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採卵数5個・10個・15個で胚盤胞になる確率は?胚培養士が教える年齢別期待値と不妊治療の重要指標

  • 公開日:2025.12.24
  • 更新日:2025.12.25
採卵数5個・10個・15個で胚盤胞になる確率は?胚培養士が教える年齢別期待値と不妊治療の重要指標|不妊治療なら生殖医療クリニック錦糸町駅前院

私自身、胚培養士として、これまでに数万個の卵子・受精卵の培養を行ってきましたが、確かに採卵で卵子が多く採れるほど採卵対胚凍結率(一回の採卵あたりで1個でも胚盤胞で凍結できる可能性)は上がる傾向にあります。しかしながら、臨床においては、例えば採卵で10個卵子が採れた場合でも1つも胚盤胞にならないケースもありますし、反対に採卵で1個だけしか採れなくても良好な胚盤胞に育つケースというは数多くあります。

ではなぜ、このような症例がよく見られるかというと、胚盤胞まで発育するかどうかは、採卵数だけで決まるものでは無く、治療時の年齢や病歴、服薬歴、家族歴、生活習慣、体質、遺伝、卵巣機能、卵子の質などなど、非常に様々な要因が複雑に絡み合って導き出される結果であるからです。

今回のコラムでは、実際の症例やデータを例に挙げながら、採卵数と胚盤胞発育について、できる限り具体的にお伝えしていきます。治療計画の検討や、治療を進めていく上での参考にしていただけましたら幸いです。

胚盤胞まで育つ確率の基本知識

胚盤胞とは?基本的な培養の流れ

胚盤胞とは、受精から5~6日目に到達する胚の発生ステージです。採卵された卵子は、精子と出会い受精すると、翌日に卵子・精子由来の2つの前核が確認できるようになります。そして2細胞期、4細胞期、8細胞期と細胞分裂を繰り返しながら細胞の数を増やしていき、やがて細胞同士が融合して桑の実のような形(桑実期胚)になり、最終的に大きく拡張して胚盤胞へと成長します。

受精した胚のすべてが胚盤胞まで育つわけではなく、途中で細胞の成長が止まってしまったり、細胞の状態が悪くなってしまったりする胚も多くあります。

私たち胚培養士は、胚の状態を毎日観察することで発育状況を把握し、最適な培養環境を維持し続けることで、一つでも多くの良好な胚盤胞を育てることに全力を注いでいます。

胚盤胞の段階まで育つことがなぜ重要かというと、胚盤胞は子宮内膜に着床する直前のステージであるため、移植後の着床・妊娠率が高いという点にあります。

裏を返せば、採卵後に胚盤胞まで育たない胚は、赤ちゃんになる可能性が極めて低いと判断され、胚移植や胚凍結という次の治療ステップに進むことができません。

つまり、胚盤胞まで育つかどうかで、赤ちゃんになる可能性があるかどうかを見極め、選別しているわけです。

近年では、タイムラプスインキュベーターという最新機器を使用することで、胚を培養器から出すことなく連続的に好きな時に観察できるようになりました。これにより、胚へのストレスを最小限に抑えながら、より詳細な発生過程を把握できるようになっています。

胚盤胞になる一般的な確率

では、実際に採卵数から胚盤胞になる確率はどの程度なのでしょうか?

われわれが過去に行った施設の成績と、学会が報告している臨床データを総合すると、受精卵から胚盤胞になる確率は約35~65%程度です。ただし、当然ながらこの数字は年齢など、患者様のバックグラウンドによってかなり大きく変動するため、数字の幅が広くなっています。

平均的な数字の考え方としては、例えば採卵によって10個の卵子が採れて、そのうち8個が正常に受精したとすると、胚盤胞まで育つのは3~4個ということになります。

ただし、これはあくまで平均的な値での参考データであり、くどいようですが年齢や病歴などにより、個人差は非常に大きいということを強調しておきたいと思います。

実際によくあるケースとして、私自身、つい最近受け持った患者様でもあったのですが、28歳の患者様で採卵により12個の卵子が採れ、顕微授精ですべて正常に受精。5日目に胚盤胞で10個凍結。6日目に残りの2個を胚盤胞で凍結。と、受精率100%・胚盤胞凍結率100%ですべての胚が凍結できたという患者様がいらっしゃいました。

