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妊娠初期の流産について-専門医が解説する妊娠初期の流産の原因と症状・次の妊娠に向けた心と体のケア

  • 公開日:2025.12.24
  • 更新日:2025.12.25
妊娠初期の流産について-専門医が解説する妊娠初期の流産の原因と症状・次の妊娠に向けた心と体のケア|不妊治療なら生殖医療クリニック錦糸町駅前院


妊娠が判明した喜びの中で、突然の出血や腹痛に不安を感じていらっしゃる方、または流産を経験され、深い悲しみの中にいらっしゃる方へ。流産は決して珍しいことではなく、妊娠された方の約15%が経験されます。この記事では、妊娠初期の流産について医学的な観点から正しい情報をお伝えし、心と体のケアについても詳しくご説明いたします。

妊娠初期流産の基礎知識

妊娠初期流産とは

妊娠初期流産とは、妊娠12週未満に起こる流産のことを指します。全流産の約80%以上がこの時期に発生し、特に妊娠6~10週での発生が多いとされています。医学的には「早期流産」とも呼ばれ、胎嚢が確認できる前の化学流産と、胎嚢確認後の臨床的流産に分類されます。

流産は自然淘汰の一つの形であり、多くの場合は受精卵の染色体異常が原因です。これは母体の年齢に関係なく一定の確率で起こりますが、35歳以降では頻度が上昇します。重要なのは、日常生活での行動(仕事、運動、性行為など)が原因となることはほとんどないということです。多くの女性が「私のせいで」と自責の念を抱かれますが、医学的にはそうではないことを強調したいと思います。

流産の頻度と統計データ

臨床的に妊娠が確認された後の流産率は約15%ですが、化学流産を含めると全妊娠の約30~40%で流産が起きているとされています。年齢別では、20代で約10~15%、30代前半で約15~20%、35歳以降は約25%、40歳以上では約40~50%と上昇します。

また、流産を経験された方の約85%は次回妊娠で無事に出産されています。2回連続で流産する確率は約2~5%、3回連続(習慣流産)は約1%です。これらのデータから、一度の流産が必ずしも今後の妊娠に悪影響を与えるわけではないことがわかります。流産後に健康な赤ちゃんを授かった患者様は多くいらっしゃいます。統計を知ることで、少しでも前向きな気持ちを持っていただければと思います。

妊娠初期流産の原因

染色体異常による流産

妊娠初期流産の約50~70%は受精卵の染色体異常が原因です。最も多いのはトリソミー(染色体が1本多い状態)で、特に16番、22番、21番、15番染色体のトリソミーが頻繁に見られます。これらの異常は受精時にランダムに起こるもので、予防することはできません。

染色体異常は母体年齢と相関がありますが、若い女性でも一定の確率で発生します。卵子の加齢による影響で染色体の分離がうまくいかなくなることが主な原因ですが、精子側の要因も約20%程度関与しているとされています。最新の研究では、父親の年齢上昇も流産リスクをわずかに上げることがわかってきました。

母体側の要因

母体側の要因として、子宮の形態異常(中隔子宮、双角子宮など)、子宮筋腫、子宮内膜症などの器質的要因があります。これらは全流産の約10~15%を占めます。また、黄体機能不全による着床障害も原因となることがあります。

内分泌異常では、甲状腺機能異常(特に橋本病)、糖尿病のコントロール不良、高プロラクチン血症などが流産リスクを上げます。さらに、免疫学的要因として、抗リン脂質抗体症候群は重要で、血栓傾向により胎盤の血流が障害され流産が起こることが知られています。最近では、慢性子宮内膜炎も注目されており、子宮内細菌叢の乱れが着床や妊娠維持に影響することがわかってきました。これらの要因は検査により診断可能で、適切な治療により次回妊娠の予後を改善できる可能性があります。

環境要因と生活習慣

喫煙は流産リスクを約1.2~2倍上昇させ、受動喫煙でもリスクが上がります。アルコールの過度な摂取(週に5杯以上)も流産リスクを上げることが報告されています。カフェインは1日200mg(コーヒー約2杯)以下であれば問題ないとされています。

