予約24時間受付可)
  • TOP
  • ブログ
  • 不妊治療とうつ。「つらいのは私だけ?」54%が抱える心の不調。専門医が教えるケア法とは。

不妊治療とうつ。「つらいのは私だけ?」54%が抱える心の不調。専門医が教えるケア法とは。

  • 公開日:2026.06.26
  • 更新日:2026.06.26
不妊治療とうつ。「つらいのは私だけ?」54%が抱える心の不調。専門医が教えるケア法とは。|不妊治療・体外受精・卵子凍結なら生殖医療クリニック錦糸町駅前院

「不妊うつ」とは?あなたの心が弱いからではありません

「不妊うつ」「妊活うつ」という言葉は、医学的な正式名称ではありませんが、不妊治療や妊活にともなって生じる抑うつ症状や、うつ状態・うつ病を指す言葉として広く使われています。

具体的には、気分の落ち込み、わけもなく涙が出る、イライラする、これまで楽しめていたことに興味がもてない、眠れない・寝すぎてしまう、食欲がなくなる(または過食する)といった、心と身体のさまざまな不調があらわれます。

ここで一番に知っていただきたいのは、こうした反応は「治療というストレスに対する、ごく自然な心の反応」だということです。終わりの見えない治療、コントロールできない結果、繰り返される期待と落胆。これだけの負荷がかかれば心がゆらぐのはむしろ自然なことです。「気の持ちよう」で片づけられる問題ではありません。まずは、つらいと感じている自分を責めるのをやめることから始めましょう。

データが示す現実|治療中の女性の54%に抑うつ症状

「つらいと感じているのは自分だけではないか」そう思い込んでしまう方は少なくありません。でも、データははっきりと「あなただけではない」と語っています。

国立成育医療研究センターが体外受精などの高度不妊治療を受ける女性約500人を対象に行った調査では、治療開始初期の段階で、すでに54%に軽度以上の抑うつ症状がみられ、39%に不安の高まりが確認されたと報告されています。さらに、20歳代の参加者では約78%に抑うつ症状がみられ、若い世代ほど心の不調が目立つ傾向にありました。

つまり、治療を受ける女性の 2人に1人以上が、すでに心に負担を抱えているということ。これは特別なことではなく、不妊治療という営みそのものが、それだけ心に大きなストレスをかけるものなのです。

なお、日本産科婦人科学会のARTデータブック(2022年)によれば、生殖補助医療で生まれた子どもは年間77,206人で、これは全出生児の約10%(およそ10人に1人)にあたります。多くの方が、あなたと同じ道を歩んでいます。

そして専門医として補足したいのは、「結果が出にくいこと」自体が、あなたの頑張り不足を意味するわけではないということです。体外受精による出産率は年齢とともに自然に下がっていくことが知られており、これは医学的な事実であって、努力でどうにかできるものではありません。「もっと頑張れば」と自分を追い込むより、「これだけ難しい治療に向き合っている自分」を認めてあげてください。抑うつは、頑張っていない人ではなく、むしろ真剣に向き合っている人ほど抱えやすいものなのです。

なぜ不妊治療でうつになりやすいのか【専門医の視点】

不妊うつの背景には、いくつもの要因が複雑に重なっています。生殖医療の現場から見える「うつになりやすい理由」を整理します。

ホルモン剤による身体的・精神的な影響

不妊治療では、排卵誘発剤や黄体ホルモン製剤など、ホルモンに作用する薬剤を使う場面が多くあります。ホルモンバランスの変動は、頭痛・吐き気・むくみといった身体症状だけでなく、気分の浮き沈みやイライラ、涙もろさといった精神面にも影響します。月経前にメンタルがゆらぎやすい方が、その影響を強く感じることもあります。「自分の性格の問題」ではなく、身体の変化が心に作用している側面があると知っておくだけでも、少し気持ちが楽になります。

「期待と落胆」を毎月繰り返す心理的負担

不妊治療には、「これをすれば必ず授かる」という明確なゴールがありません。「今回はうまくいくかもしれない」と期待しては、月経がきて打ちのめされる。このジェットコースターのような感情の上下を、毎周期くり返すことが、心を消耗させます。期待しないようにしようと思っても、心が勝手に期待してしまう。そのこと自体がとてもつらいのです。

孤独感と、周囲との「比較」

妊娠・出産はいまだに「自然にできて当たり前」と思われがちです。そのため、悩みを打ち明けにくく、パートナーにすら遠慮や申し訳なさを感じてしまうことがあります。同世代の妊娠・出産報告に触れるたびに、自分だけが取り残されたような孤独感を覚える。この比較と孤立が抑うつを深める大きな要因になります。

