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子宮内膜スクラッチ

子宮の検査

子宮内膜スクラッチの基本情報

子宮内膜スクラッチとはどんな治療法?

子宮内膜スクラッチとは、子宮内膜にあえて小さな傷をつけることで、着床しやすい環境を作り出す不妊治療の一つです。正式には「子宮内膜擦過術」と呼ばれ、体外受精や顕微授精における胚移植の成功率向上を目的として行われます。

この治療法は、2003年にイスラエルのBarash医師らによって初めて報告され、その効果が注目されました。複数回の胚移植を行っても妊娠に至らない「反復着床不全」の患者様に対して、新たな選択肢として提供されています。

処置自体は簡単で、子宮体がん検診に使用するような細い器具を用いて、子宮内膜を軽くこすって小さな傷をつけます。この刺激により、子宮内膜の環境が改善され、受精卵が着床しやすくなることが期待されます。

子宮内膜を傷つけることで着床環境を改善する仕組み

子宮内膜スクラッチが着床率を向上させるメカニズムは、傷の修復過程で起こる生理的な反応にあります。子宮内膜に小さな傷がつくと、その部分を修復するために、インターロイキンなどのサイトカインと呼ばれるタンパク質が分泌されます。

これらのサイトカインは、本来は傷を治すために働くものですが、同時に受精卵が着床する際の「接着剤」のような役割も果たします。さらに、血管新生(新しい血管が作られること)が促進され、子宮内膜への血流が増加することで、栄養供給が改善されます。

また、免疫反応の正常化も重要な要素です。着床不全の原因の一つに、母体の免疫系が受精卵を異物として認識してしまうことがあります。子宮内膜スクラッチによる刺激は、この免疫反応を適切にコントロールし、受精卵を受け入れやすい状態に整えると考えられています。ただし、詳細なメカニズムについては、現在も研究が続けられており、完全には解明されていません。

子宮内膜スクラッチが効果的な方の特徴

反復着床不全の方に推奨される理由

子宮内膜スクラッチは、特に「反復着床不全」と診断された方に推奨される治療法です。反復着床不全とは、良好な胚(受精卵)を複数回移植しているにもかかわらず、着床・妊娠に至らない状態を指します。通常、3回以上の良好胚移植で妊娠に至らない場合に、この診断が考慮されます。

反復着床不全の原因は様々で、子宮内膜症、子宮内膜ポリープ、免疫学的な問題などが考えられますが、多くの場合、明確な原因を特定することは困難です。こうした原因不明の反復着床不全に対して、子宮内膜スクラッチは有効な選択肢となります。

実際の臨床データでは、反復着床不全の患者様に対して子宮内膜スクラッチを実施した場合、妊娠率が有意に向上することが報告されています。特に3回以上の着床不全がある方では、スクラッチ実施群で約1.7倍の妊娠率向上が認められており、その効果は統計学的にも証明されています。

何回目の胚移植から検討すべきか

子宮内膜スクラッチを検討するタイミングについては、複数の研究結果から一定の指針が示されています。最新の研究では、初回の胚移植前に実施することは推奨されておらず、少なくとも1回以上の胚移植不成功後に検討すべきとされています。

2019年のデンマークの大規模研究では、1回以上の胚移植不成功群全体では統計学的な有意差は認められませんでしたが、3回以上の胚移植不成功群に限定すると、明確な効果が確認されました。具体的には、スクラッチ実施群で妊娠率が53.6%、非実施群で31.1%という結果が報告されています。

したがって、現在の医学的エビデンスに基づくと、2回の胚移植で妊娠に至らなかった場合から検討を始め、3回以上の不成功例では積極的に実施を考慮すべきといえます。ただし、患者様の年齢、卵巣予備能、胚の質などの個別の要因も考慮し、医師と十分に相談した上で決定することが重要です。

子宮内膜スクラッチの実施方法と流れ

実施時期は前周期の黄体期がベスト

子宮内膜スクラッチの実施時期は、治療効果を最大限に引き出すために非常に重要です。最も推奨されるのは、胚移植を行う前周期の黄体期(排卵後から月経開始まで)に実施する方法です。具体的には、排卵日から2~7日後の期間が最適とされています。

