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不妊治療の妊娠率を先進医療で向上へ|生殖医療専門医による技術解説と選び方ガイド【2025年度版】

  • 公開日:2025.12.24
  • 更新日:2025.12.25
不妊治療の妊娠率を先進医療で向上へ|生殖医療専門医による技術解説と選び方ガイド【2025年度版】|不妊治療なら生殖医療クリニック錦糸町駅前院

不妊治療の先進医療への期待と不安

「体外受精を何度も繰り返しているのに、なかなか妊娠に至らない…」 「流産を繰り返してしまい、次の移植が怖い…」

このような思いを抱えていらっしゃる方は、決してあなただけではありません。日々多くの患者さんの治療に携わっていますが、皆さん同じような不安や焦りを抱えていらっしゃいます。

そんな中で「先進医療」という言葉を聞いて、「これなら妊娠できるかもしれない」という期待と、「本当に効果があるの?」「費用はどのくらいかかるの?」という不安の両方を感じている方も多いのではないでしょうか。

この記事では、生殖医療専門医の立場から不妊治療における先進医療について、最新の知見を交えながら分かりやすく解説していきます。あなたの治療選択の一助となれば幸いです。

不妊治療における先進医療とは

先進医療の定義と保険適用の仕組み

先進医療とは、厚生労働大臣が認める高度な医療技術のうち、有効性・安全性を一定基準満たすものの、まだ保険適用の対象となっていない治療法のことです。

通常、日本では保険診療と自由診療を併用する「混合診療」は原則として認められていません。しかし、先進医療として承認された技術については、例外的に保険診療との併用が可能となっています。つまり、体外受精などの保険適用治療を受けながら、先進医療の技術を追加で受けることができ、その際も基本的な治療部分は保険適用(3割負担)のまま、先進医療部分のみが全額自己負担となるのです。

2022年4月の保険適用拡大で何が変わったか

2022年4月から、人工授精や体外受精・顕微授精などの生殖補助医療が保険適用となりました。これは不妊治療を受ける多くのカップルにとって朗報でした。

保険適用により、採卵から胚移植までの基本的な治療は3割負担で受けられるようになりました。ただし、保険適用には以下のような条件があります。

  • 年齢制限
    • 治療開始時の女性の年齢が43歳未満
  • 回数制限
    • 40歳未満:1子につき移植6回まで
    • 40歳以上43歳未満:1子につき移植3回まで

この保険適用と同時に、より高度な検査や治療法が「先進医療」として位置づけられ、保険診療と併用可能となったのです。

先進医療を受けられる医療機関の条件

先進医療は、どこの医療機関でも受けられるわけではありません。厚生労働省から実施機関として承認された医療機関でのみ受けることができます。承認を受けるためには、以下のような条件を満たす必要があります。

  • 専門的な知識と技術を持つ医師・スタッフの配置
  • 適切な設備・機器の整備
  • 安全管理体制の確立
  • 実施件数や成績の報告義務の遵守

患者さんは、受診したい医療機関が、希望する先進医療を実施できる施設として承認されているかを、事前に確認することが大切です。

主な先進医療技術の詳細解説

PGT-A(着床前胚染色体異数性検査)

PGT-Aは、体外受精で得られた胚盤胞の染色体数を調べる検査です。2023年に先進医療Bとして承認され、現在最も注目を集めている技術の一つです。

検査の仕組み
胚盤胞の栄養外胚葉(将来胎盤になる部分)から5~10個の細胞を採取し、染色体の数に異常がないかを調べます。染色体数の異常(異数性)は、着床不全や流産の主要な原因となるため、正常な染色体を持つ胚を選択して移植することで、妊娠率の向上と流産率の低下が期待できます。

適応となる方

  • 体外受精・胚移植を2回以上行っても妊娠に至らない方
  • 流産を2回以上経験している方(反復流産)

効果と成績
日本産科婦人科学会の報告によると、PGT-Aを実施した場合の移植あたりの臨床妊娠率は約66%と、通常の約35%と比較して大幅に向上しています。また、流産率も約10%と、通常の20~30%から大きく低下します。

ただし、年齢による影響は大きく、41~42歳では正常な染色体を持つ胚の割合は10%未満となるため、採卵を複数回行う必要がある場合もあります。

PICSI法(ヒアルロン酸を用いた生理学的精子選択術)

