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アシステッドハッチングをして胚移植したのに妊娠に失敗|【胚培養士監修】再挑戦へのパーフェクトガイド

  • 公開日:2025.12.24
  • 更新日:2025.12.25
アシステッドハッチングをして胚移植したのに妊娠に失敗|【胚培養士監修】再挑戦へのパーフェクトガイド|不妊治療なら生殖医療クリニック錦糸町駅前院

胚移植を受ける際、アシステッドハッチングをしたのに妊娠に至らなかった、という患者様も多くいらっしゃるかと思います。

「うまくいかなかったのは、私のからだに問題があるのかな?」と、ご自身を責めたり、妊娠判定の結果に一喜一憂されたりする患者様の姿も数多く見てきましたが、どんなに技術を尽くしてもすべての方が一度で成功するわけではありません。

今回のコラムでは、アシステッドハッチングをしてもなぜ妊娠しないことがあるのか、その原因と対策について、分かりやすく解説していきます。

アシステッドハッチングとは?胚培養士が解説する基礎知識

アシステッドハッチングの仕組みと目的

アシステッドハッチング;Assisted Hatchingとは、受精卵(胚)を包む透明帯と呼ばれる殻に、人工的に穴を開けたり、薄くしたりする技術のことをいいます。人の卵子・受精卵も、ニワトリと同じように透明帯と呼ばれる殻に包まれています。通常、胚は拡張と収縮を繰り返しながら大きく成長していき、最終的に殻の中の赤ちゃんになる細胞が大きく膨らむ拡張の力でこの透明帯を破って殻の外に出てきます。この現象を孵化;Hatchingといいます。胚は、完全に殻から孵化することではじめて子宮内膜に着床できるようになります。

自然妊娠の場合、胚は母体のお腹の中で成長が進んでいきますが、この時、母体由来で分泌される、あるいは母体内に存在する因子によって胚は孵化しやすい状態になっていると考えられています。しかしながら、高度生殖医療を介した場合、胚はこれらの母体由来の因子を受け取ることが出来ず、加えて年齢的な要因や、胚凍結という作業によって透明帯が硬化することも指摘されているため、自然に孵化することが難しくなると考えられています。

そこで行われるのがアシステッドハッチングで、レーザーを用いる方法や、PZDと呼ばれる透明帯を切るためのカッティングピペットを用いる方法、タイロードと呼ばれる溶液によって透明帯を溶かす方法などによって、胚が透明帯から孵化しやすくするためのアシストを行います。

この技術は、1990年代から臨床でも広く応用されており、現在では多くの不妊治療施設で実施されています。特に、透明帯が厚い、硬いといった特徴を持つ胚や、凍結融解胚移植の際には積極的に選択されることが多い治療法です。

どのような方に適応されるのか

アシステッドハッチングは、すべての患者様に必要となる処置ではありません。

主に以下のような方に推奨されることが多いです。

  • 高齢の方(加齢によって透明帯が硬くなると考えられているため)
  • 凍結融解胚を移植する方(凍結の作業によって透明帯が硬くなると考えられているため)
  • 過去に良好胚を移植したにも関わらず着床しなかった方
  • FSH(卵胞刺激ホルモン)値が高い方やAMH値が低い方
  • 透明帯が厚い方

ただし、これらの条件に当てはまっても、必ずアシステッドハッチングが有効となるとは限りません。過去の経歴や治療歴、バックグラウンドを総合的に判断することが重要です。

アシステッドハッチングをしたのに妊娠に“失敗”してしまう主な原因

そもそも“失敗”とは何を指すか?

先述した通り、アシステッドハッチングは胚が透明帯から孵化するのを助けたり、完全に透明帯を取り外したりする技術であるため、胚を子宮内膜に極めて着床しやすい状態に造り上げているといえます。

そのような状態で胚移植を行ったにも関わらず、結果として、

着床に至らなかった症例

一時的にhCGが上昇したものの、臨床妊娠に至らなかった症例(化学流産)

着床したものの妊娠が継続できなかった症例(早期流産)

を“失敗”と定義されることが多いです。

しかしながら、実のところ、これらの結果はアシステッドハッチングの実施の有無が影響していることはほぼ無く、胚そのものの染色体異常や、子宮内の環境、胚移植のタイミングなど、複合的な要因が関与していることがほとんどです。

