フーナー検査(性交後検査)とはどのような検査?
精子と頸管粘液の「相性」をチェックする検査
フーナー検査は、別名「性交後検査(PCT:Post Coital Test)」とも呼ばれ、不妊治療の初期段階で行われるスクリーニング検査の一つです。 自然妊娠のためには、膣内に射精された精子が、子宮の入り口(子宮頸管)を満たしている「頸管粘液(おりもの)」の中を元気に泳ぎ、子宮の奥へと進んでいく必要があります。
この検査では、排卵期の性交渉後に女性の頸管粘液を採取し、その中に「動いている精子がどれくらいいるか」を顕微鏡で観察します。これにより、精子が女性の体内で適切に生存・移動できているか、つまり「精子と頸管粘液の相性(適合性)」が良いかどうかを確認することができます。あくまで「通過できているか」を見るものであり、受精能力そのものを測るものではありませんが、自然妊娠の可能性を探る上で非常に重要な指標となります。
一般精液検査との違いとわかること
「精液検査」と混同されやすいですが、両者は目的が異なります。
| 一般精液検査 | 男性が採取した精液そのものを調べ、精子の数や運動率、奇形率などを絶対的な数値として評価します。 |
| フーナー検査 | 女性の体内(頸管粘液中)に入った後の精子の状態を見る検査です。 |
男性の精液検査の結果が良好であっても、フーナー検査の結果が悪い(精子が動いていない)ことがあります。これは、精子自体には問題がなくても、女性側の粘液が精子を受け入れにくい状態であったり、免疫反応によって精子の動きが止められていたりする可能性を示唆します。つまり、フーナー検査は「カップル単位での妊娠のしやすさ」を判定する検査と言えるでしょう。
フーナー検査を受ける最適な時期とタイミング
排卵日の特定が最も重要
フーナー検査は、月経サイクルのいつでも受けられるわけではありません。最も重要なのは「排卵日直前、または排卵日当日」に行うということです。 通常、子宮頸管粘液は粘り気が強く、精子を通しにくい性質を持っていますが、排卵期になるとエストロゲン(卵胞ホルモン)の影響で量が増え、透明でサラサラとした「精子が通りやすい状態」に変化します。
もし排卵期以外の時期に検査を行ってしまうと、粘液の状態が精子の通過に適していないため、本来は問題がないカップルでも悪い結果が出てしまう(偽陰性)可能性が高くなります。そのため、基礎体温表の確認や超音波検査、尿中LH検査などを併用し、医師が排卵日を正確に予測した上で検査日を決定します。
検査前日の性交渉(タイミング)と禁欲期間
検査を成功させるためには、指定された検査日の「前夜から当日朝」にかけて性交渉を行う必要があります。一般的には、性交渉から「2時間~12時間以内」に検査を受けることが推奨されています。
また、男性側の準備も大切です。精子の状態を良くするために、検査前の3日~5日程度は射精を控える(禁欲する)ことが望ましいとされる場合が多いですが、禁欲期間が長すぎると逆に古い精子が増えて運動率が下がることがあります。あまり神経質になりすぎず、医師や培養士と相談しながら無理のないタイミングを計画しましょう。
検査の流れと痛みについて
当日の検査手順と所要時間
フーナー検査は、通常の内診台で行われます。検査自体の手順は非常にシンプルで、所要時間は数分程度で終わることがほとんどです。
具体的な流れは以下の通りです。
- 問診: 最終月経や性交渉の時間を確認します。
- 内診・採取: 内診台に上がり、医師がクスコという器具を使って膣を広げ、子宮の入り口(頸管)から細いスポイトや注射器のような器具を用いて頸管粘液を採取します。
- 顕微鏡検査: 採取した粘液をすぐに顕微鏡で観察し、運動している精子の数を確認します。
痛みや出血はある?内診が苦手な方へ
