
原因不明の不妊・不育症に光を当てる「ネオセルフ抗体検査」とは?
ネオセルフ抗体(β2GPIネオセルフ抗体)の正体
「ネオセルフ抗体」とは、正式には「β2GPIネオセルフ抗体」と呼ばれます。少し難しい言葉ですが、簡単に言うと「自分の体を守るはずの免疫が、誤って自分自身(特に血管の壁に関わるタンパク質)を攻撃してしまう抗体の一種」です。
通常、私たちの体には細菌やウイルスなどの「異物」を攻撃する免疫システムが備わっています。しかし、何らかの原因で、本来攻撃すべきではない自分の細胞やタンパク質を「異物」と認識してしまうことがあります。ネオセルフ抗体検査は、血液中のβ2GPIというタンパク質が酸化した悪玉コレステロール(酸化LDL)と結合し、構造が変化した複合体に対して作られる抗体を検出します。
なぜ「ネオセルフ抗体」が不妊や流産の原因になるのか?
受精卵への栄養供給と血流の関係
妊娠を維持するためには、母体から胎児へ酸素や栄養をスムーズに届ける必要があります。これは子宮内膜や胎盤にある微細な血管を通じて行われます。ネオセルフ抗体が存在すると、この重要な血管内で炎症や凝固異常(血が固まりやすくなること)が起こりやすくなります。
血栓(血の塊)が着床を阻害するメカニズム
ネオセルフ抗体が血管壁に作用すると、微小な「血栓(血の塊)」ができやすくなります。子宮周辺の細い血管で血栓ができると、受精卵への血流が途絶えてしまいます。その結果、受精卵がうまく着床できなかったり(着床不全)、着床しても育たずに流産してしまったり(不育症)する原因となるのです。つまり、「血液の流れが悪くなることで、赤ちゃんに栄養が届かなくなる」ことが最大の問題です。
神戸大学とシスメックスの共同研究による日本発の技術
この「ネオセルフ抗体」という概念は、実は日本で発見された画期的なものです。神戸大学と検査機器大手メーカーであるシスメックス株式会社の共同研究によって解明されました。 これまでの医学常識を覆すこの発見は、世界的な科学誌にも掲載され、原因不明の不妊に悩む世界中のカップルに希望を与える技術として注目されています。
ここが違う!「従来の抗リン脂質抗体検査」と「ネオセルフ抗体検査」
従来の検査では見つけられなかった「隠れた原因」
これまでも、血栓ができやすくなる病態として「抗リン脂質抗体症候群(APS)」というものがあり、不育症の検査項目として知られていました。しかし、従来の抗リン脂質抗体検査(抗CLβ2GPI抗体検査など)を行っても「陰性(異常なし)」と判定されるにも関わらず、臨床的にはAPSと同じような症状(流産や血栓傾向)を示す患者様が多くいました。
ネオセルフ抗体検査は、従来の検査法とは異なるアプローチ(変性したタンパク質をターゲットにする技術)を用いることで、これまでの検査ではすり抜けてしまっていた「隠れた陽性者」を見つけ出すことが可能になりました。
基準値内でも陽性となるケース(不感領域の検出)
「検査結果はすべて基準値内です」と言われたのに、なぜか妊娠できない。そのようなケースの一部で、実はネオセルフ抗体が陽性である可能性があります。 研究データによると、原因不明の不妊症患者のうち、従来の検査では陰性だった方の約20%〜30%近くが、このネオセルフ抗体検査で陽性を示すことがわかってきています。つまり、これまで「原因不明」として片付けられていた症例の約5人に1人以上に、明確な治療方針が立つ可能性があるのです。
検査精度の高さと特異性
この検査の最大の特徴は、生体内の環境に近い状態で抗体を検出できる点にあります。従来の検査キットでは捉えきれなかった、β2GPIというタンパク質が酸化LDLと結合して「構造が変わった瞬間」をターゲットにしています。 これにより、不妊や不育症に特異的に関与する抗体をピンポイントで見つけ出すことが可能になりました。
あなたは対象?ネオセルフ抗体検査を受けるべき人の特徴
反復着床不全(良質な胚を移植しても妊娠しない方)
体外受精(IVF)において、グレードの良い受精卵(胚)を何度も移植しているにもかかわらず、着床判定が出ない(陰性)、あるいは化学流産で終わってしまう「反復着床不全」の方に強く推奨されます。 「卵の質は問題ないはず」と言われた場合、問題は「卵」ではなく、それを受け入れる「母体側の血流環境」にある可能性が高いため、この検査を行う意義は非常に大きいです。
