目次
「精液検査を受けてみたいけど、結果はいつわかるんだろう?」
「主人はいつ病院に行ったらいいの?」
「検査結果が悪かったらどうしよう‥‥」
私は、胚培養士として日々多くのご夫婦の精液検査を行っていますが精液検査を受けるにあたって不安な気持ちを感じていらっしゃるご夫婦も少なくありません。特に初回の検査を行う当日はご夫婦ともにかなり緊張した表情で待合室に座られていることも多いです。
今回のコラムでは、少しでも不安を和らげられる情報をお伝えできるよう精液検査の結果がいつわかるのか?当日にわかる項目は何か?そして検査結果をどう受け止めればよいのか?などを胚培養士の立場から詳しく解説しています。
精液検査の結果は当日にわかる?胚培養士が解説する検査の流れ
精液検査の基本的な流れと所要時間
精液検査では採取の当日すぐに検査を開始します。
まず採取された精液は約15~30分程度“液化”をさせます。この液化という過程は検査を行う上では重要で精液が均一な状態になることで正確な検査が可能になります。
液化後、マクラ―チャンバーと呼ばれる専用の計算板を用いて顕微鏡下で精子の数や運動性を確認します。基本的な検査項目であれば採取から1~1時間半程度で結果が出ます。最新の自動解析装置(CASA/SMAS)を導入しているクリニックではより詳細なデータを短時間で算出することが可能です。
ただし、検査当日のクリニックの混雑状況によっては結果説明まで3~4時間かかることもあります。特に土曜日などは検査が集中しやすいため時間に余裕を持って来院されることをおすすめします。
当日結果がわかる項目とわからない項目
当日に結果がわかる項目は以下の通りです
精液量
精子濃度(1mlあたりの精子の数)
総精子数
運動率
正常形態率/奇形率(正常な形態の精子の割合)
これらは精液検査の基本検査項目でWHO(世界保健機関)の基準に基づいて評価をしていきます。自動解析装置を用いた場合は精子の前進運動性や速度なども調べることが出来ます。
一方、以下の検査は専門的な処理が必要なため当日には結果が出ません
| 精子DNA断片化検査(DFI) | 1週間程度 |
| 精液酸化還元電位検査(ORP) | 1週間程度 |
| 感染症検査 | 1週間程度 |
これらの追加検査は基本検査で異常が見つかった場合や原因不明の不妊が続く場合に実施されることが多いです。
クリニックによる結果報告タイミングの違い
クリニックによって結果報告のタイミングは大きく異なります。当院では基本検査の結果は当日中に医師から説明していますが施設によって以下のようなパターンがあります。
当日に結果を説明する
検査後、早ければ1時間程度で結果説明を行います。多くのクリニックは予約制になっており待ち時間は最小限に抑えていますが患者様の数によっては待ち時間が増えることもあります。胚培養士から説明を行っている施設もありより専門的な質問や医師には聞きにくい質問にも対応できます。
後日(別日に)結果を説明する
再診の際に検査結果を説明します。検査当日は精液検体の提出だけを行い後日来院した時に結果をお伝えします。ご夫婦ともにタイミングやスケジュールを合わせて来院することができご夫婦双方の検査結果と合わせて総合的な治療方針を提案することができます。
オンラインで結果を説明する
最近ではオンライン診療を導入しているクリニックも増えています。基本的な数字のみオンラインでお伝えし詳しい説明は後日の診察で行います。
当院では患者さまの状況にあわせて当日または後日にて結果をお伝えしております。
精液検査当日に確認できる主要な検査項目
精液量・濃度・運動率の見方
精液検査でも特に重要となる4つの項目について胚培養士の視点から解説します。
精液量
WHOの基準値では1.4ml以上が正常とされています。採取時の緊張やストレスで量が少なくなることもあります。精液検査は基本的に1回の検査で判断は行わず複数回の検査で総合的に評価を行います。
精子濃度
WHOの基準値では1mlあたり1,600万個以上が正常範囲です。ただしこちらも採取する日によって変動が大きくあります。濃度が低い場合でも精液量×濃度=総精子数が基準値を上回れば妊娠の可能性は十分にあります。
運動率
WHOの基準値では運動率は42%以上、そのうち前進運動精子が32%以上あれば正常範囲です。運動率は、採取後の時間経過や温度変化などで容易に低下するため、精液検体をクリニックに持ちこむ場合でも、採取後少なくとも1時間半以内に検査を行うことが望ましいです。
正常形態率・奇形率
WHOの基準値では正常形態率4%以上(奇形率96%未満)が正常な値です。この数値に驚かれる方も多いのですが全体の95%の精子に何らかの形態異常があっても正常範囲ということであり、実際、精液中の精子には形態的に異常のある精子が非常に多く認められます。
