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「今月もまた生理が来てしまった…」そう落ち込んだ経験はありませんか?タイミング法を始めて数ヶ月、基礎体温も測って排卵検査薬も使って夫婦で頑張っているのになぜか妊娠しない。周りの友人の妊娠報告を聞くたびに焦りと不安、そして「私たちに何か問題があるの?」という疑問が頭をよぎることでしょう。
生殖医療専門医として多くのご夫婦を診察してきた中でタイミング法で妊娠しないことに悩まれている方々の切実な思いに日々触れています。実は、タイミング法で妊娠しない原因は一つではなく複数の要因が複雑に絡み合っていることが多いのです。
この記事では臨床経験と最新の医学的知見をもとにタイミング法で妊娠しない原因を詳しく解説し、次に取るべきステップについてもお伝えします。あなたの「なぜ?」に寄り添いながら前に進むための道筋を一緒に考えていきましょう。
タイミング法の基本と成功率の真実
タイミング法は、排卵日を予測して性交渉のタイミングを合わせる最も自然に近い不妊治療です。しかし診察室でよく聞かれるのが「正しくタイミングを取っているはずなのに、なぜ妊娠しないの?」という質問です。
実は健康な20代のカップルでも1回の排卵周期での妊娠率は約20~25%程度。つまり、4~5回に1回しか妊娠しないのが普通なのです。年齢が上がるにつれてこの確率はさらに低下し35歳では約15%、40歳では約5%まで低下します。
タイミング法で妊娠される方の多くは開始から4-6ヶ月以内に妊娠されています。しかし、6ヶ月を過ぎても妊娠しない場合は何らかの原因が隠れている可能性を考える必要があります。「もう少し頑張れば…」という気持ちもわかりますが時間も大切な要素です。特に35歳以降の方は早めの検査と次のステップの検討をお勧めしています。
タイミング法で妊娠しない5つの主な原因
排卵に関する問題
「基礎体温は二相性だから排卵している」と思われている方も多いのですが、実は基礎体温だけでは正確な排卵の有無はわかりません。診察では基礎体温が二相性でも実際には排卵していない「黄体化非破裂卵胞(LUF)」の方も意外と多くいらっしゃいます。
また、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の方は排卵が不規則になりやすく、適切なタイミングを合わせることが困難です。最近の研究では日本人女性の約5~8%がPCOSであることがわかっています。月経周期が35日以上の方、月経が不規則な方は一度詳しい検査を受けることをお勧めします。
さらに、ストレスや極端なダイエット過度な運動も排卵に影響を与えます。「仕事が忙しくて…」という患者さんも多いですが心身のバランスを整えることも妊娠への第一歩です。
卵管因子
卵管は精子と卵子が出会う大切な場所です。しかし過去のクラミジア感染や子宮内膜症などにより、卵管が詰まったり癒着したりすることがあります。一般的に卵管に問題がある方の多くは自覚症状がありません。
不妊症女性の約3割は卵管因子が原因と言われており、タイミング法を1年以上続けても妊娠しない方の約30%に卵管に問題があると考えられています。特に過去に腹部の手術歴がある方、強い月経痛がある方は要注意です。子宮卵管造影検査は少し痛みを伴うことがありますが、卵管の通過性を確認する重要な検査です。最近では痛みを軽減する方法も開発されていますので怖がらずに受けていただきたい検査の一つです。
男性因子
「不妊は女性の問題」という誤解がまだまだ根強いですが、WHO(世界保健機関)の報告では不妊原因の約半数に男性因子が関与しています。精子の数、運動率、形態に問題があるとどんなにタイミングが合っていても妊娠は困難です。
最近の研究では男性の精子の質も年齢とともに低下することがわかっています。また、喫煙や過度の飲酒、高温環境(サウナや長風呂)、ストレスなども精子に悪影響を与えます。最近は女性側だけでなく男性側の検査もすすめることが一般的です。男性の検査は女性に比べて簡単で精液検査一つで多くの情報が得られます。夫婦で協力して原因を探ることが妊娠への近道です。
子宮内環境の問題
受精卵が着床する子宮内膜の環境も重要です。子宮筋腫、特に粘膜下筋腫は着床を妨げる可能性があります。また子宮内膜ポリープも同様です。これらは超音波検査で発見できることが多いですが小さなものは見逃されることもあります。
