不妊治療における超音波検査(エコー)とは?

そもそも超音波検査とはどのような仕組みか
超音波検査(エコー検査)とは、人の耳には聞こえない高い周波数の音波(超音波)を対象物に当て、その跳ね返ってくる反射波(エコー)を画像化して診断する検査法です。妊婦検診でお腹の赤ちゃんを見る際に使われるものと同じ原理です。
レントゲンやCT検査とは異なり、放射線被ばくの心配が一切ありません。そのため、妊娠の可能性がある時期や、これから妊娠を目指す女性の卵巣・子宮に対しても、安全に繰り返し行うことができるのが最大の特徴です。身体への負担が非常に少ないため、不妊治療の通院中は、ほぼ毎回この検査が行われることになります。
不妊検査では主に「経腟エコー」を使用する理由
超音波検査にはお腹の上から器具をあてる「経腹(けいふく)エコー」と、膣の中に細い器具を入れる「経腟(けいちつ)エコー」の2種類があります。不妊検査や初期の妊娠確認においては、原則として「経腟エコー」が用いられます。
その理由は、子宮や卵巣が骨盤の深い場所にあるためです。お腹の上からでは腸管ガスや皮下脂肪の影響を受けやすく、詳細な観察が困難です。一方、経腟エコーであれば、プローブ(探触子)を子宮や卵巣のすぐ近くまで接近させることができるため、鮮明な画像が得られます。これにより、ミリ単位の小さな卵胞の計測や、子宮内膜の微妙な変化を正確に捉えることが可能になります。
痛みはある?検査にかかる時間は?
「膣の中に器具を入れる」と聞くと痛みを心配される方が多いですが、過度な心配はいりません。使用するプローブは親指程度の太さ(直径2cm前後)で、表面にはゼリーを塗り滑りを良くして挿入します。性交痛が強い方や未経験の方を除き、力を抜いてリラックスしていれば、強い痛みを感じることはほとんどありません。
検査時間自体は非常に短く、通常は数分程度、長くても5分以内には終了します。もし検査中に不快感や痛みを感じた場合は、我慢せずに医師や看護師にお伝えください。
超音波検査(エコー)で発見できる不妊の原因と病気
子宮のチェック(子宮筋腫・子宮腺筋症・ポリープ・奇形)
超音波検査では、受精卵のベッドとなる「子宮」に異常がないかを詳しく観察します。最も発見されやすいのが「子宮筋腫」です。筋腫の大きさだけでなく、着床を妨げる場所にできていないか(粘膜下筋腫など)を確認します。また、子宮の壁が厚くなる「子宮腺筋症」や、内膜にできるイボのような「子宮内膜ポリープ」も不妊の原因となり得るため、これらが疑われる場合は精密検査へ進みます。
さらに、生まれつき子宮の形が異なる「子宮奇形(双角子宮や中隔子宮など)」のスクリーニングも可能です。子宮の形状や内部環境は妊娠成立に直結するため、初回検査で必ずチェックされる項目です。
卵巣のチェック(卵巣の腫れ・チョコレート嚢胞)
卵巣の状態を確認することも、この検査の重要な目的です。卵巣が通常より腫れていないか、内部に腫瘍がないかを確認します。
不妊治療において特に関連が深いのが「子宮内膜症」の一種である「チョコレート嚢胞(のうほう)」です。これは卵巣の中に古い血液が溜まってしまう病気で、卵子の質を低下させたり、排卵障害を引き起こしたりする原因になります。超音波画像では特徴的な見え方をするため、比較的発見しやすい疾患です。早期に発見することで、不妊治療のプラン(手術を優先するか、採卵を優先するかなど)を適切に立てることが可能になります。
PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の診断にも有効
近年増えている排卵障害の一つに「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)」があります。これは、卵胞が卵巣の中にたくさんできているものの、ある程度の大きさで成長が止まってしまい、なかなか排卵できない状態です。
超音波検査で卵巣を見ると、小さな卵胞が真珠のネックレスのようにぐるりと連なって見える「ネックレスサイン」という特徴的な画像が確認できます。この所見に加え、月経異常やホルモン値のデータを組み合わせて診断されます。PCOSの傾向があるかどうかがわかれば、排卵誘発剤の使用など、妊娠に向けた適切なアプローチを早期に開始できます。