形態異常には頭部の異常(大きすぎる、小さすぎる、形がいびつ)、中片部の異常(曲がっている、太すぎる)、尾部の異常(短い、巻いている、複数ある)などがあります。
WHOの基準値の考え方
WHOが定めている精液検査基準値は、5パーセンタイル値を示したものであり1年以内に自然妊娠した男性の精液所見のデータから下位5%の値を算出したものです。
この値をよく“平均値”と勘違いされている方もいらっしゃるのですが、この認識は大きな誤りで一般的には自然妊娠が可能となる最低限の指標(下限値)と表現されます。ただし、この基準値はあくまで目安となる値でありこの基準値を満たしていても妊娠できない場合や反対に基準値を下回っていても妊娠できるケースもあります。
当日の検査結果で注意すべきポイント
一時的な数値低下の要因
精液検査の結果は様々な要因で容易に変動します。検査の度に検査結果が大きく異なる患者様も少なく無いため一度の検査結果のみで診断を行うことはあまりありません。
検査当日の体調
当然ながら検査当日の体調は想像以上に大きく精液検査結果に影響を及ぼします。特に発熱がある場合は如実に悪い結果が出ることもあります。また、発熱後は約3ヶ月にわたって精子形成に影響が残ることもあります。最近ではコロナウイルス感染症やインフルエンザに感染した後の検査で精子濃度や運動率が顕著に低下する症例も珍しくありません。
禁欲期間
WHOでは精液検査を行う前に2~7日の禁欲期間を持つことを推奨しています。これより長い場合でも短い場合でも検査結果に影響が出ることがあります。また例えば、精液検査を行う3日前に一度射精していてもそれよりも前にもっと長い日数にわたって禁欲期間があるという場合には検査結果に影響が出る場合があります。理想的には3~4日のペースで定期的に射精しておくことをお勧めしています。
ストレス・疲労
仕事の繁忙期や睡眠不足が続いた後の検査では精子濃度や運動率が低下することがあります。また検査当日に極度に緊張している場合にも影響が現れることがあります。よくあるケースでは初回の検査において2回目以降のデータと全く異なる検査結果が出ることがあります。
再検査が必要なケースとは?
繰り返しになりますが精液検査は1回の検査結果だけで判断するのは適切では無く、特に以下のような場合には必ず再検査を受けるようにお勧めさせていただいております。
基準値を大きく下回る場合
精子濃度や運動率などの項目で基準値よりも著しく低い数値が出た場合は、約1週間~1ヶ月程度期間を置いてから再検査を行います。初回検査で数字が基準値を下回っていた場合でも2回目、3回目以降に正常範囲内となるケースもあります。
精液の採取方法が不適切だった場合
精液をこぼしてしまったり容器に入らなかったりするなどの採取時のトラブルや検査当日の朝にタイミングを持ってしまうなど禁欲期間が極端に短い場合、精液の採取時にコンドームを使ってしまった場合など精液の採取方法が不適切であった場合には再検査を行う必要があります。
検査までの条件が不適切だった場合
精液を採取してからクリニックに持ち込むまでに2時間以上かかってしまった場合、クリニックに持ってくるまでの温度変化が大きかった場合(特に冬場は、外は寒く電車内などは暖房で暑いなど)には通常よりもデータが悪く出ることがあり再検査となることがあります。
パートナーと一緒に結果を聞くメリット
検査結果はできるだけご夫婦で一緒に聞かれることをおすすめしています。男性側がお一人で結果を聞いた場合によく起こることとして、パートナーへの説明が不正確になったり重要な情報が抜け落ちたりバイアスのかかった状態(状態が悪いことを隠したりするなど)でパートナーに伝えることがあります。
検査結果をパートナーと一緒に聞くことは医学的な用語や数値の意味を正しく理解するだけでなく、お二人で情報を共有することで将来的な治療方針について建設的な話し合いを持つことにもつながります。
また、検査結果が思わしくない場合に男性はしばしば大きなショックを受けることがあります。パートナーからの十分な理解とサポートがあることで前向きに治療に取り組むこともできます。実際、ご夫婦で来院される機会が多いご夫婦の方が治療の離脱率は低い傾向にあります。
加えて、結果が悪かった場合に男性がお一人で診察を受けられると“うわの空”となってしまって医師からのお話しも全然聞いてなかった‥‥となるケースも実際にあります。パートナーと一緒に受けられることで第三者的な視点で診療を受けることができます。医師からのお話しを冷静に聞くことが出来なかった時には後から疑問が湧いても次の診察まで不安を抱えることになりかねません。
検査結果を踏まえた次のステップ
