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「仕事が楽しくて充実しているけれど、いつかは子どもも欲しい」
「まだ理想のパートナーには巡り会えていないけれど、母親になる夢は絶対に諦めたくない」
診察室で、そんな切実な思いを打ち明けてくださる女性にお会いすることも多いです。現代を生きる30代、40代の女性は、キャリアの構築とライフプランの狭間で、常に時間という目に見えないプレッシャーと戦っています。「卵子凍結」という言葉をニュースやSNSで目にする機会が増え、「私にも必要なのかな?」「どうやってやるのだろう?」と検索し、この記事にたどり着いたのではないでしょうか。
女性の体は、年齢とともに妊娠する力(妊孕性)が変化していきます。気持ちは20代の頃と変わらなくても、卵子は確実に年齢を重ねているという現実があります。卵子凍結は、そんな「卵子の時間」を今の状態のまま止めておくことができる、現代の生殖医療が生み出した画期的な技術です。
しかし、生殖医療専門医としてお伝えしたいのは、卵子凍結は決して「100%の妊娠を約束する魔法」ではないということです。メリットだけでなく、具体的な方法、身体への負担、そして将来実際に使う時のハードルまで、正しい知識を持った上で決断することが何よりも大切です。
この記事では、卵子凍結の具体的な方法から、パートナーがいる場合の「胚凍結」との違い、そして後悔しないための年齢別のアドバイスまで、専門医ならではの視点で詳しく、そして丁寧にお伝えしていきます。ぜひ最後までお読みください。
卵子凍結とは?基礎知識と「胚凍結(受精卵凍結)」との違い
「卵子凍結」という言葉は知っていても、具体的にどのような状態のものを凍結するのか、そして不妊治療でよく聞く「胚凍結」との違いを正確に理解されている方は意外と少ないものです。まずは基本的な知識から整理していきましょう。
卵子の時間を止める「社会的適応」と「医学的適応」
卵子凍結には、大きく分けて2つの目的があります。 1つ目は「医学的適応」です。これは、がん治療(抗がん剤や放射線治療など)によって卵巣機能が著しく低下、あるいは消失してしまう可能性がある女性に対し、妊孕性(妊娠する力)を温存するために治療前に行われる卵子凍結を指します。
2つ目は、近年急速にニーズが高まっている「社会的適応」です。健康な女性が、現在はパートナーがいない、あるいは仕事のキャリア形成を優先したいといったライフプラン上の理由から、年齢が若い段階の卵子を保存する目的で行われます。30代・40代の女性が将来の妊娠に備えて自らの意思で選択するのは、この社会的適応による卵子凍結となります。
未受精の「卵子凍結」と受精後の「胚凍結」の決定的な違い
診察室でよく「卵子凍結と胚凍結(受精卵凍結)は何が違うのですか?」というご質問をいただきます。この2つの最大の違いは、「卵子を採卵してから凍結するまでのタイミング」にあります。
より分かりやすく言うと、卵子と精子を“受精させる前”か、“受精させた後”かという違いです。
「卵子凍結」は、採卵した卵子を、まだ精子と出会っていない「未受精卵」の状態でそのまま凍結保存する方法です。一方の「胚凍結」は、採卵した卵子にパートナーの精子を受精させ、細胞分裂が進んだ「受精卵(胚)」の状態で凍結保存する方法です。着床・妊娠前のステージである「胚盤胞」まで育ててから凍結することが一般的です。現在ご結婚されている、または事実婚のパートナーがいらっしゃる場合は、原則として卵子凍結ではなく、胚凍結が適応となります。
細胞の数の違いがもたらす凍結生存率の差
医学的・技術的な観点から見ると、卵子凍結と胚凍結では、凍結・融解後の「生存率」に大きな差があります。
その理由は「細胞の数」の違いです。
卵子は単体の細胞であり水分を多く含んでいます。そのため、マイナス196℃で凍結し、その後融解する過程でこの1個の細胞がダメージを受けてしまうと、そのまま死んでしまいます。一方、胚(胚盤胞)は、数十~数百個の細胞が集まった重合体です。そのため、凍結・融解によって一部の細胞がダメージを受けたとしても、残りの多くの細胞が生存していれば、十分に赤ちゃんに育つポテンシャルは維持されます。例えるなら、胚盤胞は小さな風船がたくさん集まった状態であり、卵子は1個の風船の状態です。そのため、一般的に胚凍結の方が融解後の生存率は圧倒的に高くなります。
パートナーの有無で変わる最適な保存方法の選択
もし現在、特定のパートナーがいらっしゃらない場合や、パートナーはいるけれどまだ結婚や出産の具体的な予定がない場合は、自分一人の意思で進められる「卵子凍結」が良い選択肢となります。万が一、将来的にパートナーが変わった場合でも、ご自身の卵子として妊娠の可能性を残すことができます。
一方、現在既婚または事実婚のパートナーがいらっしゃる場合は「胚凍結」をご検討ください。胚凍結であれば、受精済みであるため凍結後の生存率が高く、さらに「ガードナー分類」という国際的な評価方法で胚のグレードを判定できるため、妊娠の可能性を事前にある程度予測して効率良く治療を進めることができるという大きなメリットがあります。
最新の卵子凍結方法「急速ガラス化法」の仕組みと品質管理
卵子のような水分を多く含む細胞を、ダメージを与えずに凍結することはかつて非常に困難でした。
しかし、現在では画期的な技術の進歩により、高い確率で卵子を保存できるようになっています。
急速ガラス化法(Vitrification)とは?
