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子宮卵管造影検査を控えて、「どのくらい痛いんだろう」「耐えられるかな」と不安を感じていらっしゃいませんか?インターネットで調べると「すごく痛かった」という体験談を目にすることもあり、余計に心配になってしまいますよね。
これまでの診療経験からいうと、確かに痛みを感じる方もいらっしゃいますが、適切な準備と対策により、その痛みは大幅に軽減できます。この記事では、なぜ痛みが生じるのか、どの程度の痛みなのか、そして最新の痛み軽減方法まで、医学的根拠に基づいて詳しくご説明します。
検査への不安を少しでも和らげ、安心して臨んでいただけるよう、実際の診療現場での経験を踏まえてお伝えしていきます。
子宮卵管造影検査(HSG)とは?不妊治療における重要性
検査の目的と得られる情報
子宮卵管造影検査(HSG:Hysterosalpingography)は、子宮の入り口から造影剤を注入し、X線撮影により子宮や卵管の形態を観察する検査です。
具体的には、卵管の通過性、子宮の形態異常、子宮内膜ポリープや筋腫の有無などが分かります。特に卵管の通過性は、タイミング療法や人工授精の成功に直結する重要な要素です。
検査のタイミングと所要時間
検査は月経終了後から排卵前(月経周期の7~10日目)に実施します。この時期は子宮内膜が薄く、造影剤が見やすいうえ、妊娠の可能性がない時期です。月経中は感染リスクが高まるため避け、排卵後は受精卵への影響を考慮して実施できません。
検査自体の所要時間は約10~15分程度です。実際の造影剤注入は3~5分程度で、その前後の準備や観察を含めても短時間で終了します。ただし、検査前の説明や検査後の安静時間を含めると、来院から帰宅まで1時間程度を見込んでおくとよいでしょう。
多くの施設では、検査前に鎮痛剤を服用していただいたり、リラックスできる環境づくりに配慮したりしています。
なぜ子宮卵管造影検査で痛みを感じるのか?医学的メカニズム
造影剤注入時の子宮内圧の変化
痛みの主な原因は、造影剤注入による子宮内圧の急激な上昇です。通常、子宮内腔は潰れた状態ですが、造影剤により急速に拡張されます。この際、子宮の筋肉(平滑筋)が引き伸ばされ、痛覚受容器が刺激されることで痛みが生じます。
これは、強い生理痛のメカニズムと似ています。生理痛も子宮内圧の上昇により生じますが、造影検査では短時間により強い圧がかかるため、一時的により強い痛みを感じることがあります。ただし、圧の上昇は造影剤注入時のみで、注入を止めれば速やかに改善します。
また、造影剤が卵管を通過する際にも軽度の痛みが生じることがあります。特に卵管が細い場合や、軽度の詰まりがある場合は、造影剤が通過する際の圧力により、下腹部に鈍い痛みを感じることがあります。しかし、この痛みも一過性で、検査終了とともに消失することが一般的です。
個人差が生じる3つの要因
子宮の形態的要因
子宮の傾きによっては、造影剤注入用のカテーテル挿入時に痛みを感じやすい傾向があります。後屈子宮では子宮頸管の角度が急になるため、カテーテルの挿入に技術を要し、子宮壁への刺激が強くなることがあります。
また、子宮筋腫や子宮腺筋症がある場合も痛みが強くなる可能性があります。これらの疾患では子宮の柔軟性が低下し、造影剤による拡張時の痛みが増強されます。さらに、先天的な子宮奇形(双角子宮など)がある場合も、造影剤の流れが複雑になり、痛みを感じやすくなることがあります。
卵管の通過性
卵管の通過性は痛みの程度に大きく影響します。両側の卵管が完全に閉塞している場合、造影剤の逃げ道がないため子宮内圧が著しく上昇し、強い痛みを引き起こします。一方、卵管がスムーズに通過する場合は、圧が速やかに解放されるため、痛みは軽度で済みます。
部分的な詰まり(軽度の癒着など)がある場合は、造影剤が通過する際に一時的に圧が上昇し、「詰まりが抜ける」ような感覚とともに痛みを感じることがあります。しかし、この場合は造影剤により詰まりが改善されることも多く、治療的効果が期待できます。
心理的要因の影響
不安や恐怖心は痛みの感じ方を増強させることが科学的に証明されています。緊張により筋肉が硬直すると、カテーテル挿入が困難になり、実際の痛みも増加します。また、痛みへの予期不安により痛覚閾値が低下し、同じ刺激でもより強い痛みとして認識されることがあります。