PICSI法は、顕微授精の際により質の高い精子を選別するための技術です。

技術の特徴
成熟した精子はヒアルロン酸に結合する性質があることを利用し、ヒアルロン酸でコーティングされた培養皿を使用して、DNA損傷の少ない成熟精子を選別します。従来の顕微授精では、精子の形態や運動性のみで選別していましたが、PICSI法ではより生理的な選別が可能となります。

期待される効果

  • 受精率の向上
  • 胚の質の改善
  • 流産率の低下
  • 染色体異常胚の発生率低下

特に、精子の質に問題がある男性不妊のケースや、通常の顕微授精で良好な結果が得られなかった場合に有効とされています。

タイムラプス撮像法による受精卵・胚培養

タイムラプス撮像法は、培養器内にカメラを設置し、胚の発育過程を連続的に観察・記録する技術です。

メリット

  • 胚へのストレス軽減:従来は観察のたびに培養器から取り出す必要がありましたが、タイムラプスでは培養器内で観察できるため、温度や気相の変化によるストレスがありません。
  • 詳細な発育評価:10~15分ごとに撮影することで、細胞分裂のタイミングや異常な分裂パターンを詳細に把握できます。
  • 最適な胚の選択:AIを活用した解析により、妊娠率の高い胚を予測することも可能になってきています。

良好胚が得られにくい方において、タイムラプスによる詳細な観察が培養成績の向上に役立っています。

子宮内細菌叢検査(EMMA/ALICE法)

EMMA(子宮内膜マイクロバイオーム検査)とALICE(感染性慢性子宮内膜炎検査)は、子宮内の細菌環境を調べる検査です。

EMMA検査
子宮内膜の細菌叢(さいきんそう)のバランスを調べます。善玉菌であるラクトバチルス属の割合が90%以上あることが、着床に適した環境とされています。

ALICE検査
慢性子宮内膜炎の原因となる病原菌の有無を調べます。慢性子宮内膜炎は、反復着床不全の原因の一つとして注目されています。

検査結果に基づく治療

  • ラクトバチルスが少ない場合:プロバイオティクスの投与
  • 病原菌が検出された場合:適切な抗生剤による治療

これらの治療により、子宮内環境を改善し、着床率の向上が期待できます。

ERA検査(子宮内膜着床能検査)
ERA検査は、子宮内膜が胚を受け入れる最適なタイミング(着床の窓)を遺伝子レベルで調べる検査です。

検査の意義
通常、排卵後5日目(黄体ホルモン投与開始後5日目)が着床に最適とされていますが、約30%の方はこのタイミングがずれていることが分かっています。ERA検査により、個人に最適な移植タイミングを特定できます。

適応となる方

  • 良好胚を移植しても着床しない方
  • 反復着床不全の方

検査結果により、移植タイミングを12~24時間前後にずらすことで、着床率の改善が期待できます。

その他の先進医療技術

SEET法(子宮内膜刺激胚移植法)
培養液中の胚由来因子を移植前に子宮内に注入し、子宮内膜を刺激して着床環境を整える方法です。

二段階胚移植法
初期胚と胚盤胞を時期をずらして移植することで、着床率の向上を図る方法です。

子宮内膜スクラッチング
移植周期の前周期に子宮内膜を軽く傷つけることで、修復過程で着床しやすい環境を作る方法です。

先進医療の効果と成功率:エビデンスに基づく解説

各技術の臨床成績データ

先進医療の効果については、日本産科婦人科学会や各医療機関から報告されているデータがあります。

PGT-Aの成績(日本産科婦人科学会 2019年報告)

  • 移植あたりの臨床妊娠率:66.0%(対照群35.0%)
  • 流産率:10.0%(対照群20-30%)

タイムラプスの効果(複数の研究報告より)

  • 妊娠率:約10-15%の向上
  • 良好胚選択率:約20%の向上

EMMA/ALICE検査後の治療成績

  • 子宮内環境改善後の妊娠率:約60%(改善前30%)

