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「今月も排卵していないかもしれない…」と妊活おりものシートを見つめつつ、ため息をついていませんか?毎日欠かさず検査しているにもかかわらず、なぜか陽性反応が出ないといった不安や焦りを感じている方は、実は少なくありません。
生殖医療専門医として多くの患者様と向き合ってきた経験に基づき申し上げますと、妊活おりものシートが反応しないケースにおいては必ず理由があります。そのうえで、多くのケースが適切な対処法により改善できるものです。この記事では、なぜ反応しないのかや、どうすれば正しく使えるのか、さらには医療機関を受診すべきタイミングについて、専門的な知識をわかりやすくお伝えします。
一人で悩みを抱え込むことなく、正しい知識を身につけることで、より効果的な妊活への第一歩を踏み出しましょう。
妊活おりものシートの基本的な仕組み
LHサージと排卵の関係
排卵検査薬は尿中のLH(黄体形成ホルモン)の急激な上昇を検出する仕組みになっており、LHサージと呼ばれるこの現象は排卵の約24~36時間前に起こります。
女性の体内において卵胞が成熟すると脳下垂体からLHが大量に分泌されますが、このLHサージがきっかけとなって成熟した卵子が卵巣から放出される「排卵」が起こるのです。すなわちLHサージを検出することができれば、排卵のタイミングを予測できるというわけです。
通常は尿中や血中のLHを測定することによって排卵期を予測するものの、最近ではおりものの中にもLHが検出されることが判明したことから、その原理を利用したものが妊活おりものシートとなっています。
妊活おりものシートが反応しない5つの主な原因
1. 検査のタイミングが適切でない
最も多い原因は検査開始時期の見誤りによるものです。月経周期が28日の方の場合には排卵は月経開始から約14日目に起こりますが、周期が不規則な方や長い方においてはこの計算が当てはまりません。
例えば35日周期の方が月経開始11日目から検査を始めたとしても、実際の排卵は21日目頃かもしれません。この場合には10日間も早く検査していることになり、当然反応は出ません。逆に検査開始が遅すぎることでLHサージを見逃してしまうケースもあります。またLHサージは12~48時間と短いことから、検査のタイミングによっては見逃す可能性があります。
2. 検査方法に問題がある可能性
正しい検査方法を守らなければ、本来陽性になるはずが陰性と判定されることがありますので、必ず説明書に記載された方法で使用することが大切です。
3. LHサージが弱い・短い体質
LHサージが弱い、あるいは持続時間が短い体質の方がいらっしゃいますが、このような方においては通常の検査薬では反応しづらいことがあります。
研究によると約10%の女性はLHサージのピーク値が基準値以下の40mIU/ml未満と低いため、一般的な検査薬の感度では検出できない可能性があります。またサージの持続時間が12時間未満の「短時間サージ」の方であっても、タイミングよく検査しなければ陽性を見逃してしまいます。
このような体質の方であれば、妊活おりものシートだけでなく従来の尿を用いた排卵チェッカーを使用するといった工夫や、より感度の高い検査薬(10~20mIU/ml)を使用すること、あるいは1日2~3回検査することにより検出率を上げることができます。
4. ホルモンバランスの乱れ
ストレスや過度なダイエット、さらには不規則な生活習慣などによってホルモンバランスが乱れると、LHサージが正常に起こらないことがあります。
特に視床下部-下垂体-卵巣系のどこかに問題がある場合にはLHの分泌パターンが乱れます。例えば慢性的なストレスは視床下部の機能を低下させることで、LHの分泌指令が適切に出なくなります。また体脂肪率が極端に低い場合にも、ホルモン分泌に影響を与えます。
さらに甲状腺機能異常や高プロラクチン血症といった疾患もLHサージに影響を与える可能性がありますが、これらは血液検査で診断できるため、気になる方は医療機関での検査をお勧めします。
5. 排卵障害の可能性
妊活おりものシートが継続的に反応しない場合には、排卵障害の可能性も考慮する必要がありますが、代表的なものとして多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)があります。