逆に、リラックスした状態では痛みの感じ方が軽減されます。深呼吸により副交感神経が優位になると、筋肉の緊張が緩和され、痛みの伝達も抑制されます。検査への理解を深め、医療スタッフとの信頼関係を築くことも、心理的な安定につながり、結果的に痛みの軽減に寄与します。
実際の痛みの程度は?生理痛との比較

患者様の声から見る痛みの実態
実際に検査を受けた患者様の声を集計すると、多くの方が「ほとんど痛みを感じなかった」、「生理痛より軽い痛みだった」と回答され、痛みが強かったと感じる方はかなり少数です。
「思っていたより痛くなかった」という感想が最も多く、事前の不安が大きかった分、実際の痛みは想像以下だったという方が多数いらっしゃいます。
一方で、強い痛みを感じた方の多くは、卵管の詰まりや子宮の形態異常が見つかったケースです。ただし、このような場合でも、痛みは検査により原因が特定でき、適切な治療につながったという前向きな捉え方をされる方が多いのも特徴です。
痛みのピークと持続時間
痛みのピークは造影剤注入開始から30秒~1分程度の間に訪れることがほとんどです。この短時間に子宮内圧が最も上昇し、その後は造影剤が卵管から腹腔内に流出することで圧が解放され、痛みは急速に軽減します。
検査中の痛みは通常3~5分程度で治まり、検査終了後は速やかに改善します。検査後に軽度の下腹部痛や違和感が数時間続くことがありますが、これは造影剤による刺激の影響で、通常は当日中に消失します。鎮痛剤の服用により、これらの症状は効果的にコントロールできます。
まれに検査後1~2日間、軽度の痛みや少量の出血が続くことがありますが、これも正常な反応の範囲内です。日常生活に支障をきたすような痛みが続く場合は、別の原因が考えられるため、医療機関への相談が必要です。
痛みを軽減する対策
検査前の準備
鎮痛剤の予防的服用
検査の30~60分前に鎮痛剤を服用することで、痛みを効果的に予防できます。一般的にはNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)であるロキソプロフェンやイブプロフェンが使用されます。これらは子宮の収縮を抑制し、痛みの原因となるプロスタグランジンの産生を阻害します。
当院では、患者様の既往歴やアレルギーを確認した上で、最適な鎮痛剤を処方しています。この予防的服用により、約70%の方で痛みの軽減効果が認められています。
リラックス法の実践
検査前日は十分な睡眠を取り、当日は余裕を持って来院することが大切です。検査直前には、簡単なリラクゼーション法を実践することをお勧めします。例えば、4-7-8呼吸法(4秒で吸い、7秒止め、8秒で吐く)は、副交感神経を活性化し、緊張を和らげる効果があります。
また、検査前に温かい飲み物を飲んだり、好きな音楽を聴いたりすることも効果的です。当院ではリラクゼーションルームも設置し、心地よい空間づくりを心がけています。
検査中の対処法
呼吸法の活用
検査中は深くゆっくりとした呼吸を心がけることが重要です。痛みを感じたときほど呼吸が浅くなりがちですが、意識的に深呼吸を続けることで、筋肉の緊張を和らげ、痛みの感じ方を軽減できます。特に、吐く息を長くすることで、リラックス効果が高まります。
医療スタッフとのコミュニケーション
検査中は遠慮なく痛みの程度を医療スタッフに伝えてください。「痛い」と声を出すことで緊張がほぐれ、スタッフも造影剤の注入速度を調整するなど、適切な対応ができます。我慢は筋肉の緊張を招き、かえって痛みを増強させることがあります。
当院では、検査中も常に患者様の表情や反応を観察し、こまめに声かけを行っています。「もう半分終わりました」「あと1分で終わります」など、進行状況をお伝えすることで、精神的な支えになります。また、手を握るなどのタッチングケアも、痛みの軽減に効果があることが報告されています。
最新の痛み軽減技術
低濃度造影剤の使用
従来の油性造影剤に代わり、水溶性造影剤や低濃度造影剤の使用が増えています。これらは粘性が低く、注入時の抵抗が少ないため、痛みの軽減につながります。また、アレルギー反応のリスクも低く、安全性の面でも優れています。