精液検査の結果が正常範囲内であってもそれで安心してはいけません。不妊の原因は非常に複雑で精液所見が正常でも他に原因がある可能性があり、妊娠を目指すためには戦略的にテンポよく治療を進めていくことがとても重要です。また、先述したDFIやORPは一般的な精液検査では図ることが出来ない項目であるため濃度や運動性が正常であっても精子の中身であるDNA・遺伝子が異常というケースも数多くあります。
治療のステップアップ目安
タイミング法
精液所見が良好な場合は患者様の年齢にもよりますが、まずは6~12周期程度のタイミング法を試みます。ただし、すでに1年以上不妊期間がある場合や女性の年齢が30代半ば以上という場合には3周期程度で次のステップへ進むことを検討します。
人工授精
精液所見が正常範囲内であってもタイミング法で妊娠に至らない場合には次のステップとして人工授精を検討します。人工授精では良好な運動精子を洗浄・濃縮して子宮内に注入するため自然妊娠よりも効率があるのではないかと考えられています。特に、濃度や運動率などが基準値ギリギリといった場合には早めに人工授精へステップアップすることが推奨されます。
高度生殖医療(ART)
人工授精を3周期程度行っても妊娠にいたらない場合や精液検査によって男性不妊の所見が認められる場合には体外受精や顕微授精(ICSI)が選択肢となります。顕微授精では卵子1個に対して1個の運動精子があれば治療を進めることが可能です。無精子症の場合でも精巣内精子採取術(TESE)と呼ばれる精巣から直接精子を回収する手術もあります。
男性不妊の治療法
精索静脈瘤の手術
男性不妊の所見が認められる場合に多い疾病として精索静脈瘤が挙げられます。精索静脈瘤が原因となっている場合には手術により精液所見が改善することがよくあり、早い方では手術後すぐにデータが改善することがあります。ただし、全ての方で一律に効果があるわけではなく手術を行っても100%改善するわけではないため年齢や他の要因も考慮して手術の適応か否かを決定します。
漢方、ビタミン剤、サプリメントの服用
軽度から中等度の乏精子症や精子無力症の場合ではビタミン剤、漢方薬、ホルモン剤などによる治療を数周期行います。特にビタミンE、ビタミンC、コエンザイムQ10などの抗酸化物質は精子のDNA損傷を減らし運動率を改善する効果が期待されています。しかしながら短期間に効果が出ることはほとんど無く大幅にデータが改善するということも多くはありません。
その他の精液検査項目の追加
基本的な精液検査が正常でも精子の受精能力やいわゆる精子の“質”に問題がある場合があります。精子のDNA損傷率を調べるDFI検査や精液の酸化ストレス値を調べるORP検査などの検査を追加することでより詳細な評価が可能です。これらの検査で異常が見つかった場合は生活習慣の見直しや、漢方、サプリメントなどの服用によりデータの改善を図ります。
生活習慣が精液検査に与える影響
生活習慣の改善で期待できる変化とは?
精液所見は生活習慣の影響を非常に大きく受けることが数多くの研究報告によって示されています。精液検査の結果が思わしくなかった場合でも生活習慣を見直すことにより結果が改善することもあります。
禁煙・禁酒
妊活や不妊治療において禁煙・禁酒は必須です。特に喫煙は精液データに影響を与えるほか精子DNAの損傷率も有意に増加させます。受動喫煙でも結果に影響するためパートナーの協力も重要です。クリニックによっては夫婦のいずれかもしくは両方に喫煙習慣がある場合に治療を断るという医療機関もあるようです。
運動習慣
普段から運動習慣を持つことも精液データの改善には有効と考えられています。週に3日程度、30分程度の有酸素運動(ウォーキング、水泳など)を続けることで精子の質が向上する可能性があります。ただし、過度な運動は逆効果でマラソンなどの激しい運動は精子形成を抑制することがあります。またサウナや長風呂など精巣の温度を上げる行為も避ける必要があります。
食生活
精液データの改善を図るには食事も非常に重要です。亜鉛、ビタミンE、オメガ3脂肪酸などを多く含む食品の摂取が推奨されます。またBMI18.5以下・25以上の肥満が認められる場合には精液所見に影響が出ることが報告されているため規則正しくバランスの取れた食事を心がけることが大切です。
よくある質問と胚培養士からのアドバイス

精液検査を受けられる際の準備やポイントについてよく受ける質問をまとめました。
Q1: 検査の前は射精するのを我慢した方がよいのでしょうか?
A1: WHOでは検査の前に2~7日間の禁欲期間を持つことを推奨していますが理想は3~4日です。また、定期的に射精する習慣をつけておくことが重要でありたとえ検査の3日前に一度射精をしていても、その前に長期間にわたる禁欲期間がある場合には検査結果に影響が出る場合があります。
Q2: 検査の前はどのように過ごしたらいいですか?
