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OHSS症状を見逃さない!生殖医療専門医が教える重症度別チェックリストと対処法とは。

  • 公開日:2025.12.11
  • 更新日:2025.12.11
OHSS症状を見逃さない!生殖医療専門医が教える重症度別チェックリストと対処法とは。|不妊治療なら生殖医療クリニック錦糸町駅前院

不妊治療中に、「お腹が張って苦しい」「急に体重が増えた」そんな症状に不安を感じていませんか?不妊治療で誘発剤を使用すると、 OHSS(卵巣過剰刺激症候群)になることがあります。

OHSSは確かに注意が必要な合併症ですが、正しい知識を持って適切に対処すれば、多くの場合は問題なく回復します。この記事では、OHSS症状の見極め方から対処法まで、詳しく解説していきます。

OHSSとは?卵巣過剰刺激症候群の基本を理解しよう

OHSSが起こるメカニズム

OHSS(Ovarian Hyperstimulation Syndrome:卵巣過剰刺激症候群)は、不妊治療で使用する排卵誘発剤により卵巣が過剰に反応してしまう状態です。通常、自然周期では1個の卵胞が育ちますが、体外受精などでは複数の卵胞を育てるため排卵誘発剤を使用します。複数個の卵胞が発育すると、卵巣からのホルモン分泌の増加とともに、卵巣から血管透過性を高める物質(VEGF等)が過剰に分泌されます。

その結果、血管から水分が漏れ出し、お腹や胸に水が溜まったり、血管内の血液が濃縮され血栓症のリスクが増加します。一般的には採卵後2-5日目に症状が現れることが多く、特にhCG投与後や妊娠成立後に症状が強くなる傾向があります。OHSSには重症度があり、重症になると入院が必要となることもありますが、基本的には重症になることを予防しながら治療を行っていきます。軽症や中等症なOHSSは一時的な反応であり、適切な外来管理により1週間程度で改善します。

どんな人がなりやすい?リスク因子

OHSSのリスク因子を知ることは、予防と早期発見につながります。特に注意が必要な方は、35歳未満の女性、PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の方、AMH(抗ミュラー管ホルモン)値が3.5ng/ml以上の方です。また痩せ型の女性もリスクが高い傾向にあります。

採卵数が20個以上、血中エストラジオール値が3,000pg/ml以上の場合も要注意です。ただし、これらに該当しても必ずしもOHSSになるわけではありません。最近では、個々のリスクに応じた刺激法の選択や予防薬により、重症なOHSSの発症率は大幅に減少しています。リスクを把握することで、より安全な治療計画を立てることができるようになっています。

OHSS症状を見逃さない!重症度別の症状チェックリスト

軽度OHSS症状

軽度のOHSS症状は、実は多くの方が経験されています。お腹の軽い張りや違和感、軽度の腹痛、吐気などが主な症状です。卵巣は5-8cm程度に腫大していますが、日常生活にはほとんど支障がありません。

軽度の場合は外来での経過観察で十分なことがほとんどです。「お腹が少し重い感じ」「いつもより疲れやすい」という訴えをよく聞きます。この段階では、水分を1日1.5-2L程度摂取し、塩分を控えめにすることで症状の悪化を防げます。また、体重、腹囲、尿量の変化を記録していただくと客観的な評価ができますので、症状日記をつけていただくことをおすすめしています。

中等度OHSS症状

中等度になると、症状ははっきりと現れます。明らかな腹部膨満感、持続的な腹痛、頻繁な吐気や嘔吐、体重が3kg以上増加するなどの症状が特徴的です。卵巣は8-12cmまで腫大し、超音波検査で腹水が確認されます。呼吸が少し苦しく感じることもあります。

この段階では、必ず医療機関での管理が必要です。血液検査を行い、血液濃縮の程度を確認し、必要に応じて点滴治療を行います。1日の尿量が500ml未満になったら、すぐに受診してください。中等度でも適切な治療により、多くの場合1週間程度で改善します。

