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PICSI(ピクシー)(ヒアルロン酸を用いた生理学的精子選択術)

顕微授精(ICSI)の成功率を高める「PICSI(ピクシー)」とは

顕微授精において最も重要な工程の一つが「どの精子を卵子に注入するか」という選別作業です。PICSI(ピクシー)は、Physiological ICSI(生理学的精子選択術)の略称で、その名の通り、より自然妊娠に近い生理学的な性質を利用して精子を選別する方法です。

通常の顕微授精では、培養士が顕微鏡で精子の「形」や「動き」を見て良さそうなものを選びます。しかし、見た目が元気でも、精子の中身(DNAなど)が成熟しているかまでは判断できません。PICSIは、特殊な薬剤(ヒアルロン酸)を用いることで、目視だけでは分からない「精子の成熟度」を判別し、より質の高い精子を選び出すことを可能にした技術です。

ヒアルロン酸を使って「成熟した精子」を選別する方法

PICSIの具体的な仕組みには、「ヒアルロン酸」が使用されます。シャーレ(培養皿)の底にヒアルロン酸のスポットを用意し、そこに精子を泳がせます。すると、成熟した良い状態の精子だけがヒアルロン酸にくっつくという性質があります。

逆に、未熟な精子や質の悪い精子はヒアルロン酸に結合せず、そのまま泳ぎ去ってしまいます。培養士は、この「ヒアルロン酸にくっついた精子」をピックアップし、顕微授精に使用します。つまり、人間が目で見て選ぶのではなく、精子自身が持つ生物学的な能力を利用して、優秀な精子を選別するスクリーニング検査といえます。これにより、客観的に「成熟した精子」を確保できるのです。

なぜヒアルロン酸なのか?卵子と精子の自然な関係

「なぜヒアルロン酸なの?」と疑問に思われるかもしれません。実は、女性の体内にある卵子の周りは「卵丘細胞」という層で覆われており、この層にはヒアルロン酸が豊富に含まれています。 自然妊娠の過程では、精子が卵子に出会う際、このヒアルロン酸の層を通過し、結合する必要があります。そして、ヒアルロン酸と結合できるのは、頭部に専用のレセプター(受容体)を持った「完熟した精子」だけなのです。

PICSIは、この体内で行われている「自然な選別システム」をシャーレの上で再現したものです。人工的な操作である顕微授精の中に、生命本来の選び抜く力を取り入れることで、より自然妊娠に近い状態での受精を目指す技術と言えます。

従来の顕微授精(ICSI)とPICSIの決定的な違い

従来の顕微授精(ICSI)とPICSIの最大の違いは、「精子の選び方の基準」にあります。 通常のICSIでは、400倍程度の顕微鏡を用い、培養士が「運動性が良く、形が整っている精子」を目視で選びます。これは非常に熟練した技術ですが、あくまで「外見」による判断です。見た目が良くても、DNAに傷がついている精子や、未熟な精子が選ばれてしまうリスクはゼロではありません。

一方、PICSIは「ヒアルロン酸に結合するかどうか」という「機能・性質」で選びます。これにより、見た目だけでなく、中身(遺伝情報の成熟度)も伴った精子を選べる確率が格段に上がります。ICSIが「外見重視」なら、PICSIは「外見+中身重視」の方法と言えます。

PICSI(ピクシー)を選ぶ最大のメリット

PICSIを導入する最大のメリットは、精子の質に起因する受精障害や発育不全のリスクを低減できる点にあります。 不妊の原因は男女半々と言われますが、近年では「精子の質」、特に精子のDNA損傷が胚(受精卵)の発育に大きな影響を与えることが分かってきました。PICSIを行うことで、下記のような具体的なメリットが期待されています。

メリット1DNA損傷の少ない精子の選別
メリット2受精率・胚盤胞到達率の向上
メリット3流産率の低下

それぞれのメリットについて、詳しく解説していきます。

DNA断片化(損傷)の少ない精子を選べる可能性が高い

精子の頭部には、父親由来の遺伝情報(DNA)が格納されています。このDNAがちぎれてしまっている状態を「DNA断片化(DFI:DNA Fragmentation Index)」と呼びます。DNAが損傷した精子が受精すると、受精卵の発育が途中で止まったり、着床しにくかったりする原因になります。