卵管の状態(卵管水腫)の確認
通常、健康な卵管は非常に細く柔らかいため、超音波検査ではほとんど映りません。しかし、卵管に異常がある場合は画像で確認できることがあります。
代表的なのが「卵管水腫」です。これは卵管の先が詰まり、内部に水や膿が溜まって腫れ上がってしまった状態です。超音波で見ると、卵巣の近くにソーセージ状の黒い影として映ることがあります。卵管水腫があると、溜まった液が子宮内に逆流し、受精卵を押し流したり着床を阻害したりするリスクがあります。卵管の通気性そのものは「卵管造影検査」でないとわかりませんが、明らかな腫れは超音波で発見可能です。
【重要】生理周期によって変わる検査の目的と見え方
月経期(生理中):卵胞の数とベースラインの確認
「生理中に内診を受けるの?」と驚かれるかもしれませんが、不妊治療において生理中(月経開始2〜5日目頃)の超音波検査は非常に重要です。
この時期には、新しい周期に向けて準備され始めた「胞状卵胞(前胞状卵胞)」の数を確認します。これが見えている卵胞の数(AFC)であり、その周期にどれくらいの卵子が育ちそうか、卵巣予備能(卵巣年齢)を推測する指標になります。 また、前の周期に残ってしまった卵胞(遺残卵胞)がないか、卵巣が腫れていないかといった「リセット状態」を確認し、その周期の治療方針(排卵誘発剤の種類や量)を決定するための重要な検査となります。
卵胞期~排卵期:卵胞の成長と内膜の厚さ測定
生理が終わってから排卵までの期間は、卵子が入っている袋である「卵胞」が順調に育っているかをモニタリングします。卵胞は1日におよそ1.5mm〜2mmずつ大きくなり、直径が18mm〜22mm程度になると排卵直前と判断されます。このサイズを測ることで、最も妊娠しやすいタイミング(タイミング法)を指導したり、人工授精の日程を決めたりします。
同時に、「子宮内膜」の厚さも計測します。排卵期に向けて内膜は厚くなり、8mm〜10mm以上あると着床に有利とされています。この時期のエコーは、まさに「妊娠のチャンス」を特定するための検査です。
黄体期(排卵後):排卵の確認と着床環境の評価
排卵が終わった後の時期(高温期)にも、超音波検査を行うことがあります。まず、大きくなっていた卵胞が消えている、あるいは小さくなって形が変わっていることを確認し、「無事に排卵したか」を判定します。また、排卵後の卵胞は「黄体」という組織に変化します。黄体から出るホルモンによって子宮内膜はさらに成熟し、白く輝くような画像に変化していきます。この時期にしっかりとした血流があるか、内膜の状態が良いかを見ることで、着床に適した環境が整っているかを評価します。
超音波検査を受ける際の流れと注意点
検査前の準備(服装・トイレについて)
クリニックでの内診をスムーズに受けるためには、服装選びがポイントです。着脱に時間のかかるズボンやタイツよりも、ふんわりとしたフレアスカートやワンピースがおすすめです。下着を脱ぐだけで素早く内診台に上がれるため、患者様自身の精神的な負担や焦りも軽減されます。
また、検査直前には必ずトイレを済ませておきましょう。膀胱に尿が溜まっていると、超音波の画像が見えにくくなったり、プローブが膀胱を圧迫して不快感や痛みを感じやすくなったりします。ただし、尿検査がある場合もありますので、受付で確認してからトイレに行くと安心です。
H3:実際の検査ステップ
内診室へ移動: 名前を呼ばれたら内診室に入り、ショーツを脱いで内診台に座ります。
内診台の上昇: 自動で椅子が回転・上昇し、足が開く体勢になります。恥ずかしさを軽減するため、医師側とお腹側の間にはカーテンで仕切りがあるのが一般的です。
プローブの挿入: 医師が「機械が入りますね」などと声をかけ、潤滑ゼリーを塗ったプローブを膣内に挿入します。この時、口を少し開けて「ハァー」と長く息を吐き、お尻の力を抜きましょう。
観察と診断: モニターを見ながら子宮や卵巣の状態をチェックします。患者さん側のモニターで一緒に映像を見られるクリニックも多いです。
終了: 器具を抜き、台が下がります。身支度を整えて診察室へ戻り、画像を見ながら説明を受けます。
検査を受けられないタイミングはある?