期待と希望を込めて臨んだ治療がうまくいかなかったとき、「お金も時間もかけてるのに!」「これでもう何回目?」という想いを抱く患者様も多いのですが、アシステッドハッチングを行わなくても同様の結果になるケースも多くありますし、アシステッドハッチングを行ったからといって、すべての胚が必ず着床するわけではないことを理解しておくことが大切です。

むしろ、アシステッドハッチングを行っても妊娠にいたらなかった場合、その経験から得られる情報が、次の治療戦略を立てる上で貴重なデータとなることもあります。

胚の染色体異常に関する要因

日本産科婦人科学会の報告によると、胚移植を行っても妊娠に至らない場合、あるいは流産となってしまう場合、その原因のほとんどは受精卵(胚)側の染色体異常に由来することが示されています。

具体的な数値で言えば、流産原因の約70%以上が胚の染色体異常に起因するとされており、実際の培養においても、どんなに見た目が良好な胚でも染色体の異常を有する胚は数多く存在します。

胚の染色体異常を増加させる要因としては、加齢による卵子の染色体異常の増加が指摘されていますが、近年では精子側の要因(DNA損傷)も検討される機会が増えてきています。

胚が染色体の異常を持っているかどうかは、見た目では判断することが不可能であるため、PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)を行うことで染色体が正倍数性の胚を選択することができます。しかしながら、PGT-Aは細胞の一部を採取する侵襲的な検査であるため、胚に負荷がかかることや、偽陽性・偽陰性となる可能性も指摘されており、妊娠を保証する検査・技術ではありません。

子宮内の環境に関する要因

胚が良好であっても、受け入れる側の子宮内の環境に問題があれば着床は困難となってしまいます。子宮側の主な要因としては、

  • 子宮内膜の厚さが不十分

胚移植実施時の理想的な子宮内膜厚はおおよそ10mm程度ですが、選択する移植周期方法や、患者様によっては内膜が厚くなりにくい方もいらっしゃいます。

  • 着床のタイミング(着床の窓)

子宮内膜はいつでも着床ができるわけではなく、一周期の中で着床が可能となるタイミングが決まっています。このタイミングを「着床の窓;インプランテーションウィンドウ」と呼びます。近年では、このタイミングを調べるERA検査が行われる機会も増えてきています。

  • 子宮内の炎症や感染

慢性子宮内膜炎は、自覚症状がないことが多く見逃されやすい原因の一つです。子宮内フローラ(細菌叢)の乱れも着床を妨げる可能性が報告されています。

  • 免疫学的要因

母体に備わっている免疫システムが、胚を異物として認識してしまい、胚を攻撃してしまうことで流産が引き起こされてしまうことがあります。

技術的な要因と施設差

アシステッドハッチングと呼ばれる技術には複数の方法があり

レーザー照射を用いる方法レーザー照射によって透明帯を切開する
PZD pipetteを用いる方法カッティング用ピペットを使って透明帯を切開する
Piezoマイクロマニピュレーターを用いる方法Piezoによって透明帯に穴をあける
酸性タイロード溶液を用いる方法溶剤を利用して透明帯を溶かす

などが一般的に行われています。

上記のどの方法を採用しているのか、実施しているのか、は施設により大きく異なります。

また施設によっては、そもそもアシステッドハッチングを実施していないというクリニックもあります。

実際の成功率:最新データから見る現実

アシステッドハッチングによる移植対妊娠率

2022年の日本産科婦人科学会のデータによると、アシステッドハッチングを実施した場合の年齢別妊娠率は、

34歳以下約45~60%
35-37歳約35~40%
38-39歳約25~35%
40-42歳約20~25%
43歳以上約10~15%以下

と報告されています。

ただし、これは「妊娠率」であり「出産率」で見ていくとこれよりも低くなることに注意が必要です。

注目したいのは、特定の背景を持つ患者群ではアシステッドハッチングによって妊娠率が向上するという点です。高齢の方や、反復性ART不成功症例の方では、アシステッドハッチングによる効果が得られやすいと考えられており、実際にデータも報告されています。