肥満(BMI30以上)や極端な痩せ(BMI18.5未満)も流産リスクを上げます。職業性の化学物質暴露、放射線被曝、高温環境なども要因となりえます。ストレスと流産の関連は明確ではありませんが、極度のストレスは内分泌系に影響を与える可能性があります。

一方で、適度な運動、通常の日常生活、性行為などは流産の原因にはなりません。多くの方が「階段を上ったから」「重いものを持ったから」と心配されますが、これらの行動が流産を引き起こすことはありません。

流産の兆候と症状

注意すべき症状

妊娠初期に最も注意すべき症状は、性器出血と下腹部痛です。出血は茶褐色のおりものから鮮血まで様々で、量も少量から月経様まで幅があります。ただし、妊娠初期の約30%の方が何らかの出血を経験し、その半数は妊娠継続可能です。

下腹部痛は、月経痛様の痛みから激しい痛みまで程度は様々です。間欠的な痛みは子宮収縮を示唆し、持続的な鈍痛は別の原因の可能性もあります。つわりの急激な消失、基礎体温の低下、乳房の張りの消失なども流産の兆候となることがあります。

出血量が月経2日目以上、血の塊が出る、痛みが強くなる、めまいや冷や汗などの貧血症状がある場合は、受診が必要となりますので、遠慮なく医療機関にご相談ください。

切迫流産との違い

切迫流産は、出血や下腹部痛があるものの、子宮口が閉鎖しており妊娠継続の可能性がある状態です。超音波検査で胎児心拍が確認できれば、約90%は妊娠継続可能です。一方、進行流産は子宮口が開大し、流産が避けられない状態です。

切迫流産の診断では、超音波検査による胎嚢の位置、大きさ、胎児心拍の確認が重要です。血腫の有無や大きさも予後判定に役立ちます。

治療としては安静が中心ですが、絶対安静の有効性は証明されていません。日常生活レベルの安静で十分とされています。止血剤や子宮収縮抑制剤の使用もありますが、効果は限定的です。黄体ホルモン補充は、不妊治療後の妊娠や習慣流産の既往がある場合に考慮されます。

受診のタイミング

出血があった場合、量に関わらず一度は受診をお勧めします。特に鮮血、増加傾向の出血、強い腹痛を伴う場合は早急な受診が必要です。茶褐色の少量出血で痛みがない場合は、翌日の受診でも問題ないことが多いです。

妊娠検査薬陽性後、胎嚢確認前(妊娠4~5週)の出血は、着床出血の可能性もあり、慌てる必要はありません。ただし、片側下腹部の激痛、肩の痛み(横隔膜刺激症状)がある場合は、子宮外妊娠の可能性がありますので、受診が必要です。

定期健診で心拍確認後に消失した場合(稽留流産)は、自覚症状がないことが多く、健診で判明することがほとんどです。

流産の診断と検査

超音波検査による診断

超音波検査は流産診断の最も重要な検査です。経腟超音波では、妊娠5週で胎嚢、6週で卵黄嚢と胎芽、7週で心拍が確認できます。胎嚢径25mm以上で胎芽が見えない、胎芽頭殿長7mm以上で心拍がない場合は流産が強く疑われます。

また、排卵や着床の遅れにより、初回検査だけでは流産と断定できないことがあります。そのため、1~2週間後の再検査で診断することが一般的です。

最新の3D/4D超音波技術により、より詳細な観察が可能になりました。また、ドプラ検査による血流評価も予後判定に有用です。また、流産の診断が難しいこともあるため、場合によっては、セカンドオピニオンを求めることも選択肢の一つです。