現在、当院を含む日本のほとんどの生殖医療施設で採用されているのが「急速ガラス化法(Vitrification)」という技術です。この方法は、細胞内の水分が凍る時にできる「氷の結晶」を防ぐための技術です。水は凍ると氷になり、トゲトゲとした結晶(氷晶)を作ります。この結晶が卵子の細胞膜や内部の構造を破壊してしまうのが、かつてのゆっくり凍結させる方法の課題でした。
急速ガラス化法では、細胞をマイナス196℃の液体窒素に直接浸漬することで、1分間にマイナス20,000℃という超高速で冷却します。この猛烈なスピードで冷却することで、水分が氷の結晶を作る時間を与えず、まるでガラスのように透明な固体の状態(非結晶状態)のまま凍結させることができるのです。これにより、卵子の損傷を最小限に抑え、半永久的に品質を保つことが可能になりました。
凍結保護剤の役割とマイナス196℃の液体窒素保管
急速ガラス化法を成功させるためのもう一つの鍵が「凍結保護剤」です。卵子はおよそ9割が水分で構成されているため、そのままではどうしても氷晶ができてしまいます。そこで、凍結前に特殊な培養液を使い、浸透圧の変化を利用して卵子の細胞内から水分を外に出し(脱水)、代わりに高濃度の凍結保護剤を細胞内に入れ込みます。この保護剤が、いわば卵子を守る「防護服」のような役割を果たし、超低温の環境から細胞を守り抜くのです。
凍結された卵子は、「クライオトップ」などの専用の保管容器にラベリングされ、液体窒素で満たされた専用のタンク内で厳重に保管されます。マイナス196℃の極低温下では生物学的な変化はほぼ停止するため、凍結した時の年齢のポテンシャルを維持したまま、安全に保管し続けることができます。
卵子凍結の具体的なスケジュールとプロセス(入り口)
「卵子凍結をしたいけれど、具体的にどんなことをするの?」という疑問にお答えするため、初診から凍結完了までの具体的なステップを解説します。
ステップ1:初診・AMH検査で卵巣予備能を知る
まずはクリニックを受診し、問診と超音波検査、血液検査を行います。この初期検査で最も重要なのが「AMH(抗ミュラー管ホルモン)検査」です。AMHは卵巣内に残っている卵子の数(卵巣予備能)の目安を知るための指標です。この数値が高いと一度の採卵で多くの卵子を獲得できる可能性が高く、低い場合は目標個数に達するまでに複数回の採卵が必要になる可能性があるなど、治療計画を立てる上での非常に重要な羅針盤となります。年齢が若くてもAMH値が低い方もいらっしゃいますので、まずはご自身の現状を知ることが大切です。
ステップ2:卵巣刺激(排卵誘発)で複数の卵子を育てる
自然な月経周期では、通常1つの卵子しか成熟しませんが、卵子凍結では効率よく複数の卵子を確保するために「卵巣刺激(排卵誘発)」を行います。月経開始3日目頃から、飲み薬(クロミッドやレトロゾールなど)や、FSH製剤などの注射薬を連日使用して、卵巣内の複数の卵胞を同時に育てていきます。約10〜14日間の刺激期間中、3〜4日ごとにクリニックで超音波検査と血液検査を行い、卵胞の成長具合を細かくモニタリングします。
高刺激から自然周期まで、自分に合った誘発方法
卵巣刺激には、高刺激(アンタゴニスト法、PPOS法など)、中刺激、低刺激、自然周期など様々な方法があります。AMH値が高く年齢が若い方には、一度に多く採卵できる高刺激法が適していることが多いですが、AMH値が低い方や高齢の方に強い刺激を行うと、かえって卵子の質が低下したり、体に過度な負担がかかったりすることがあります。医師と相談し、ご自身の卵巣機能に最も適したオーダーメイドの刺激法を選ぶことが成功の鍵です。
ステップ3:採卵手術の実際と痛みのコントロール
卵胞が18〜20mm程度に育ったら、採卵の約36時間前に卵子の最終成熟を促すhCG注射や点鼻薬(トリガー)を使用し、いよいよ採卵日を迎えます。採卵は、経腟超音波の画像を見ながら、膣壁越しに細い針を卵巣に刺して卵胞液ごと卵子を吸引する手術です。所要時間は10〜30分程度です。「痛みが怖い」という方が多いですが、当院では患者様の痛みに合わせた麻酔(局所麻酔や静脈麻酔)を提供しております。静脈麻酔(眠る麻酔)を使用すれば、痛みを感じることはほとんどありません。採卵後はクリニックのベッドで数時間安静にし、体調に問題がなければその日のうちに帰宅できます。