A2: 検査の前は激しい運動や飲酒、喫煙、睡眠不足は避けるようにしください。特に喫煙や飲酒は少ない量でも精液検査に影響が出ることがあります。また睡眠やストレスなどの影響も受けるため7時間以上の良質な睡眠を心がけリラックスした状態で検査に臨むことが大切です。
Q3: 精液を採取する際に気を付けることはありますか?
A3: 自宅で採取される場合にはどんなに遅くても採取後2時間以内には検査が行えるように提出してください。クリニックまでの運搬中は人肌程度の温度(25~37℃)を保ち直射日光や極端な温度変化を避けるようにしましょう。
Q4: 精液検体を持ち込む場合と院内で採取する場合では何が違いますか?
A4: 院内で精液を採取される場合、移動時間や温度管理によるデータ変動の心配がないため検体への負荷が少なく済みます。一方でクリニックに来られることで緊張される方も多いのでよりリラックスできる環境で採精を行いたい場合は持ち込みでも問題ありません。
Q5:先生から再検査を受けるように言われました。男性不妊ということでしょうか?
A5: 精液所見はその時の体調や環境によって大きく変動するため1回の検査結果だけで一喜一憂する必要はありません。また「前回より数値が悪くなった」「検査の度にどんどん悪くなっている」というご相談を受けることもよくあるのですが、普段精液データが良好な方がたまたま悪い日があるようにもともと精液所見が悪い方がたまたま検査を行った時にデータが良かったということもあります。
Q6: 精子濃度が前回よりも下がったのですが、なにか異常なのでしょうか?
A6: 同じ患者様でもその時のコンディションや検査までの条件によって数字は大きく変動します。例えば検査1回目に精子濃度が8,000万個/mlだった場合で、検査2回目に5,000万個/mlであっても数字自体は低下していますがいずれも正常範囲内でありWHO基準値も十分に満たしているため全く問題はありません。
Q7: 精液検体をクリニックに持って行く時の注意点はなんですか?
A7: 精子は温度の変化に非常に弱い性質があり季節の変化(外気温の変化)によっても影響を受けることが多くあります。特に夏場や冬場はクリニックまでの運搬中に外の環境から温度の変化を受ける機会も増えるため注意が必要です。
サウナや長風呂を控えることが推奨されているのは精子をこのような温度変化に曝露されるのを避けるためです。
Q8: 精液検査の結果が不良だった場合、データが改善するまでにはどのくらいかかりますか?
A8: 精子形成には約74日間かかるため精液検査が不良であった場合に生活習慣を改善してもすぐには結果に表れることはありません。約3ヶ月にわたって禁煙、禁酒、食事、運動、睡眠の改善など継続的に取り組む必要があります。
Q9: パートナーに知られずに検査結果を聞くことはできますか?
A9: 男性お一人で検査結果を聞くことは可能ですが検査結果によっては自信を失ったり、パートナーに申し訳ない気持ちになったりする患者様も多くいらっしゃいます。また、冷静に結果を聞くことが出来ず重要な情報を聞き逃してしまう可能性もあるためご夫婦で一緒に検査結果を聞かれることを推奨しています。
現代のライフスタイルや環境要因により男性不妊は増加傾向にあり決して珍しいことではありません。まずは現状を受け入れ夫婦で一緒に治療を進めていくことが大切です。
Q10: 精液検査は必ず受けないといけないものなのでしょうか?
A10: 不妊治療を進められる上では精液検査は避けて通ることができない項目です。精液検査は治療の初期検査として必ず行われる項目ですし、人工授精や高度生殖医療では提出していただいた精液検体を必ず処理してから治療に用いるためこの過程で必ず検査を行います。
Q11: 主人に男性不妊の所見が見つかった場合どうしたらいいでしょうか?
A11: 検査結果については夫婦でともに情報を共有し正直に話し合うことが重要です。数値を隠したり一人で抱え込んだりすると後々の治療にも影響する可能性もあります。お互いに批判をしたり責めたりすることなく「一緒に治療を進めていく」という姿勢を示すことが治療を継続していくモチベーションにもつながります。
Q12: 自分(男性側)に原因が見つかりましたが周りに相談できる人がいません。
A12: まずはかかりつけの医師に相談することが重要ですが、当院では臨床心理士、生殖看護認定看護師の資格を持った看護師や経験豊富な胚培養士が数多く所属しています。医師には聞きにくいこともコメディカルスタッフには聞きやすいことも多いかと思います。また同じ悩みを持つ患者どうしのオンラインコミュニティなどもあり仲間との交流が心の支えになることもあります。一人で悩まず利用できるサポートは積極的に活用するようにしましょう。