多くの研究により、「ヒアルロン酸に結合する能力を持つ精子」は、このDNA断片化が非常に少ないことが証明されています。つまり、PICSIでヒアルロン酸に結合した精子を選ぶことは、遺伝情報が正常で、傷の少ないきれいな精子を選ぶこととほぼ同義なのです。これは、健康な赤ちゃんを授かるための非常に重要な要素となります。

受精率の向上と胚盤胞到達率への期待

質の高い精子を用いて受精させることは、その後の受精卵の成長に直結します。精子のDNA損傷が少ないと、受精卵の分割がスムーズに進みやすくなるためです。 データによると、通常のICSIと比較して、PICSIを用いた場合の方が「良好胚盤胞(着床しやすい段階まで育った質の良い受精卵)」への到達率が高くなる傾向があると報告されています。

特に、「これまでの顕微授精で受精はするけれど、胚盤胞まで育たない」「グレードの低い胚しかできない」と悩まれている場合、精子の成熟度が関与している可能性があります。PICSIによって選別された完熟精子を使用することで、移植可能な胚を獲得できるチャンスが広がります。

流産率の低下に寄与するというデータについて

妊娠判定が出ても、その後の流産を経験することは、精神的にも肉体的にも非常に辛いことです。初期流産の多くは受精卵の染色体異常が原因とされていますが、そこには精子のDNA損傷も関わっていると考えられています。

海外や国内の複数の研究報告において、PICSIを行うことで流産率が低下したというデータがあります。これは、DNA損傷の少ない健康な精子が選ばれることで、結果として生命力の強い受精卵が育つためと推測されます。妊娠することだけでなく、「妊娠を継続し、無事に出産すること」を目指す上で、PICSIによる精子選別は有効な手段の一つとして注目されています。

PICSIはどのような人におすすめ?

PICSIはすべての方に必須というわけではありませんが、特定の悩みを持つご夫婦には非常に有効な選択肢となります。基本的には「精子の質に不安がある場合」や「過去の治療でうまくいかなかった場合」に推奨されます。 ご自身の状況と照らし合わせ、医師と相談する際の参考にしてください。ここでは特に推奨される3つのケースについて解説します。

反復して顕微授精(ICSI)で結果が出ていない方

最もPICSIが推奨されるのは、過去に通常の顕微授精(ICSI)を複数回行っても妊娠に至らなかった、あるいは良好な胚が得られなかったケースです。 「卵子の質の問題」と言われてきたケースでも、実は精子の隠れた要因(DNA損傷や未熟性)がボトルネックになっていることが多々あります。方法を変えてPICSIを行うことで、劇的に受精卵の質が改善することがあり、反復不成功の方にとっては打開策となる可能性があります。

精子検査の結果は悪くないのに受精しない方

一般的な精液検査(精子の数や運動率の測定)では問題がないと診断されても、詳細な検査(DFI検査など)をするとDNA損傷率が高いという「隠れ精子機能不全」のケースがあります。 「数値はいいはずなのに、なぜか受精率が低い」「受精卵が育たない」という原因不明の不妊の場合、見た目では分からない精子の成熟度に問題があるかもしれません。このような場合、生物学的な成熟度をチェックできるPICSIが非常に有効に機能する場合があります。

流産を繰り返している方・胚のグレードが低い方

前述の通り、流産には精子のDNAダメージが関与していることがあります。反復流産や習慣流産の方で、不育症の検査でも特に母体側の原因が見当たらない場合、PICSIによる精子選別を試みる価値は十分にあります。 また、採卵できても毎回「グレードが低い」「フラグメント(細胞の破片)が多い」といった胚になってしまう場合も、精子選別の精度を上げることで改善が見込めるため、PICSIの適応となります。

PICSIのデメリットや注意点

メリットの多いPICSIですが、デメリットや限界がないわけではありません。治療を選択する際は、メリットだけでなくリスクやコスト面もしっかり理解しておくことが大切です。 ここでは、PICSIを検討する際に知っておくべき注意点を3つ挙げます。

