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「カンジダ膣炎を繰り返していると、もしかして妊娠しにくくなるのでは…」そんな不安を抱えていませんか?妊活中にカンジダ膣炎になってしまうと治療を優先すべきか、妊活を続けるべきか悩まれる方も多いでしょう。
結論から申し上げるとカンジダ膣炎が直接的に不妊の原因となることは稀ですが、間接的に妊娠を妨げる要因となることがあります。
今回はカンジダと不妊の関係について、最新の医学的知見を交えながら皆様の不安を少しでも和らげられるようわかりやすく解説していきます。
カンジダ膣炎とは?基本知識と発症メカニズム

カンジダ膣炎は膣内に常在するカンジダ菌(真菌の一種)が異常増殖することで起こる炎症です。実は健康な女性の約20%はカンジダ菌を保有していますが、通常は膣内の乳酸菌(ラクトバチルス)によってバランスが保たれています。
発症の主な原因は抗生物質の使用、ストレス、疲労、糖尿病、妊娠などによる免疫力の低下です。特に妊活中は基礎体温測定や排卵日の把握などでストレスを感じやすく、カンジダ膣炎のリスクが高まる傾向にあります。
症状としては外陰部の強いかゆみや白いカッテージチーズ状のおりもの、排尿時の痛みなどが特徴的です。これらの症状は生活の質を著しく低下させ性交渉を困難にすることから間接的に妊活に影響を与える可能性があります。
カンジダ膣炎が妊娠に与える影響
直接的な影響は限定的
医学的観点から申し上げると、カンジダ膣炎そのものが卵子や精子の質を低下させたり受精を直接的に妨げたりすることはありません。カンジダ菌は膣内に留まることがほとんどで子宮内や卵管まで上行感染することは極めて稀です。
実際カンジダ膣炎の治療後すぐに妊娠された患者様は多くいらっしゃいますし、医学的にもカンジダ膣炎の既往と不妊率に有意な相関は認められていません。したがって「カンジダになったから妊娠できない」という過度な心配は不要です。
間接的な影響と妊活への障害
しかし、カンジダ膣炎は以下の点で間接的に妊活を妨げる可能性があります。
まず症状による性交渉の困難です。かゆみや痛みがある状態では、性交渉自体が苦痛となりタイミング法での妊活が難しくなります。特に排卵日前後の大切な時期と重なるとそのチャンスを逃してしまうことになります。
次に膣内環境の悪化です。カンジダによって膣内のpHバランスが崩れると精子の運動性が低下する可能性があります。正常な膣内は弱酸性(pH4.0-4.5)ですが、カンジダ感染時はこのバランスが乱れ精子にとって不利な環境となることがあります。
さらに、繰り返す感染による慢性炎症も問題です。頻繁にカンジダを再発する場合、膣粘膜の慢性的な炎症により局所的な免疫機能が低下し他の感染症のリスクも高まります。
炎症による卵管や子宮環境への影響
カンジダ膣炎が重症化したり長期間放置されたりすると、炎症が周辺組織に波及する可能性があります。これは稀なケースですが慢性的な炎症は骨盤内環境全体に影響を与えることがあります。
特に注意すべきはカンジダと細菌性膣症の混合感染です。この場合、炎症がより強くなり子宮頸管の粘液分泌にも影響を与える可能性があります。子宮頸管粘液は精子が子宮内に進入する際の重要な通路となるため、その質の低下は受精の妨げとなります。
また、最新の研究では膣内フローラ(細菌叢)の乱れが着床率に影響を与える可能性が示唆されています。カンジダ感染により膣内フローラのバランスが崩れると子宮内膜の受容性にも間接的に影響を与える可能性があるのです。
不妊治療中のカンジダ膣炎リスク
ホルモン剤使用による発症リスク
不妊治療では、排卵誘発剤やホルモン補充療法など様々なホルモン剤を使用します。これらの薬剤、特にエストロゲン製剤は膣内のグリコーゲン量を増加させカンジダ菌の栄養源となることからカンジダ膣炎のリスクを高めることが知られています。
実際、体外受精の調節卵巣刺激中は通常の約2-3倍カンジダ膣炎の発症率が高まるというデータがあります。特に採卵周期中の患者様からカンジダ症状の訴えが多く聞かれますが、その場合には適切な投薬治療やこまめな外陰部のケアを指導しています。
基本的にはカンジダ膣炎を発症しても不妊治療を中断する必要はありません。適切な治療を行いながら不妊治療を継続することは十分可能です。ただし、症状が強い場合は一時的に治療を延期することもあります。
体外受精・人工授精への影響
体外受精(IVF)や人工授精(IUI)を予定している場合、カンジダ膣炎の存在は治療スケジュールに影響を与える可能性があります。
人工授精の場合、カンジダによる炎症があるとカテーテル挿入時の痛みが増したり精子の生存率に影響を与えたりする可能性があるため、通常は治療後の実施をお勧めしています。一般的には抗真菌薬による治療で3-7日程度で症状は改善します。
