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「そろそろ赤ちゃんがほしいな」と思ったとき、楽しみな気持ちと一緒に「でも、何から始めればいいの?」「私の体は大丈夫かな」という不安がよぎる方は少なくありません。ネットやSNSでは、葉酸、基礎体温、排卵検査薬、ブライダルチェックと次々に情報が出てきます。調べるほど焦ってしまうこともあるでしょう。
診察室では「もっと早く知っていればよかった」という声をよく聞きます。一方で、「まだ何もしていないのに受診していいのか迷った」とおっしゃる方も大勢いらっしゃいます。どちらの気持ちも、とても自然なものです。
この記事では、不妊治療のクリニック現場で多くのカップルと向き合ってきた生殖医療専門医の立場から、妊活で本当に優先すべきことを順番に整理しました。学会や国の公式情報に基づき、最新の制度にも触れています。
妊活を始める前に知っておきたい3つの基礎知識
妊活とは?「排卵日を狙うこと」だけではありません
「妊活」は「妊娠活動」を略した言葉で、医学用語ではありません。私が患者さんにお伝えしているのは、妊活とは排卵日に合わせて性交することだけではない、ということです。妊娠しやすく、健やかな妊娠を続けられる体と環境を、ふたりで整えること全体を指します。
この考え方は、国の施策としても後押しされています。こども家庭庁は2025年5月22日に「プレコンセプションケア推進5か年計画」を公表しました。プレコンセプションケアとは、直訳すると「妊娠前のケア」です。計画では、性別を問わず、適切な時期に性や健康の正しい知識を身につけ、妊娠・出産を含めた将来設計や将来の健康を見据えて健康管理を行うことと位置づけられています。
つまり妊活は、妊娠を急ぐための特別なイベントではありません。将来の自分の健康にもつながるセルフケアです。「具体的な予定はまだだけど気になる」という段階から始めて、まったく問題ありません。
年齢と「妊娠する力(妊孕性)」の関係は男女共通
妊娠する力のことを、医学用語で「妊孕性(にんようせい)」と呼びます。日本産科婦人科学会は、女性の妊孕性は30歳を過ぎると低下し始め、35歳を過ぎると低下のスピードが速まると説明しています。主な理由は、卵巣にある卵子の数と質の低下に加え、子宮筋腫や子宮内膜症といった病気が増えることです。
男性も無関係ではありません。同学会によれば、男性の加齢による影響は女性より緩やかなものの、35歳を過ぎると精子の質が少しずつ落ちていくとされています。
年代別の不妊の頻度については、日本産婦人科医会の資料に20代前半では5%以下、20代後半で約9%、30代前半で約15%、30代後半で約30%、40歳以上では60%を超えるという数字があります。
こうした数字を見て不安になる必要はありません。年齢の影響を知っておく目的は、焦ることではなく、「いつ頃までに何をするか」を計画的に考えることです。
「1年妊娠しなければ受診」は全員に当てはまるわけではない
日本産科婦人科学会は、妊娠を望む健康な男女が避妊せずに性交していても1年間妊娠しない場合を「不妊症」と定義しています。ただし、この「1年」はすべての人に同じように当てはまるわけではありません。
日本生殖医学会は、米国生殖医学会が2023年に「女性が35歳未満なら1年、35歳以上なら6か月」を検査開始の目安として示したことを紹介しています。そのうえで、日本でも年齢が高い場合は1年を待たずに検査と治療を始めるほうがよいという考え方が広まっているとしています。
また、排卵がない、子宮内膜症がある、過去に骨盤腹膜炎にかかったことがある、といった場合は妊娠しにくいことがわかっており、1年を待たずに検査や治療を始めたほうがよいとされています。
「期間」より「自分の状況」で判断する。これが専門医としていちばん伝えたいポイントです。
【生殖医療専門医が推奨】妊活は何から始める?最初の5ステップ
ここからは、診療経験を踏まえて「この順番で進めるとムダが少ない」と考える5つのステップを紹介します。すべてを完璧にこなす必要はありません。できることから一つずつ取り組んでみてください。
ステップ1 パートナーと「ふたりの妊活」を話し合う
最初にしてほしいのは、サプリを買うことでも、病院を予約することでもありません。パートナーとの話し合いです。