「検査は痛いですか?」という質問は非常に多く寄せられますが、フーナー検査に伴う痛みはほとんどありません。 検査で触れるのは子宮の入り口付近の粘液のみであり、子宮内膜の組織を採るような検査とは異なります。通常の子宮がん検診やおりもの検査と同じような感覚と考えて良いでしょう。
ただし、器具(クスコ)を挿入する際に違和感や軽い圧迫感を感じることはあります。また、採取時にごく少量の出血(点状出血)が見られる場合もありますが、すぐに止まる程度のもので心配はありません。痛みに極端に弱い方や、内診に強い抵抗がある方は、事前に医師や看護師にご相談ください。
フーナー検査の結果の見方と基準値
判定基準(優・良・可・不可)
フーナー検査の結果は、顕微鏡の1視野(400倍など)あたりに「元気に直進運動している精子が何匹いるか」で判定されます。以下のように分類されます。
| 優(Excellent) | 15匹〜20匹以上。非常に良好な状態です。自然妊娠が十分に期待できます。 |
| 良(Good) | 10匹〜14匹程度。良好です。妊娠の可能性は十分にあります。 |
| 可(Fair) | 5匹〜9匹程度。境界域ですが、妊娠の可能性はあります。 |
| 不可(Poor) | 4匹以下、または運動している精子がゼロ。精子が子宮内に侵入できていない可能性が高い状態です。 |
この判定は「絶対的な妊娠確率」を示すものではありません。「優」であっても他の要因で妊娠しないこともあれば、「可」でも自然妊娠するケースは多々あります。
運動精子数による評価の目安
たとえ精子の数が多くても、その場で振動しているだけで前進していない場合は、評価が低くなることがあります。逆に数は少なくても、真っ直ぐ力強く泳いでいる精子が確認できれば、妊娠の可能性は残されています。
また、WHO(世界保健機関)の基準では、「視野内に運動精子が確認できれば陽性」とする考え方もあり、判定基準には多少幅があります。一度の結果だけで一喜一憂せず、総合的な不妊検査の一つとして結果を捉えることが重要です。
結果が悪かった(不良・ゼロ)場合に考えられる4つの原因
検査のタイミング(排卵日)のズレ
フーナー検査の結果が不良となる原因で最も多いのが、「検査タイミングのズレ」です。 前述の通り、頸管粘液は排卵期のごく短い期間だけ精子を通しやすい状態になります。排卵日が予想より早かったり遅かったりした場合、粘液の質が悪く、精子が入り込めないため結果が悪くなります。 「結果が悪かった=不妊」と直結するわけではなく、単に時期が合わなかっただけのケースが非常に多いため、結果が悪くてもまずは時期をずらして再検査を行うのが一般的です。
頸管粘液の分泌不足や質の低下
タイミングが合っているにもかかわらず結果が悪い場合、女性側の「頸管粘液」に原因がある可能性があります。
分泌量不足: 頸管粘液の量が少ないと、精子が泳ぐためのプールがない状態となり、子宮内へ進めません。クロミッドなどの排卵誘発剤の副作用で粘液が減少することもあります。
粘液の質: 粘り気が強すぎる、白血球が混じっている(炎症がある)などの場合、精子の通過が妨げられます。
男性側の要因(精子の数・運動率)
当然ながら、送り込まれる精子の状態が悪ければ、フーナー検査の結果も悪くなります。 一般精液検査で「精子無力症(運動率が悪い)」や「乏精子症(数が少ない)」と診断されている場合、頸管粘液まで到達できる精子の数が絶対的に少なくなります。また、その日の体調やストレスによって一時的に精子の状態が悪化していることもあります(造精機能には波があります)。
免疫性不妊(抗精子抗体)の可能性