一方で、44歳の患者様で8個の卵子が採れたにも関わらず、一週間培養を継続したものの1個も胚盤胞に成長せず培養中止となったという症例もありました。

重要なのは、平均的なデータはあくまでもベースとした上で、患者様個人の年齢や治療歴、病歴(基礎疾患の有無、過去に大きい病気をしていないか、服薬歴など)、家族歴(遺伝など)、卵巣機能、生活習慣などによって結果は大きく変わるため、お身体の状態なども含めて十分に理解・把握をしておく必要があるということです。

私を含め、生殖補助医療領域に携わる多くの医療従事者が注視しているのは、卵子の“数”とともに、卵子の“質”の重要性です。採卵によって獲得できた卵子の数が少なくても、卵子の質に問題が無ければ高い確率で胚盤胞に成長してきます。反対に、採卵数がどんなに多くても、年齢や病歴、BMIなどから卵子の質が低いことが明らかである場合には、胚盤胞発生率は明確に低くなる傾向があります。

年齢別に見る採卵数と胚盤胞到達率

34歳以下の平均的な確率

20代から30代前半は、一般的には卵巣機能も高く妊孕性(妊娠する力のこと)も、比較的高く保持しています。どの卵巣刺激方法を選択するかにもよりますが、自然周期や低刺激周期であっても採卵対卵子獲得率(一回の採卵で卵子が採れる確率)が高く、受精卵1個あたりの胚盤胞発生率は50~65%程度を期待できます。

この年代の胚盤胞発生率が高い理由としては、卵子の質、もう少し具体的に言えば、卵子の染色体異常の割合が低いことが挙げられます。

過去に、アメリカ生殖医学会の学術誌Fertility&Sterilityに報告されたデータによると、個人差は当然あるものの20代~34歳までの卵子の染色体異常の割合は10~25%程度であり。これは出産まで辿り着ける能力を持った胚盤胞に育つ確率が高いということを意味します。

まれに、早発卵巣不全(早発閉経)の傾向がある患者様がいらっしゃり、これを読んでいる方の中にも「卵巣内の残りの卵子の数が少ないことを指摘された」という方もいるかもしれませんが、卵子の質は実年齢が反映されるため、残りの卵子の数が少なくても卵子さえ獲得することができれば、その質やポテンシャルは年齢に相当します。

35~39歳の平均的な確率

一般的なデータに従うと、不妊治療による臨床成績は35歳頃を境に低下し始めます。受精卵から胚盤胞に発生する確率は40~50%程度で良好胚発生率(良好なグレードに育つ確率)もやや減少します。この年代による年齢の差は非常に顕著で、1歳年齢が上がるだけで成績は明確に低下します。

さらに重要なのは、卵子の染色体異常の割合が上昇することで、35~39歳では、卵子の25~40%程度に染色体異常が認められるとされています。この数字は、例えば凍結できた胚盤胞が3個あっても、そのうち出産まで辿り着ける能力を持っているものが1個あるかどうか?というデータになります。

35~39歳の患者様の場合、治療の成功のために重要となるのは、どのような卵巣刺激方法が自分に最も適しているかを見極めることです。私自身が受け持った症例でもよくあるのが、今まで強い卵巣刺激方法ばかりを行ってきた患者様が、自然周期や低刺激が得意なクリニックに転院して、一回の治療で妊娠・出産に辿り着いたり、その逆のケースもよく聞いたりします。

また、30代後半から40代にかけて増加するのが、子宮筋腫や腺筋症といった婦人科系疾患の既往で、このような疾患が不妊症の直接的な原因となっていることもあります。

その場合では、卵巣刺激方法のほかに、外科的な視点からも診断や治療のアプローチを行ってくれる施設の方が結果は得られやすい可能性が示唆されます。

40代以降の平均的な確率

40代に入ると、不妊治療の臨床成績は急激に厳しいデータになります。受精卵から胚盤胞に発生する平均的な確率は30~40%にまで低下し、採卵あたりの卵子の獲得率も減少します。特に、『空胞』といって卵胞の中に卵子が認められない事例も増加します。