妊活は女性だけの課題だと思われがちですが、日本産科婦人科学会によれば、不妊の原因は男性側と女性側がほぼ半々です。男性も最初から当事者として関わることが、結果的に近道になります。
話し合っておきたいテーマは次のとおりです。
- 何歳頃までに、何人くらい子どもがほしいか
- 仕事やキャリアの予定(異動・転勤・昇進試験など)
- 半年〜1年妊娠しなかったら、検査を受けるか
- 不妊治療が必要になった場合、どこまで考えるか(費用・通院の負担)
診察室では、女性が一人で情報を集めて疲れ切ってしまい、男性は「そんなに大変だと思っていなかった」と驚くというすれ違いをよく見かけます。答えが出なくても大丈夫です。お互いの気持ちを知っておくことがこの先の支えになります。
ステップ2 月経周期を記録して、自分の排卵リズムを知る
次に、自分の月経周期を知りましょう。日本産科婦人科学会は、月経が規則的な人では、月経開始日からおよそ2週間後に排卵が起こると説明しています。一方で、月経が不順な人は、月経のような出血があっても排卵していないことがあるため注意が必要です。
まずは、月経が始まった日と終わった日を2〜3か月記録してみてください。周期が毎回どのくらいずれるか、経血量や痛みはどうか、といった情報は、受診したときにも診断の大きな手がかりになります。
基礎体温・アプリ・排卵検査薬の上手な使い分け
基礎体温は、排卵が起きているかを振り返るのに役立ちます。排卵が正常にあれば、月経開始から排卵までは低温期、排卵から次の月経までは高温期となり、グラフにすると二相性になります。ただし、体温が上がるのは排卵の後です。そのため、排卵日を事前に当てる用途には向きません。
アプリの排卵予測は、過去の周期の平均から計算した目安です。周期が乱れやすい方ではずれることがあります。
排卵検査薬は、尿中の黄体形成ホルモン(LH:排卵を起こす指令を出すホルモン)の濃度から排卵を予測するもので、陽性が出るとおよそ1日後に排卵するとされています。
専門医としてのおすすめは、「アプリで大まかな時期をつかみ、排卵検査薬で絞り込む」方法です。基礎体温は毎朝の測定が負担になるなら、無理に続けなくてかまいません。
ステップ3 プレコンセプションケアで体を整える
葉酸サプリは「妊娠がわかる前」から
葉酸はビタミンB群の一種です。赤ちゃんの脳や脊髄のもとになる「神経管」がうまく閉じない病気(神経管閉鎖障害)のリスクを下げることがわかっています。
こども家庭庁が公開している厚生労働省の資料では、神経管の形成には受胎後およそ28日が重要な時期であり、妊娠を計画している女性は食事に加えてサプリメントなどで1日400μgの葉酸をとることが望ましいとされています。
受胎後28日頃は、多くの方がまだ妊娠に気づいていない時期です。だからこそ、妊活を決めたその日から飲み始めることをおすすめしています。
実際には不足している方も多く、妊娠していない30歳未満の女性の葉酸摂取量は1日300μgにも届いていないと報告されています。一方で、同じ資料はサプリメントのとりすぎにも注意が必要としています。複数のサプリを重ねて飲むのは避けましょう。
動画で見る葉酸

体重・喫煙・飲酒の見直しは男女一緒に
日本生殖医学会は、女性で不妊になりやすい要因として極端なダイエットによるやせと肥満のどちらも排卵に影響しうること、たばこの有害物質が卵巣機能と卵子の質を低下させることを挙げています。男性についても、喫煙・過度の飲酒・肥満・睡眠不足が精子の質を大きく下げ、特に喫煙は精子のDNAを傷つけるとしています。
焦らなくて大丈夫な理由もあります。精子がつくられるまでには74日ほどかかるため、生活習慣の改善はすぐに結果が出るものではありません。「3か月後の自分たちのため」と考えて、ふたり一緒に少しずつ整えていきましょう。
持病や常用薬は自己判断でやめずに主治医へ相談
持病がある方は、妊活を始める前に主治医に相談してください。服用中の薬が妊娠初期に避けるべき薬に当たる可能性があり、必要に応じて別の薬に切り替えることがあるためです。
一方で、自己判断で薬をやめると、持病が悪化して妊娠に悪影響が出ることもあります。こども家庭庁のサイトから案内されている国立成育医療研究センターの「妊娠と薬情報センター」も、あわせて活用するとよいでしょう。
ステップ4 風しん抗体と性感染症をチェックする
