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「不妊治療を始めてから体重が増えてきた…」「薬の影響で太るって本当?」
このような不安を抱えながら治療を続けている方は、決してあなただけではありません。実際、多くの患者様から同様のご相談を受けており、体重の変化は見た目のみならず、治療へのモチベーションにも影響を与える重要な問題といえます。
2024年の最新調査によれば、体外受精を開始した方の約48%が「太った」と感じているという結果が出ています。しかしその原因は単純ではないうえに、必ずしも避けられないものでもありません。
この記事では不妊治療における体重増加の真実や、健康的に体重管理をしつつ治療を続ける方法について、最新の医学的知見を交えて詳しく解説します。
不妊治療で本当に太るのか?最新データから見る実態
不妊治療における体重増加は多くの方が経験する現象であり、2024年11月に発表された最新の調査結果によれば、体外受精を開始した女性のうち48%が「太った」と感じている一方で、50%が「変わらない」、そしてわずか2%が「痩せた」と回答しています。
「太る」の定義と原因
しかしここで重要となるのは「太る」の定義です。一般的に患者様が「太った」と感じる体重増加は平均して1~3kg程度であるうえに、その多くは一時的なものです。すなわち実際の体脂肪の増加ではなく、水分貯留によるむくみが原因であることが多いといえます。
個人差とその要因
また個人差が非常に大きいことも特徴で、同じ薬を使用しても体重が全く変わらない方もいれば、その一方で5kg以上増加する方もいます。これは体質や生活習慣、さらにはストレスへの対処方法などが複雑に関係しているためです。
なぜ太る?医学的メカニズムを徹底解説

ホルモン剤による体の変化
不妊治療で使用する薬剤の多くは女性ホルモンに影響を与えます。特に影響が大きいのが以下の薬剤です。
黄体ホルモン剤(プロゲステロン)
- デュファストン、ルトラール、ウトロゲスタンなど
- 水分を体内に貯留させる作用があり、むくみの原因となります
- 食欲を増進させる作用もあります
エストロゲン製剤
- エストラーナテープ、ジュリナなど
- 脂肪細胞の分布を変化させる可能性があります
- 水分代謝にも影響を与えます
これらのホルモンは妊娠に向けて体を準備する重要な働きをしています。つまり、ある程度の体重増加は体が妊娠に向けて正常に反応している証拠とも言えるのです。
ストレスと食行動の関係
不妊治療は精神的に大きなストレスを伴います。実際の診療では以下のようなストレスパターンをよく見かけます:
- 採卵前の緊張
- 胚移植後の期待と不安
- 陰性判定後の落ち込み
これらのストレスは、コルチゾールというストレスホルモンの分泌を促し食欲を増進させます。特に、甘いものや高カロリー食品への欲求が強くなることが科学的に証明されています。
実際、患者様の中にも「判定日が近づくとチョコレートが止まらない」「ストレスで深夜の間食が増えた」という方が多くいらっしゃいます。
基礎代謝の低下
不妊治療中は、以下の理由で基礎代謝が低下しやすくなります。
| 活動量の減少 | 安静を指示されることが多い |
| 筋肉量の減少 | 運動制限により筋肉が落ちやすい |
| 年齢的要因 | 30代後半から基礎代謝は自然に低下 |
| ホルモンバランスの変化 | 代謝に影響を与える |
基礎代謝が低下すると同じ食事量でも太りやすくなります。これは不妊治療の薬だけが原因ではなく、治療に伴う生活習慣の変化も大きく影響しているのです。
太ったと感じるのは本当に脂肪?むくみとの見分け方
「太った」と感じても実際には脂肪が増えたわけではないことが多いです。以下の特徴があればむくみの可能性が高いです。
むくみの特徴
- 朝起きたときに顔がパンパンになる
- 夕方になると靴がきつくなる
- 指輪が抜けにくくなる
- 体重の変動が1日で1~2kgある
- 押すと跡が残る(圧痕性浮腫)
脂肪増加の特徴
- 体重増加が緩やかで持続的
- 全体的に体が大きくなった感じ
- 洋服のサイズが変わる
- 体脂肪率が明確に上昇
むくみであれば薬の使用を中止すれば自然に改善します。一方、脂肪増加の場合は食事と運動による対策が必要になります。
体重増加が妊娠に与える影響
適正体重の維持は妊娠率向上のために重要です。日本肥満学会では、BMI22を標準体重としており妊活においてもBMI18~23の範囲が理想的とされています。
体重と妊娠率の関係
| BMI18未満(低体重) | 排卵障害のリスク増加 |
| BMI18~23(標準) | 最も妊娠率が高い |