時間・経済・仕事のプレッシャー

頻繁な通院、読めない治療スケジュール、年齢というタイムリミットへの焦り、そして費用の負担。これらが重なり、特に仕事との両立は大きなストレス源になります。厚生労働省の調査では、不妊治療経験者のうち16%(女性では23%)が仕事と両立できずに離職しており、その理由として「精神面での負担の大きさ」が挙げられています。

こんなサインに注意|不妊うつのセルフチェック

心の不調は、自分では気づきにくいものです。以下のような状態が2週間以上続いている場合は、心が限界に近づいているサインかもしれません。

  • 気分の落ち込みや憂うつが、ほとんど一日中、ほぼ毎日続く
  • これまで楽しめていたこと(趣味・食事・外出など)に興味がもてない
  • 理由もなく涙が出る、または涙すら出ないほど無気力
  • 眠れない、または眠りすぎる。朝起きるのがつらい
  • 食欲がない、または食べすぎてしまう
  • 集中できない、物事を決められない
  • 自分を責めてしまう、「自分には価値がない」と感じる
  • 治療や日常生活に手がつかなくなってきた

これらはあくまで「気づくためのきっかけ」であり、診断ではありません。あてはまる項目が多い、つらさが強い、日常生活に支障が出ている。そんなときは専門家の力を借りることを考えてみてください。

「うつ状態」と「うつ病」は違う|受診を考える目安

「これってうつ病なの?」と不安になる方も多いのですが、ここは丁寧に区別したいところです。

「抑うつ状態(うつ状態)とは、気分が落ち込んでいる”状態”を広く指す言葉です。つらい出来事に対する自然な反応として一時的に起こることもあり、必ずしも病気とは限りません。

一方「うつ病」は、抑うつ状態が一定以上の重さで一定期間(目安として2週間以上)続き、仕事や生活に支障をきたしている病気です。こちらは治療の対象であり、放置すると回復に時間がかかることもあります。

つまり、落ち込むこと自体は異常ではありません。問題は「その状態が長く続き、日常が回らなくなっているかどうか」です。

受診を考えてよい目安は、

(1)つらい気分が2週間以上続く

(2)眠れない・食べられない状態が続く

(3)仕事や家事が手につかない

(4)死にたい気持ちが浮かぶ

このいずれかにあてはまるときです。心療内科・精神科への受診は、決して大げさなことではありません。早めにつながるほど回復もスムーズになります。

今日からできる|心を守るセルフケア

専門家に頼ることと並行して、日常の中でもご自身でできることがあります。「効果がある妊活法」ではなく、「すり減った心を守るための工夫」として無理のない範囲で取り入れてみてください。

「治療のことを考えない時間」を意識してつくる24時間妊活モードでいると、心は休まりません。映画、散歩、好きな音楽など治療から意識をそらす時間を意図的に確保しましょう。
情報から距離を置く妊活情報やSNSを見続けると、比較と焦りが強まります。「今日は見ない」という日をつくるだけでも、心は軽くなります。
睡眠・軽い運動・バランスのよい食事生活習慣の改善は、妊娠率に一定の好影響があるとする報告もありますが、それ以上に心の安定の土台になります。完璧を目指さず、「できる範囲で」が合言葉です。
気持ちを言葉にして外に出すノートに書く、信頼できる人に話す、同じ立場の人とつながる。感情を内側に溜め込まないことが、抑うつの悪化を防ぎます。
「できなかったこと」より「できたこと」に目を向ける 治療中は、うまくいかなかったことばかりが目につきます。一日の終わりに「今日できたこと」を一つだけ書き出してみる。小さな達成を自分で認める習慣は、低下しがちな自己肯定感をそっと支えてくれます。

セルフケアで「治さなければ」と気負う必要はありません。あくまで、自分をいたわるための小さな選択です。

専門家を頼っていい|不妊治療における心理支援

「メンタルの相談なんて、治療と関係ないのでは」と遠慮する必要はまったくありません。心のケアは、いまや不妊治療の正式な一部です。

生殖心理カウンセラー・不妊カウンセラーという専門家

不妊の心理には独特の難しさがあるため、専門の資格をもつ支援者がいます。日本生殖心理学会が認定する「生殖心理カウンセラー」(臨床心理士・公認心理師向け)や、日本不妊カウンセリング学会が認定する「不妊カウンセラー」などです。彼らは、生殖医療の知識と心理支援の技術の両方をもつ専門家。医師には話しにくいこと、夫婦間では言いにくいことも、安心して打ち明けられる存在です。