そして、最も厳しい条件となるのが染色体異常の割合です。

Fertility&Sterilityによると、40歳以上の染色体異常の割合は以下のように報告されています。

40~41歳卵子の70%以上に染色体異常が認められる
42~43歳卵子の80%以上に染色体異常が認められる
44歳以上卵子の95%以上に染色体異常が認められる

これらのことから、40歳以上の患者様ではPGT-A(着床前染色体異数性検査)の実施も検討されますが、費用的な面(※採卵も含め完全自費)や技術的な部分から躊躇されるご夫婦も少なくありません。

不妊治療をご夫婦の思い描く形で進めるには、このようなデータをしっかりと理解・把握して、事前に戦略を立てることがとても重要です。20~30代であれば、2人目、3人目のことも考えて何個くらいの凍結を目指していこうですとか、たとえ40代だからといって、希望を失ってしまうのではなく、どんな検査があるのかな?どの卵巣刺激が自分に合っているのかな?パートナーの条件はどうかな?など、データと照らし合わせて最適な治療を検討していくことで、結果に結び付く可能性は十分にあると思います。

胚盤胞到達率を左右する重要な要因

卵子の質と年齢の関係

繰り返しになりますが、卵子の“質”は、胚盤胞発生率と関連する最も重要な要因の一つです。

女性はお母さんから産まれた時から卵子の元となる細胞を卵巣に蓄えています。この細胞は、新たに造られることは無いため、女性は産まれた時にすでに一生のうちに排卵できる卵子の数が決まっています。この卵子の数は人によって多かったり少なかったりします。この数の少ない人が、いわゆる早発卵巣不全・早発閉経と呼ばれる状態になると考えられています。

また、産まれてからずーっと身体の中にあるものであるため、年齢を重ねるとともに卵子も老化していきます。加えて、産まれてから現在までのありとあらゆる生活習慣や病気、お薬などの影響を直接的に受けていると考えられています。20歳であれば卵子も20歳で、20年分の生活習慣による影響。40歳であれば卵子も40年分の歳を重ね、40年分の負荷を受けているということになります。

卵子の老化は、主にミトコンドリア機能の低下と染色体分離異常が関与していると考えられています。ミトコンドリアは細胞のエネルギー産生を担う器官で、その機能が低下すると、受精後の胚発生に必要なエネルギーが不足し、分割が途中で止まってしまったり、正常に胚の発生を進めたりすることが困難になります。

以上から、卵子の質を改善・向上させることは医学的にはかなり難しいのではないか?と考えられていますが、質の低下を遅らせることは可能です。

というのも実際、私自身胚培養士としてほぼ毎日卵子と向き合っていますが、同じ年齢の患者様であっても卵子の質に明確な個人差があることを実感しています。これは、先述した通り生活習慣や普段の栄養状態、体重のコントロール、ストレス値などの要因が卵子の質に影響を与えるためです。

ビタミンEやコエンザイムQ10など、抗酸化物質を多く含む食事や、一日30分程度でもよいので適度な運動習慣をつけること、そして十分な睡眠は、卵子の質を維持させるため重要です。

精子が与える影響

胚盤胞に発育するかどうかは、卵子だけでは無く、精子の状態も極めて重要な要因になります。この時代にありながら、未だに『不妊症は女性の問題』と考えている男性も多いようなのですが、これは大きな間違いで、実際には男性因子によるケースも原因の約半数を占めています。

精子データは、基本的には精液量、精子濃度、運動率、形態的などから評価されますが、これらの基本的項目が正常でも、精子のDNA断片化率が高かったり、重度の酸化ストレスを受けていたりする場合があります。DFI(DNA Fragment Index)といいますが、精子DNAの断片化率が高い場合、受精後の胚の発育に悪影響を及ぼし、特に胚盤胞発生率を顕著に低下させることや、流産率を増加させることが知られています。

われわれの施設では、男性側に要因があると考えられる場合では、IMSI(高倍率精子選別顕微授精)やPICSI(ヒアルロン酸結合精子選別法)などの新しい技術を治療の中に積極的に取り入れ、精子を選別していくことで、胚盤胞発生率の向上を目指していきます。

