りのない食生活を心がけましょう)

適度な運動(一日30分程度の運動習慣をつけるようにしましょう)

十分な睡眠(7~8時間程度の睡眠が理想です)

ストレスの軽減(趣味の時間を作る、相談できる場所を見つける)

など、健康的な身体づくりが良好な子宮環境をつくることにも繋がります。

また、サプリメントなどを摂取することも効果的です。即効性があるものでは無く、成績を大幅に改善させるというものでもありませんが、葉酸や鉄、ビタミンDなど女性が不足しやすい栄養を常に満たしておくことで、健康的な身体づくりだけでなく、着床・妊娠後の胎児の発育もサポートすることができます。

よくある質問

Q1: アシステッドハッチングをしても孵化しない確率はどのくらいですか?

A1: 過去に私自身が行った研究では、アシステッドハッチングを実施して翌日まで培養を行っても、20%程度の胚は、細胞が収縮したままの状態で完全に透明帯の中に納まっているか、孵化が起こっていても透明帯から孵化している細胞の割合が5割未満の胚でした。ただし、体外で行われた培養による結果であるため、体内では結果が変わる可能性は十分にあります。

Q2: アシステッドハッチングによって透明帯を完全に取り外すことは可能ですか?

A2: 技術的には可能です。当院では透明帯完全除去法を採用しており、基本的には全例で透明帯を完全に取り外しています。しかしながら、完全除去は技術的に難易度が高く非常に煩雑であることや、使用している機材によっては完全に取り外すことが極めて難しいこともあります。そのため、どの施設でも行えるというわけではありません。

Q3: 体外受精でも、アシステッドハッチングをせずに孵化することはありますか?

A3: あります。胚の成長や拡張が良好な方では、アシステッドハッチングをせずに培養の5日目~6日目に自然に孵化することもあります。ただし、凍結・融解など高度生殖医療において行われるいくつかの操作では、透明帯が硬化(かたくなる)し、胚の力だけでは孵化しにくくなることがあると考えられています。

Q4: アシステッドハッチングをしても着床しなかった場合は、胚が異常なのでしょうか? 

A4: 着床しなかった場合や初期で流産となってしまった場合の多くは、胚の染色体の異常が原因であると考えられていますが、必ずしも染色体の異常だけが原因であるとは言えません。着床が成立するためには、胚の状態はもちろん子宮側(お身体)の状態も非常に重要です。

Q5. アシステッドハッチングを実施しなくてもよい場合というのはありますか? 

A5. アシステッドハッチングは追加で費用がかかる手技であるため、全例で行うというものではなく、必要な症例に応じて行うことが一般的です。年齢が若い方、胚のグレードが良好な方、凍結時に胚が大きく拡張していた方では、アシステッドハッチングを実施しなくても妊娠を目指すことが出来る可能性が高いです。また、胚移植が初回という方では、アシステッドハッチングが必要かどうかがわからないため、実施せずに胚移植を行うことも多いです。加えて、培養の段階ですでに孵化しかけている胚や、完全に孵化している胚では、アシステッドハッチングを行う必要はありません。

まとめ:治療内容を正しく理解し次のステップへ

アシステッドハッチングをしても妊娠判定で思うような結果が得られなかった時というのは、本当に辛いものだと思います。実際に、「せっかくアシステッドハッチングをやったのに」「追加でお金もかけたのに」という患者様もいらっしゃいます。

しかし、これまで胚培養士と言う立場から多くの患者さんを見てきた経験から言えるのは、着床・妊娠を成立させるのは決して胚だけの要因では無いということです。アシステッドハッチングや高濃度ヒアルロン酸添加培養液など、さまざまなオプションを利用し、そしてどんなに胚の状態が良好であっても、子宮内膜の状態、子宮の環境(婦人科系疾患の有無)、ホルモン、移植のタイミング、子宮内細菌叢など、すべての条件が揃ってはじめて期待する結果を得ることができます。

そして、移植が失敗しても、それは決してネガティブな意味だけを持つのではなく、その周期に得られた情報は、次の治療周期をより良いものにするための貴重なデータとなります。

着床しなかった原因を分析し、次回は違ったアプローチを試すことで、成功の確率を高めることができる可能性もあります。前向きに次の治療を迎えられるよう、スタッフ一同、患者様に伴走してまいります。どうか、“ただ落ち込む”だけではなく、正しく治療内容を理解し、次の治療に向けての準備を進めていただけたらと思います。

RELATED ARTICLES

関連記事

CONTACT

ご予約・お問い合わせ