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胚培養の定義:なぜ体外で育てる必要があるのか?

胚培養とは、体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)によって受精した卵子(受精卵)を、体外(培養室_インキュベーター)で育てる過程のことを指します。

この胚培養の目的は、単に受精卵を保管することではありません。第一に、受精卵を子宮に戻す(胚移植する)ことができる状態まで、母体(卵管や子宮)の環境に限りなく近い、安全で安定した環境で発育をサポートすること。そして第二に、受精卵が正常に分割・成長しているかを確認し、多くの受精卵の中から最も妊娠につながる可能性の高い、質の良い胚を選ぶ(選別する)ことです 。

体外受精では複数の卵子を採卵・受精させることが多いですが、すべての受精卵が着床可能な「胚盤胞」まで成長できるわけではありません。胚培養は、胚が持つ生命力やポテンシャルを「可視化」するための、最初の重要な「選別プロセス」なのです。この選別(成長が途中で止まることも含め)は、多くの場合、卵子や精子の質、あるいは受精卵の染色体情報といった胚の持つ内在的な要因によるものであり、患者さまご自身のせいではありません。

採卵から胚移植までの流れと胚培養

不妊治療(高度生殖医療)の全体像の中で、胚培養は「受精」「移植」をつなぐ、培養室(ラボ)での核心的な工程です。

採卵成熟した卵子を体外に取り出す。
受精精子と出会わせる(体外受精または顕微授精)。
胚培養受精卵をインキュベーター(培養器)で育てる【★ここです】。
胚移植良好に発育した胚を子宮内に戻す(または将来の使用のために凍結保存する)。
妊娠判定胚が着床したかを確認する。

このように、胚培養は体外受精のプロセスにおいて不可欠なステップです。

受精卵はどのように成長する?胚培養のプロセスと日数

採卵・受精後、培養室ではご自身の受精卵が目まぐるしいスピードで成長を遂げています。
ここでは、その日ごとの変化を解説します。

胚の成長プロセス:日ごとの変化

培養0日目(採卵・受精日)

採卵によって取り出された卵子と、ご主人(パートナー)の精子を、体外受精(ふりかけ法)または顕微授精(ICSI)によって受精させます。この日からインキュベーター(培養器)での培養がスタートします。

培養1日目:受精の確認 (2PN)

受精から約1日後、正常に受精が成立したかを確認します。正常な受精卵は、卵子由来と精子由来の2つの「前核(Pronucleus, PN)」が観察されます。これを「2PN期」と呼びます。この時点で、3つ以上の前核が見える「異常受精」や、前核が見えない「未受精」が判明します。

培養23日目:分割期胚(初期胚)への成長

正常に受精した卵(この時点で「胚」と呼びます)は、細胞分裂(Cleavage)を開始します。

  • 培養2日目:4細胞(4 cell)
  • 培養3日目:8細胞(8 cell)
    上記が良好な発育の目安とされます。この段階の胚を「分割期胚(ぶんかつきはい)」または「初期胚」と呼びます。

培養4日目:桑実胚(そうじつはい)

細胞分裂がさらに進み、8~16細胞を超えると、細胞同士が強く接着し始め、一つの塊のようになります。この見た目が「桑の実」に似ていることから、「桑実胚(そうじつはい, Morula)」と呼ばれます。自然妊娠の場合、この桑実胚の段階で卵管から子宮に到達すると言われています。

培養56日目:胚盤胞(はいばんほう)への到達

桑実胚がさらに発育すると、胚の内部に「胞胚腔(ほうはいこう)」と呼ばれる空洞(水が溜まった空間)ができ、細胞は大きく2種類に分化します。

  • 内部細胞塊 (ICM):将来「胎児」になる部分
  • 栄養外胚葉 (TE):将来「胎盤」になる部分
    この状態になった胚が「胚盤胞(はいばんほう, Blastocyst)」であり、子宮内膜に着床できる準備が整った状態です。