最も注意が必要なのが「免疫性不妊」です。 女性の体が精子を「異物(ウイルスや細菌のような敵)」と認識し、攻撃してしまう抗体(抗精子抗体)を持っているケースです。この抗体が頸管粘液の中に分泌されていると、元気な精子が入ってきても、粘液に触れた瞬間に動きを止めてしまったり、固められてしまったりします。 タイミングも良く、精液検査も正常なのに、フーナー検査で「精子が全て死滅している」「震えるだけで進まない」という結果が続く場合は、この抗精子抗体の有無を疑います。
フーナー検査の結果が悪い場合の再検査と次のステップ
複数回の再検査が必要な理由
フーナー検査は変動性が高い(結果がブレやすい)検査です。 「排卵日のズレ」「男性の当日の体調」「性交渉からの経過時間」「性交渉のトラブル(射精が不十分だった等)」など、様々な要因で結果が左右されます。 そのため、一度「不可(Poor)」という結果が出たからといって、すぐに「自然妊娠は無理」と断定することはありません。通常は、排卵日の特定をより厳密に行いながら、周期を変えて2〜3回再検査を行います。複数回行っても結果が改善しない場合に初めて、治療方針の変更を検討します。
抗精子抗体検査への移行
再検査を繰り返しても結果が不良である場合、血液検査で「抗精子抗体」の有無を調べます。 もし抗精子抗体が陽性(強陽性)であると判明した場合、精子は子宮頸管を通過できないだけでなく、受精そのものも阻害される可能性があるため、タイミング法での妊娠は極めて難しくなります。 この検査を行うことで、タイミング法を繰り返す時間を短縮し、適切な治療へ早く移行できるメリットがあります。
人工授精(AIH)や体外受精へのステップアップ
フーナー検査の結果不良が続く場合の治療戦略は以下のようになります。
頸管粘液不全や軽度の精子不良の場合: 「人工授精(AIH)」が有効な選択肢です。人工授精は、洗浄濃縮した元気な精子を、カテーテルを使って子宮の奥(頸管粘液のバリアの向こう側)に直接届けます。これにより、頸管粘液の問題をスキップ(パス)することができます。
抗精子抗体が陽性の場合: 抗体の値が高い場合は、人工授精でも妊娠が難しいことが多いため、「体外受精(IVF)」や「顕微鏡受精(ICSI)」へのステップアップが推奨されます。体外受精であれば、精子と卵子が直接出会う環境を管理できるため、免疫反応の影響を受けずに受精させることが可能です。
「結果が悪い=絶望」ではなく、「自然妊娠しにくい原因が特定でき、より確実な方法へ進むための道筋が見えた」と捉えることが大切です。
フーナー検査にかかる費用
フーナー検査に関するよくある質問(FAQ)

Q1: フーナー検査の結果が良ければ、必ず妊娠できますか?
A1: 残念ながら、必ず妊娠できるとは限りません。フーナー検査が良いということは「精子が子宮内に入れている」ことの証明にはなりますが、その先に「卵管が詰まっていないか」「卵子の質は良いか」「受精・着床できるか」といったハードルが残っています。あくまで妊娠成立に必要な条件の一つをクリアしているとお考えください。
Q2: 性交渉の時、ゼリー(潤滑剤)を使ってもいいですか?
A2: 基本的には控えたほうが無難です。市販の潤滑ゼリーの中には、精子の運動を妨げたり、殺精子作用があったりする成分が含まれているものがあります。もし痛みのためにどうしても必要な場合は、不妊治療専門クリニックなどで販売されている「精子に影響を与えない専用の潤滑ゼリー」を使用し、医師にもその旨を伝えてください。
Q3: 夫が検査に協力的ではありません。フーナー検査だけでも意味はありますか?
A3: はい、大きな意味があります。男性が病院に来て精液検査を受けることに抵抗がある場合でも、フーナー検査なら女性の通院だけで「精子の状態」を間接的に知ることができます。ここで良好な結果が出れば男性不妊の可能性は低いと推測できますし、結果が悪ければそれをきっかけに男性側の検査を説得する材料にもなります。