ご自身で出来る範囲で精子の状態を改善する方法としては、禁煙、禁煙、ビタミンE・Cの摂取、精巣の温度を上げないようにする(サウナや長風呂を控える)、定期的に射精する習慣をつける(2~5日に1回のペースで)などの生活習慣の見直しが推奨されています。また精子は、精子の素になる細胞から、成熟した精子が造られていくまでに約74日かかることが知られているため、最低でも3か月以上は継続して取り組むことが重要です。

培養環境と技術の進歩

生殖補助医療に関わる技術は、私が胚培養士になった頃と比べると大幅に進歩しています。このような進歩によって、胚盤胞発生率も確実に向上していると実感しています。中でも私が大きな変化を感じるのは『⑴培養方法(培養液・メディウム)』と『⑵培養環境(インキュベーター)』についてです。

培養方法

従来、受精卵を培養する方法として一般的に広く行われていたのは、「シークエンシャルメディウム・培養」という2種類の培養液を使い分ける方法でした。

受精卵は、発育が進むにつれて必要になる栄養素が異なります。そのため、胚の発育ステージに合わせて、胚を必要な栄養素が入った培養液に入れ替えてあげるという操作が必要でした。

一方で、比較的最近出てきた培養方法は「ワンステップ(One-Step)メディウム・培養」と呼ばれる方法で、1種類の培養液のみで交換すること無く1週間培養を行います。

受精卵を培養する上で最も重要なことは『胚へのダメージを最小限にする』ということであり、なるべくインキュベーター(培養器)から取り出すことなく、一定の温度や気層環境を保つほど胚への負荷が少なくなると考えられています。

しかしながら、シークエンシャル培養では、培養液を交換するため胚を一度インキュベーターから取り出す必要があり、これが胚に負荷をかけていた可能性がありました。ワンステップ培養であれば、培養液を交換する必要が無いため、胚に負荷をかけることなく継続して培養することが可能となりました。

培養環境(タイムラプスインキュベーターの活用)

従来、受精卵を培養する際、胚を観察するためには一度インキュベーターから培養皿を取り出して顕微鏡に乗せて観察をする必要がありました。先述した通り、一定の温度や気層環境を保つほど胚への負荷が少なくなると考えられているのですが、インキュベーターの外の環境に出さなければ胚の状態を知ることができなかったため、胚の観察という基本的な操作が、胚へ負荷をかけている可能性が指摘されていました。

近年では、インキュベーターの中にカメラが内蔵されているタイムラプスインキュベーターが登場し、胚をインキュベーターから取り出すことなく、連続的に撮影・観察できることが可能となりました。

また最新の機種では、タイムラプスインキュベーターの中にAIが導入されており、AIを活用した胚の評価システムも実践的に使われるようになってきています。

卵胞刺激の考え方:自分にはどちらが向いている? 

採卵による卵子の獲得数に最も大きな影響を与えるのは、卵巣刺激方法とAMHの値です。

高度生殖医療で行われる卵巣刺激には自然周期、低刺激周期、ショート法、ロング法、PPOS法、アンタゴニスト法など、さまざまな方法があります。採卵を行う時にどのような卵巣刺激方法が適しているのかは、患者様の年齢やバックグラウンドによって異なり、個数だけではなくどのような状態(質)の卵子が採れるのかもまったく異なります。

例えば、AMHが極端に低いような方や、高齢の患者様では、投薬によってどんなに強い刺激をかけても、一度の周期で育ってくる卵胞の数には限界があるため、適した刺激を選択しないと治療対コストパフォーマンスが低くなってしまうことがあります。

自然周期の場合

自然周期は、お薬を一切使わず、本来の月経周期に合わせて育ってきた卵胞で採卵を行う方法です。自然の月経周期と同じであるため、採卵数は1個が基本ですが、まれに複数の卵子が採れることもあります。

人工的なお薬を使わず、身体本来の力で育てた卵子であるため、質の高い卵子が採れるのではないか?と考えられています。

「採卵で1個しか採れないと結構厳しいのでは?」と感じる方も多いかと思いますが、実際のところ、採卵で採れた卵子が1個であっても良好な胚盤胞に成長し、1回の治療で出産にいたる例も数多くあります。