この時期を選ぶ理由は、黄体期の子宮内膜が着床に向けた準備段階にあり、スクラッチによる刺激が次周期の着床環境改善に最も効果的に作用するためです。また、この時期に実施することで、流産率の上昇などのリスクを避けることができます。

重要なのは、スクラッチを実施した周期には胚移植を行わないことです。移植周期の排卵前にスクラッチを行うと、流産率が増加することが報告されているため、必ず前周期に実施し、翌周期に胚移植を行うスケジュールを組みます。

処置の具体的な手順と所要時間

子宮内膜スクラッチの処置は、簡単に行うことができ入院の必要はありません。まず、超音波検査で子宮内膜の状態を確認し、処置に適した状態であることを確認します。その後、内診台に上がっていただき、実際の処置を行います。

使用する器具は、子宮体がん検診で使用されるような細い棒状の器具や、柔らかいループ状のブラシです。この器具を膣から子宮内に挿入し、子宮内膜を数回軽くこすります。処置自体は5分程度で終了し、その後しばらく安静にしていただいてからお帰りいただけます。

処置中は、チクチクとした軽い痛みを感じることがありますが、強い痛みではありません。痛みの感じ方には個人差がありますが、多くの方が「生理痛の軽いもの」程度と表現されます。処置後は、念のため激しい運動は避け、通常の日常生活を送っていただいて問題ありません。

処置前に必要な検査と準備

子宮内膜スクラッチを安全に実施するために、事前にいくつかの検査と準備が必要です。まず、感染症検査(B型肝炎、C型肝炎、梅毒、HIVなど)を1年以内に実施し、異常がないことを確認します。これは、処置による感染のリスクを最小限に抑えるためです。

また、月経開始から内膜スクラッチまでの期間は避妊が必要です。これは、万が一妊娠している状態でスクラッチを行うと、流産のリスクがあるためです。

処置当日は、特別な準備は必要ありませんが、痛みに敏感な方は、事前に鎮痛剤を服用することも可能です。また、処置後に少量の出血がある可能性があるため、ナプキンを持参することをお勧めします。これらの準備を整えることで、安心して処置をお受けいただけます。

子宮内膜スクラッチの効果と妊娠率

研究データが示す妊娠率の向上

子宮内膜スクラッチの効果については、世界中で多くの研究が行われており、特に反復着床不全の患者様において、明確な妊娠率の向上が報告されています。2003年のBarash医師らによる先駆的な研究では、スクラッチ実施群で臨床妊娠率67%、生児獲得率49%という、非実施群の約2倍の成績が報告されました。

より最近の研究では、2019年のデンマークでの大規模臨床試験(304名対象)において、3回以上の胚移植不成功群でスクラッチ実施群の妊娠率が53.6%、非実施群が31.1%と、約1.7倍の改善が確認されています。

スクラッチ実施群妊娠率が53.6%
スクラッチ非実施群妊娠率が31.1%

ただし、すべての患者様に同じ効果があるわけではなく、初回の胚移植前やタイミング法での実施では、有意な効果は認められていません。また、1~2回の胚移植不成功例では、効果はあるものの統計学的な有意差までは認められないことが多く、個人差があることを理解しておく必要があります。

効果の持続期間は2~4ヶ月

子宮内膜スクラッチの効果は永続的なものではなく、一定期間持続した後、徐々に減弱していきます。多くの臨床経験から、効果の持続期間は約2~4ヶ月と考えられています。この期間は、スクラッチによって誘導されたサイトカインの分泌や、子宮内膜の環境改善効果が維持される期間と一致しています。

したがって、スクラッチ実施後は、できるだけ早期に胚移植を行うことが推奨されます。理想的には、スクラッチ実施の翌周期に胚移植を行いますが、何らかの理由で延期になった場合でも、2~3ヶ月以内であれば効果は期待できます。

もし4ヶ月以上経過してから胚移植を行う場合や、期間内に妊娠に至らなかった場合は、再度スクラッチを実施することも可能です。ただし、繰り返し実施することのメリット・デメリットについては、まだ十分なデータがないため、医師と相談しながら慎重に判断する必要があります。