すべての精子が選別できるわけではない

PICSIは万能ではありません。極端に精子の数が少ない場合(高度乏精子症)や、運動している精子がほとんどいない場合は、そもそもヒアルロン酸に結合させる試験自体が難しいことがあります。 PICSIを行うには、ある程度の運動性を持った精子が必要です。精子の状態があまりに悪い場合は、PICSIではなく、通常のICSIや他の方法が選択されることもあります。採精当日の精子の状態によって実施できるかどうかが決まることもあるため、事前に医師とよく確認しておく必要があります。

通常の顕微授精よりも時間がかかる場合がある

通常の顕微授精(ICSI)に比べ、PICSIは「ヒアルロン酸に結合させる」という工程が追加されます。精子が結合するのを待つ時間や、そこから選別する手間が発生するため、操作時間が若干長くなる傾向があります。 精子は体外に出ている時間が長いほどストレスを受けやすいため、操作は迅速に行われる必要があります。

先進医療としての費用負担について

現在、不妊治療の多くが保険適用となりましたが、PICSIは「先進医療A」という枠組みに分類されています。 そのため、基本的な顕微授精の費用は保険が適用されても、PICSIの技術料(オプション費用)については全額自己負担となります。「保険診療+先進医療」として併用は可能ですが、トータルの治療費が通常のICSIより高くなる点は考慮しておく必要があります。

他の精子選別法(IMSIなど)との違い

精子の選別技術には、PICSI以外にも「IMSI(イムジー)」などの高度な方法が存在します。どちらも「より良い精子を選ぶ」という目的は同じですが、アプローチの方法が全く異なります。 どちらが優れているかというよりは、精子の状態や不妊の原因に合わせて使い分けることが重要です。

形態(見た目)で選ぶIMSIと生理学的性質で選ぶPICSI

PICSIが「ヒアルロン酸への結合能」という生理学的性質(中身の成熟度)で選ぶのに対し、IMSIは超高倍率の顕微鏡による形態観察(外見の精密さ)で選びます。 通常の顕微鏡(約400倍)では見えない精子の頭部の「空胞(ボイド)」などを、IMSIでは1,000倍〜6,000倍以上に拡大して確認し、形態異常のない精子を選びます。

PICSI 成熟度、DNA損傷の少なさを重視(中身重視)
IMSI 微細な形態異常の有無を重視(外見重視)

どちらの技術を選ぶべきか?

どちらを選ぶべきかは、精液検査の結果やこれまでの治療経過によります。当院の場合は医師や培養士が患者様の状態を考慮してご提案させていただきます。

PICSIによる治療の流れと実際のステップ

採精から精子調整、PICSIディッシュへの添加

まず、採卵日当日にご主人に採精していただきます(凍結精子を使用する場合もあります)。回収された精液は、遠心分離などの処理を行い、運動良好な精子を集める「精子調整」を行います。 次に、PICSI専用の特別なディッシュ(培養皿)を用意します。このディッシュには微小なヒアルロン酸のスポットが数カ所配置されています。ここに調整した精子を添加し、精子が泳いでスポットに接触するのを待ちます。

培養士による選別と注入(インジェクション)

添加された精子のうち、成熟した精子はヒアルロン酸スポットに頭部を結合させ、尻尾を激しく振って動き回ります(結合して動いている=成熟かつ生きた精子)。 培養士は、この「結合した精子」の中から、さらに形や運動性が良いものをピペットで吸引して捕まえます。 捕まえた精子を不動化処理し、通常の顕微授精と同じ手順で卵子の細胞質内に注入します。

よくある質問(Q&A)

Q1: PICSIを行えば必ず妊娠できますか?

A1: 残念ながら、PICSIを行っても100%妊娠できるわけではありません。妊娠には精子の質だけでなく、卵子の質(年齢による染色体異常など)や子宮環境など、多くの要因が複雑に関係しているからです。 しかし、PICSIを行うことで「精子側の要因による失敗」のリスクを減らすことは十分に期待できます。確率を少しでも上げるための有効なオプションとしてお考えください。

Q2: 凍結精子でもPICSIは可能ですか?

A2: はい、可能です。当日に採精した新鮮精子でも、事前に凍結しておいた精子でもPICSIを行うことができます。 ただし、凍結・融解のプロセスで精子の運動率が著しく低下してしまった場合などは、ヒアルロン酸への結合を確認するのが難しくなるケースもあります。精子の状態に応じて、培養士が最適な方法を判断します。

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