ステップ4:培養室での卵子の評価と凍結保存
採卵手術で採取された卵胞液は、すぐに隣接する培養室に運ばれます。そこで胚培養士が、顕微鏡下で卵胞液の中から卵子を探し出します。採取されたすべての卵子が凍結できるわけではありません。卵子には成熟度があり、十分に成熟していると確認された卵子のみが、将来受精する能力を持っているため、前述した「急速ガラス化法」を用いて丁寧に1個ずつ凍結保存されます。
凍結した卵子を「使う時」の具体的な方法と流れ(出口)
卵子凍結は「凍結して終わり」ではありません。将来、パートナーに恵まれ、実際に妊娠を望む時が来た場合の「出口戦略」を知っておくことが後悔しない選択のために極めて重要です。
融解から受精へ:凍結卵子には必ず「顕微授精(ICSI)」が必要な理由
将来、凍結卵子を使用する際は、まず液体窒素タンクから卵子を取り出して融解します。ここで非常に重要なポイントがあります。凍結・融解を経た卵子は、通常の体外受精(ふりかけ法)ではなく、必ず「顕微授精(ICSI)」を行う必要があるということです。卵子は凍結・融解のプロセスを経ると、卵子を包む殻(透明帯)が硬くなる性質があります。そのため、精子が自力で殻を突き破って受精することが非常に難しくなります。したがって、胚培養士が顕微鏡下で選び抜いた1個の良好な精子を、極細のガラス針を使って卵子の中に直接注入する顕微授精が必須となるのです。
受精卵の培養と「胚盤胞」への成長という高いハードル
顕微授精によって無事に受精が成立したとしても、次の大きなハードルが待っています。受精卵(胚)をインキュベーター(培養器)の中で育て、子宮に着床できる状態である「胚盤胞」まで成長させなければなりません。 受精卵は細胞分裂を繰り返し、2細胞、4細胞、8細胞と進み、5〜6日目に胚盤胞へと到達します。しかし、受精したすべての卵が胚盤胞になるわけではありません。年齢にもよりますが、受精卵が胚盤胞まで到達する確率は平均して約40〜60%程度であり、途中で成長が止まってしまうことも少なくありません。この細胞分裂の過程は、卵子自身が持つエネルギー(ミトコンドリア機能など)に大きく依存しています。
子宮内環境を整えて行う「胚移植」のプロセス
無事に胚盤胞まで育ったら、いよいよ子宮内に戻す「胚移植」を行います。凍結卵子を使用した治療では、ホルモン剤(エストロゲン製剤とプロゲステロン製剤)を使用して、子宮内膜を着床に最適な状態に人工的に整える「ホルモン補充周期」での移植が一般的です。 子宮内膜が十分に厚く育った最適なタイミングを見計らい、細く柔らかいカテーテルを使って、エコーを見ながら子宮内のベストな位置に胚をそっと置きます。移植自体は痛みも少なく、5〜10分程度で終了します。その後、約2週間後の妊娠判定日を待ちます。
30代・40代が知っておくべき卵子凍結の「妊娠率」の現実
卵子を凍結しておけば、将来必ず赤ちゃんを抱けるわけではありません。専門医として、医学的なデータに基づくリアルな現実をお伝えします。
凍結卵子1個あたりの妊娠率と年齢の壁
アメリカ生殖医学会などのデータによると、凍結卵子1個あたりの妊娠率(出産に至る確率)は、採卵時の年齢によって以下のように低下していきます。
| 30歳未満 | 約10~15% |
| 30~34歳 | 約8~10% |
| 35~39歳 | 約3~10% |
| 40歳以上 | 3%未満 |
この数字を見て、「思ったより低い」と驚かれたかもしれません。1個の卵子から赤ちゃんが生まれる確率は、実はこれほどシビアなのです。融解時の生存、受精、胚盤胞への発育、着床、そして妊娠継続と、いくつもの高いハードルを越えなければならないためです。
何個凍結すれば安心?目標個数の目安とシビアな現実
では、将来1人の赤ちゃんを授かるためには何個の卵子を凍結しておくべきなのでしょうか。一つの目安として、「採卵時の年齢と同じ数の卵子」を確保することが望ましいとよく言われます(例:35歳なら35個)。しかし、現実的な目標としては、35歳以下であれば15〜20個、35〜39歳であれば20個以上を確保したいところです。しかし、年齢が上がるにつれてAMH値が下がり、一度に採れる卵子の数は減るため、目標個数に達するまでに採卵を2回、3回と繰り返さなければならないケースも多くなります。