成長スピードには個体差があり、培養5日目で胚盤胞になるものもあれば、6日目(あるいは7日目)で到達するものもあります。

「初期胚(分割期胚)」と「胚盤胞」の違いと移植戦略

「分割期胚(培養2~3日目)」と「胚盤胞(培養5~6日目)」は、どちらも胚移植の対象となり得ますが、戦略が異なります。

初期胚移植培養2~3日目の分割期胚を子宮に戻す方法。
胚盤胞移植培養5~6日目の胚盤胞まで育ててから子宮に戻す方法。

かつては培養液や培養技術の限界から、分割期胚移植が主流でした。しかし現在では技術が進歩し、胚盤胞まで長期培養することが一般的になっています。胚盤胞移植は、胚盤胞まで到達できた「生命力の強い胚」を選別できるため、移植1回あたりの着床率・妊娠率が分割期胚移植よりも高いことが知られています。

一方で、胚盤胞まで培養する(長期培養)ことは、途中で成長が止まり、移植そのものがキャンセルになるリスクも伴います。そのため、採卵できた数、患者様の年齢、過去の治療歴などに基づき、医師が分割期胚で移植するか、胚盤胞まで培養するかを総合的に判断します。

胚の「成績表」:グレード(評価)の見方と基準

胚培養における最大の関心事の一つが、胚の「グレード(評価)」です。これは胚の「成績表」のようなもので、胚培養士が胚の見た目(形態)を評価し、点数をつけます。

なぜ胚を評価(グレーディング)するのか?

胚の評価(グレード)を行う最大の目的は、その胚が着床・妊娠する可能性がどの程度あるかを「見た目(形態)」で判断し、複数の胚がある場合に、移植する胚の優先順位をつけるためです。

ここで非常に重要なことは、この評価はあくまで「形態学的評価」であり、胚の染色体異常の有無を診断するものではない、という点です。見た目のグレードが良くても染色体異常を持つ場合もあれば、その逆もあり得ます。とはいえ、形態が良好な胚ほど、染色体異常が少ない傾向にあることも事実です。

分割期胚(初期胚)のグレード評価:「Veeck分類」

培養2~3日目の「分割期胚」の評価には、「Veeck分類(ヴィークぶんるい)」がよく用いられます。
これは主に以下の3つの観点で評価されます。

細胞分裂のスピード(割球数)培養日数に対して適切な細胞数か(例:3日目で8細胞など)。
割球(かっきゅう)の均一性分裂した細胞の大きさが均一に揃っているか。
フラグメントの量細胞の断片(フラグメント)がどの程度存在するか。

これらを総合し、最も良好な「グレード1」から、成長が停止した「グレード5」まで分類されます。一般的にグレード1および2が良好胚とされます。

胚盤胞のグレード評価:「Gardner分類(ガードナー分類)」

培養5~6日目の「胚盤胞」の評価には、世界的に「Gardner分類(ガードナー分類)」が広く用いられています。これは以下の3つの要素の組み合わせで表されます(例:「4AB」など)

成長ステージ(数字)の見方
まず、胚盤胞がどの程度「拡張」しているか、その成長段階(ステージ)を数字の1~6で評価します。

1~2早期胚盤胞(空洞ができ始めたばかり)
3~4胚盤胞(空洞が広がり、ICMとTEが明瞭。移植や凍結の対象となることが多い)
5孵化中胚盤胞(Hatching, 透明帯から胚が脱出し始めている)
6孵化後胚盤胞(Hatched, 完全に透明帯から脱出している)

数字が大きいほど成長が進んでいることを示します。
次に、胚盤胞を構成する2種類の細胞を、それぞれA, B, Cの3段階で評価します。

内部細胞塊 (ICM):[ 将来の胎児 ] になる部分。

  • A:細胞数が多く、緊密にまとまっている(最も良好)
  • B:細胞数が中程度で、やや緩くまとまっている
  • C:細胞数が少ない

栄養外胚葉 (TE):[ 将来の胎盤 ] になる部分。

  • A:細胞数が多く、均一に配置されている(最も良好)
  • B:細胞数がやや少なく、不均一
  • C:細胞数が少ない

グレードの具体例(例:4AB, 5AA, 3BC

これらの評価を組み合わせて、以下のように表記します。

例:「4AB

  • 「4」:成長ステージが4(拡張胚盤胞)
  • 「A」:ICM(胎児側)の評価がA(良好)
  • 「B」:TE(胎盤側)の評価がB(中程度)