PCOSではLHの基礎値が高い状態が続くことからサージを検出しにくくなります。また無排卵周期ではそもそもLHサージが起こらないため、検査薬が陽性になりません。日本人女性の約5~8%がPCOSと言われており、決して珍しい疾患ではないため、思いあたる場合には受診をおすすめします。
その他、早発卵巣不全や視床下部性無月経なども排卵障害の原因となります。月経が不規則であることや、基礎体温が二相性を示さないといった症状がある場合にも早めの受診をお勧めします。
生殖医療専門医が教える正しい使用方法
検査を始める最適なタイミング
正確な検査開始時期の決定は妊活おりものシートを効果的に使う上で最も重要であり、基本的な計算方法は「次回月経予定日の17日前から」となりますが、周期が不規則な方においては工夫が必要です。
具体的には過去3~6ヶ月の月経周期を記録したうえで、最も短い周期から17を引いた日から検査を開始します。例えば25~35日周期の生理周期の方であれば、「25-17=8」で8日目から使用を開始します。これにより早い排卵時期も見逃しません。
初めて使用する方や周期が大幅に乱れている方には、月経開始10日目から使用することをお勧めします。コストはかかるものの、自分のLHサージのパターンを把握する良い機会となります。
検査前の注意事項
薬の影響についても考慮が必要です。不妊治療でhCG注射を受けている方の場合、投与によって偽陽性となる可能性があります。また一部の向精神薬や利尿剤もLH検査に影響を与えることがあるため、服用中の薬がある方は医師に相談するといいでしょう。
反応しない時の対処法と次のステップ
まず試したい改善策
妊活おりものシートが反応しない時には、まず試していただきたい改善策があります。
第一に検査薬の感度を変えてみることであり、従来の尿で行う排卵チェッカーを併用するなどして反応するかみてみましょう。
第二に検査時期を見直すことですが、前述の検査を始める最適なタイミングを参考にしつつ時期を見直してみることで、反応する可能性もあります。
第三にライフスタイルの改善が挙げられます。規則正しい生活やバランスの良い食事、適度な運動、さらには十分な睡眠はホルモンバランスを整える基本となります。特にストレス管理は重要であるため、ヨガや瞑想、あるいは趣味の時間を作るなどして自分に合ったリラックス方法を見つけましょう。
基礎体温との併用でより確実に
妊活おりものシートだけでは排卵を確認できない場合には、基礎体温測定との併用が非常に有効です。基礎体温は排卵後に0.3~0.5℃上昇して高温期に入ります。
LH検査が陰性であっても基礎体温が低温期から高温期に移行すれば、排卵があったと推測できます。逆にLH検査が陽性にもかかわらず基礎体温が上昇しない場合には、LHサージは起きたものの実際には排卵していない可能性があります。
基礎体温の測定は毎朝起床時に体を動かす前に婦人体温計で測るものですが、最低3ヶ月は継続することにより自分の排卵パターンが見えてきます。またアプリを活用すればグラフ化も簡単なうえに、医療機関受診時にも役立ちます。
他の排卵予測方法の活用
妊活おりものシート以外にも、排卵を予測する方法はいくつかあります。
頸管粘液(おりもの)の観察は、費用がかからず毎日できる方法です。排卵前には卵白のような透明で伸びるおりものが増えます。これは精子が子宮内に入りやすくするための自然な変化です。
排卵痛を感じる方は、それも一つの目安になります。排卵時に下腹部の片側にチクチクとした痛みを感じる方が約20%いらっしゃいます。ただし、全員が感じるわけではないので補助的な指標として活用してください。
また、医療機関では超音波検査で卵胞の大きさを測定しより正確な排卵予測が可能です。特にタイミング療法を行う際は超音波検査との併用が推奨されます。
医療機関を受診すべきタイミング
こんな症状があれば早めの受診を
以下のような症状がある場合には、早めに医療機関を受診することをお勧めします。
まず、3周期以上妊活おりものシートを使用したにもかかわらず一度も陽性反応が出ない場合には、排卵障害の可能性があるため専門的な検査が必要です。また月経周期が25日未満あるいは39日以上の場合にも、ホルモンバランスの乱れが疑われます。