卵子凍結のメリットと知っておくべきリスク・副作用
卵子凍結を決断する前に、メリットだけでなく身体に及ぼすリスクや副作用についても正しく理解しておく必要があります。
メリット:キャリア形成と将来の可能性を両立できる安心感
社会的卵子凍結の最大のメリットは、何と言っても「時間的な焦りからの解放」です。 卵子の老化という生物学的なタイムリミットを気にすることなく、今の仕事のプロジェクトに集中したり、納得のいくパートナー探しに時間をかけたりすることができます。実際に卵子凍結をされた患者様からも「心の余裕ができた」「結婚への焦りがなくなり、自分の人生に集中できるようになった」という前向きな声を多くいただきます。若いうちの質の高い卵子を保存しておくことは、未来の自分への強力な「お守り」になります。
リスク1:卵巣過剰刺激症候群(OHSS)と採卵時の負担
採卵のために排卵誘発剤を使用すると卵巣が過剰に刺激されて腫れ上がり、お腹や胸に水が溜まる「卵巣過剰刺激症候群(OHSS)」を引き起こすリスクがあります。 特に、AMH値が高い方、PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)の方、35歳以下の若い方、痩せ型の方はOHSSになりやすい傾向があります。軽度の場合はお腹の張りや軽い吐き気程度ですが、重症化すると血栓症のリスクが高まり、入院が必要になることもあります。現在は、誘発方法の工夫(アンタゴニスト法など)により重症化リスクは大幅に減っていますが、ゼロではないことを理解しておきましょう。また、採卵手術に伴う出血や感染のリスクもわずかながら存在します。
リスク2:凍結卵子が100%妊娠を保証するものではないという事実
繰り返しになりますが、最も認識しておくべきリスクは「凍結卵子を使えば必ず妊娠できるわけではない」ということです。 さらに、卵子を若く保てても、母体は確実に年齢を重ねます。40代になってから凍結卵子を使用して妊娠した場合、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病、難産などの「高齢出産に伴う母体や胎児へのリスク」は避けることができません。卵子凍結はあくまで「可能性を残すための選択肢の一つ」であり、完全な解決策ではないことを心に留めておいてください。
卵子凍結にかかる費用と助成金(東京都の事例など)
卵子凍結は原則として健康保険が適用されない「自費診療」となるため、経済的な負担も考慮する必要があります。
採卵・凍結にかかる初期費用と保管更新料の相場
初診から検査、排卵誘発、採卵手術、そして卵子の凍結保存までにかかる「入り口」の総費用は、クリニックや凍結する卵子の個数によって異なりますが、おおよそ40万〜65万円程度が相場です。当院の卵子凍結プランは、採卵数や凍結数問わず全て同一料金のわかりやすい料金形態となっており、事前の検査費用や薬剤費も含まれております。 さらに見落としがちなのが、凍結卵子を維持するための「保管更新料」です。凍結した翌年以降、1年ごとに約3万〜5万円程度の保管料がかかり続けます。
凍結卵子を使用する際(融解・顕微授精・移植)の費用
将来パートナーができ、いざ凍結卵子を使うとなった時の「出口」の費用も想定しておく必要があります。 凍結卵子の融解、顕微授精、胚培養、そして胚移植という高度生殖医療のプロセスを経るため、この使用時にも約50万〜60万円程度の費用がかかります。つまり、卵子凍結のスタートから将来の妊娠判定までをトータルで考えると、100万円近い投資になる可能性があることを理解した上でライフプランを立てることが大切です。
東京都「卵子凍結に係る費用助成」など支援制度の活用
高額な費用負担を軽減するため、近年では自治体による助成制度が始まっています。 当院は墨田区で唯一の東京都の「卵子凍結に係る費用助成」の登録医療機関に認定されております。東京都では、都内在住の18歳〜39歳の女性を対象に、以下の助成を行っています。
- 卵子凍結を実施した年度: 上限20万円