| BMI25以上(肥満) | ホルモンバランスの乱れ、卵子の質低下 |
ただし、治療中の一時的な2~3kgの体重増加は妊娠率に大きな影響を与えません。むしろ、過度なダイエットによるストレスの方が悪影響を及ぼす可能性があります。
一般的には、体重を気にしすぎて極端な食事制限をした患者様より、適度な体重管理をしながらストレスなく治療を続けた患者様の方が良好な結果を得ることが多いです。
効果的な体重管理方法
食事管理の具体的方法
不妊治療中の食事管理は、「制限」ではなく「選択」が重要です。以下に患者様におすすめしている食事のポイントをご紹介します:
推奨する食事内容
タンパク質を十分に摂る
- 卵、魚、大豆製品を毎食取り入れる
- 1日あたり体重1kgあたり1g以上のタンパク質
低GI食品を選ぶ
- 玄米、全粒粉パン、そばなど
- 血糖値の急上昇を防ぎ、空腹感を抑える
良質な脂質を摂る
- オメガ3脂肪酸(青魚、アマニ油)
- ホルモンバランスの改善にも効果的
食物繊維を増やす
- 野菜、きのこ、海藻類
- 満腹感を得やすく、便秘予防にも
避けるべき食品
- トランス脂肪酸を含む加工食品
- 砂糖を多く含む飲料
- アルコール(治療中は控えめに)
おすすめの運動と注意点
運動は体重管理だけでなく、ミトコンドリアの活性化により卵子の質向上にも効果があります。
推奨する運動
ウォーキング
- 週3回、30分程度
- 採卵・移植直後は避ける
ヨガ・ピラティス
- ストレス解消効果も高い
- 骨盤周りの血流改善
軽い筋トレ
- 基礎代謝の向上
- 週2回程度が目安
運動の注意点
- 採卵前後1週間程度は運動は避け、やや安静めに過ごす
- 胚移植後は激しい運動を避ける
- OHSSの兆候や医師からの指示があれば運動は中止する
ストレスケアの重要性
ストレスによる過食を防ぐため、以下の方法をおすすめします:
マインドフルネス瞑想
- 1日10分から始める
- 食欲のコントロールに効果的
趣味の時間を作る
- 治療以外のことに集中する時間
- 達成感を得られる活動
サポートグループへの参加
- 同じ悩みを持つ仲間との交流
- 孤独感の解消
- 必要に応じて心理カウンセラーのサポートを
専門カウンセリング
- 必要に応じて心理カウンセラーのサポートを
治療薬別の体重への影響
各薬剤の体重への影響を理解することで、適切な対策が可能になります:
排卵誘発剤
- クロミッド:体重への影響は少ない
- HMG/FSH製剤:むくみが出やすい
- レトロゾール:体重変化は軽微
黄体ホルモン剤
- デュファストン:水分貯留によるむくみ
- ルトラール:食欲増進の可能性
- ウトロゲスタン:膣座薬のため全身への影響は少ない
エストロゲン製剤
- エストラーナテープ:局所投与のため影響は軽度
- ジュリナ:全身投与のため、むくみが出やすい
薬の種類によって対策も変わるため、担当医と相談しながら調整することが大切です。
よくある質問と回答

Q1: 薬によって体重の増えやすさはありますか?
A1: ホルモン剤によって、作用機序が異なるため、薬によっては体重が増えやすいもがあります。また、同じ系統の薬でも体重増加しにくいものもあります。気になる場合には、医師と薬について相談して変更できるものは変更してもらうのもいいでしょう。
Q2:不妊治療をやめれば体重は元に戻りますか?
A2: ホルモン剤によるむくみは、薬の中止後1~2週間で改善します。ただし、生活習慣による体重増加は、食事と運動で対処する必要があります。
Q3: 体重が増えたら妊娠しにくくなりますか?
A3: 2~3kgの一時的な増加は問題ありません。BMI25以上の肥満は妊娠率に影響するため、適正体重の維持が大切です。
Q4: ダイエットしながら不妊治療はできますか?
A4: 極端なカロリー制限は避け、バランスの良い食事と適度な運動で緩やかな体重管理を行うことは可能です。月1~2kgの減量が目安です。
Q5: 男性も不妊治療で太りますか?
A5: 男性の場合、薬の影響は少ないですが、ストレスによる生活習慣の乱れで体重が増加することがあります。
まとめ:前向きに治療を続けるために
不妊治療における体重増加は多くの方が経験する一般的な現象です。しかし、その多くは一時的なものであり適切な対策により管理可能です。
大切なのは体重の数値に一喜一憂せず、妊娠という大きな目標に向かって前向きに治療を続けることです。体重管理は重要ですが、それがストレスになってしまっては本末転倒です。様々な体型の患者様のサポートを通して思うことは、完璧を求めず自分のペースで出来ることから始めていくことが重要だということです。
不安になった時は一人で悩まず当院にご相談ください。