「結婚を控えているけれど、ブライダルチェックって本当に必要なの?」「みんなは受けているのかな?」そんな疑問を抱えていませんか。将来の妊娠・出産を考えると不安になる一方で、検査を受けることへのハードルを感じている方も多いのではないでしょうか。
実は近年、ブライダルチェックを受ける方は着実に増えています。それは単なる流行ではなく、晩婚化が進む中で、自分の体と向き合い、パートナーと一緒に将来を考える大切な機会として認識されているからです。日々診療にあたる中で、「もっと早く検査を受けていれば」という声を聞くことも少なくありません。
この記事では、実際のデータをもとにブライダルチェックを受ける割合や年代別の傾向、そして専門医の視点から見た検査の重要性について詳しく解説します。
ブライダルチェックを受ける割合の現状
最新データから見る受診率
2024年の最新調査によると、結婚前後にブライダルチェックを受ける女性の割合は約35%に達しています。これは5年前の約20%から大幅に増加しており、特に都市部では40%を超える地域も見られます。
興味深いのは、結婚前だけでなく、結婚後1年以内に受診される方も多いことです。「妊活を始める前に自分の体を知っておきたい」という理由が最も多く、次いで「パートナーに勧められて」という方が続きます。
また、20代後半から30代前半の受診者が最も多いものの、35歳以上の方の受診率も急速に上昇しています。これは、キャリアを優先してきた女性が、実際に妊娠・出産を現実的に考え始める時期と考えられます。
年代別の受診傾向
年代別に見ると、興味深い傾向が明らかになっています。25~29歳では約28%、30~34歳では約42%、35~39歳では約38%の女性がブライダルチェックを受けています。
30代前半で受診率が最も高くなる理由として、この年代が最も妊娠・出産を意識し始める時期であることが挙げられます。一方で、35歳以上でやや受診率が下がるのは、「今更検査しても」という諦めの気持ちや、不妊治療クリニックに直接相談する方が増えるためです。
しかし、生殖医療の観点から言えば、35歳以上こそブライダルチェックの重要性が高まります。卵巣予備能(AMH)検査など、年齢に応じた検査項目を追加することで、より適切な妊活プランを立てることができるからです。クリニックによっては35歳以上の方には、基本検査に加えて詳細な検査をお勧めしており、その結果をもとに個別のアドバイスを行っているところも多いです。
地域による違い
地域差も顕著で、東京・大阪などの大都市圏では受診率が40%を超える一方、地方都市では25%程度にとどまっています。これは、専門クリニックの数や情報へのアクセスの差が影響していると考えられます。
ただし、最近ではオンライン診療を活用したブライダルチェックも増えており、地域格差は徐々に縮小しています。当院でも、オンライン相談を実施し、遠方の方向けの相談体制を整えています。
また、地方では「結婚したらすぐに子どもができる」という考えが根強く残っている地域もあり、ブライダルチェックの必要性が十分に認識されていない現状もあります。しかし、不妊に悩むカップルの割合は地域に関係なく約5.5組に1組という現実を考えると、どの地域でも検査の重要性は変わりません。
なぜブライダルチェックの受診率が上昇しているのか
晩婚化・晩産化の影響
日本の平均初婚年齢は女性で29.7歳、第一子出産年齢は31.0歳と、年々上昇しています。この晩婚化・晩産化の流れが、ブライダルチェック受診率上昇の最大の要因となっています。
30代で結婚する女性の多くは、「妊娠できる期間が限られている」という現実と向き合わざるを得ません。実際、35歳を過ぎると自然妊娠率は急速に低下し、流産率も上昇します。このような医学的事実が広く知られるようになったことで、「まず自分の体の状態を知りたい」という意識が高まっているのです。
経験上は、特に35歳前後の女性は非常に真剣にブライダルチェックを受けられます。「仕事でキャリアを優先してきたけれど、子どもも欲しい」という思いと、「もう時間がないかもしれない」という不安の間で揺れ動いている方が多いのです。そんな時、検査結果という客観的なデータがあることで、冷静に将来設計を立てることができます。
不妊に対する意識の変化
以前は「不妊」という言葉自体がタブー視されていましたが、最近では有名人の不妊治療公表などもあり、オープンに語られるようになりました。この意識の変化が、予防的な検査への関心を高めています。