「相談する」ことは、弱さではなく、自分を大切にする力です。

公的な相談窓口・支援制度を活用しよう

医療機関の外にも、頼れる公的な支援があります。費用面でも安心して利用できます。

不妊専門相談センター

各都道府県・指定都市・中核市が設置している「不妊専門相談センター」では、医師・助産師などの専門家が、不妊に関する医学的な相談だけでなく不妊による心の悩みの相談にも応じています。秘密は守られ、多くは無料です。「病院では聞けなかったこと」「気持ちの整理」をする場として、最初の一歩に適しています。お住まいの自治体名と「不妊専門相談センター」で検索してみてください。

仕事との両立|不妊治療連絡カードとくるみんプラス

仕事との両立に悩む場合、厚生労働省が作成した「不妊治療連絡カード」が役立ちます。これは、治療中であることや必要な配慮を、職場に伝えるためのツールです。言い出しにくいことを、医師の証明とともに伝える助けになります。

また、不妊治療と仕事の両立に積極的な企業を国が認定する「くるみんプラス」といった制度も整いつつあります。一人で「辞めるしかない」と抱え込む前に、使える制度がないか確認してみましょう。

パートナーや周囲とどう向き合うか

不妊治療は、女性の心身に負担が集中しがちですが、つらいのはあなただけではありません。研究では、パートナーである男性にも抑うつや不安の症状があらわれることが知られています。お互いに「相手に申し訳ない」と感じ、遠慮し合ってすれ違ってしまう。これは多くのカップルが経験する難しさです。

大切なのは、「察してほしい」ではなく、気持ちや希望を言葉にして共有すること。たとえば「結果が出るまでは、その話題に触れないでほしい」「ただ話を聞いてほしいだけのときがある」など、具体的に伝えると、相手も支えやすくなります。

また、親や友人からの「子どもはまだ?」といった言葉に深く傷つく方も多くいます。そうした言葉に、無理に応える義務はありません。距離を置く、話題を変える、「治療中だから今はそっとしておいてほしい」と伝える。自分の心を守る選択をどうか優先してください。

「治療のやめどき」も考えていい

これは、なかなか語られにくいテーマですが、生殖医療専門医として、あえてお伝えしたいことです。

不妊治療には「諦めるタイミングがわからない」というつらさがあります。「ここでやめたら後悔するのでは」という思いが、心をすり減らしながらも治療を続けさせ、抑うつを深めてしまうことがあります。

けれども、治療を一度休む、あるいは区切りをつけるという選択は、決して「負け」でも「諦め」でもありません。それは、自分自身の人生と幸せを真ん中に置く前向きな決断でもあります。年齢や治療歴によって見通しは変わりますから、主治医と「今後の方針」や「区切りの目安」について率直に話し合うことは、心を守るうえでとても大切です。

立ち止まること、休むこと、別の道を考えること。どの選択にもあなたを責める理由はありません。

よくある質問(FAQ)

質問と回答

Q1. ストレスがあると妊娠しにくくなりますか?

A1. ストレスと妊娠率の関係については研究が続けられていますが、「ストレスのせいで妊娠できない」と自分を責める必要はありません。むしろ「ストレスを減らさなければ」というプレッシャー自体が新たな負担になります。心を守ることは、それ自体に価値があると考えてください。

Q2. 抗うつ薬は不妊治療中でも使えますか?

A2. 薬剤の種類や治療段階によって判断が異なります。自己判断で中止・開始せず、必ず精神科医と生殖医療の主治医の両方に相談し、連携して決めることが大切です。

Q3. カウンセリングを受けると、医師に「弱い患者」だと思われませんか?

A3. まったくその逆です。心理支援は治療の正式な一部であり、専門家を頼ることは自分を大切にする力です。多くの医療者が、その一歩を歓迎し推奨しています。

Q4. 治療をしている自分の気持ちを、夫がわかってくれません。

A4. 男性は実感をもちにくい立場にあり、悪気なくすれ違うことがあります。具体的に「してほしいこと」を言葉にする、第三者(カウンセラー)を交える、といった方法が助けになります。

主な参考・出典

国立成育医療研究センター「体外受精などの高度不妊治療を受ける女性の約半数が治療開始初期の段階で、すでに軽度以上の抑うつ症状あり」(2021年)

日本産科婦人科学会「ARTデータブック」(2022年)

厚生労働省「不妊治療と仕事との両立について」「令和5年度 不妊治療と仕事の両立に係る諸問題についての総合的調査」

日本生殖心理学会(生殖心理カウンセラー養成講座)/日本不妊カウンセリング学会

RELATED ARTICLES

関連記事

CONTACT

ご予約・お問い合わせ