私が実際に経験した例では、不妊治療を始めたばかりの若いご夫婦で「なるべくお金をかけずに自然に近い方法でやりたい」と自然周期で採卵し、新鮮胚移植(胚凍結をせずに、採卵した胚を育てて同じ周期にそのまま戻す)を行って妊娠・出産にいたったという例を何度も経験していま

す。

低卵巣刺激周期の場合

低刺激周期では、クロミッド(クロミフェン)という飲み薬を隔日、あるいは毎日飲んで卵胞の発育を促し採卵を行います。場合によっては、FSHのリコンビナント製剤などを併用することもあります。

採卵では、おおよそ3~6個程度の卵子の獲得が期待できますが、患者様の年齢や卵巣機能、バックグラウンドによっては、これより多くなることも少なくなることもあります。

自然周期と同様、使うのはマイルドお薬ですので、身体本来の自然に近い形で卵胞を育てていくため、質の高い卵子が採れるのではないかと考えられています。また、身体への負担が少なくお薬による副反応も少ないため、毎月連続して採卵を行うことも出来ます。

しかしながら、やはり強い刺激をかけた場合と比較して、採卵一回あたりで採れる卵子の個数が少ない傾向があり、「2人目、3人目も見据えて胚盤胞をたくさんキープしておきたい!」という場合にはあまり向かないかもしれません。

イメージで言えば『少数精鋭/量よりもクオリティ』で治療を進めていく方法です。

高卵巣刺激周期の場合

アンタゴニスト法、ショート法、ロング法などの方法は高卵巣刺激周期と呼ばれ、卵巣刺激方法としては一般的に広く行われています。

投与量や期間を調節することで、多くの卵胞を育てることが可能で、一度の採卵で10~20個以上の卵子が採れることもあります。ただし、採れる卵子の中には、本来(自然の月経周期)であれば淘汰されるはずであった卵子も混ざっているため、採れる数が増える分だけ、質の低い卵子が混ざっている可能性も増えていきます。ただし、先述の通り年齢の若い方であれば卵子の質も年齢に相当するため、統計上では胚移植・胚凍結に進めるチャンスは増加します。

イメージで言えば『人海戦術/数打てば当たる』で治療を進めていく方法です。

ここで注意しなければならないのは、一見すると「たくさん採れるほどいいのでは?」と考えてしまいがちなのですが、実はそこには落とし穴がある可能性があるということです。

というのも、一回の採卵でたくさんの卵子が採れる患者様の中には、PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の既往がある患者様が一定数含まれており、PCOSの方では卵子の質が明瞭に低くなる傾向があります。

加えて、お薬の量や、採卵数が多い場合OHSS(卵巣過剰刺激症候群)のリスクが増加します。重症化すると入院が必要になることもあるため、刺激と卵巣の状態のコントロールが難しくなることもあります。

どんな卵巣刺激方法を選択するかは、医師も交えながら、ご夫婦でよく話し合って決めることが大切です。

胚培養士が教える胚盤胞到達率を高めるポイント

採卵に向けた準備

胚盤胞発生率を高めるためには、やはり卵子の質が重要です。先述の通り、卵子は産まれてから現在までずーっと身体の中に蓄えられているものであり、時間(年齢)の経過とともに、産まれてから現在にいたるまでのありとあらゆる生活習慣による負荷をすでに受けています。

このことから、卵子の質そのものを向上させることは医学的には難しいと考えられていますが、現状よりも質を低下させない、質を保持するための取り組みは非常に重要です。

最も基本的な取り組みとしては、やはり生活習慣の見直しです。

バランスの良い食事、十分な睡眠(7~8時間)、適度な運動は、卵子の質を保つための基本中の基本です。特に、抗酸化作用のある食品(ビタミンC、E、コエンザイムQ10)など積極的に摂取することがお勧めです。