血液検査(hCG値)の意味

hCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)は妊娠により産生されるホルモンで、妊娠初期には48~72時間で約2倍に上昇します。妊娠5週で1,000~5,000mIU/ml、6週で10,000~100,000mIU/mlが目安です。上昇が鈍い、または低下する場合は流産の可能性があります。

hCG値1,500~2,000mIU/ml以上で経腟超音波により胎嚢が確認できない場合は、子宮外妊娠の可能性を考慮します。完全流産後は、hCG値は約2週間で陰性化します。値の低下が遅い場合は、絨毛遺残や胞状奇胎などの絨毛性疾患の可能性があります。

血中プロゲステロン値も補助診断として有用で、25ng/ml以上は正常妊娠を示唆し、5ng/ml以下は妊娠予後不良を示唆します。ただし、これらの検査値は値だけで診断することはできず、超音波所見と合わせて総合的に判断する必要がありますので、数値に一喜一憂せず、医師の説明をしっかり聞くことが大切です。

絨毛染色体検査について

絨毛染色体検査は、流産の原因を調べる検査で、流産手術時に採取した絨毛組織の染色体を分析します。約50~70%で染色体異常が検出され、最も多いのはトリソミーです。原因が判明することで、自責の念から解放される方が多くいらっしゃいます。

検査の限界として、母体細胞の混入により正確な結果が得られないことがあります。また、染色体が正常でも、遺伝子レベルの異常は検出できません。費用は自費で3~10万円程度かかります。

習慣流産の方には、夫婦の染色体検査も推奨されます。検査結果により、次回妊娠時の着床前診断の適応を検討することもあります。検査を受けるかどうかは、ご夫婦でよく話し合ったうえで、担当医と決めていただければと思います。

流産後の治療と管理

待機療法

待機療法は、自然に流産が完了するのを待つ方法です。稽留流産や不全流産の場合に選択されることがあり、2~6週間程度の経過観察を行います。成功率は約50~80%で、胎嚢が小さいほど成功率が高くなります。

メリットは、手術や麻酔のリスクがなく、自然な経過を辿れることです。デメリットは、いつ出血や腹痛が起こるか予測できず、大量出血のリスクがあることです。また、精神的な負担が大きく、流産の完了までに時間がかかることもあります。

週1~2回の外来フォローで、超音波検査と場合により、hCG値測定を行います。発熱、強い腹痛、大量出血があれば緊急受診が必要です。十分な説明と精神的サポートがあれば、多くの方が待機療法を完遂できます。ただし、途中で手術に切り替えることも可能です。

手術療法(流産手術)

流産手術(子宮内容除去術)は、最も確実な治療法です。吸引法と掻爬法があり、最近は子宮穿孔リスクの少ない吸引法が推奨されています。静脈麻酔下で10~15分程度の手術で、日帰りまたは1泊入院で行われます。

手術のメリットは、確実に組織を除去でき、絨毛染色体検査が可能なことです。出血も1週間程度で治まります。リスクとして、麻酔に伴う合併症、子宮穿孔(0.1%)、感染(1~2%)、アッシャーマン症候群(子宮内腔癒着)などがあります。

術後は1週間程度の安静と、2週間の性交渉禁止が必要です。次回月経は4~6週間後に再開します。

心のケアとサポート

グリーフケアの重要性

流産は大切な命を失う喪失体験であり、深い悲しみ(グリーフ)を伴います。この悲しみは正常な反応で、否認、怒り、取引、抑うつ、受容の段階を経て回復していきます。回復には個人差があり、数週間から数ヶ月、時には1年以上かかることもあります。

身体的症状として、不眠、食欲不振、疲労感、頭痛などが現れることがあります。精神的には、自責感、罪悪感、不安、怒り、孤独感などを感じます。記念日反応として、予定日や流産した日に悲しみが再燃することもあります。

グリーフケアでは、感情を否定せず受け入れること、十分に悲しむことが大切です。私は診療で、患者様の気持ちに寄り添い、「悲しんでいい」「時間をかけていい」とお伝えしています。必要に応じて、臨床心理士によるカウンセリングや、ピアサポートグループの紹介も行っています。一人で抱え込まず、周囲のサポートを受けることが回復への近道です。