体外受精の採卵時は膣内の清浄度が重要となります。カンジダ感染がある場合でも採卵自体は可能ですが、感染のリスクを最小限にするため事前の治療が推奨されます。胚移植時も同様で、子宮内環境を最適化するためにカンジダの治療を優先することが一般的です。
カンジダ膣炎の適切な治療法
妊活中の安全な治療選択
妊活中のカンジダ治療では胎児への影響を考慮した薬剤選択が重要です。幸い局所治療薬(膣錠・膣坐剤・クリーム)は全身への吸収が少ないため妊活中でも安全に使用できます。
一般的に使用される抗真菌薬にはクロトリマゾールやミコナゾール、イソコナゾールなどがあります。これらは妊娠初期でも使用可能とされており日常診療で処方されています。通常6日間の膣錠投与で約80-90%の治癒率が期待できます。
内服薬のフルコナゾールは単回投与で効果的ですが妊娠初期の使用は避けるべきとされています。そのため、妊活中は排卵後から月経開始までの期間は使用を控え月経中から排卵前の期間に限定して使用することをお勧めしています。
再発予防のポイント
カンジダ膣炎は再発しやすい疾患で患者様の約40-50%が再発を経験します。再発予防には日常生活での工夫が重要です。
まず外陰部の清潔と乾燥を保つことです。ただし、過度な洗浄は逆効果となるためぬるま湯での優しい洗浄に留めましょう。通気性の良い綿の下着を選びおりものシートの長時間使用は避けてください。
食生活では糖分の過剰摂取を控えることが大切です。血糖値の上昇はカンジダ菌の増殖を促進するため特に妊活中は栄養バランスに配慮した食事を心がけましょう。また、乳酸菌を含むヨーグルトの摂取は膣内フローラの改善に役立つ可能性があります。
パートナーとの関係とカンジダ対策
カンジダ膣炎は性感染症ではありませんがパートナーとの関係において考慮すべき点があります。男性もカンジダ症を発症することがあり亀頭包皮炎として現れることがあります。
パートナーが症状(かゆみ、発赤、白い付着物など)を示している場合は同時治療が必要です。そうでない場合でも女性が頻繁に再発する場合はパートナーの診察をおすすめすることがあります。
妊活中のカップルにとってカンジダ膣炎は心理的なストレスとなることがあります。「感染させてしまうのでは」という不安から性交渉を避けるようになり、結果的に妊活のタイミングを逃してしまうケースも見られます。このような場合は、正しい知識を共有しお互いの理解を深めることが大切です。治療期間中は性交渉を控え治療完了後は通常通り妊活を再開できることをパートナーにも理解してもらいましょう。
妊活とカンジダ治療の両立方法
妊活とカンジダ治療を両立させるには月経周期に合わせた治療計画が重要です。
月経直後から排卵期前はカンジダ治療に最適な時期ですので、この期間に集中的に治療を行い排卵期には症状が改善している状態を目指します。基礎体温表と照らし合わせながら治療スケジュールを立てることで妊活のチャンスを逃すことなく治療を進められます。
不妊治療を受けている方はカンジダの既往歴や現在の症状を正確に伝え、不妊治療のスケジュールと調整しながら両方の治療を効果的に進めていきましょう。
よくある質問と回答

Q1: カンジダ膣炎があると体外受精の成功率は下がりますか?
A1: カンジダ膣炎自体が体外受精の成功率を直接的に下げることはありません。ただし、移植時に炎症が強い場合は子宮内環境への影響を考慮して治療後の移植をお勧めしています。適切に治療すれば成功率への影響は最小限に抑えられます。
Q2: カンジダの薬を使用中に排卵日が来たらどうすればいいですか?
A2: 膣錠使用中でも排卵は正常に起こります。ただし、薬剤使用直後の性交渉は避け少なくとも2-3時間は間隔を空けることをお勧めします。症状が強い場合は、その周期はお休みして次の周期に向けて体調を整えることも選択肢の一つです。
Q3: 妊娠判定待ちの期間にカンジダになったら?
A3: 妊娠の可能性がある期間でも局所治療薬は安全に使用できます。むしろ、妊娠初期はカンジダを発症しやすいため早期治療が推奨されます。ただし、内服薬は避け膣錠やクリームでの治療を選択してください。
まとめ:前向きな妊活のために
カンジダ膣炎と不妊の関係について医学的根拠に基づいて解説してきました。カンジダ膣炎が直接的に不妊の原因となることは稀であり適切な治療により妊活への影響は最小限に抑えることができます。
確かにカンジダ膣炎は不快な症状を伴い妊活中の女性にとって大きなストレスとなります。しかし、それ自体が妊娠を不可能にするものではありません。むしろ過度な心配によるストレスの方が妊活に悪影響を与える可能性があります。
もしカンジダ膣炎を繰り返していて不安を感じている方は一人で悩まずに信頼できる医療機関にご相談ください。