最近注目されているのが慢性子宮内膜炎です。これは子宮内膜に慢性的な炎症が起きている状態で着床障害の原因となります。症状がほとんどないため発見が遅れがちですが子宮内膜の組織検査で診断することができます。タイミング法を6ヶ月以上続けても妊娠しない場合は子宮内環境についても評価することが必要となります。
原因不明不妊という現実
すべての検査をしても原因が見つからない「原因不明不妊」。実は不妊症の約20~30%を占めています。「原因がないのになぜ妊娠しないの?」と困惑されるお気持ちは本当によくわかります。
しかし、「原因不明」は「原因がない」のではなく「現在の医学では見つけられない原因がある」ということ。例えば卵子の質や精子の受精能力、受精卵の発育能力などは通常の検査では評価できません。原因不明の場合は体外受精で解決できる可能性が高く、実際多くの方が体外受精へのステップアップで妊娠されています。
年齢別に考える妊娠しない原因と対策
30代前半の場合
30代前半はまだ妊娠の可能性は十分にありますが20代と比べると確実に妊娠率は低下しています。この年代で多いのは仕事との両立によるストレスや生活習慣の乱れです。
よく「仕事のスケジュール調整などを考えると、ここまでに、絶対に妊娠を目指したい」と自ら追い詰めてしまう方がよくいらっしゃいます。医療者はなるべくご本人のご希望に沿うように最大限のサポートをさせていただきますが残念ながら妊娠は理想通りに実現できるものではありません。そこで「理想や完璧を求めすぎない」ことも大事となります。基礎体温、排卵検査薬、タイミング…すべてを完璧にこなそうとするとかえってストレスになりますので、30代前半ならまずは3~4ヶ月リラックスしてタイミング法を試し、それでも妊娠しない場合は積極的に検査を受けて早めのステップアップを検討することをお勧めします。
35歳以降の場合
35歳は医学的に「高齢出産」と定義される年齢です。卵子の質の低下が進み染色体異常のリスクも上昇します。この年代では時間との勝負という側面が強くなります。
35歳以降の患者様にはタイミング法は1-3ヶ月程度で見切りをつけ早めのステップアップを提案しています。「まだ自然に…」という気持ちもわかりますが1年後には状況がさらに厳しくなる可能性があります。そして、この年代では男性側の検査も必須です。精子の質も年齢とともに低下するため夫婦そろって早めの対応が必要です。
40代の場合
40代での妊娠は確かに難しくなりますが決して不可能ではありません。ただしタイミング法だけでの妊娠は非常に困難となり、多くの場合体外受精が第一選択となります。
40代の患者さんには現実的な話として「時間をかけすぎないこと」をお伝えしています。タイミング法に固執せず早期に体外受精を検討することで妊娠の可能性を最大限に高めることができます。何より大切なのはご夫婦でよく話し合い納得のいく選択をすることです。
見落としがちな生活習慣と環境要因
診察室で意外と多いのが「普通に生活しているだけなのに…」という声です。しかし現代の「普通の生活」が妊娠を妨げている可能性があります。
まず睡眠不足があげられます。スマートフォンの普及により就寝時間が遅くなっている方が増えています。睡眠不足はホルモンバランスを乱し排卵に影響を与えます。理想は22時~2時の間に深い睡眠を取ること。「仕事が…」という方も妊活中は睡眠を優先していただきたいです。
次に過度なカフェイン摂取です。1日3杯以上のコーヒーは妊娠率を低下させるという研究結果があります。また冷え性も見逃せません。子宮や卵巣への血流が悪くなり機能低下につながります。
環境要因では化学物質への暴露も問題です。プラスチック製品に含まれる環境ホルモンは生殖機能に影響を与える可能性があります。完全に避けることは難しいですができる範囲で気をつけることをおすすめします。
タイミング法の効果を高める5つのポイント
タイミング法の成功率を上げるポイントをご紹介します。
1.排卵日の1-2日前がベストタイミング
多くの方が「排卵日当日」にこだわりますが実は排卵日の1-2日前が最も妊娠率が高いのです。精子は女性の体内で2~3日生存できるため卵子の排卵を待ち構える形が理想的です。
2.頻度は週2~3回が理想
「排卵日のタイミングだけ」では少なすぎます。排卵日前後の1週間は2~3日に1回のペースで性交渉を持つことで確実に排卵をカバーすることができます。
3. 排卵検査薬の正しい使い方