SNSでの情報共有も活発で、ブライダルチェックを受けた体験談が多く投稿されています。「検査を受けて安心した」「早期に問題が見つかって良かった」という声が、これから結婚する女性たちの背中を押しているのです。
また、不妊治療の保険適用化(2022年4月~)も大きな転機となりました。治療へのハードルが下がったことで、「もし何か見つかっても治療できる」という安心感が生まれ、積極的に検査を受ける方が増えています。
カップルで受診する割合の増加
特筆すべきは、カップルで一緒に受診する割合が急増していることです。5年前は約10%でしたが、現在では約25%のカップルが一緒に検査を受けています。
不妊の原因の約半数は男性側にあることが知られるようになり、「妊活は二人で取り組むもの」という認識が広まっています。男性のブライダルチェックでは、精液検査を中心に、場合により感染症検査などを行います。早期に男性不妊の可能性を把握できれば、適切な治療や生活指導により改善できるケースも多いのです。
カップルで受診することのメリットは、検査結果を一緒に聞き、今後の方針を二人で決められることです。「パートナーと一緒だから安心して検査を受けられた」という声も多く、精神的な支えになっているようです。また、男性も自分事として妊活を考えるきっかけになり、その後の協力も得やすくなります。
ブライダルチェックで分かること
基本的な検査項目
ブライダルチェックの基本項目には、血液検査、超音波検査、子宮頸がん検診などが含まれます。これらの検査で、妊娠・出産に影響する可能性のある疾患の多くをスクリーニングできます。
血液検査では、貧血、甲状腺機能、風疹抗体、感染症の有無などをチェックします。特に風疹抗体が不十分な場合は、妊娠前のワクチン接種が推奨されます。甲状腺機能異常は不妊や流産の原因になることがあり、早期発見・治療が重要です。
超音波検査では、子宮筋腫、子宮内膜症、卵巣嚢腫などの有無を確認します。これらの疾患は自覚症状がないことも多く、検査で初めて発見されるケースが少なくありません。
年齢に応じた追加検査
35歳以上の方には、基本検査に加えてAMH(抗ミュラー管ホルモン)検査を強くお勧めしています。AMHは卵巣に残っている卵子の数を推定する指標で、「卵巣年齢」とも呼ばれます。
実年齢とAMH値が一致しないことも多く、30歳でもAMHが低い方もいれば、40歳でも高い値を保っている方もいます。この検査結果により、妊活のタイミングや不妊治療の必要性について、より具体的なアドバイスが可能になります。
また、月経不順がある方には、ホルモン検査(FSH、LH、プロラクチンなど)を追加します。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)や高プロラクチン血症など、排卵障害の原因を特定できれば、適切な治療により自然妊娠の可能性を高められます。最近では、ビタミンD検査も注目されており、不足している場合はサプリメント補充により妊娠率が向上することが報告されています。
男性パートナーの検査の重要性
男性のブライダルチェックで最も重要なのは精液検査です。精子の数、運動率、正常形態率などを評価し、自然妊娠の可能性を推定します。WHO基準では、精子濃度1,500万/ml以上、運動率40%以上が正常とされています。
しかし、検査結果が基準値を下回っていても、決して妊娠できないわけではありません。生活習慣の改善(禁煙、節酒、適度な運動、ストレス軽減)により、精液所見が改善することも多いのです。また、亜鉛やコエンザイムQ10などのサプリメント摂取が有効な場合もあります。
精索静脈瘤など、治療可能な男性不妊の原因が見つかることもあります。精索静脈瘤は成人男性の約15%に見られ、手術により精液所見が改善し、自然妊娠に至るケースも少なくありません。早期発見・治療により、体外受精などの高度な不妊治療を回避できる可能性があるため、男性の検査も非常に重要なのです。
受診のタイミングと費用

いつ受けるべきか
ブライダルチェックの最適なタイミングは、結婚の1年から6か月前です。この時期に受診すれば、もし治療が必要な疾患が見つかっても、結婚式や新婚旅行までに対処できる可能性が高いからです。
ただし、「結婚前」にこだわる必要はありません。結婚後でも、妊活を始める前であればいつでも遅くはありません。むしろ、「子どもが欲しい」と思った時が、最適な受診タイミングとも言えます。「もっと早く来れば良かった」という声と同時に、「今からでも間に合って良かった」という安堵の声も聞かれます。