妊活前に必ず確認してほしいのが風しんの抗体(免疫)です。政府広報によると、風しんのワクチンは弱毒化したウイルスを使うため妊娠中には接種できず、接種後約2か月は妊娠を避ける必要があります。「妊活を始めてから気づいた」では時間をロスしてしまうので早めの確認が大切です。
自治体によっては、妊娠を希望する女性だけでなく、同居するパートナーなども対象に、抗体検査や予防接種の費用を助成しています。お住まいの自治体のサイトを確認してみてください。
もう一つ見落とされがちなのがクラミジアなどの性感染症です。クラミジアに感染すると、自覚がないまま卵管に炎症が起き、卵管が詰まってしまうことがあります。症状がなくても、一度は検査しておくと安心です。
ステップ5 ブライダルチェック(妊活検診)で現在地を知る
女性の検査とAMHの正しい読み方
女性の基本的な検査は次の3つです。
| 内診・経腟超音波検査 | 子宮筋腫や卵巣の腫れなどがないかを調べます。 |
| ホルモン検査 | 月経周期に合わせて採血し、ホルモンのバランスを確認します。 |
| AMH検査 | 卵巣に残っている卵子の数の目安を調べます。 |
診療では、数値が低くて「もう妊娠できないのでは」と泣いてしまう方にお会いします。しかし、AMHが低くても自然妊娠する方はたくさんいます。反対に、AMHが高すぎる場合は、排卵が起こりにくい多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)が隠れていることもあります。数値だけで一喜一憂せず、年齢や他の検査と合わせて医師と一緒に解釈することが大切です。
男性の検査は「精液検査」が基本
男性の基本検査は精液検査です。自己採取した精液で精子の数や運動率などを調べるもので、不妊症を診ている産婦人科や泌尿器科で受けられます。
日本生殖医学会によると、男性不妊は原因不明のものが最も多い一方で、原因が判明するものの中では「精索静脈瘤」(精巣周囲の静脈が拡張して精巣の温度が上がる病気)が最多で、自覚症状が少ないため検査で初めて見つかることが多いとされています。
精液検査は痛みもなく、費用も比較的抑えられます。女性の検査と同じタイミングで受けていただくことを強くおすすめしています。
自己流タイミング法で失敗しないためのポイント
妊娠しやすいのは「排卵日当日」より少し前
日本産科婦人科学会は、最も妊娠しやすいのは排卵の直前、つまり排卵の1〜2日前から排卵当日と説明しています。精子は女性の体内で数日間生きられますが、卵子が受精できる時間は排卵後およそ1日と短いためです。
ここでよくある失敗が、「排卵日当日の1回」に絞ってしまうことです。排卵日の予測にはどうしても誤差があります。ピンポイントを狙うと、実際には排卵が終わっていたということも起こりえます。
専門医としては、排卵検査薬が陽性になる数日前から排卵後1日頃まで、2〜3日に1回を目安に夫婦生活を持つ方法をおすすめしています。また、「精子をためておいたほうがいい」と長く禁欲するのは逆効果になることがあるので、控えましょう。
「排卵日に義務的に」がふたりを追い詰めることも
タイミング法を続けていると、夫婦生活が「妊娠のための作業」になり、ふたりともつらくなることがあります。日本生殖医学会もストレスは性欲や性機能にも影響し、妊活中の比較的若い世代で性機能障害が増えていると指摘しています。
クリニックでも、「排卵日と言われるとできなくなってしまう」と打ち明ける男性は珍しくありません。これは誰にでも起こりうることで恥ずかしいことではありません。
排卵日を毎回パートナーに細かく伝えるより、「この1週間くらい」とゆるやかに共有するだけで、プレッシャーが和らぐことがあります。性交がうまくいかない状態が続く場合は、人工授精など別の方法もあります。一人で抱え込まずに相談してください。
1年待たずに受診を考えたいサイン
次のような項目に一つでも当てはまる場合は、期間にかかわらず早めに産婦人科や当院のような不妊治療専門の施設で相談しましょう。
- 女性の年齢が35歳以上で、半年妊娠しない
- 月経周期が24日未満、または39日以上と極端に不規則、あるいは月経が止まっている
- 月経痛が年々ひどくなる、鎮痛剤が効きにくい
- 経血量が多い、レバーのような塊が出る
- クラミジアなど性感染症や、骨盤腹膜炎にかかったことがある
