LH(黄体形成ホルモン)とは?

LHとは「Luteinizing Hormone」の略で、日本語では「黄体形成ホルモン」と呼ばれます。脳の「下垂体(かすいたい)」という場所から分泌される性腺刺激ホルモンの一種です。 妊活において、LHは主に「排卵」と「着床環境の維持」という二つのドラマチックな役割を担っています。普段は低い数値で推移していますが、ある時期だけ爆発的に分泌量が増える特徴があり、これが妊娠への大きなスイッチとなります。
LHの主な働き:排卵のトリガーと黄体の維持
LHの最大の役割は、「卵巣に対して排卵を命令すること」です。卵巣の中で卵子が十分に育ったタイミングで、脳から大量のLHが放出されます(これをLHサージと呼びます)。この大量のLHを浴びることで、卵巣の壁が破れ、卵子が飛び出します。これが「排卵」です。 また、排卵した後、卵の抜け殻は「黄体」という組織に変化しますが、この黄体を刺激してプロゲステロン(黄体ホルモン)を出させるのもLHの役割です。つまり、LHは排卵を起こさせ、その後のふかふかな子宮内膜(着床環境)を作るサポートもしているのです。
FSH(卵胞刺激ホルモン)との関係性
LHを理解する上で欠かせないのが、同じく脳から出る「FSH(卵胞刺激ホルモン)」との関係です。これらは姉妹のように協力して働きます。 生理が始まると、まずFSHが分泌されて卵巣内の卵子(卵胞)を育てます。そして卵子が十分に大きくなると、バトンタッチするようにLHが急激に分泌されて排卵させます。 「FSHが育てて、LHが排卵させる」というこの連携プレーがスムーズに行われているかどうかが、自然妊娠できるかどうかの大きなカギとなります。不妊検査では、LH単独ではなくFSHとのバランスを見ることが非常に重要です。
LHホルモン検査の時期と基準値の見方
ホルモン値は月経周期によってダイナミックに変動するため、「いつ測ったか」が非常に重要です。不妊治療の初診で行われる血液検査では、通常、ホルモン値が安定している「月経期(生理中)」の数値を基礎値として診断します。
検査を行う最適な時期(月経周期との関係)
LHの基礎値(ベースライン)を知るための採血は、月経開始から2日目~5日目(低温期初期)に行うのが一般的です。この時期は、新しい卵胞が育ち始めるスタートラインであり、LHもFSHも低い数値で落ち着いているのが正常です。 逆に、この時期に数値が異常に高かったり低かったりすると、卵巣機能や脳からの指令系統に何らかのトラブルがある可能性が疑われます。もし検査を受ける場合は、生理が来たらすぐにクリニックの予約を入れることが推奨されます。
【基礎値】LHとFSHのバランスが重要
月経中の正常値の目安は以下の通りですが、絶対的な数値よりも「FSHとの比率」が重要視されます。
| LHの基準値(卵胞期) | 1.5~8.0 mIU/mL程度 |
| FSHの基準値(卵胞期) | 3.5~10.0 mIU/mL程度 |
理想的なバランスは、
「LH < FSH」(FSHの方が少し高い、あるいはLHと同等)
FSHがLHよりも高いことで、卵胞の発育が優先的に促されます。
「LH > FSH」となっている場合
卵胞が育つ前にLHの刺激が強すぎてしまい、排卵障害の原因となることがあります。
【排卵期】LHサージと排卵予測
生理中の基礎値とは別に、排卵直前にはLHの値が急上昇します。これを「LHサージ」と呼びます。 普段は低いLH値が、排卵直前には数倍~数十倍(50~100 mIU/mL近く)まで跳ね上がります。LHサージが始まってから約36時間後、ピークを迎えてから約10~12時間後に排卵が起こると言われています。 不妊治療のタイミング法や人工授精では、この数値を血液検査や尿検査で細かく追うことで、「最も妊娠しやすい日時」をピンポイントで予測します。
LHの数値異常が示す不妊の原因とは?