不育症・習慣流産(流産を繰り返している方)
妊娠反応は出るものの、心拍確認前後の初期段階で流産を繰り返してしまう方、いわゆる「不育症」の方も主な対象です。特に、胎児の染色体検査で異常が見つからなかった場合、母体側の免疫・凝固因子が原因である可能性が高まります。 過去に2回以上の流産経験がある場合、一度この検査を検討することをお勧めします。
原因不明不妊と診断された方
タイミング法や人工授精を行っても結果が出ず、基本的なスクリーニング検査(ホルモン検査、卵管造影検査、精液検査など)でもすべて異常なしと言われた方。 「原因がないのが一番怖い」と感じるかもしれませんが、ネオセルフ抗体検査は、その「不明」のタグを外し、具体的な対策を見つけるための鍵になる可能性があります。
従来の不育症検査で陰性だった方
過去に不育症の検査セットを受けたことがあり、その中で「抗リン脂質抗体」等の項目が陰性だった方も対象です。 前述の通り、ネオセルフ抗体は従来の検査では検出できないタイプのアプローチを行うため、過去の結果が陰性であっても、ネオセルフ抗体に関しては陽性である可能性があります。再検査の価値は十分にあります。
検査の流れ・費用・結果が出るまでの期間
検査は採血のみで完結
「新しい検査」と聞くと、痛みを伴うものや大掛かりなものを想像するかもしれませんが、ネオセルフ抗体検査は非常にシンプルです。 通常の血液検査と同様、腕から少量の採血を行うだけで終了します。内診台に上がる必要もありませんし、生理周期のどのタイミングでも受けることが可能です。体への負担が非常に少ない検査と言えます。
検査費用は保険適用?それとも自費?
2現在、ネオセルフ抗体検査は原則として「自費診療(自由診療)」となります。健康保険の適用外であるため、費用は全額自己負担となります。
検査結果が出るまでの日数目安
採血された検体は、専門の検査機関へ送られ、解析が行われます。 通常、採血から結果がクリニックに届くまでには 約2週間〜3週間 程度かかります。 次の移植周期に合わせて治療を開始したい場合は、スケジュールに余裕を持って検査を受けることが大切です。例えば、採卵周期の間に検査を済ませておくと、移植周期には結果に基づいた対策が可能になります。
陽性だった場合の治療法と妊娠への期待
主な治療法:低用量アスピリン療法とヘパリン療法
もしネオセルフ抗体が「陽性」と判定された場合でも、過度に落ち込む必要はありません。なぜなら、対処法が確立されているからです。 最も一般的な治療法は「低用量アスピリン療法」です。これは、血液を固まりにくくする「バイアスピリン」などの内服薬を、移植周期や妊娠初期から服用する方法です。 症例によっては、より強力に血液凝固を防ぐために、自己注射である「ヘパリンカルシウム育薬(ヘパリン療法)」を併用することもあります。
血液をサラサラにする薬の効果
これらの薬は、ネオセルフ抗体によって引き起こされる微小な血栓の形成を防ぎ、子宮や胎盤への血流をスムーズに保ちます。これにより、赤ちゃんに十分な酸素と栄養が届きやすくなり、着床の維持や流産の予防が期待できます。
治療を行った場合の妊娠率・出産率のデータ
実際に、ネオセルフ抗体陽性の患者様に対し、低用量アスピリン療法などの適切な治療介入を行った場合、妊娠率や生児獲得率(無事に出産できる確率)が有意に改善したという臨床データが報告されています。 これまで反復して着床しなかった方が、治療を行うことで初めて妊娠継続できたという事例も多く報告されており、不妊治療の現場では非常に期待値の高い治療アプローチとなっています。
ネオセルフ抗体検査に関するよくある質問(FAQ)

Q1: 検査を受けるのに最適な時期はありますか?
A1: 基本的にいつでも検査可能です。 月経周期による数値の変動は少ないとされているため、生理中でも高温期でも検査を受けることができます。移植周期に入る前の検査をおすすめします。
Q2: 過去に出産経験があっても検査したほうが良いですか?
A2: 二人目不妊や流産が続く場合は検討をおすすめします。 一人目はスムーズに出産できたとしても、その後に体質が変化したり、加齢に伴い血栓ができやすくなったりすることで、二次性の不妊・不育症になることがあります。特に「一人目は自然妊娠だったのに、二人目がなかなかできない」「二人目治療で流産を繰り返す」という場合は、ネオセルフ抗体が関与している可能性があります。