- 次年度以降の保管更新時: 1年ごと一律2万円(最大5年間) 合計で最大30万円の助成を受けることができます。ただし、事前の説明会への参加が必須条件となっています。東京都以外でも助成制度を設ける自治体(千葉県浦安市など)や、企業の福利厚生で補助が出るケースも増えているため、ご自身の環境で利用できる制度がないか必ず確認しましょう。
質の良い卵子を凍結するために!今からできる生活習慣の改善
卵子凍結を成功させるためには、今の卵子の「質」を最大限に引き上げておくことが重要です。卵子の老化そのものを止めることはできませんが、生活習慣によって質を低下させないことは可能です。
卵子の老化とミトコンドリア機能の関係
卵子の質を左右する大きな要因の一つが、細胞のエネルギー工場である「ミトコンドリア」の働きです。卵子が成熟し、受精し、細胞分裂していくには膨大なエネルギーが必要ですが、年齢とともにミトコンドリアの機能は低下し、エネルギー不足を引き起こします。これが受精障害や胚の発育停止の原因となります。ミトコンドリアの機能を低下させる最大の敵は「酸化ストレス(活性酸素)」です。
食生活の見直し:抗酸化物質と地中海式食事法
酸化ストレスから卵子を守るためには、抗酸化作用のある栄養素を積極的に摂ることが有効です。ビタミンC、ビタミンE、コエンザイムQ10などが代表的です。また、近年不妊治療の現場で推奨されているのが「地中海式食事法」です。オリーブオイル、青魚(オメガ3脂肪酸)、緑黄色野菜、ナッツ類、全粒穀物を中心とした食事は、卵子の質を改善し、体外受精の成績向上に有効であることが報告されています。さらに、細胞分裂や着床に不可欠な葉酸(1日640μg推奨)やビタミンDの摂取も心がけましょう。
運動、睡眠、ストレス管理と「禁煙」の重要性
- 睡眠: 卵子の成熟に関わるホルモンは睡眠中に分泌されるため、最低7時間の質の良い睡眠を確保してください。
- 運動: 激しい運動は逆効果ですが、ヨガやウォーキングなど1日30分程度の適度な有酸素運動は、骨盤内の血流を良くし、ミトコンドリアを活性化させます。
- ストレス管理: 過度なストレスはホルモンバランスを乱し、酸化ストレスを増大させます。
- 禁煙: そして最も重要なのが「禁煙」です。喫煙は卵子の質を著しく低下させ、妊娠率を半減させます。受動喫煙も同様に悪影響があるため、環境を整えることも大切です。
卵子凍結に関するよくある質問(Q&A)

Q1. 卵子は何個くらい凍結すればいいですか?
A1. 年齢により推奨される個数は異なりますが、よく「採卵時の年齢の個数分凍結しておくのが望ましい」と言われます(35歳なら35個)。しかしこれはあくまで理想であり、AMH値によっては一度の採卵で獲得出来る個数には個人差があるため、目標に届くまで繰り返し採卵が必要となるケースも少なくありません。
Q2. 凍結した卵子や胚に保管期限はありますか?
A2. 技術的にはマイナス196℃の保管によって半永久的に保存可能です。ただし、日本産科婦人科学会のガイドラインでは、『被実施者の生殖年齢を超えない範囲での保管』を推奨しており、多くの施設で満45歳または50歳までといった期限を設けています。
Q3. 凍結融解で生まれた子どもに影響はありませんか?
A3. これまでの世界的な大規模な追跡調査では、凍結融解した卵子や胚から生まれた子どもと、自然妊娠で生まれた子どもの間で先天異常率や発育・発達に有意な差は認められていません。
Q4. パートナーと別れた場合、凍結胚はどうなりますか?
A4. 凍結胚(受精卵)は、ご夫婦両者の同意がなければ使用できません。離婚や死別した場合は、原則として廃棄となります。そのため、未婚の方は受精卵ではなく、ご自身の意思だけで将来使える「卵子凍結」を選ぶ必要があります。
Q5. 卵子凍結のためにたくさんの卵子を採る方法はありますか?
A5. AMHの数値がある程度高い場合には、注射による強い卵巣刺激(高刺激法)を行うことによって、一度に多くの卵子を獲得出来る可能性があります。一方で、AMHが低い場合には、強い卵巣刺激を行っても期待しているほどの卵子が獲得できないことが多く自然周期や低刺激法が選択されることもあります。