パートナーとの向き合い方

流産は夫婦にとって大きな試練ですが、お互いを支え合うことで絆が深まることもあります。男性と女性では悲しみの表現方法が異なることが多く、男性は感情を表に出さず、仕事に没頭することで対処しようとする傾向があります。これは冷たいのではなく、男性なりの対処法です。

コミュニケーションが重要で、お互いの気持ちを率直に話し合うことが大切です。「私はこう感じている」というIメッセージで伝えると、相手を責めずに気持ちを共有できます。また、流産について話したくない時は、そのことも伝えましょう。

夫婦で追悼の方法を考えることもケアとしては有効です。お参り、手紙を書く、記念品を作るなど、二人に合った方法を見つけてください。性生活の再開時期も個人差があり、焦る必要はありません。

専門的なカウンセリング

流産後2ヶ月以上経っても日常生活に支障がある、不眠が続く、希死念慮があるなどの場合は、専門的なカウンセリングや精神科受診をお勧めします。流産後うつ病の発症率は10~20%と報告されており、早期介入が重要です。

多くの不妊治療クリニックには、専門の心理カウンセラーが在籍しています。また、流産・死産経験者のセルフヘルプグループもあります。オンラインサポートも充実してきており、自宅から参加できるメリットがあります。カウンセリングを受けて、次に向けての気持ちを立て直すことも重要です。

次の妊娠に向けて

妊娠可能時期

WHO は流産後6ヶ月以上の避妊を推奨していましたが、最新の研究では、流産後3ヶ月以内の妊娠でも予後に差がないことがわかっています。身体的には、次の月経が来れば妊娠可能です。ただし、精神的な準備ができているかが重要です。

手術後は、子宮内膜の回復のため1~2回の月経を待つことをお勧めします。化学流産の場合は、すぐに妊娠を試みても問題ありません。

特に、年齢が35歳以上の方は、卵巣予備能の低下を考慮し、早めの妊娠を検討してもよいでしょう。

不育症検査の適応

2回以上の流産を繰り返す場合を反復流産、3回以上を習慣流産と定義し、不育症の検査適応となります。ただし、35歳以上や強い不安がある場合は、2回の流産後でも検査を検討します。日本では約140万組の夫婦が不育症で悩んでいるとされています。

検査項目は、子宮形態検査(超音波、子宮卵管造影、MRI)、内分泌検査(甲状腺機能、プロラクチン、黄体機能)、凝固系検査(抗リン脂質抗体、プロテインS/C、第XII因子)、免疫検査(抗核抗体、NK細胞活性)、夫婦染色体検査などです。

原因が判明するのは約50%で、残りは原因不明です。しかし、原因不明でも適切なサポートにより、約80%は出産に至ります。検査により原因が判明すれば、治療が可能になることがありますので、担当医と相談の上で検査することをお勧めします。

妊娠前の準備

次の妊娠に向けて、葉酸サプリメント(400μg/日)の摂取を流産前から開始することをお勧めします。葉酸は神経管閉鎖障害の予防だけでなく、流産率の低下も期待できます。ビタミンDの補充も、着床率向上に有効とされています。

生活習慣の改善も重要です。禁煙、節酒、BMIの適正化(18.5~25)、規則正しい生活、ストレス管理などを心がけましょう。適度な運動は血流改善と症状管理に有効です。カフェインは1日200mg以下に制限します。

基礎疾患がある場合は、妊娠前にコントロールすることが大切です。甲状腺機能異常、糖尿病、高血圧などは、適切な治療により流産リスクを低下させることができます。

まとめ

妊娠初期の流産は、多くの女性が経験する悲しい出来事ですが、決してあなたのせいではありません。医学的に適切な治療を受け、心のケアを大切にすることで、必ず前に進むことができます。次の妊娠への希望を持ち続けてください。一人で悩まず、医療者や周囲のサポートを受けながら、ご自身のペースで回復への道を歩んでいただければと思います。

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