施設間での差について

先述したように、アシステッドハッチングには複数の方法があり、採用している方法によってその効果の有無には、施設間での差があるのではないかと指摘されています。

実際に「アシステッドハッチングは意味が無い」としている施設もありますが、いわゆる大手の不妊治療専門施設では、年間数千~数万件のアシステッドハッチングを実施しており、豊富な経験とデータの蓄積から、一定以上その効果が認められていることは確かです。

当院では、経験豊富な胚培養士がたくさん所属していますので、どの方法でも安全に実施することが出来、少なくとも技術的な面では成績に結び付けることが出来ますのでご安心ください。

胚移植を成功に結び付けるための対策

妊娠に向けた身体・子宮環境づくり(生活習慣の改善)

妊娠のためには健康的な身体づくりが重要であり、採卵・移植を行う前から生活習慣の見直しを行うことは非常に重要です。

適度な運動(週3-4回、30分程度の有酸素運動)、バランスの良い食事(特に葉酸、ビタミンD、オメガ3脂肪酸の摂取)、十分な睡眠(7-8時間)など、出来る範囲のことから積極的に取り入れていきましょう。

胚盤胞の発育段階やサイズ

通常、胚盤胞はガードナー分類の3以上が凍結・移植の一つの基準となりますが、サイズが大きいほど着床率は高くなります。3の大きさで移植をしても妊娠にいたらなかった場合には、あえて4になるまで培養を継続してから凍結・移植を行うということも対策の一つになります。

ただし、必要以上に培養を継続すると、胚の発育が退縮してしまうこともあるため注意しながら観察していく必要があります。

胚移植で妊娠にいたらなかった時の選択肢

アシステッドハッチングを行っても必ず妊娠するわけではないため、一度の胚移植で失敗しても、諦める必要はありません。

当院では、同じ方法を繰り返すのではなく、胚移植で妊娠にいたらなかった時の選択肢として以下の検査の実施や治療を検討していきます。

ERA検査

ERA検査を実施することにより、患者様個人の移植のタイミング(着床の窓)を特定していきます。反復性ART不成功症例の患者様の約30~40%で、このタイミングがズレていることが分かっています。

EMMA/ALICE検査

EMMA検査、ALICE検査は、子宮内膜の細菌叢を分析する検査で、子宮内膜のマイクロバイオーム(微生物環境)を評価し、慢性子宮内膜炎の原因となる細菌を特定していきます。着床不全や不育症の原因を明らかにし、それぞれに適した治療を行うことで、着床率の向上や流産率の低下が期待されています。

子宮鏡検査

着床を阻害する婦人科系疾患、特にポリープ、子宮奇形、筋腫、子宮内膜の癒着など、直接的な原因となる障害・異常を診断するために行います。

検査は短時間で、痛みもほとんどありません。

免疫学的検査

内分泌検査、抗リン脂質抗体検査、凝固因子検査など、血液検査によってホルモンバランスや血栓ができやすい状態かどうかなどの確認を行います。

流産絨毛染色体検査(POC検査)

流産となった場合、流産した胎児の絨毛(胎盤の一部)の染色体分析を行い、胎児側(胚側)の染色体に異常があったかどうかを特定する検査です。PGT-Aの適応となるかどうか次週期以降の治療に向けた情報を得られるほか、原因が明確になることで患者様の心理的な負担を軽減できる可能性があります。

夫婦染色体検査

反復性ART不成功症例のご夫婦や不育症のご夫婦の約5~10%に、夫婦のいずれかまたは両方に染色体の数や構造的な異常が見つかると報告されています。血液検査を実施し、夫婦のいずれかに「均衡型転座」などの構造的な異常があると、流産のリスクが顕著に高まります。

PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)

高度生殖医療によって培養した胚盤胞から、細胞の一部を採取して、染色体の数に過不足がないか(正倍数性/異数性)を調べる検査です。PGT-Aを実施することにより、正倍数性の胚を選択して移植することが可能となるため、流産率を低下させることが期待されています。

子宮内膜スクラッチング

子宮内膜に細い器具で人工的に傷をつけることで、その傷を修復する過程で分泌されるサイトカインなどの成長因子が、胚の着床を促進する効果を期待して行われます。

二段階胚移植

一度の移植周期の中で、初期胚移植と胚盤胞移植の2回の移植を、移植時期をズラして実施する方法です。先に移植した初期胚が子宮にシグナルを送ることで子宮環境整え、後に移植する胚盤胞の妊娠率の向上を目指すという考え方です。

SEET法(子宮内膜刺激術)

胚を培養した際の培養液を子宮内に注入する方法で、培養液に含まれる胚から分泌された因子が子宮内膜を着床しやすい状態に整えることで、妊娠率の向上を目指すという考え方です。

上記以外にもさまざまな方法や、上記を組み合わせて実施することも検討されます。

よくある質問と胚培養士からのアドバイス 

質問と回答

最後に、アシステッドハッチングや胚移植についてよくある質問に胚培養士からお答えします。

Q1.アシステッドハッチングとはどのような方法ですか?