3回以上の着床不全で特に有効

複数の研究結果を総合すると、子宮内膜スクラッチは特に3回以上の胚移植で妊娠に至らなかった方において、最も効果を発揮することが明らかになっています。これは、反復する着床不全には子宮内膜の受容性の問題が関与している可能性が高く、スクラッチによる刺激がこの問題を改善するためと考えられています。

2021年の大規模研究(933名対象)でも、1回目の胚移植不成功後では有意差は認められませんでしたが、サブグループ解析で回数が増えるほど効果が高まる傾向が確認されています。このことから、現在多くのクリニックでは、3回以上の着床不全を適応の目安としています。

ただし、これは画一的な基準ではなく、患者様の年齢、卵巣予備能、胚の質、これまでの治療歴などを総合的に判断して決定されます。例えば、高齢の方や卵巣予備能が低下している方では、より早い段階でスクラッチを検討することもあります。

子宮内膜スクラッチの副作用

2021年の研究では、処置後1週間の症状について詳しく調査されており、過半数の方は無症状で過ごされ、症状があった方でも軽度の腹痛や違和感程度であったと報告されています。

処置後の出血と注意点

子宮内膜スクラッチ後は、2~3日間少量の出血が見られることがあります。これは子宮内膜に小さな傷をつけたことによる正常な反応であり、心配する必要はありません。出血量は通常、月経よりもはるかに少なく、おりものシートやナプキンで対応できる程度です。

出血以外の副作用としては、軽度の下腹部痛や違和感が数日続くことがありますが、これも日常生活に支障をきたすようなものではありません。感染のリスクは極めて低いですが、万が一、発熱、強い腹痛、異常な帯下などの症状が現れた場合は、速やかご連絡ください。

処置後の生活については、特別な制限はありませんが、当日は激しい運動や重労働は避けることをお勧めします。入浴は当日からシャワー浴は可能ですが、湯船につかるのは出血が完全に止まってからにしましょう。性交渉については、出血が止まって違和感がなくなるまで、通常3~5日程度控えることが推奨されています。

子宮内膜スクラッチの費用と保険適用

先進医療としての位置づけと自己負担額

子宮内膜スクラッチは、2022年4月から不妊治療の保険適用が開始された後も、「先進医療」として位置づけられています。先進医療とは、保険診療と併用できる自費診療のオプション的な治療で、有効性は認められているものの、まだ保険収載には至っていない治療法です。先進医療として実施する場合は、保険診療での体外受精・胚移植と組み合わせて受けることができるため、全額自費診療と比べて経済的負担は大幅に軽減されます。

また、民間の医療保険に加入している方は、先進医療特約が付帯されている場合、給付金の対象となることがあります。加入している保険の内容を確認し、該当する場合は申請手続きを行うことで、さらに費用負担を軽減できる可能性があります。

子宮内膜スクラッチに関するよくある質問(Q&A)

Q1: 子宮内膜ポリープの検査と一緒にできますか?

A1: 可能です。子宮鏡検査(ファイバースコープ)でポリープの有無を確認し、同時に内膜に刺激を与える(あるいは検査の刺激自体をスクラッチ効果とする)ことは効率的です。ただし、大きなポリープが見つかった場合は、スクラッチではなくポリープ切除手術が優先されることがあります。

Q2: 効果はどれくらい持続しますか?

A2: 前述にもございますが基本的に、効果が期待できるのは「施術を行った次の周期の移植」です。一般的には1回のスクラッチにつき、直後の1回の移植に有効と考えられています。

Q3: 子宮内膜が薄いのですが、さらに削って大丈夫ですか?

A3:「スクラッチ=削り取る」というイメージがありますが、実際には「軽く傷をつけて刺激を与える」処置です。内膜を根こそぎ削るわけではありません。むしろ、その刺激によって修復プロセスが働き、次周期の内膜形成が良好になることを目的としていますので、内膜が薄い方でも実施可能です。

Q4: 性交渉はいつから可能ですか?

A4: 施術当日は感染予防のため避けてください。出血が止まれば翌日から可能ですが、スクラッチ実施周期は原則として避妊が必要です(コンドーム使用など)。詳細なタイミングは医師にご相談ください。

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