意味:拡張しており、胎児になる部分の状態が特に良い胚盤胞。

例:「5AA」

  • 「5」:成長ステージが5(孵化中)
  • 「A」:ICM(胎児側)の評価がA(良好)
  • 「A」:TE(胎盤側)の評価がA(良好)

意味:まさに着床しようとしており、胎児側・胎盤側ともに最高評価の胚盤胞。

胚のグレードと妊娠率の関係【知っておきたい真実】

不妊治療に臨む多くの方が、この「グレード」に最も敏感になられるかもしれません。「グレードが低い」と告げられた時のショックは計り知れないものがあります。ここでは、グレードと妊娠率に関する「真実」を、客観的なデータに基づいて解説します。

グレードは妊娠率・出産率にどう影響する?

結論から言えば、胚のグレードと妊娠率・出産率には「相関関係がある」ことは医学的な事実です。グレードが良好な胚ほど、着床・出産に至る確率が高い傾向があります。

2023年に発表された、10,964回の単一胚盤胞移植を対象とした大規模な研究データ(が引用する論文)によると、生児出生率(赤ちゃんが生まれる確率)は以下の通りでした。

良好胚 (AA, AB, BA)44.4%
中等度胚 (BB)38.6%
低グレード胚(Cがつくもの)30.2%

専門医の視点から見ると、この差は「多くの患者様が思われているほどは関係ない」とも言えます。なぜなら、「低グレード胚」と評価されても、3割以上の人が出産に至っているという事実は、決して無視できない「希望」だからです。同研究では、グレードが最も低いとされる「CC」評価の胚盤胞でも、14%の出産率が報告されています。

専門医の見解:グレードと出産後の影響(流産・転帰)

では、低グレード胚で妊娠した場合、次に「流産しやすいのではないか?」「生まれた子供に何か影響があるのでは?」という不安がよぎるかもしれません。

この点に関して、先に紹介した大規模研究は、非常に重要な結論を示しています。

流産率について:
妊娠が成立した場合、低グレード胚と良好胚の間で、流産率に統計的に有意な差はなかった。

周産期転帰(出産時の赤ちゃんの状態)について:
早産率、出生児の体重・身長においても、低グレード胚と良好胚の間に、臨床的に重要となる有意な差はなかった。
つまり、胚の「グレード(見た目)」が主に影響するのは、「着床するかどうか(妊娠率・出産率)」という最初のハードル(44.4% vs 30.2%)までです。
ひとたびそのハードルを越えて「着床・妊娠」してしまえば、その後の「妊娠継続のしやすさ(流産率)」や「赤ちゃんの健康状態(周産期転帰)」は、グレードとはほぼ関係がない、ということが示されています。グレードが低いことは、決して「絶望」を意味するものではありません。その胚が持つ力を信じることが大切です。

胚を育てる環境と最新技術

胚の成長は、胚自身のポテンシャルだけでなく、それを「育てる環境」にも大きく左右されます。ここでは、クリニックの技術力を示す「培養室」の重要性を解説します。

胚培養室(ラボ)の環境:子宮内と同じ環境を再現

胚培養が行われるインキュベーター(培養器)は、まさに「お母さんの子宮や卵管の代わり」を担う重要な機械です。胚は非常にデリケートであり、わずかな環境の変化(温度低下、光、pHの変化)が強いストレスとなり、発育を妨げる可能性があります。

そのため、胚培養室(ラボ)では、温度とガス濃度(酸素、二酸化炭素)が母体内に限りなく近い状態に、24時間365日、厳格に管理されています。この高品質な培養環境を維持・管理するノウハウこそが、クリニックの「技術力」の証となります。