重度OHSS症状と緊急受診の目安

重度OHSSは、入院治療が必要な状態です。激しい腹痛、呼吸困難、1日の尿量が500ml未満、急激な体重増加(1日1kg以上)などが見られます。血液検査では、ヘマトクリット値45%以上、白血球15,000/μl以上など、明らかな異常値を示します。卵巣は12cm以上に腫大し、大量の腹水や胸水が貯留することもあります。

緊急受診が必要なサインは、「苦しくて横になれない」「尿がほとんど出ない」「意識がぼーっとする」「足が急に腫れた」などです。特に血栓症のリスクが高まるため、ふくらはぎの痛みや胸の痛みがあれば、夜間でもすぐに医療機関を受診してください。重度の場合でも集中的な治療により回復しますので、怖がらずに早期受診することが大切です。

症状が出やすい時期と経過

OHSSの症状は、採卵後すぐに現れるわけではありません。典型的には、hCG投与後3-7日、または採卵後2-5日に症状が現れ始めます。これを「早発型OHSS」と呼びます。一方、胚移植後に妊娠が成立すると、妊娠によるhCG分泌により症状が現れる「遅発型OHSS」もあります。遅発型は妊娠判定日前後から始まり、妊娠8-10週頃まで続くことがあります。

早発型は1-2週間で自然に軽快することが多いですが、遅発型は妊娠継続中は症状が長引く傾向があります。ただし、適切な管理をすれば、赤ちゃんへの影響はほとんどありません。

OHSS症状が出たときの対処法と日常生活の注意点

自宅でできる症状緩和方法

OHSS症状が軽度の場合、自宅での適切なケアが回復を早めます。まず重要なのは、1日1.5-2L程度の水分をしっかりとり、安静を保ちながらも完全な寝たきりは避けることです。血栓予防のため、1-2時間ごとに軽く歩いたり、足首の運動をしたりしましょう。食事は消化の良いものを少量ずつ、1日5-6回に分けて摂ることをおすすめします。

タンパク質の摂取は特に重要で、卵白、鶏ささみ、白身魚などを積極的に取り入れてください。お腹の張りが強いときは、締め付けない楽な服装で過ごし、上体を少し起こした姿勢で休むと楽になります。体重と腹囲は毎日同じ時間に測定し、記録することで、症状の変化を客観的に把握できます。

水分摂取の正しい方法

水分摂取はOHSS管理の要です。ただし、「たくさん飲めばいい」というわけではありません。1日1.5-2Lを目安に、少量ずつこまめに摂取することが大切です。一度に大量に飲むと、かえって症状を悪化させることもあります。

市販の経口補水液もおすすめです。カフェインを含む飲み物は利尿作用があるため控えめにし、アルコールは厳禁です。また、「のどが渇いていなくても定期的に飲む」ことを心がけてください。尿の色が濃い黄色になったら水分不足のサインです。薄い黄色を保つよう摂取量を調整しましょう。

安静度と日常活動の目安

完全安静は必要ありませんが、激しい運動や重い物を持つことは避けてください。卵巣が腫大している状態では、捻転(ねじれ)のリスクがあります。判断に迷うようであれば、「日常生活動作はOK、スポーツはNG」と考えていただくといいと思います。家事は体調に応じて行い、疲れたらすぐ休憩を取りましょう。

仕事については、デスクワークなら症状が軽度であれば可能ですが、長時間の立ち仕事や力仕事は控えるべきです。性生活は、医師から許可が出るまで控えてください。散歩程度の軽い運動は血栓予防にも有効です。「どこまで動いていいか不安」という声をよく聞きますが、「体が辛いと感じたら休む」を基本に、無理のない範囲で活動してください。

医療機関を受診すべきタイミング

以下の症状が一つでも現れたら、すぐに医療機関を受診してください。

  • 体重が1日で1kg以上増加
  • 尿量が1日500ml未満
  • 呼吸困難や胸痛
  • 激しい腹痛
  • 意識がもうろうとする
  • 足の腫れや痛み(特に片側)

