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胚移植を一言でいうと?

「大切に育てた受精卵(胚)を、お母さんの子宮に戻してあげるプロセス」

胚移植(Embryo Transfer: ET)とは、体外受精(IVF)や顕微授精(ICSI)によって受精し、培養室(ラボ)で大切に育てられた「受精卵」を、専用の細く柔らかいチューブ(カテーテル)を使って、子宮の中へそっと戻してあげる医療技術です。採卵や培養という長い道のりを経て、受精卵が本来育つべき場所である「子宮のベッド」に戻る、妊娠に向けた感動的な場面となります。

治療全体から見る「胚移植」のタイミング

胚移植は単独で行うものではなく、一連の流れの中にあります。全体像を知ることで、このステップの重要性がより深く理解できるはずです。

卵巣刺激(排卵誘発)お薬を使い、卵子を育てます。
採卵(OPU)育った卵子を体外へ取り出します。
受精と培養卵子と精子を出会わせ、受精卵(胚)へと育てます。
胚移植(ET)良好な胚を選び、子宮へ戻します。(★今回はここが主役です)
黄体補充着床しやすいよう、お薬で子宮環境を整えます。
妊娠判定移植から約9日~14日後に判定を行います。

どんな方が胚移植の対象になるの?

体外受精が必要なすべての患者さまが対象となり得ます。

  • 卵管に問題がある方(卵管性不妊)
  • 精子の状態が心配な方(男性不妊)
  • 排卵がうまくいかない方
  • 子宮内膜症や免疫の課題をお持ちの方
  • 人工授精などでなかなか結果が出なかった方
  • 原因がはっきりしない不妊が続いている方

胚移植の「3つの大きな選択」

一口に胚移植といっても実はいくつかの方法があります。「どの胚を」「いつ」「どうやって」戻すか。この選択が妊娠率にも関わってくるため、医師や培養士と相談しながらきめさせてください。

選択肢①:どの段階まで育った胚を戻す?(初期胚 vs 胚盤胞)

最大の選択肢は、「培養何日目の胚を戻すか」です。

  • 初期胚移植:採卵から2~3日目の「初期胚(分割期胚)」を戻す方法。
  • 胚盤胞移植:5~6日目までじっくり育てた「胚盤胞」を戻す方法。

【胚盤胞移植のメリット】

  • 1回あたりの妊娠率が高い:長く培養する過程を生き抜いた生命力の強い胚を選べるためです。
  • 結果が早く出やすい:より着床に近い段階のため、出産までの期間が短い傾向があります。
  • ※ただし、培養中に発育が止まってしまい、移植までたどり着けない(キャンセルになる)可能性もあります。

【初期胚移植のメリット】

  • 胚を無駄なく活用できる:培養器の中では育たなくても、子宮に戻せば育つ胚も存在するため、「胚利用率」は高くなります。
  • 早産のリスクが低い傾向:データ上、早産率が低いことが報告されています。

【年齢による傾向】

36歳以上の方は、胚盤胞まで育てて「強い胚を選別」したほうが効率が良い傾向にあり、逆に36歳未満の方は、初期胚移植のほうが最終的な出産率が高くなる傾向も見られます(統計的な有意差はありません)。

選択肢②:いつ戻す?(新鮮胚 vs 凍結胚)

次に、「採卵した周期にすぐ戻すか」「一度凍結して別の周期に戻すか」という選択です。

  • 新鮮胚移植:採卵した周期の3~5日後に、そのまま戻します。
  • 凍結融解胚移植:一度すべての胚を凍結し、別の周期に子宮の状態を整えてから戻します。

現在は「凍結融解胚移植」が主流です

近年は、一度凍結する方法が選ばれることが多くなっています。その理由は主に3つあります。

子宮環境を整えられる
採卵の周期はホルモンの影響で子宮内膜が荒れていることがありますが、別周期にすることで万全の状態(ふかふかのベッド)を用意できます。

妊娠率が高い
上記の結果、新鮮胚移植よりも妊娠率・出産率が高いというデータが多く報告されています。

副作用の回避(OHSS予防)
採卵周期に妊娠すると「卵巣過剰刺激症候群(OHSS)」が重症化するリスクがありますが、時期をずらすことでこれを回避できます。

選択肢③:どうやって内膜を準備する?(自然周期 vs ホルモン補充)