陽性が出てから24~36時間以内に排卵します。陽性を確認したらその日と翌日にタイミングを取ることをお勧めします。
4. リラックスが何より大切
プレッシャーはかえって妊娠を遠ざけます。できるだけリラックスできる環境作りを心がけてください。
5. サプリメントの活用
葉酸はもちろん、ビタミンD、亜鉛、コエンザイムQ10なども妊娠に良い影響を与えることがわかっています。ただし過剰摂取は逆効果なので適宜医師に相談しながら適切に摂取してください。
いつステップアップを考えるべきか
「もう少しタイミングで頑張りたい…」この思いはとてもよくわかりますが医学的にはステップアップを検討するべき目安があります。
| 35歳未満の方 | タイミング法を4-6ヶ月続けても妊娠しない場合 |
| 35歳以上の方 | タイミング法を3-4ヶ月続けても妊娠しない場合 |
| 40歳以上の方 | すぐに体外受精を検討 |
これはあくまで目安ですが時期を逃すと後悔される方が多いのも事実です。
ステップアップを躊躇する理由として費用面、身体的負担、精神的不安などがあります。これらの不安は当然のことです。しかし時間は待ってくれません。特に年齢が高い方は1ヶ月1ヶ月が貴重です。不安な点は医師にしっかり相談し納得した上で次のステップに進むことが大切です。
次のステップ:人工授精・体外受精への移行
タイミング法の次のステップとして、人工授精(AIH)があります。人工授精は、排卵時期に合わせて精子を子宮内に直接注入する方法です。精子が卵子に到達する確率を高めることができます。
人工授精の妊娠率は1回あたり約10%程度。タイミング法より少し高い程度ですが軽度の男性因子がある場合や性交障害がある場合には有効です。人工授精を通常3~6回試みて妊娠しない場合は体外受精を検討します。
体外受精は卵子と精子を体外で受精させ受精卵を子宮に戻す方法です。成功率は年齢により異なりますが35歳未満で約40%、35~39歳で約30%、40歳以上で約15%程度です。
「体外受精は最後の手段」と思われがちですが「妊娠を目指すための確率を高める確実な方法」と考えることをおすすめします。特に原因不明不妊の方には診断的治療としての意味もあります。受精の様子を直接観察できるため今まで分からなかった原因が判明することもあります。
よくある質問と専門医からの回答

Q1: タイミング法を何回まで続けるべきですか?
A1: 年齢によりますが35歳未満なら4-6回、35歳以上なら3回を目安にしています。それ以上続けても妊娠率はほとんど上がりません。
Q2: 仕事が忙しくてタイミングが合わせられません
A2: 完璧を求める必要はありません。排卵日前後の1週間で2~3回タイミングが取れれば十分です。それも難しい場合は人工授精も選択肢の一つです。
Q3: 夫が検査を嫌がります
A3: 男性の検査への抵抗感は理解できます。しかし精液検査は痛みもなくプライバシーも守られます。「二人の問題」として一緒にクリニックに来て検査を受けていただくことをお勧めします。
Q4: 体外受精は痛いですか?
A4: 採卵時は麻酔を使用するため痛みはほとんどありません。注射も最近は細い針を使用するため以前より格段に楽になっています。
Q5: 体外受精になったら、費用が心配です
A5: 2022年4月から体外受精も保険適用となり経済的負担は大幅に軽減されました。また、自治体によっては追加の助成制度もあります。医療機関によっては1周期あたりの費用の概算などを提示することもできますのでまず相談することをおすすめします。
まとめ:あなたの妊活を応援します
タイミング法で妊娠しないことに悩んでいるあなたへ。この記事を最後まで読んでいただきありがとうございます。
妊活はゴールの見えないマラソンのようなもの。時に立ち止まりたくなることもあるでしょう。でもあなたは一人ではありません。生殖医療の進歩により以前は難しかった妊娠も可能になってきています。
大切なのは一人で抱え込まないこと。パートナーと、そして私たち医療者と一緒に最適な道を見つけていきましょう。タイミング法で妊娠しないことは決して「あなたのせい」ではありません。医学的な原因があることがほとんどです。
もし今「次はどうしたらいいの?」と迷っているならまずは専門医に相談してください。あなたの年齢、体の状態、ライフスタイルに合わせた最適な治療法を一緒に考えさせていただきます。
赤ちゃんを望むあなたの思いがいつか必ず実を結ぶことを心から願っています。