血液検査の結果、LHの数値が基準値から外れていた場合、どのような不妊リスクが考えられるのでしょうか。数値が高い場合と低い場合、それぞれに原因が異なります。
LH値が高い場合(多嚢胞性卵巣症候群・卵巣機能低下)
月経中のLH値がFSHよりも明らかに高い場合、最も疑われるのが「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)」です。詳細は後述しますが、LHが高いために卵胞が成熟しきらず、排卵しにくくなる状態です。 また、LHとFSHの両方が高い値(10 mIU/mL以上など)を示している場合は、「卵巣機能の低下(早発卵巣不全や更年期に近い状態)」が疑われます。卵巣からの反応が弱いため、脳が「もっと頑張れ!」と過剰にホルモンを出してしまっている状態です。この場合は、早急な治療ステップアップが検討されます。
LH値が低い場合(視床下部・下垂体の機能低下)
逆に、LHもFSHも極端に低い場合(1.0 mIU/mL以下など)は、卵巣ではなく、指令を出す脳(視床下部や下垂体)の機能が低下している可能性があります。 過度なダイエット、激しいスポーツ、強いストレスなどが原因で、脳が「今は妊娠に適していない」と判断し、ホルモン分泌を止めてしまっている状態です。これを「視床下部性無月経」などと呼びます。この場合、排卵が起こらないため、ホルモン補充などの治療が必要です。
LH>FSHの状態が意味すること
改めて強調しますが、不妊治療の現場でよく見かける問題は、LHの基礎値がFSHより高い(LH>FSH)ケースです。 本来、卵胞期初期はFSH主導で卵子を育てるべき時期です。しかしLHが高いと、卵胞の膜(莢膜細胞)から男性ホルモンが過剰に分泌され、それが卵子の発育を邪魔してしまいます。結果として、「生理は来るけれど排卵がスムーズにいかない」「卵子の質が低下する」といったトラブルに繋がります。
LHと密接に関係する「多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)」
LHが高い原因として、20代〜30代の女性に非常に多く見られるのが多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)です。排卵障害の代表的な原因であり、クリニックを訪れる方の多くがこの診断を受けます。
なぜPCOSだとLHが高くなるのか
PCOSの方の卵巣には、育ちきらない小さな卵胞がたくさん溜まっています。通常なら1つの卵胞が選ばれて育つはずが、ホルモンバランスの乱れにより、たくさんの卵胞が少しずつ育ってしまい、どれも排卵できる大きさまで到達できません。 この状態だと、常にLHがダラダラと高く分泌され続ける傾向があります。「LHが高値で持続する」こと自体がさらに卵胞の成熟を阻害し、悪循環に陥ってしまうのです。血液検査で「LHが高く、FSHは正常または低い」というパターンが出た場合、PCOSの可能性が非常に高くなります。
PCOSの場合の排卵障害と対策
PCOSでは「排卵しにくい(稀発月経)」あるいは「全く排卵しない(無排卵月経)」という状態になりがちです。また、LHが高い影響で卵子の質が少し低下するリスクもあります。 しかし、PCOSは適切な治療を行えば妊娠が十分に可能な症状です。卵巣の中に卵子の在庫(原子卵胞)自体はたくさんあることが多いため、排卵さえうまくコントロールできれば、妊娠率は決して低くありません。まずは自分のLH値が高い原因がPCOSかどうかを診断してもらうことが第一歩です。
LH値に異常がある場合の不妊治療・改善方法

排卵誘発剤による薬物療法
LHが高く排卵しにくい場合(PCOSなど)、またはLHが低く卵胞が育たない場合は、排卵誘発剤を使用します。
内服薬(クロミッド、レトロゾールなど): 脳に働きかけてFSHの分泌を促したり、卵巣の環境を整えて排卵をサポートします。PCOSの第一選択薬としてよく使われます。
注射薬(hMG/FSH製剤): 飲み薬で効果がない場合、直接卵巣を刺激する注射を使用します。LHが含まれているもの、FSHのみのものなど種類があり、ホルモン値に合わせて調整します。
カウフマン療法によるホルモンバランスの調整
ホルモンバランスが大きく崩れている場合、一度「カウフマン療法」を行うことがあります。これは、エストロゲンとプロゲステロンの薬を周期的に服用し、人工的に正常な月経サイクルを作る治療法です。 卵巣や脳を一時的に休ませる(リセットさせる)効果があり、治療終了後にホルモン値(LHやFSH)が正常に戻り、自然排卵が戻ってくることを期待します。LHの基礎値を下げるのに有効な場合があります。
生活習慣の改善とストレスケア
LHの分泌は脳の視床下部がコントロールしているため、ストレスや体重の変動に非常に敏感です。
適正体重の維持: 特にPCOSの方で肥満傾向がある場合、少し減量するだけでLH値が下がり、自然排卵が再開することが医学的に証明されています。逆に痩せすぎの方もホルモンが出にくいため、適正体重を目指すことが大切です。
血糖値のコントロール: 糖質の摂りすぎはインスリン値を上げ、それがLHの過剰分泌を招くことがあります。低GI食品を選ぶなど、食事内容の見直しも有効です。
LHサージをご自身で確認する方法(排卵検査薬)
通院していない時期や、タイミング法を行っている場合、市販の排卵検査薬を使って自分でLHの変化を確認することができます。
排卵検査薬の仕組みと正しい使い方
排卵検査薬は、尿中に排出されるLHの濃度を検知するキットです。LHサージ(急上昇)が起きると陽性反応が出ます。 陽性になったタイミングは「まもなく排卵する(約24〜36時間以内)」というサインです。最も妊娠しやすいタイミングは「陽性になり始めた日」から「陽性が一番濃くなった日」です。 正しく使うためには、毎日同じ時間帯に検査すること、そして生理周期から計算して、排卵予定日の数日前から検査を開始することが大切です。
強陽性が続く・陰性のままの場合の対処法
ずっと陽性が続く場合: LHの基礎値が高いPCOSの方によく見られます。常に反応してしまい、いつが排卵日か分かりにくいため、基礎体温やクリニックでの卵胞チェックを併用する必要があります。
ずっと陰性の場合: 無排卵の可能性がありますが、単に検査のタイミング(時間帯)がズレていて、一瞬のLHサージを見逃している場合もあります。1日2回(朝・晩)検査することで捉えられることもあります。