胚を守り育てる専門家「胚培養士」の役割

胚培養室(ラボ)で、医師の指示のもと、実際に胚の培養・管理を行うのが「胚培養士(Embryologist)」という専門家です。

胚培養士は、受精操作(体外受精・顕微授精)、培養環境の維持管理、胚の観察・評価(グレーディング)、胚の凍結・融解、そして胚移植の準備まで、受精卵(胚)に関わるすべての高度な操作を担います。医師が「臨床」のプロフェッショナルであるならば、胚培養士は「ラボ」のプロフェッショナルであり、彼らの高い技術と豊富な経験が、胚の成長と治療成績に直結しています。

先進医療「タイムラプスインキュベーター」とは?

近年、胚培養の技術として注目されているのが「タイムラプスインキュベーター」です。これは、インキュベーターに内蔵されたカメラが、胚の成長過程を「動画」のように継続的に撮影・記録する技術です。これは「先進医療」として、保険診療と組み合わせて受けることが可能です。

※当院はヴィトロライフ社のエンブリオスコープを採用しております。

タイムラプスには、主に2つの大きなメリットがあります。

胚へのストレスを最小化:
従来の培養では、胚を評価(観察)するために、インキュベーターから胚を一度外に出す必要がありました。タイムラプスは内蔵カメラで観察できるため、胚を外に出す必要がなく、培養環境の変化(温度低下、光など)によるストレスを最小限に抑えられます。

より詳細な「動的」情報:
Gardner分類のような静止画(スナップショット)の評価ではわからなかった、「細胞分裂の正確なタイミング」や「異常な分割(多核など)の有無」といった、成長の「動的な情報」を得ることができます 10。これにより、静的なグレード評価だけでは判断できない、より正確な胚の選別(=妊娠の可能性が高い胚の選別)に役立つと期待されています。

胚培養にかかる費用:保険適用と自費診療

不妊治療を続ける上で、費用の問題は非常に重要です。胚培養にかかる費用の目安を解説します。

2022年4月から始まった保険適用の範囲

2022年4月より、体外受精、顕微授精、胚培養、胚移植などの基本的な不妊治療が保険適用となりました。胚培養に関する費用は、採卵や受精方法の費用とは別に設定されており、主に培養した「受精卵・胚の個数」に応じて変動するのが特徴です。

以下は、保険診療における胚培養関連の費用(3割負担の場合の自己負担額)の目安です。

項目1256910個以上
受精卵培養管理料13,500円18,000円25,200円31,500円
胚盤胞培養加算4,500円6,000円7,500円9,000円

「受精卵培養管理料」は、受精卵を培養した場合にかかる基本費用です。「胚盤胞培養加算」は、分割期胚(培養2~3日目)で移植・凍結せず、胚盤胞(培養5~6日目)まで長期培養した場合に、上記に加えて算定されます。

自費診療(先進医療など)でかかる費用

胚培養に関するよくある質問(Q&A)

IMSI

Q1. 胚盤胞まで育たない(成長が止まる)原因は?

A1. 胚の発育が途中で止まってしまう(発育停止)原因の多くは、胚自身の染色体異常など、胚に内在する要因が原因とされています。培養環境が原因であることは稀です。胚盤胞まで育つかどうかは、その胚の生命力を見る「試験」のような側面があります。残念ながら成長が止まってしまった場合でも、ご自身を責める必要はまったくありません。

Q2. 複数の胚盤胞ができた場合、どれから移植しますか?

A2. 胚培養士と医師が、まずグレード(Gardner分類)が最も良好な胚(例:5AA、4ABなど)を選びます。タイムラプスのAI情報や分割のタイミングや分割様式といった動的な情報も加味して、総合的に最も妊娠の可能性が高いと判断される胚から移植します。

Q3. グレードの低い胚は破棄するのですか?

A3. しません。本文で解説した通り、低グレード胚(例:Cがつくもの)でも 30.2% の出産率が報告されており、十分に出産に至る可能性があります。そのため、クリニックが定める凍結基準を満たしていれば、患者さまの希望に基づき凍結保存し移植の対象とすることが一般的です。

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