基礎体温が一相性(高温期がない)の場合には排卵していない可能性が高いうえに、月経量が極端に少ない、もしくは多い場合にも子宮や卵巣の疾患が隠れている可能性があります。
年齢も重要な要素であり、35歳以上の方は早めの受診をお勧めします。年齢とともに卵子の質が低下してしまうことから、排卵をしているかどうかのみならず、他の原因により妊娠がうまくいっていない可能性があるためです。
不妊治療クリニックでできる検査
不妊治療クリニックでは、妊活おりものシートだけでは分からない詳細な検査が可能です。
ホルモン検査では、LH、FSH、エストラジオール、プロゲステロン、プロラクチン、甲状腺ホルモンなどを測定しホルモンバランスを総合的に評価します。月経周期の特定の時期に採血することでより排卵などの正確な診断が可能です。
超音波検査では、卵巣内の卵胞の数や大きさや子宮内膜の厚さなどを確認します。排卵前の卵胞は1日約2mmずつ成長し20mm前後で排卵します。この成長を追跡することで正確な排卵日を予測できます。
卵管通水検査や子宮卵管造影検査では、卵管の通過性を確認します。排卵があっても卵管が詰まっていては妊娠できないため重要な検査です。
年齢別の受診タイミングの目安
年齢によって医療機関を受診すべきタイミングは異なります。
20代~34歳の方は、妊活を開始して3-6ヶ月経っても妊娠しない場合が受診の目安です。ただし、月経不順や排卵障害の兆候がある場合は早めの受診をおすすめします。
35歳~39歳の方は、妊活を開始して3ヶ月経っても妊娠しない場合が受診の目安です。35歳を過ぎると卵子の質の低下も加速するため早めの対応が重要です。特に、妊活おりものシートが反応しない場合はすぐの受診を検討してもよいでしょう。
40歳以上の方は、妊活を始めたらすぐに受診することをお勧めします。年齢的な要因に加え、排卵する卵子の質や頻度も低下している可能性があるため医学的サポートが必要なケースが多いです。
よくある質問(Q&A)

Q1: 毎月陽性反応が出る日がバラバラなのは問題ですか?
A1: 月経周期が2~3日程度ずれるのは正常範囲内です。しかし、排卵日が大幅に変動する場合(5日以上)は、ストレスやホルモンバランスの乱れが考えられます。3ヶ月以上このような状態が続く場合は、医療機関での相談をお勧めします。
Q2: 排卵検査薬が陽性になってから、いつタイミングを取ればよいですか?
A2: LH陽性反応が出たら、その日から2日間程度は積極的にタイミングを取るといいでしょう。精子の生存期間(約3日)と卵子の受精可能時間(約24時間)を考慮すると、この期間が最も妊娠しやすいタイミングとなります。
Q3: 高温期に入っているのに、排卵検査薬は陰性でした。排卵はしているのでしょうか?
A3: 基礎体温が高温期に移行していれば、排卵があった可能性が高いです。LHサージを見逃した、またはLHサージが弱くて検出できなかった可能性があります。基礎体温で二相性が確認できれば、過度に心配する必要はありません。
Q4: PCOSと診断されました。妊活おりものシートは使えますか?
A4: PCOSの方でも使用可能ですが、LHの基礎値が高いため、通常の判定が困難な場合があります。医師と相談の上、超音波検査でのフォローや、他の排卵確認方法との併用をお勧めします。
まとめ:一人で悩まず、適切なサポートを
妊活おりものシートが反応しないという悩みは、多くの女性が経験する共通の課題ですが、その原因は人それぞれ異なるため、適切な対処法も個人によって変わってきます。
この記事でお伝えした通り、検査方法の見直しあるいは他の排卵予測方法との併用により、多くのケースは改善可能です。ただし、それでも反応しない場合や年齢的な要因がある場合には、早めに専門医療機関を受診することが大切です。
お伝えしたいのは、「一人で悩むことなく、専門家に相談してみてください」ということです。妊活中はなかなか周囲に相談できないうえに、時に孤独で不安を感じることが多いかもしれません。しかし適切な医学的サポートを受けることにより不安が解消され、より前向きに妊活をすすめることができるようになりますので、積極的に相談していただきたいと思います。
妊活おりものシートはあくまでツールの一つにすぎません。もしそれが上手く機能しない場合には、より専門的なアプローチを通じて、あなたに合った方法を一緒に見つけていきましょう。