月経周期のどの時期に受診すべきかという質問もよく受けます。基本的な血液検査はいつでも可能ですが、ホルモン検査は月経開始3日目前後、超音波検査は月経終了後が理想的です。ただし、仕事の都合などで日程調整が難しい場合は、まず相談だけでも早めに行うことをお勧めします。
検査費用の相場
ブライダルチェックの費用は、検査項目により2~5万円程度が相場です。基本的な検査(血液検査、超音波検査、子宮頸がん検診)であれば2~3万円、AMH検査や詳細なホルモン検査を追加すると4~5万円程度になります。
男性の精液検査は5,000~10,000円程度で、感染症検査を含めても15,000円程度です。カップルで受診する場合、セット割引を設けているクリニックも多く、個別に受けるより10~20%程度安くなることがあります。
費用面で躊躇される方もいらっしゃいますが、将来の不妊治療費用を考えると、予防的な検査への投資は決して高くありません。ブライダルチェックで早期に問題を発見し、適切な対処をすることの経済的メリットは明らかです。
保険適用について
残念ながら、ブライダルチェックは基本的に自費診療となります。予防的な検査は保険適用外というのが原則だからです。ただし、月経不順や下腹部痛などの症状がある場合は、その症状に対する検査として保険診療が可能な項目もあります。
例えば、月経不順でホルモン検査を行う場合や、下腹部痛で超音波検査を行う場合などは、保険適用となることがあります。また、子宮頸がん検診は、自治体の検診を利用すれば無料または低額で受けられます。
企業の福利厚生や健康保険組合の補助制度を利用できる場合もあります。最近では、従業員の妊活支援として、ブライダルチェック費用を補助する企業も増えています。まずは、ご自身が利用できる制度がないか確認してみることをお勧めします。
生殖医療専門医として伝えたいこと
早期発見のメリット
経験上から言えることは、「早期発見に勝る治療はない」ということです。ブライダルチェックで異常が見つかっても、多くは治療可能であり、早期に対処すれば自然妊娠の可能性を十分に保てます。
例えば、軽度の子宮内膜症であれば、薬物療法により進行を抑えながら妊娠を目指すことができます。甲状腺機能異常も、適切な薬物治療により正常化し、健康な妊娠・出産が可能です。クラミジア感染症なども、早期治療により卵管閉塞などの重篤な不妊原因を防ぐことができます。
一方で、「知らなかった」ことで手遅れになるケースも少なくありません。無症状のまま進行した子宮内膜症により両側卵管が閉塞していたり、未治療の甲状腺機能低下症により何度も流産を繰り返したりする方を診ることがあります。これらは、ブライダルチェックで防げた可能性が高いケースです。
検査結果の正しい理解
検査結果を正しく理解することも重要です。「異常あり」と言われても、必ずしも妊娠できないわけではありません。逆に、「異常なし」でも100%妊娠が保証されるわけでもありません。
AMH値が低くても、卵子の質が良ければ自然妊娠は十分可能です。実際、AMH 0.5ng/ml以下でも自然妊娠される方はいます。大切なのは、検査結果を踏まえて、自分たちに合った妊活プランを立てることです。
検査結果について不安がある場合は、遠慮なく医師に質問してください。単に検査結果を聞くだけでなく、その意味を理解していただき、今後の方針を一緒に考えていただくといいでしょう。
カップルで向き合うことの大切さ
最後に強調したいのは、ブライダルチェックも妊活も、カップルで向き合うことの大切さです。検査結果が思わしくなかった時、一人で抱え込まないでください。パートナーと共有し、二人で乗り越えていくことが何より大切です。
不妊治療が必要になった場合でも、パートナーの理解と協力があれば、精神的な負担は大きく軽減されます。実際、夫婦関係が良好なカップルほど、治療成績も良い傾向があります。これは、ストレスの軽減が妊娠に良い影響を与えるためと考えられています。
まとめ
ブライダルチェックを受ける割合は年々上昇し、現在では約35%の女性が受診しています。これは、晩婚化・晩産化の影響や、不妊に対する意識の変化が背景にあります。
検査により、妊娠・出産に影響する可能性のある疾患を早期に発見でき、適切な治療により自然妊娠の可能性を高めることができます。費用は2~5万円程度かかりますが、将来の不妊治療費用を考えれば決して高い投資ではありません。
大切なのは、検査結果を正しく理解し、パートナーと一緒に向き合うことです。一人で悩まず、専門医に相談しながら、自分たちに合った妊活プランを立てていきましょう。