- 流産を経験したことがある
- 性交痛がある、性交がうまくいかない
- パートナーに停留精巣・精巣の手術歴や、抗がん剤治療の経験がある
月経痛や経血量の多さは、「生理はこういうもの」と我慢されがちです。しかし日本生殖医学会は、月経量が多い、月経痛が強いといった症状の背景に、子宮や卵巣の病気が隠れている可能性があるとしています。
「こんなことで受診していいのかな」と迷う必要はありません。検査だけでも受けられます。早めに状況を知ることは、選択肢を増やすことにつながります。
不妊治療の保険適用と公的サポート【2026年最新】
保険適用の条件は「年齢」と「胚移植の回数」
不妊治療は2022年4月から公的医療保険の対象となり、自己負担は原則3割になりました。体外受精・顕微授精などの生殖補助医療(ART)には、次の条件があります。
- 治療開始時点で女性が43歳未満であること
- 回数の上限は、初めて治療を始めた時点の年齢が40歳未満なら1子ごとに通算6回まで、40歳以上43歳未満なら通算3回まで
意外と知られていないのが、この回数は採卵の回数ではなく胚移植の回数で数えるという点です。また、タイミング法や人工授精といった一般不妊治療には年齢や回数の制限がありません。さらに、治療費が高額になった場合には、月ごとの上限額を定めた高額療養費制度も使えます。
「保険が使えるうちに急いで体外受精を」と焦る必要はありません。早めに検査を受け、自分たちに合った治療を落ち着いて選べる時間を確保すること。それがいちばんの「保険」だと私は考えています。
無料で相談できる「性と健康の相談センター」
「病院に行くほどではないけれど、誰かに相談したい」という方には、公的な窓口があります。こども家庭庁によると、都道府県などに設置された「性と健康の相談センター」で、不妊症や不育症について医学的・専門的な相談ができ、経験者によるピアサポートも行われています。
国の取り組みも広がっています。こども家庭庁は、性や健康の正しい知識を広める「プレコンサポーター」を、2030年5月までに5万人以上養成することを目指し、養成講座を始めました。また、2026年3月には、男性向けにプレコンの知識を学べる「メンズプレコン検定」のサイトも公開されています。パートナーと一緒に挑戦してみるのもおすすめです。
妊活ストレスと上手に付き合うために
妊活は、結果が見えにくいぶん心がすり減りやすいものです。生理が来るたびに落ち込む。SNSで友人の妊娠報告を見てつらくなる。そんな自分を責めてしまう。診察室でもこうした声を本当によく耳にします。
まず知っておいてほしいのは、あなたは一人ではないということです。日本産科婦人科学会は、日本では夫婦の4.4組に1組が不妊について悩んでいると紹介しています。妊娠しにくさは、決して特別なことではありません。
心を守るために、次のような工夫を試してみてください。
- 「妊活を考えない日」をつくる:月に数日は、排卵や体温のことを忘れて過ごしましょう。
- 生理が来た日は、自分をねぎらう:「今月もよく頑張った」と、好きなものを食べる日にしてもいいのです。
- 気持ちを言葉にする:パートナー、信頼できる友人、相談センターなど、話せる場所を持ちましょう。
当院では、不妊治療に特化した心理士によるカウンセリングも実施しております。つらさが続くときは、治療の相談と同じように心の相談もしてください。心のケアも、妊活の大切な一部です。
引用・参考にした公的情報
| 発信元 | ページ | 本文での主な使用箇所 |
|---|---|---|
| 日本産科婦人科学会 | 不妊症(一般の皆様へ) | 不妊症の定義、年齢と妊孕性、検査、AMH、タイミング、4.4組に1組 |
| 日本生殖医学会 | 生殖医療Q&A(Q2・Q5) | 35歳以上は6か月の受診目安、リスク因子、男性不妊 |
| こども家庭庁 | プレコンセプションケア推進5か年計画 性と健康の相談センター 保険適用リーフレット プレコンサイト | 最新施策、相談窓口、保険適用条件 |
| 厚生労働省(こども家庭庁掲載資料) | 妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針 | 葉酸400μg |
| 政府広報オンライン | 風しんの予防接種 | 接種後約2か月の避妊 |