食事だけでなかなか摂取しづらいという方ではサプリメントを服用するのもよいでしょう。

生活習慣のほかには、ストレス管理も重要です。過度なストレスは、視床下部-下垂体-卵巣までの内分泌系に影響を与え、卵子の成熟や質を低下させる可能性があります。

家族や友人と過ごす、趣味の時間を作るなどご自身に合ったリラクゼーション法を見つけることも大切です。

また、不妊治療のストレスが相当なものであることは、皆さん共通のお悩みですので、パートナーや信頼できる人に気持ちを共有するということも重要です。

胚移植に向けた準備

無事に胚盤胞まで発育し、凍結ができたら、今度は胚移植に向けて準備を進めていく必要があります。

いよいよ移植となると、緊張されてしまう方も多いようなのですが、まずは普段通りの日常生活を心がけていただきたいです。というのも、治療のために普段はやらないようなことをしてしまうと、かえって身体に対して負荷をかけてしまう可能性があります。

また、過度な緊張も内分泌系を乱し、ホルモン分泌が正しく行われなくなることもあります。

子宮内膜の状態を整えるためにも、十分な睡眠と栄養摂取、規則正しい生活をするように心がけてください。

そして精神的なサポートも重要になりますので、是非パートナーの方にも積極的に治療に参加してもらうようにしましょう。

次回の採卵に向けた改善策

残念ながら期待した結果が得られなかった場合では、気持ちを切り替えて次の採卵に向けて準備をしていきましょう。

私たち胚培養士は、次の採卵周期が決して同じことの繰り返しにならないように、一つ一つの結果を分析するとともに、さまざまな工夫をこらしています。

その中の一つとして、これは私がいままで管理してきた培養室の独自の手法でもあるのですが、特徴・特性の異なる2種類の培養液を、月毎に使い分けることで、もし毎周期連続で採卵をしても、受精卵を1回目と2回目で違う強みを持った培養液で培養することができます。

この他にも、私の施設ではいくつもの工夫をこらして、少しでも胚盤胞発生率を向上させるように日々努めています。

妊娠に効果的な食事(地中海式食事様式)

卵子の質が重要というお話しをしましたが、生活習慣の改善にはやはり時間がかかります。しかしながら「確実に効果がある」と断言できます。

なぜならば、生活習慣に普段から気を付けて改善を図ることは、心臓疾患や脳血管疾患、糖尿病、高血圧といったいわゆる生活習慣病の発症率を低下させることが明確なエビデンスのもと数多くの学術研究によって報告されており、妊活・不妊治療に限った話では無く、身体のため、健康のために良いことが証明されているためです。

身体が健康な状態であることは、妊活・不妊治療で結果を得る上では必要不可欠であり、特にBMIの適正化(18.5~25.0)は重視するべきポイントです。

最近の研究で、地中海式食事様式(イタリアやギリシャなどの食事様式で、オリーブオイル・魚・野菜・果物・全粒穀物などを中心とした食事法)が、体外受精の成績向上に有効であることが報告されているほか、生活習慣病を減らすことが示されています。

最後に

今回は、採卵数と胚盤胞発生率について解説を行ってきました。人によって感じ方は様々あるかもしれませんが、不妊治療は長期戦になることが多く、精神的な疲労も多くある治療です。

是非、ひとりだけでストレスを溜め込まないように、ご夫婦で情報を共有しながら、必要に応じて、医師、看護師、胚培養士などからカウンセリングを受けるようにしてください。

治療内容や経過をしっかりと理解し、十分な戦略を立てて、そして前向きな気持ちで治療に臨むことで良い結果につながる患者様も多いです。

採卵で採れる卵子の数が少なくても、赤ちゃんになれるポテンシャルを持っていれば胚盤胞に育ってくれるはずし、反対に数が多くても質が低いと結果が伴わないこともあります。

私たちは最新の技術と経験を駆使して、毎日一生懸命に患者様からお預かりした受精卵を育てています。しかしながら、どんなに私たちがベストを尽くそうと頑張っても、喫煙、飲酒、暴飲暴食、極度の痩せ、肥満といった生活習慣があると卵子や精子の質は低くなってしまい、結果を出すことは難しくなってしまいます。

最良の結果を出すことができるように、是非われわれ胚培養士に『協力をしてあげる』というつもりで、生活習慣の改善にご夫婦で一緒に臨んでいただけたらと思います。

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