年齢別の効果の違い

先進医療の効果は、年齢によって大きく異なります。

35歳未満

  • 基本的な体外受精でも比較的高い成功率
  • 先進医療の追加効果は限定的な場合も

35~39歳

  • 先進医療による改善効果が最も期待できる年齢層
  • 特にPGT-Aやタイムラプスの効果が高い

40歳以上

  • 卵子の質の低下により、先進医療を用いても限界がある
  • 複数の技術を組み合わせることで効果を最大化

費用対効果の考え方

先進医療は全額自己負担となるため、費用対効果を考慮することが重要です。

例えば、PGT-Aは1胚あたり10~15万円程度かかりますが、異数性胚を移植するコストを避けることで、結果的に妊娠までの総費用を抑えられる可能性があります。特に、凍結胚を多数保有している方や流産を繰り返している方では、精神的・身体的負担の軽減という面でも価値があると考えられます。

先進医療の費用と助成制度

各技術の費用相場

先進医療の費用は医療機関により異なりますが、おおよその相場は以下の通りです

PGT-A10~15万円/胚
PICSI法2~3万円/回
タイムラプス3~5万円/周期
EMMA/ALICE検査7~10万円/回
ERA検査12~15万円/回
SEET法2~3万円/回

自治体の助成制度活用法

多くの自治体で、先進医療に対する独自の助成制度を設けています。

東京都の例

  • 助成額:先進医療費の7割(上限15万円/回)
  • 回数:保険診療の回数に準じる

助成を受けるためのポイント

  • 治療開始前に自治体の制度を確認
  • 保険診療との併用が条件の場合が多い
  • 申請期限に注意(治療終了後1年以内など)
  • 必要書類を事前に確認

民間医療保険の活用

一部の民間医療保険では、先進医療特約により費用がカバーされる場合があります。加入している保険の内容を確認し、適用可能か事前に問い合わせることをおすすめします。

先進医療を選ぶべきケースとは

年齢と治療歴による選択基準

20代~34歳

  • 基本的な体外受精を2回以上実施しても妊娠しない場合
  • 男性因子がある場合はPICSI法を検討
  • 原因不明の反復着床不全にはEMMA/ALICE検査、ERA検査、SEET法、スクラッチ検査など

35~39歳

  • 初回からタイムラプスの使用を推奨
  • 2回以上の着床不全または流産歴がある場合はPGT-Aを検討
  • 原因不明の反復着床不全にはEMMA/ALICE検査、ERA検査、SEET法、スクラッチ検査など

40歳以上

  • 可能な限り多くの先進医療を組み合わせて成功率を最大化
  • 特に2回以上の着床不全または流産歴がある場合は、PGT-Aは強く推奨

検査結果に基づく適応の判断

AMH(抗ミュラー管ホルモン)値による判断

  • 低AMH(1.0未満):胚の数が限られるため、質を重視したタイムラプスやPICSI法
  • 高AMH:多数の胚が得られる可能性があるため、状況に応じてPGT-Aで効率的な選択

精液検査結果による判断

  • 精子DNAフラグメンテーション高値:PICSI法
  • 運動率低下:PICSI法+タイムラプス

主治医との相談ポイント

受診のタイミング

先進医療の選択は、主治医とよく相談して決めることが重要です。相談の際は以下の点を確認しましょう。

  • これまでの治療経過の詳細な分析
  • 各先進医療の必要性と期待される効果
  • 費用と助成制度の活用可能性
  • 実施のタイミングと組み合わせ
  • リスクや限界についての説明

2025年の最新動向と今後の展望

新たに追加される可能性のある技術

現在、以下の技術が先進医療への追加を検討されています。

ミトコンドリア自家移植
卵子の若返りを目的とした技術で、患者自身の卵巣から採取したミトコンドリアを卵子に注入します。

人工知能(AI)による胚評価
画像解析技術の進歩により、より精度の高い胚選択が可能になることが期待されています。

保険適用拡大の見通し

2024年の診療報酬改定では、一部の先進医療技術の保険適用が検討されましたが見送られました。しかし、エビデンスの蓄積により将来的には以下の技術が保険適用される可能性があります。

  • タイムラプス撮像法
  • PICSI法
  • 一部の子宮内環境検査

特にタイムラプスについては多くの施設で標準的に使用されており、有効性のデータも蓄積されているため、次回の改定での保険適用が期待されています。

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