これらは重症化や合併症のサインです。

受診を遠慮される方がいますが、OHSSは急激に悪化することがありますので、夜間や休日でも上記の症状があれば緊急受診が必要です。早期の適切な治療により、重症化を防ぐことができます。

生殖医療専門医が実践するOHSS予防法

卵巣刺激プロトコル

OHSS予防の第一歩は、適切な卵巣刺激法の選択です。AMH値、年齢、前回の反応性などを総合的に評価し、一人ひとりに最適な刺激法を選択していきます。「低刺激」「中刺激」という選択肢もあり、高刺激に比べると採卵数は少なくなりますが、質の良い卵子を安全に採取することができます。

また、高刺激法の中でも「GnRHアンタゴニスト法」は、従来のロング法やショート法と比較して、OHSS発症リスクを約50%減少させることができます。また、「GnRHアゴニストトリガー」を使用することで、従来のhCGトリガーと比べてOHSSリスクを劇的に減少させています。

予防的な薬物療法

カベルゴリン(ドパミンアゴニスト)の予防投与は、現在のOHSS予防の標準的な方法となっています。採卵日から内服することで、血管透過性の亢進を抑制し、OHSS発症を予防します。大きな副作用もほとんどなく、安全に使用できる薬です。

また、重症OHSSの発症が想定される場合には、GnRHアンタゴニストを投与することがあります。

胚凍結による全胚凍結法の選択

OHSS高リスクの方には、「全胚凍結法」を強く推奨しています。採卵周期では胚移植を行わず、すべての胚を凍結保存し、次周期以降に融解胚移植を行う方法です。妊娠が成立すると、hCG産生によりOHSSが重症化・遷延化するため、この方法により遅発型OHSSを予防することができます。

「すぐに移植したい」という気持ちは十分理解できますが、安全性を考慮すると最良の選択です。現在の凍結技術は非常に進歩しており、凍結による妊娠率の低下はほとんどありません。むしろ、子宮内膜の状態を整えてから移植することで、着床率が向上することもあります。

よくある質問と不安への回答

Q-A

Q1: 「OHSSになったら今後の妊娠に影響するの?」

A1: これは最もよく受ける質問です。答えは「いいえ、OHSSになっても妊娠は十分可能です」。実は、OHSSを発症する方は卵巣の反応が良好な証拠でもあり、良好胚が得られることが多いのです。OHSS経験後に無事に妊娠・出産された方が多数いらっしゃいます。

重要なのは、OHSSを適切に管理し、体調が回復してから胚移植を行うことです。全胚凍結法を選択した場合、2-3ヶ月後には安全に移植できます。「OHSSになったから妊娠できない」のではなく、「OHSSを乗り越えて、より安全に妊娠を目指す」という前向きな考え方を持っていただきたいです。

Q2: 「次回の治療への影響は?」

A2: OHSSを経験すると、「次も同じようになるのでは」という不安を抱かれます。しかし、一度OHSSを経験したことは、次回の治療にとって貴重な情報となります。前回の反応性を詳細に分析し、より安全な刺激法を選択できるからです。

前回の記録を詳細に検討し、FSH開始量の減量、アンタゴニスト法への変更、GnRHアゴニストトリガーの使用など、個別化した対策を立てることで、より安全な治療を行うことができます。また、予防的薬物療法も最初から導入します。実際、2回目の治療でOHSSが再発する率は、適切な対策により大幅に減少します。「前回の経験を活かして、より良い治療ができる」とポジティブに捉えてください。

まとめ

OHSSは確かに注意が必要な合併症ですが、正しい知識と適切な対処により、必ず乗り越えられます。

大切なのは、症状を早期に認識し、適切なタイミングで医療機関を受診すること。そして、医療チームと協力しながら、安全を最優先に治療を進めることです。不妊治療は時に困難を伴いますが、その先には新しい命との出会いが待っています。

一人で不安を抱え込まず、医療スタッフに相談してください。私たちは、あなたの夢の実現に向けて全力でサポートします。OHSSは一時的な試練ですが、それを乗り越えた先にはきっと幸せが待っています。前を向いて、一緒に歩んでいきましょう。

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