基本的に、超音波検査は生理周期のどのタイミングでも受けることができます。生理中であっても、経血が検査の妨げになることはありませんので安心してください(むしろ生理中の検査は重要です)。
ただし、性交経験のない方(未交会の方)の場合は、膣からの検査が難しいため、お尻の穴から器具を入れる「経直腸エコー」や、お腹の上からの「経腹エコー」に切り替えることがあります。問診の時点で医師や看護師にその旨をお伝えください。
不妊検査としての超音波検査の費用
保険適用と自費診療の違い
現在、不妊治療における基本的な検査や治療の多くは保険適用となっています。不妊の原因を探るための超音波検査や、タイミング法・人工授精の周期における卵胞計測のための超音波検査は、基本的に「保険適用」です。
ただし、保険適用には回数制限(月に何回まで算定可能かなど)や、年齢制限などのルールがあります。また、人間ドックやブライダルチェックとして、自覚症状がなく妊娠治療を目的としない検診として受ける場合は「自費診療」となります。
検査費用
超音波検査と併せて行うべき他の検査
超音波検査は「形」や「大きさ」を見る検査であり、万能ではありません。不妊の原因を総合的に判断するためには、他の検査と組み合わせることが不可欠です。
| 血液検査(ホルモン検査) | 卵巣の機能や排卵の指令が正しく出ているか、FSH、LH、エストラジオール、プロゲステロン、AMH(抗ミュラー管ホルモン)などの数値を測ります。 |
| 卵管造影検査 | 超音波では見えにくい「卵管の詰まり」を確認するための検査です。 |
| 精液検査 | 不妊原因の約半数は男性側にあるため、パートナーの検査も早期に行うことが推奨されます。 |
| 子宮鏡検査 | 超音波でポリープなどが疑われた場合、胃カメラのように子宮内にカメラを入れ、直接内部を観察します。 |
これらを組み合わせることで、より確実な不妊原因の特定と治療方針の決定が可能になります。
よくある質問と回答

Q1: 超音波検査は痛いですか?
A1: 経腟超音波検査では、プローブ挿入時にわずかな違和感を感じることがありますが、激しい痛みはありません。リラックスして力を抜くことで、不快感を最小限に抑えることができます。痛みを感じる場合は、子宮内膜症や骨盤内炎症などの病変がある可能性もあるため、医師に伝えることが大切です。
Q2: 月経中でも検査は受けられますか?
A2: 月経中でも超音波検査は可能です。むしろ月経3日目頃は、胞状卵胞数の評価に最適な時期です。衛生面が気になる場合は、タンポンを使用せず、ナプキンで対応してください。検査後は清拭用のティッシュが用意されているため、心配はありません。
Q3: 検査の頻度はどのくらいですか?
A3: タイミング療法では、排卵日を特定するため、月経周期中に2~3回の検査が一般的です。体外受精では、卵巣刺激中は2~3日ごとに検査を行い、卵胞の発育を綿密にモニタリングします。超音波検査は放射線を使用しないため、頻回の検査でも体への影響はありません。
Q4: 性交渉の経験がなくても検査できますか?
A4: 性交渉の経験がない方には、経腹超音波検査や経直腸超音波検査で対応可能です。経腹超音波検査でも基本的な評価は可能ですが、より詳細な検査が必要な場合は、医師と相談の上、最適な方法を選択します。