凍結胚移植を行う場合、子宮内膜の整え方にも2つの方法があります。

自然周期ご自身の自然な排卵リズムに合わせて移植日を決めます。お薬が少なくて済みますが、排卵日がずれると移植日も変わるため、通院スケジュールが読みにくい面があります。
ホルモン補充周期お薬を使って人工的に内膜を厚くし、排卵をコントロールします。お薬の量は増えますが、移植日のスケジュール調整がしやすく、内膜の厚さを確実に確保できるメリットがあります。

ご自身の生理周期の安定度や、お仕事の都合に合わせて最善を決めていきましょう。

胚移植当日の流れと過ごし方

いよいよ胚移植当日。採卵とは違い、痛みや麻酔の心配はほとんどありませんので、リラックスして臨んでください。

当日の流れ(所要時間:約10分)

当院では以下のような流れで行われます。

尿をためておく
お腹の上から超音波をあてて子宮の位置を確認するため、膀胱に尿がたまっている状態が見やすくなります。「来院1時間前からトイレを控える」といった指示を守りましょう。

移植処置
内診台に上がり、医師がカテーテルを使って、子宮内膜の最適な場所に胚をそっと置きます。痛みはほとんどなく麻酔も通常は使用しません。

終了確認
培養士がカテーテルの中に胚が残っていないかを確認し、終了です。

移植後の過ごし方:「安静」にしすぎなくても大丈夫

「移植後は動いてはいけないのでは?」と心配される方も多いですが、過度な安静(寝たきりなど)は血流を悪くするためおすすめしておりません。

直後状況により、そのまま帰宅する場合もあれば、少し休んでから帰宅する場合もあります。
帰宅後当日はシャワーのみにし、リラックスして過ごしください。
翌日以降激しい運動(ランニングや筋トレなど)や重いものを持つこと、性交渉などは判定日まで控えますが、それ以外の家事やデスクワークなどはいつも通りで構いません。

最も大切なことは、処方された「黄体ホルモン剤(お薬や注射)」を判定日まで忘れずに続けることです。これが着床をサポートする命綱となります。

胚移植の費用

保険適用と費用について

2022年4月から不妊治療の保険適用が始まり、経済的なハードルは下がりました。

  • 回数制限(40歳未満は通算6回まで、40歳以上43歳未満は通算3回まで)があります。
  • 費用の目安(3割負担)
    • 新鮮胚移植:約22,500円
    • 凍結融解胚移植:約36,000円
      ※別途、胚の凍結保存料などがかかります。

妊娠率を上げるための「オプション」と「検査」

良好な胚を戻してもなかなか着床しない場合には、次のような一手も検討されます。

移植時のオプション(先進医療など)

  • アシステッドハッチング(AHA):胚が殻を破って孵化するのを助けるため、透明帯の一部を薄くする技術です。
  • エンブリオグルー:ヒアルロン酸を含んだ培養液を使用し、子宮内膜と胚がくっつきやすくする「のり」のような役割を期待します。

着床環境を調べる検査

  • ERA検査:人によって異なる「着床の窓(最適な移植のタイミング)」を調べ、移植時期を調整します。
  • 子宮内フローラ検査(EMMA/ALICE):子宮内の「菌のバランス」を調べ、着床に適した環境かどうかを確認します。

胚移植に関するよくある質問

ラボ

Q1. 移植後、いつ頃着床しますか?

A1. 胚盤胞なら移植の翌日~2日後、初期胚なら3~4日後くらいに着床が始まると考えられています。

Q2. 食事で気をつけることはありますか?

A2. 「これを食べれば着床する」という魔法の食べ物はありません。バランスの良い食事を心がけ、アルコールやカフェインの過剰摂取は控えましょう。

Q3. 2人目のために胚を残せますか?

A3. はい、可能です。一度の採卵で複数の胚が得られた場合、凍結保存しておくことで、数年後に改めて採卵することなく2人目の治療を再開できます。

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