A1. 受精卵(胚)は、透明帯と呼ばれる殻に包まれており、アシステッドハッチングはこの殻に人工的に穴を開けたり、薄くしたりする技術のことをいいます。胚は、完全に殻から孵化(脱出)した状態にならないと子宮内膜に着床できないため、アシステッドハッチングによってこの孵化を手助けします。

Q2.アシステッドハッチングはやったほうがいいのでしょうか?

A2. 高齢の方では、加齢によって透明帯が硬くなると考えられているためアシステッドハッチングが有効な方法になる可能性が高くなります。また、凍結融解胚を移植される方も、凍結の作業によって透明帯が硬くなると考えられているため、実施することで妊娠率を上げる可能性があります。

Q3.アシステッドハッチングをする必要が無い症例にはどんなものがありますか?

A3.年齢が若い患者様や胚移植が初回となる患者様では、アシステッドハッチングを実施しないとしている施設もあります。また、培養の段階で孵化中であったり、完全に孵化している胚では、アシステッドハッチングを行う必要はありません。

Q4.アシステッドハッチングによって胚が死んでしまうなどのリスクはあります?

A4.ある程度の経験を積んだ胚培養士であれば、アシステッドハッチングは胚に負荷を与えること無く安全に行うことができます。そのため、胚が死んでしまうというリスクはほぼありません。

しかしながら、アシステッドハッチングと呼ばれる技術には複数の方法があり、どの方法を採用しているかによって施設間の差が出る可能性があります。

Q5.いくらくらいで受けることが出来ますか?

A5.2022年4月から不妊治療の保険適用がスタートし、アシステッドハッチングも保険適用となっています。保険で実施する場合は3,000円程度。自費で実施する場合はクリニックによって異なりますが、10,000円~30,000円程度が相場です。

Q6.胚移植をして失敗した場合、次の周期に再度胚移植をすることは可能ですか?

A6.基本的には、次の月経周期から治療を再開することが可能です。しかしながら、身体的に回復が必要であると判断される場合には、1~2周期休養期間を置いてから治療を再開することもあります。

Q7.アシステッドハッチングをしてから移植しても妊娠しない場合、どんな原因があるのでしょうか?

A7. 日本産科婦人科学会のデータによると、妊娠に至らない(あるいは流産となってしまう)場合、原因のほとんどは受精卵(胚)側の染色体異常に由来することが示されており、約70%以上が胚の染色体異常に起因すると報告されています。また、胚が良好であっても、受け入れる側の子宮内の環境に問題があれば着床は困難となってしまいます

Q8.胚移植をしたらいつ子宮に着床しますか?

A8.胚盤胞移植の場合では移植をしてから1~2日後、初期胚移植(分割期胚移植)の場合では移植後約4~5日後が着床のタイミングとなります。胚移植から約7日~14日頃に血液検査や尿検査によって妊娠判定を行います。

まとめ|次の治療周期に向けて

今回のコラムでは、アシステッドハッチングをしてもなぜ妊娠しないことがあるのか、その原因や対策について解説を行ってきました。

アシステッドハッチングを実施せずに移植を行い、妊娠にいたらなかった患者様では、次周期以降の治療ではアシステッドハッチングを実施することで妊娠率を向上させることができる可能性があります。また、アシステッドハッチングを実施しても妊娠にいたらなかった患者様では、胚の染色体や子宮側に障害・異常がある可能性もあり、別の異なる検査によって原因を特定できる可能性もあります。

このように、アシステッドハッチングは、妊娠率を向上させる技術のひとつでありながら、妊娠を阻害する別の原因を考察するべきかどうかの指標にもなります。

今回のコラムを読んで、是非、治療の中にアシステッドハッチングを上手く取り入れていただけたらと思います。

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