最新の研究では、造影剤の温度管理も痛みに影響することが分かっています。体温に近い37度程度に温めた造影剤を使用することで、冷たい造影剤による不快感や筋肉の収縮を防ぎ、痛みを軽減できます。
温熱療法の併用
検査前後の温熱療法も効果的な痛み対策です。検査前に下腹部を温めることで、血流が改善し、筋肉の緊張が和らぎます。使い捨てカイロや温熱パッドを使用し、検査の20~30分前から温めておくとよいでしょう。
検査後も温熱療法を継続することで、残存する違和感や軽度の痛みを和らげることができます。ただし、火傷に注意し、直接肌に当てず、タオルなどを介して使用することが大切です。入浴も血流改善効果がありますが、検査当日は感染予防のため、シャワー浴に留めることをお勧めします。
検査後の過ごし方と注意点
当日の安静について
検査後は15分程度、院内で安静にしていただきます。これは、まれに起こる迷走神経反射(血圧低下やめまい)を予防するためです。急に立ち上がると立ちくらみを起こすことがあるため、ゆっくりと起き上がり、体調を確認してから帰宅していただいています。
帰宅後は普段通りの生活が可能ですが、激しい運動や重労働は避けた方がよいでしょう。軽度の下腹部痛や違和感がある場合は、無理をせず休息を取ることが大切です。仕事については、デスクワークであれば問題ありませんが、立ち仕事の方は可能であれば半日程度の休息を取ることをお勧めします。
検査当日の入浴は控え、シャワー浴に留めてください。また、タンポンの使用や性交渉は、感染予防のため検査当日は避けていただきます。軽い散歩程度の運動は問題なく、血流改善により回復を促進する効果も期待できます。
いつ受診すべき?注意すべき症状
検査後、以下の症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診してください:38度以上の発熱、激しい腹痛、多量の出血(生理2日目以上)、悪臭のあるおりもの、吐き気・嘔吐が続く場合などです。これらは感染症や造影剤アレルギーの可能性があります。
通常、検査後の軽度の出血は2~3日で治まり、下腹部の違和感も24時間以内に改善します。1週間以上症状が続く場合や、日に日に悪化する場合は、必ず受診してください。まれではありますが、造影剤による炎症反応が遷延することがあります。
よくある質問と生殖医療専門医からの回答

Q1. 検査を避けた方が良いケースは?
A1. 妊娠の可能性がある場合、骨盤内感染症の急性期、造影剤アレルギーの既往がある場合は、検査を避ける必要があります。また、甲状腺疾患のある方は、ヨード系造影剤により症状が悪化する可能性があるため、事前に医師に申告してください。
月経中や不正出血が続いている場合も、感染リスクが高まるため検査を延期します。また、全身状態が悪い場合(発熱、体調不良など)も、検査による負担を考慮し、体調回復後に実施することをお勧めします。
子宮筋腫や子宮内膜症がある方でも検査は可能ですが、痛みが強くなる可能性があることを理解した上で、十分な痛み対策を行います。
Q2. 検査後すぐに妊活を再開できる?
A2. 検査当日は性交渉を避けていただきますが、その後は通常通り妊活を再開できます。むしろ、検査の後は、積極的なタイミングをお勧めします。
造影剤により卵管の通過性が改善されたり、軽微な癒着が剥がれたりすることで、妊娠しやすい状態になります。
まとめ~安心して検査を受けるために~
子宮卵管造影検査は、不妊治療において重要な情報を提供してくれる大切な検査です。確かに痛みを伴う可能性はありますが、この記事でご紹介したように、その痛みは決して耐えられないものではありません。
これまでの経験から申し上げると、「思っていたより痛くなかった」という感想を持たれる方が圧倒的に多数です。痛みの程度は人それぞれですが、適切な準備と対策により、ほとんどの方が問題なく検査を終えられています。
検査を控えている皆様へのメッセージ
検査への不安は当然のことです。しかし、その不安が大きすぎて検査を避けることは、妊娠への道を遠回りすることになりかねません。子宮卵管造影検査により得られる情報は、今後の治療方針を決定する上で非常に重要です。
もし痛みが心配な場合は遠慮なく医療スタッフに相談してください。鎮痛剤の使用、リラックス法の指導など様々な対策を準備しています。安心して検査を受けられるよう私たち医療者も全力でサポートします。